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第97話 小さな幸せ


「ーーなんでこんな事になったんだ!」


「そう言われても」


どこからか聞こえてくる言い争う声が、私の眠りの邪魔をする。


ううーん……。

何話してるのか知らないけど、ちょっと静かにしてほしいな……。


「そう言われてもとはなんだ! 他に言う事はないのかッ!」


うるさいよ!


「……おとうさま?」


何を騒いでいるんですか?

おかげでこっちはオチオチ寝てられないんですけど。


「おお、チェリーナ! 目が覚めたのか?」


「チェリーナ、大丈夫か?」


私が目を覚ましたことに気が付くと、お父様とクリス様はお互いを押しのけるようにして我先にと駆け寄って来た。


「だいじょうぶって……?」


あれ?

そういえば、なんで私は寝てるんだろ?

ここはエスタンゴロ砦の中にある、お父様の執務室だよね。


「憶えてないのか? さっきバルーンの中で気を失ったんだよ」


クリス様は私が横たわっている長椅子の傍に跪くと、額にかかる髪を優しく払ってそっと手を当てた。


「あ……、そうでした。においのせいで気分が悪くなってしまって。あれは臭すぎでしたよね」


あまりの臭さに気を失いそうだとは思っていたけど、まさか本当に倒れるとは。

足手纏いになんかならないと豪語したにもかかわらず、こんなことになって面目ないです……。


「ははっ」


「え? 何かおかしかったですか?」


クリス様の笑いのポイントが分かりません。


「義父上、俺から伝えても?」


「うぐぐぐぐ…………!」


お父様?

なんで歯ぎしりしてるんですか?


親の仇を見るような顔でクリス様を睨み付けてますけど、私が寝てる間にケンカでもしたの?


「くそッ! 俺の娘によくもッ!」


「チェリーナは俺の妻でもあります」


激高するお父様にシレッと言い返すクリス様。

ケンカというより、お父様が一方的に怒ってる?


「あ、あのー。何かあったんですか?」


「チェリーナが気を失っている間に、念のためにミッチーナに入れたんだよ。病気かもしれないと思ったから」


「ミッチーナに」


それでなぜ険悪になるの?


……ま、まさか!

私に不治の病が見つかったんじゃ……!?


そうだよ、美人薄命っていうじゃない。

なら私に何か病気が見つかっても不思議はないじゃない……!


「チェリーナ、急に真っ青になったけど、また気分が悪くなったのか? 話は後にしたほうがいいかな」


ううん……、ここまで聞いたら最後まで聞かずにはいられない!


「どうぞ、はっきり言ってください! あと何ヵ月なんですか!?」


考えてみれば、前世でも享年は16歳だった。

それに比べれば、2年も長生きできたんだもん……。


残りの人生を悔いなく過ごすためにも、私の余命はどれくらいあるのかしっかり把握しておくべきだ。


「なんだ、自分でも薄々気付いてたんだな。あと7ヵ月だそうだ」


「な、7ヵ月……!」


こういう時って大体、余命半年とか一年とか、半年ごとの刻み方なのかと思ってたけど、結構小刻みなんだね……?


「そんな顔してどうした?」


クリス様は不思議そうに紫色の目を瞬かせ、私の顔を覗き込んだ。


「ううっ……、あと7ヵ月だなんて……!」


「え、そこなのか? じゃあ何ヵ月だったらよかったんだ?」


何ヵ月でもよくないよ!


「クリス様とずっと一緒に生きていきたかった……」


7ヵ月どころか、70年でも一緒にいたいと思っていたのに。

うう……、涙が出てきた。


「ずっと一緒に生きていくだろ? 何言ってるんだよ?」


「え……? だって、余命7ヵ月って」


さっきクリス様が言ったんでしょ?

ミッチーナに診断されたって。


「ぶふっ、馬鹿だな! 余命7ヵ月ならこんな呑気にしてられる訳ないだろ」


クリス様はおかしそうに噴き出した。


「じゃあ、何が7ヵ月なんですか?」


「チェリーナ……、家族が増えるんだよ。俺たちの家族が」


クリス様はそういうと、私の額にチュッとキスを落とした。


「家族……?」


え……、嘘……、まさか!?

私に、赤ちゃんが……?


「ふぐぐぐぐぅ……ッ!」


ん、何この声?

あっ、お父様が泣いてる!?


お父様も泣くほど喜んでくれてるんだ……!

私は上半身を起こすと、改めて自分の口からお父様に報告することにした。


「お父様! 私に赤ちゃんがーー」


「くそおーーーーッ! チェリーナ、おめでとうッ!」


お父様は叫ぶようにそう言うと、ダンッダンッと足を踏み鳴らしながら部屋を出て行ってしまった。


えっ、お父様、どこ行くの!?

まだ話の途中だし、そんなに体重かけたら床が抜けるよ?


「義父上は、魔の森の様子が気になって見に行ったんだろ。まだみんなは消火活動を頑張っているからな」


「あ、そうだったんですね」


なるほどー。

私の方は心配ない事が分かったから、そっちに行ったということか。


「父上や母上にも報告しないとな。それに友人たちにも」


「そうですね」


ちょっと恥ずかしいけど、きっとみんな喜んでくれるだろう。

報告パーティを開催するのもいいかも!


「俺としては、もう少し2人だけで過ごしたかった気もするけどな」


「ふふっ、私もです」


私たち、まだ新婚だもんね。

まさかこんなに早く赤ちゃんが出来るとは思ってもみなかった。


「男かな、女かな」


「どっちでもいいですけど、なんとなく、クリス様に似た綺麗な男の子のような気がします」


「俺はチェリーナに似た元気な女の子の気がする」


産まれてくる小さな赤ちゃんを想像して、私たちから自然と笑みがこぼれる。

そしてクリス様は、大事そうに私をぎゅっと抱きしめると真剣な声で誓いを立てた。


「チェリーナ。チェリーナのことも、産まれてくる子どものことも、必ず幸せにする」


「クリス様……! はい! 私も、クリス様と子どもを幸せにします!」


これからも2人で協力し合って幸せに暮らしましょうね!


はあー、赤ちゃんが産まれるのかあ。

そうだ、名前は何にしよう!?


2人の名前を取って、男の子だったらクリマル?

女の子だったらクリリーナ?


……イマイチ過ぎやしないか。

これは熟考を重ねねばなるまい。







この日から時を置かず、魔物の大量発生の話が国中に広まり、それまで噂に過ぎなかった私の聖女説は公のものとなる。


国王陛下に、エスタンゴロ砦に結界のレンガが埋め込まれており、それが魔物の侵入を防いだ事実が報告されたからだ。


いっとくけど、私が自分で宣伝したわけじゃないよ!?

なんで盛大にバレてしまったかというと……、ガブリエルがさあ……。


行きがけのあの騒ぎの割にすぐに王都に戻ったガブリエルを見て、訳を詳しく話せとガルコス公爵がしつこく迫ったそうなのだ。


だけど、ガブリエルとしては、お兄様のせいでとんでもない大火事になって魔物が焼け死んだと報告するに忍びなく、そこは伏せて私の結界のレンガのおかげで楽に勝てたと言っちゃったんだって。


まあ……、妹としてはお兄様の失態を黙っていてくれたのはありがたい。

だけど、私を身代わりに差し出すことはなくないか!?


そんなこんなで、私たちの子どもが産まれるよりも早く、フォルトゥーナ王国には聖女伝説が誕生することになった。


急速に話が広まっていくのを、今から止めようもないから諦めるしかないけど……。

だけど、私いま、まったく魔法を使えないんだからね!?






2020/02/02 完結しました!

ブックマーク・評価・感想などで応援してくださった皆さま、どうもありがとうございました。


この後は、不定期で番外編を更新していこうと思います。

お父様の本の内容を本編に入れられなかったので、お父様を主人公にした番外編で書けたらいいなと考えています。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] これで終わりだなんて淋しすぎますー。 番外編ではなく、ペンタブの魔法使いシリーズ第3弾を、是非ぜひ執筆してください!宜しくお願いします!
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