第0話:キングス・ファイブ
こちらでも定期更新することにしました。
種目名:キングス・ファイブ
ルール:
ゲームの参加条件は、チームは人数を十名以上集めること。また参加チーム数は上限数を設けない。
キングス・ファイブとは、一つのフィールドの中で多数の参加チームが各々生き残りをかけて戦い抜くバトルロワイヤル形式の魔法ゲーム。
はじめに各チームはそれぞれ五名の選手を選抜し、各々に『キング』の役職に任命する必要がある。
次にさらに一名の選手を『クイーン』、残りすべての選手を『ポーン』の役職に任命する。
ゲーム開始時、フィールドには『キング』が最低でも一名、『クイーン』一名、『ポーン』全員が参加している必要がある。
各チームはフィールド上で魔法による戦闘を行い、いずれかのチームが勝利条件を満たす、もしくは制限時間切れの際に最も有利に戦闘を進めたチームを勝者とする。
また、各選手には与えられた役職に応じて幾つかの役割を負う義務が生じる。
『キング』には以下の特徴および役割が与えられる。
・常時魔力制限の解除
・ゲームへの途中参加が可能(クイーンの命令により参加が可能)
・フィールドに存在するすべての『キング』が戦闘不能と判断された時点で敗北となる。
『クイーン』には以下の特徴および役割が与えられる。
・常時魔力制限の解除
・試合開始時点でフィールドに参戦する必要がある。
・『クイーン』の命令により試合に参加していない『キング』をフィールドに呼び出すことが出来る。(『キング』の登場位置はゲーム開始前に決められた固定位置から任意で指定することが可能)
・フィールドに存在する『クイーン』およびすべての『ポーン』が戦闘不能と判断された時点で敗北となる。
『ポーン』には以下の特徴および役割が与えられる。
・一時的な魔力の制限およびゲーム進行に伴う制限の解除(『キング』を倒す毎に段階的に魔力制限を解除する。『キング』を二名倒した時点で魔力制限が完全に解除される)
・試合開始時点でフィールドに参戦している必要がある。
・フィールドに存在する『クイーン』およびすべての『ポーン』が戦闘不能と判断された時点で敗北となる。
勝利条件:
以下いずれかの勝利条件を満たすこと。
1:フィールドに存在する自チーム以外のすべての『キング』を全員戦闘不能にする。
2:フィールドに存在する自チーム以外のすべての『クイーン』および『ポーン』を全員戦闘不能にする。
3:制限時間切れの際により有利な状況であると判断されたチームが勝者となる。
判定基準としては主に『キング』の残り人数、次に『クイーン』が戦闘可能な状態であるか、最後に『ポーン』の残り人数を加味することとする。
敗北条件:
以下いずれかの条件を満たした場合、チームは敗北となりフィールドから撤退する義務が生じる。
1:フィールドに存在する自チームすべての『キング』が全員戦闘不能になる。
2:フィールドに存在する自チームすべての『クイーン』および『ポーン』が全員戦闘不能になる。
特別ルール:
各チームが合意する場合、参加人数、勝利条件、魔力制限の有無など特別なルールを追加しても良いこととする。
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私立有栖川魔法学園チーム VS 日本選抜プロチーム
特別ルール:
1:ゲーム参加人数は私立有栖川魔法学園チーム(以下魔法学園チーム)が三十名、日本選抜プロチーム(以下プロチーム)が十名とする。
2:制限時間百二十分のうち、ゲーム開始から六十分間はプロチーム選手に移動制限が課せられる。
3:魔法学園チームのすべての選手は魔力が常時解放される。
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「はぁ……はぁ……」
乱れる呼吸を最小限に止めようと意識しつつ、潜むように崩れた建築物の影に身を隠す。
静かにゆっくりと深呼吸を一つ。
平常時とはいかずとも遠くから呼吸音を拾われない程度には体調を整えつつ、私は再び目自身のなすべき行動を確認する。
「……目標地点まで、あともう少し」
周囲の気配を探りながら身を乗り出し、目視でも異常がないことを確認すると再度前進。
数メートル移動しては影に身を潜ませ、魔法で辺りを探ってはまた数メートル移動する。気の遠くなるような移動の仕方だが、どれだけ気を張り詰めて辺りを警戒したとして無駄ということはない。
相手は正真正銘プロの『魔法使い』だ。あるいは今この瞬間に背後を取られていたとしてもおかしくはない。
そんな極度の緊張から、私は心身ともに疲労が溜まりつつあることを自覚する。
「……ふぅ」
遠くでは未だ戦闘による爆発音が聞こえる。
普段なら警戒すべきその音が、まだ戦場には自分の他にも生存者がいるのだと安心感をもたらす。
まったく妙な感覚だとつい自嘲してしまうのは仕方のないことだろう。
だが一方で、戦闘音が鳴り止むたびにこちらの生存者が確実に一人以上減り続けているのだと焦りも生まれる。
なるほど。戦場において情報を得られないことの不安感がここまで精神に影響を及ぼすとは思いもしなかった。良い勉強だ。
そして何より、絶対的な格の違いを見せつけられる相手からただひたすらに逃げるだけの自分がたまらなく情けなくて悔しかった。
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――ゴーン……ゴーン……
目標地点まで残り数百メートルまで近づいた頃、戦場に鐘の音が鳴り響く。
戦場の中央に大きく聳え立つ時計塔に視線を走らせれば、時計の長身がローマ数字の『Ⅵ』を指していることが確認出来る。
どうやらゲームの残り時間三十分切ったようだ。
「……さて、ここからどうすべきでしょうか」
以前情勢が掴めていないこの状況下で自分には何が出来るだろうか。
魔力は最早ほとんど残っておらず、敵チームの誰かと対面すれば敗北は免れない。
だがそれでも仲間のサポートに回るだけの余力はなんとか残しているつもりだ。出来れば『二つ名』持ちの生徒と合流し助力するような体制が望ましい。
可能であれば相性の良い【魔法使い】と合流したいところだが、果たして無事に目標地点まで辿り着けているだろうか。
「……ふぅ……」
事前に決めた生存者たちの合流地点まで残りわずか。
誰かとのコミュニケーションをこれほど恋しいと望んだのはいつ以来だろうか。
僅かでも構わない。残りの力を振り絞り、私は一矢報いてやりたいのだと自分の震える身体に言い聞かせる。
気を抜けば立ち上がれなくなるような重たい疲労感を気合いで跳ね除け、私は三度立ち上がる。
気を抜かずに辺りを警戒しつつ先を目指そう。――そう考えて動き始めた矢先、唐突に脳内へと声が届く。
『もしもし、聞こえるか【白兎】』
「――……んんっ」
予期せぬタイミングで念話に身体が跳ね上がりつい声を上げそうになるが、咄嗟に口を押さえることでなんとか声を押し殺すことに成功する。
続いて魔法で辺りに意識を張り巡らせ、異常がないことを確認してから念話に応じる。
『こちら【白兎】――聞こえるわ』
『魔術学科クラスの須藤だ。唐突にすまない。あんたに念話は禁止だったことは重々承知している。その上での緊急連絡だ』
『謝罪は後で聞く。要件を』
事前の作戦会議において、私は自分宛の念話を禁止としていた。
もし戦闘中だったら、あるいは隠密行動中だったら。そんなわずかな気も抜けない状況下で唐突な念話の割り込みによる集中力は致命傷になりかねない。
ゆえの念話禁止通知だったはずだが、それを知ったうえで連絡してくるということはただ事ではないのだろう。
『すまないが要点だけ簡潔に伝える。合流地点に向かう作戦は中止。各自好きなように戦ってくれ。以上だ』
『……は? どういうことですか。詳細を求めます』
嫌なタイミングで嫌な伝達。
焦りから徐々に語彙が強まるのを自覚するがそれ以上に嫌な予感がして堪らない。
こう言う時の私の勘は幸か不幸かよく当たる。
『まず、あんたが向かう先の合流地点にはヤツ――序列一位が待ち構えている。そして次に――【魔法使い】が敗北した』
『――なっ……まさか……彼女が!?』
『あぁ。いや実際すごいぜ。プロの魔法使い相手二人に勝利してるんだからな。そのほかの活躍も讃えればキリがないほどだ。だがそんな【魔法使い】も、流石に序列一位には勝てなかった。――残念だがもう打つ手がない』
私が知る限り、今代最強の魔法使いは【魔法使い】の二つ名を有する彼女だ。
いくらプロの魔法使いが相手とはいえ、それでも【魔法使い】の強さは揺らぐものではない。
それこそ現にプロを二名も下しているくらいだ。
だけど――。
『そう、ですか』
だけど、そんな彼女でも歯が立たない相手が存在する。
序列一位――【雪月花】
持っている情報として、魔法使いとしては珍しく肉体で戦うタイプで特に一対一の対面勝負を好むと聞く。
武人気質とでもいうべきか。向かってくる相手は真正面から受け止める性格らしい。
そして、未だかつて負けたことがないらしい。
『遠目から見たがあれは化け物だ。たとえ【魔法使い】と【白兎】が万全の状態で手を組んだところで勝機は微塵も見えない。そんな相手だった』
『……そこまで言われると逆に興味が湧きますね』
だけどそうか、結局私たちは勝てなかったのか。
たしかに相手チームに大半が残っている状態で、しかもこちらはエースを失ったのではもはや勝負にならない。
それは事実上の敗北で、残念だが彼の言う通り打つ手はなさそうだ。
『それと追い込むようで悪いが、生き残っている『キング』はあんただけだ【白兎】』
『それはもう、決定的ですね』
なるほど。こうなってしまうといっそ清々しい。
『それで、私はどうすれば良いのでしょうか。残り三十分――いえ、あと二十二分ですか。その時間を逃げ切れば良いですか』
先に戦場で散っていた学園生たちの、そして今も戦い続ける彼らのために一秒でも長生きすることで敬意を表すべきだろうか。
時間いっぱい逃げ切った。そんな結果が誇らしいかは分からないが、ただ全滅させられるよりはマシなのかとも考える。
さてどうしたものか。そんな形づくりを思い描き始めていた私だが、しかし彼の返答は予期せぬものであった。
『いや、俺はさっきも言った通り好きにすればいいと思う。どうせ負けは負けなんだし――なんなら序列一位と手合わせしたっていいさ』
は? 一体何を言って――。
『俺は合流する作戦を中止と言ったが、何も向かうことを止めたわけじゃない。ここまで来ればもう間違いだのなんだの言うこともないだろうよ。――連絡係としてもう一度伝える。各自好きなように戦ってくれ、以上だ』
そう彼が告げると、そのまま念話が途切れる。
再度念話を試みても反応が返ってくることはなかった。
「……はぁ。好き勝手言ってあとは放置ですか」
言いたいことだけ言って消えた彼は後で文句の一つでも突き詰めるとして、まずは目先の問題について考えるべく頭を働かせる。
形づくりか、思い出づくりか。どちらにしても情けない限りだが、ほんの少しだけ意味合いは異なる。
「ただ、それでも――」
やはり、どうしても気になるのはあの【魔法使い】ですら届かなかった【雪月花】の存在。
分かってる。まず勝てないだろう。万全な状態でも勝てない? なら満身創痍の今ならどうだというのか。
ただ一撃――そう、ただ一撃だけなら全力で私の必殺に一撃を放つことが出来る。
あの【魔法使い】でさえ躱わすことが困難と評判の私の一撃。日本最強の魔法使いにはたして通用するのか。
【白兎】の願いは君臨者に届きうるものなのか。
「……ふぅ。すみません、みなさん」
覚悟を固めるのにそれほど時間を必要とはしなかった。
――魔法使いはわがままなやつほど強い。
迷惑で尊敬すべき相棒は常々そんな格言を口にしていたが、なるほどそれなら今の私は最強に違いない。
自分の欲を優先し、絶対不可能だと否定される勝負に臨もうとしているのだ。これが我が儘と言わずなんと言うのか。
「さぁ、これが最後です」
一息つき、私は探索の魔法を前方のみに集中し気配を探る。
何も検知しない。
【我は白兎、すべてを於いて速気を駆るもの】
気配を抑えて距離を縮める。
まだ検知しない。
【我は白兎、眼に映るすべてを後塵に帰すもの】
さらに距離を縮める。
気配――一名あり。
開けた場所に堂々と佇むその長身は、間違いなくかの絶対王者。
【我が名は白雪ましろ。其に込める願いは刹那の光】
ターゲット――【雪月花】
【疾れ】
瞬間、爆発的に増加する魔力が私という存在のありかを戦場の隅まで伝える。
後戻りの切符はビリビリに破られ、残るは【雪月花】への一直線のみ。
私に気がついた彼女がこちらを振り向こうが構わない。
私は残るすべての魔力を両脚に集中し、絶対不可避の一撃をその身に叩き込むべくさらに魔力を練り上げる。
固有魔法を磨き上げ、さらに昇華させることで体得する極地の一つ――必殺の一撃、【白兎の脚】
「避けれるものなら避けてみろっ!」
弾ける。
数十メートル先で目が合った彼女との刹那の時間に、【雪月花】は無邪気に笑った。
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