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【更新休止】魔法使いの花嫁たち  作者: 春夏 冬
6月:キングス・ファイブ 【魔法使い】VS【魔女】
48/62

第1話:【二つ名】、集う ①

 ――ゲームセット! 勝者、日本選抜プロチーム!


 時は魔法合同授業の時間。場所は生徒会室。

 例の如くいつもの理不尽な特訓を覚悟していた私でしたが、今日は西園寺先輩に連れられて生徒会室へと足を運ぶことに。

 そしてそのまま彼に言われる通り、プロジェクターへと投影された映像を一時間半程度鑑賞し始め――その内容に思わず言葉を失ってしましまいました。

 

「……これが、キングス・ファイブ……」

「どう? なかなか凄かったでしょ」

「えぇ、そうですね。……なんていうかあまり現実的でないと言いますか」


 キングス・ファイブ。

 以前一度だけその()()を目の当たりにしたことはありますが、――そうですか。まさかこれほどとは。

 大人数の参加者の数に比例する戦場に飛び交う魔法の嵐。

 能力が圧倒的に高いプロチームを相手に数で押し切ろうとする魔法学園生チームの物量たるやそれこそまさに非現実的な光景。

 なるほど。その全容を知ることの衝撃たるや、私の想像を遥かに超えていました。

 比べて良いものか定かではありませんが、私たちが参加した『人探し』と『オリエンテーション』は当然として、西園寺先輩たちの学年が実施していた『かくれんぼ』ですら今の映像の過酷さには霞んでしまいます。

 ――いや、というよりもむしろ……。

 

「あの、西園寺先輩。一つ気になったことと言いますか。――今の映像ではプロの方や学園生のどちらも、その……」

「あ、うん。言いたいことは分かるよ。僕たちよりすごい『魔法使い』に見えるってことでしょ」

「……はい。その通りです」

 

 少し答えづらかったが、正直なところ私にはそのように見えました。

 特に見て感じられる魔力保有量が比べ物になりません。以前、魔法使いの素質について、優秀な魔法使いであることの指標の一つとして『魔法弾を二発以上放てる』ことが条件の一つである聞いたことがありますが、学園生たちの中には魔法弾を十発以上も放っている生徒が見受けられました。

 まだ上級生たちの全てを把握しているわけではありませんが、そんな芸当をしてのける人は片手でも余るくらいではないでしょうか。

 映像の中で戦っていた魔法学園生はいまの先輩たちよりも強い。

 それが客観的に見た私――雪代紗耶の率直な感想でした。


「それに、あの人たち」

 

 中でも二つ名を有する一部の生徒は言葉通りに桁が外れていました。

 そしてその中でも取り立てて印象深かったのは二人の女子生徒。

 真正面から実力のみでプロ二名から勝利を勝ち取った【魔法使い】と、勝利こそ得られなかったものの目を見張る戦いを繰り広げた【白兎】。

 側から見ても彼女たち二人は群を抜いた実力者であり、特に【魔法使い】に至っては途中まで本当にプロチームに勝利してしまうのではないかと見ている者に希望を抱かせるほどの活躍ぶりでした。

 その奮闘っぷりたるやまさにエース級。

 もしプロチームの序列一位である【雪月花】と対峙していなければ……終盤はそんな考えが何度頭をよぎったことでしょうか。


「えぇ、率直に言って凄かったです。……その、西園寺先輩たちの魔法対抗戦も十分すごいとは思うんですけど。やっぱりそのどうしても迫力と言いますか」


 端的に言って、これぞ魔法使いの戦いという感想を十分に抱かせる映像でした。

 魔法弾は勿論のこと、宙を飛んだり、火の玉を飛ばしたりモノを凍らせたり、地面は割るし風で相手を吹き飛ばすし、語るまでもなくそこはまさにファンタジーの世界。

 言われなければ今の映像は世に溢れる映画の一本であると勘違いしてもおかしくはない程に非現実的な()()

 それはきっと子供が思い描いた空想上の魔法の世界。

 それが、キングス・ファイブ。


「そうだね。僕も見ててすごいなって思ったよ。――でも実は僕も、それに雪代さんもあれくらいの魔法は使えるって言ったらどうする?」

「…………は?」


 今彼が何を言ったのかとつい耳を疑ってしましました。

 先輩が、それに私があんな魔法を?


「うん。雪代さんはまだ知らないと思うから説明するとさ、この魔法学園と言う場所では一定の基準を超えた魔力を行使出来ないようになってるんだよ。個人差はあるけど『魔法弾は基本一発放てれば良い方』なんて話を聞いたことはあるでしょ?」

「……魔力を制限している? そんな話は初めて聞きました」


 言葉通りその話は初耳です。

 私の認識では魔法学園の敷地外では魔法は行使できず、学園側が定めた条件に従うことで初めて魔法を行使することが出来る。

 そしてそんな魔法を扱える場所が魔法学園にも点在している、という話くらいは聞いたことがあります。

 でも魔法の制限なんて……いえ、言われてみればたしかにあり得ない話ではないのか。

 私がその可能性に思い至ったことを、西園寺先輩は察した様子で話を続ける。

 

「この世界には今の数倍は魔力を行使出来る場所があって、そのうちの一つが今の映像が撮影された場所――通称、アリスドーム。あそこなら僕たちは普段以上の魔法を疲労することが出来るってわけなんだよ」


 ――そうか、あの映像の場所をアリスドームというのですね。

 その名前を、その場所を私は知っている。過去に一度だけ訪れたその場所を、しかしその概要について本日この瞬間まで一切知ることは出来ませんでした。


「なんて言うのかな。魔法学園では身体の内側から魔力を絞り出すような感覚で魔法を行使するんだけど、アリスドームでは空気中に魔力が溢れているというか。少ない魔力でも魔法弾を放てるし、逆に魔法学園では行使出来ないようなすごい魔法を作り上げることも出来る。そんな感覚を感じることが出来るんだよ」

「それじゃあ西園寺先輩もあの映像みたいに?」

「うん。出来る」


 以前の私は()()で何も感じることはなかった。

 なんの変哲もないただ広い物静かな空間。

 だけど、もしかして今ならまた違う何かを感じ取ることが出来るのかもしれない。


「そして、今月雪代さんも一緒に足を運ぶことになる場所だよ」


 ――あるいは、私はあの日の光景にもう一度出会うことは出来るのでしょうか。



 ******



「ユーくん終わったー? お姉ちゃんの登場だゾ!」


 勢いよく扉を開き、現れたのはこの部屋の主たる生徒会長――西園寺皐月さん。

 腰まで流れる綺麗な黒髪に優しいかつ明るい性格で生徒たちから広く慕われている学園一の人気者。

 そして、西園寺先輩のことが大好きなブラコンのお姉さん。


「あの、こちらありがとうございました。パソコンもお返しいたします」

「はーい! で、どう? 何か役に立てたかな? だったら嬉しいケド」


 部屋に入るなり西園寺先輩にしがみついていた生徒会長だけど、私がお礼を伝えると同時に慣れた様子で何やらパソコンを触り始める。

 数秒操作をした後に本体に収納されていたディスクを取り出すと、机の上に置かれていたCDケースを手に取りそのままディスクをケースにしまい込む。


「助かったよ姉さん。ありがとね。――ちなみに結局昨年の映像って」

「どういたしまして! で、ご依頼の映像だけどどうも貸し出し中みたいだねー。一応誰が借りてるのか聞いてみたけど守秘義務で回答出来ませんだって。――ま、時期が時期だし仕方ないのかもね」


 西園寺先輩の問いかけに、生徒会長は肩をすくめて返事を返す。

 

「そもそもこんなメディア保存媒体以外にも記録の手段なんていくらでもあると思うんだけど。ホント魔法使いの世界っていうのは頭が硬くていけないよ。ユーくんもそう思わない?」

「まぁ言いたいことは分かるけど、それこそ仕方ないんじゃないかな。そもそも『キングス・ファイブ』の試合映像は門外不出を謳っているくらいだから、万が一ってことを防ぐためにクラウドを利用しないって考え方はわからないでもないよ」

「えー。でもCDなんていくらでも複製できちゃうよ?」

「まぁそれはそうなんだけど――」


 うん。なんかちょっと新鮮。

 普段はマイペースな先輩もお姉さんの前だとなんだか少し可愛らしいというか、弟って感じがして彼の意外な一面と目撃できたような気がします。

 というか、先輩ってこんなふうに甘えることもあるんですね。


「あ、そうだ! 言い忘れてたんだけどユーくん――」

 

 ふと会話の最中、何を思い出したのか首を傾げながら生徒会長が口を開こうとした矢先、しかしその話が続くことはありませんでした。


 ――バーンッ!


「HAHAHAー! お待たせしたっ! 天神泰斗、ただいまとうちゃーくっ!」

「失礼しますぅー。神崎都子、参りましたぁー」


 再び勢いよく扉が開かれれば、現れたのは二名の学園生。

 おでこに手を当て何やらポーズを決めるハイテンションな男子生徒と、小柄ながらも男子生徒十人が十人振り返るであろうとても目を引く外見(巨乳)の間延びした口調の女子生徒。

 次期生徒会長候補の天神泰斗先輩、そしてその付き人を務める神崎都子先輩。

 共に第二学年一般応用学科クラスの代表副代表を務めあげ、何よりそれぞれに【一星(ひとつぼし)】と【才女(さいじょ)】の二つ名を有する正真正銘の『強者』。

 その名前は一年生の間でも広く知られている。


「あ、優介くんだぁ! こんなところで珍しいですねぇ。えっとぉ、それとぉ、あなたはたしか……雪代さん、だったでしょうかぁ?」

「うむ! 久しいな優介! それに初めましてだ。雪代嬢。私の名前は天神泰斗! 以降お見知り置き頂きたい!」


 天を仰ぎ見るような……またしても謎のポーズを取る天神先輩に、不気味なほどニコニコと笑顔で近寄ってくる神崎先輩。


「ははっ。インパクトすごいでしょ」

「…………えぇ、まぁ」


 ……なるほど、インパクトですか。

 思わず乾いた笑いを浮かべそうになるもぐっと堪える。

 さすがに初対面の先輩相手に失礼な真似はいけないでしょう。


「あれ? 泰斗くんに都子ちゃん。何か用事でもあるの?」


 一方、どうやら二人の登場には生徒会長も驚いている様子です。

 天神先輩の様子からてっきり生徒会長が彼を呼び出したのかと思いましたが、どうやら違うようで。

 ただし、今度は天神先輩が首を傾げます。

 ん? どういうことでしょうか。


「はて。この天神泰斗ををお呼び立てしたのは生徒会長だったと記憶しておりますが。――ふむ。おい都子、どうなっているのだ?」

「はーい。そうですよー。今日のぉ、()()()に生徒会室に集合ってぇ連絡を受けてましたぁー」


 数瞬、時が止まる。

 発言者を除き皆が「ん?」っと思考を停止する中、いち早く動き始めた天神先輩は腕を組み首を傾げたまま神崎先輩へと視線を向ける。


「おい都子。百歩譲って私が放課後という単語を聞き逃していた可能性はあるだろう――」

「あー言ってなかったかもですねぇ」

「…………うむ、そうか。ではなぜお前は私を止めもせずにここまで付いてきたのだ。私はお前に『生徒会長に呼ばれたから生徒会室に出向く』と伝えたと記憶しているぞ」


 どう聞いても天神先輩に分があるやり取りに、しかし神崎先輩は笑顔を崩すことなく返答を発する。


「ですよねぇ。いやぁ、なんでこんな早くに生徒会長に会いに行くのかって不思議に思ってましたぁ」


 この人メンタル強者か。


「うむ! そうか。ならば仕方あるまい」


 ……えぇ。


「あ、普段からこの二人はこんな感じだから」

「……そう、なんですね。なんだか思っていた印象と違うと言いますか」


 天然、で片付けていいのかわからない二人のやり取りにそういえばこの人たちは西園寺先輩の知り合いだったなと妙な納得感を抱いてしまう。

 でもそうか、私の一学年上は個性的な方ばかりなのですね。


「あ、そうそう。ちょうどユーくんに伝言を伝えようと思ってたんだった」

「伝言?」


 そうそうと頷き、生徒会長は人差し指をピンと立てる。


「今日の放課後、ユーくんのクラスの【二つ名】持ちの生徒をここに連れてきて欲しいの。八月に向けた大事な話をするから全員連れてきて欲しいんだゾ! ――もちろん。ちゃーんと、()()()もね?」


 あの子。

 何やら含む生徒会長の言葉に、しかし西園寺先輩はしっかりと意味を捉えたようで苦笑いを浮かべていた。


「大丈夫。話題が話題だからね。そもそもあの子はそのために――ってまぁそれはいっか」


 一瞬、チラリと私の方に視線を向けたような気がする。

 ただ目が合うこともなかったので気のせいかもしれませんが。


「とにかく、頼んだゾ♡」


 首を傾げながら頬に人差し指を当てて可愛らしいポーズを見せる生徒会長。

 うちのクラスの男子なら歓喜しそうな一幕に、西園寺先輩はため息をひとつ吐きながらはーいと返事を返すのみ。

 なんとも先輩らしいと言いますか。


「あ、そうだ。雪代さん、今日の特訓まだだったよね。あと五分くらいで授業が終わっちゃうし、今から始めようか」

「……………………ちっ」

「あれいま舌打ちした!?」

 

 ……なんとも先輩らしいと言いますか。この鬼畜眼鏡め。

******


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