第1話 宅配司書と作家志望 ⑯
第一冊目に登場するのは、人間の言葉を喋り生活し、ロンドンの一家庭に溶け込んでしまうくまの子――異端児中の異端児です。
児童文学から、『くまのパディントン』シリーズ。マイケル・ボンド作。
ロンドンの駅で「どうぞこのくまの面倒を見てやってください」というプラカードを首に下げた小ぐまを、ブラウン一家は引き取ります。
駅名にちなんでくまをパディントンと名付け一家はともに暮らし始めるのです。
このくま、ふつうに人間の言葉を喋り、生活します。
ロンドン都会でふつうに受け入れられるくま。
これ以上のアウトサイダーはないのではないでしょうか。
ただ、南米のペルー出身の小ぐまが都会生活をうまく回していくかというとそうではありません。
自分で溢れさせたお風呂でおぼれたり、地下鉄で迷子になり、エスカレーターで逆走したり。パディントンの生活は失敗とそしてご愛嬌で彩られています。
それもそのはずです。
パディントンが繰り広げる大騒動が、最後にはなぜかいきつくところにいきつき、丸く収まってしまうことを、そしてそんな小ぐまをブラウン一家のみんなが大好きなことに象徴されるように、作者のマイケル・ボンドは、第二次世界大戦時、この小ぐまを、戦争孤児たちへの慈しみの気持ちから誕生させました。
首にプラカードを下げたくまの原型は、名札をつけ疎開した子どもたちだったのです。
戦争が影響を及ぼすのは、参戦する兵隊さんだけではありません。
心がささくれだった街の中の長が威張りくさり、規律から外れると女も子どもも怒鳴りつける。
そうした負のインフルエンサーを下の世代へ流すことを潔しとせず、反骨精神を真逆の世界観に著したマイケル・ボンドこそ、アウトサイダーの見本ではないでしょうか。
戦争ばかりではなく、負のインフルエンサーは身近な現代にもあります。
例えば、女性にとっては結婚しないと幸せになれないという価値観とか。
そこからアウトサイダーにならざるを得なかったのが次に紹介する本の主人公。ヴァランシー・スターリングです。




