第3話 宅配司書と女学生 ③
続きの二部屋に、キッチンの付いた学生寮三階にてしばらくの間、ラヴェンナとスウィーティはすれ違いの生活を過ごした。
昼間はラヴェンナが大学に出かけ、夜間はスウィーティが講義に出かけていくのだから当然だ。
それでも明け方近くになると、キッチンに紅茶を淹れにきた互いがすれ違うことがある。
「スウィーティ。最近寝ていますか」
夜間の部の講義を終えたはずであるのに、テーブルでなにやら作業してるスウィーティに、勉強の合間のカフェイン入り紅茶を淹れにきたラヴェンナが声をかけた。
「てへ」
おどけて頭に手のひらをやるその目には、色濃い隈がある。
「ラヴェンナちゃんこそ、遅くまで頑張るんだね」
小休止にしたのか、マグカップを持ったラヴェンナはルームメイトのいるソファの隣に腰かけた。
「難関資格の取得を目指しているので。できれは飛び級で」
「すごい。図書館司書さん目指してるんだっけ? 本が好きなの?」
「はい。とても」
知らず微笑んでいることをスウィーティは眠気を押しやりながらかろうじて自覚する。
寡黙な子は、嫌いじゃない。傷つけないように、言葉を選ぶから。むしろ歯に衣着せぬタイプより心地がいいかも、と思う。勉強に疲れた合間、気安く話せる人種――どうやら自分は、ルームメイトに恵まれたようである。
「わたしもよく読んだよ。ディケンズに、ブロンテ姉妹、ドイル。シェイクスピアも」
何気なくそう言うとラヴェンナは目を見張った。いつもあっけらかんとしたスウィーティの意外性に目が覚めたといったところだろうか。
「でも特に好きなのは、そう。――フランスの児童文学かな」
うっとりと、夢見るようにスウィーティは目を閉じる。
「抽象的でわかりにくいって人もいるけど、でもそれって、とってもピクチャレスク。絵画的ってことだと思うのー」
開いた両手を組み合わせソファにもたれる。
「『星の王子様』が旅した宇宙や、愛するバラの咲く庭。『みどりのゆび』で武器庫や檻に絡まる花々。目を閉じてみると無限に描けるの。水彩画みたく、繊細な色たちに描かれた絵画が――そこに宝石みたいに秘められた人々のきれいな感情が見える気がする」
「……」




