第63話 懐かしい友人たち
「パ、パヴァロ君! 大丈夫!?」
舌を噛み切ったら明日からの公演に差し支えるよ!
「だ、大丈夫です……」
大丈夫と言いつつも、涙目になっててかわいそう。
音からしてかなり痛そうだったもんね。
「そんなに緊張しなくともよい。このような場で大袈裟な挨拶は不要だ。君の先ほどの舞台、素晴らしい歌声だったぞ」
「ははーっ、ありがたきっ、しあわせにっ、ござりまする!」
なんで武士……?
まあ、こんな至近距離で国王陛下に会うなんて王宮勤めの貴族でもない限りめったにないからね。
緊張するのも分かるけど、あと5分くらいは頑張って会話を続けてほしいところだ。
「本当に素晴らしかったわ。あなたは舞台で見るよりずいぶん若いのね?」
そう言われてみると、舞台メイクのせいか堂々と演じていたせいか、舞台で見るパヴァロ君は22歳の役でもまったく違和感がなかった。
だけど今は、くりくりお目々にうっすら涙が浮かんでいることもあって、もともと童顔の顔が余計幼く見える。
「母上、パヴァロはまだ18歳でチェリーナと同学年なんです。マリアは一つ下だったか?」
「はい。私は17歳でございます」
マリアはにこりと笑顔で答えた。
「まあ、若い2人が立派に主演を務めたのね。2人ともとてもよかったわよ」
「お褒めにあずかり光栄でございます」
マリアはドレスを摘まんで優雅に頭を下げた。
……商家の娘であるマリアの方が、子爵家出身のパヴァロ君よりよっぽど落ち着いて受け答えできてるのは何故なんだ。
「ーーなんとか大丈夫そうだな」
「そうですね」
国王陛下に手放しに誉められているパヴァロ君は、茹でダコのようになりながらもつっかえつっかえ返事をしているし、マリアの方は王妃様との会話に全く問題がない。
この隙に私もちょっとお父様と話してこよう!
さっきの変な歌のこと言わないと!
「お父様、お母様! 舞台はいかがでしたか?」
私は早速すぐ近くにいたお父様とお母様に話しかけた。
「ああ、とても素晴らしかったぞ」
「本当に感動したわ。いい席を用意してくれてありがとう。観劇は久しぶりだったから楽しかったわ」
「よかった。喜んでもらえて嬉しいです」
やっぱりいい席で見てもらえてよかったなあ。
「そういえば、さっきチェリーナと話していた男は誰なんだ? 急に歌い出してたな?」
さすがお父様、お目が高い!
私もそのことをぜひとも報告したかったんです!
「あの方はアンドリュロイ・ドウェバさんと言って、今回の舞台の作曲と脚本を担当してくださった方なんです。ちなみにさっき歌ってた歌は、お父様をイメージして即興で作った歌です」
「はっ!? 俺?」
お父様は驚いて目をパチクリとさせている。
鳩が豆鉄砲を食らうとこんな顔をするに違いない。
「そうですよ、お父様の歌なんですって」
「”馬鹿だろな、パッパラパー”って言ってなかったか?」
「”ババラババン、パッパラッパー、フォー!” ですね」
私はメロディを思い出しながら歌ってあげた。
この曲キャッチーで覚えやすいし、意外と耳に残るな。
「なんでそれが俺のイメージなんだよ」
「それは私も聞きたいです」
アンドリュロイの中のお父様ってどんな人なんだろう……。
話が長くなるから絶対に本人には聞かないけど。
「俺の話を舞台化するなんて言い出さないでくれよな」
「ええーっ、次はお父様の話がいいかなって思ってたのに! ねっ、クリス様?」
「ああ、人気が出そうだよな」
今の演目を上演している間に、まずはお父様の本をベストセラーにして、その後舞台化ってことになったら大ヒット間違いなしだよ!
舞台を見たい人が続々観光に来てくれると思うし、領地発展のために一役買ってくれるに違いない。
「やめてくれよ……、ん?」
お父様は不意に何かに気付いたような声を漏らした。
「どうかしましたか?」
「いや、ロマーノ・トリスタン君も国王陛下のお供で来てたんだなと思っただけだよ。エスタンゴロ砦では見かけなかったからな」
お父様の視線の先を追ってみると、確かに国王陛下から少し離れたところにロマーノがひっそりと立っている。
「その日は私たちの観光について来てくれてたんです」
「そうか。ーーなんか雰囲気が変わったか?」
ロマーノの雰囲気?
どこか変わった?
ううーん……。
「あっ! 前髪切った!?」
「切ってないだろ……。というか、見た目の話じゃないんじゃないか」
クリス様から突っ込みが入るけど、ええー、ほんとに切ってないー?
「以前会った時は、もっと社交的というか、いつも女性の輪の中心にいるような雰囲気だったよな? なんであんな端っこに1人でいるんだ?」
「ああ、そういう意味ですか! ……ほんと、どうしたんでしょう」
「そういえば、フィオーレ伯爵領でも口数が少なかった気がするわ」
もしかして……、私の推理通り、本当にロマーノがビビの父親なんじゃ?
カミングアウトするかしないかで悩んでいるのかもしれない。
……1回そう思ったら、もうそうとしか思えないな。
ほぼ正解だと思うけど、ここで私が「ロマーノはビビの父親なんじゃないですかね? それで悩んでるんだと思いますよ」なんて言うわけにはいかないよね……。
でも、1人でずっと悩んでいるのも気の毒だし、近いうちに何でも相談してくださいと声をかけてみるか。
「クリスティアーノ!」
はッ、国王陛下がお呼びだ!
「お父様、お母様、それではまた後で!」
私は急いでお父様とお母様にそういうと、クリス様と一緒に国王陛下の話の輪に戻って行った。
あーあ、お兄様ってば、さっきから友達に囲まれて楽しそう……。
そりゃ楽しいに決まってる。
あっちにはガブリエルやジュリオやファエロ、それにカレンデュラとルイーザも、アルフォンソとラヴィータもいるんだし。
「ふう……」
私もみんなのところへ行きたいな。
せっかく遠くから来てくれてるのに、話も出来ないなんて申し訳ないし。
だけど、やっぱりこういう時って偉い人への挨拶は必須だからね……。
パヴァロ君たちも挨拶回りを頑張ってくれているのに、私が手を抜くわけにはいかないのだ。
「疲れたか? あと少しで挨拶も終わるから、そしたらチェレス達のところへ行こう」
「はい! みんなの感想を聞くのが楽しみですね」
「そうだな」
そして20分程経って一通り挨拶を終えた私たちは、ようやく友人たちに合流できることになった。
「みんな、お待たせしてごめんなさい!」
「別に待ってない」
はあ!?
こっちだって別にガブリエルに言ったわけじゃないし!
「せっかく来てくれたのに、顔を出すのが遅くなってすまないと思ってるんだよ。突っかかるなよ」
「別に突っかかってない。美味い酒も美味い料理もあって満足している」
「そうか。それならよかったよ」
笑って受け流すクリス様、大人になったよね……。
よし、これからは私もガブリエルのことは軽く受け流すよ!
「クリス様、チェリーナ、舞台の成功おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「本当に素晴らしかったです」
ルイーザやカレンデュラ、ラヴィエータが口々に私たちを祝福してくれた。
「僕も感動したよ」
「私もです。遠くから見に来る価値がある舞台でした」
「ああ、俺もすごく面白かった。席もよかったからよく見えたしな」
続いてアルフォンソ、ファエロ、ジュリオも褒めてくれる。
私が舞台に立ったわけじゃないけど、みんなに褒められて嬉しくなっちゃう!
「……あの席な。よく見え過ぎて、指揮者の動きが気になった。俺は1階席の方がよかった」
こ、こやつ……ッ!
無料の席に文句言うな、ガブリエル!




