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第50話 思い悩む迷探偵


チャプン……。


「ふうー、生き返るー」


私は暖かいお湯の中でぐーっと手足を伸ばし、バスタブの淵に頭を乗せた。


なんとなく、ロマーノはビビに特別な感情がある気がするんだよね……。

よーし、今こそ自慢の推理力を発揮する時だ!


「はッ! ももも、もしかして、ビビってロマーノの隠し子なのかも!?」


二人とも金髪だし、人たらしというか、魔性っぷりが似てるといえば似てる!

でも……、ロマーノって、子どもがいるってことは結婚してるんだよね……?


「偽名を使ってビビの母親をたぶらかして、怪我を口実に姿をくらませたとか……?」


わざと公害レベルのあの色気を振り撒かれたら……。

人妻である私でさえ勘違いするくらいなんだから、未婚の女の子なんてあっという間にロマーノに夢中になっても不思議はない。


「ええーーー!? でも、子どもまで作っておきながら、ポイ捨てするような非情な人とも思えないけど……」


そうは言っても、ロマーノが父親だと考えると……、あんなに難しい名前を一発で聞き取れた辻褄が合う。

難しい上に原型をとどめていない発音だったのに、答えが分かったのは最初から知っていたからなんじゃないだろうか。


だけど……、本当にロマーノの隠し子だった場合、ビビはどうなってしまうんだろう。


「ビビ……」


妻子持ちのロマーノに引き取られたとして、ビビがその家で大切にされるとはとても思えない。

無視されるくらいで済めばいい方で、悪ければ虐待される可能性だって……。


「ダメダメッ! こんな時こそ前向きに!」


私が暗くなっても何の解決にもならない。

まだ隠し子だと決まったわけじゃないし、本当にそうだったとしても、ビビが幸せになれるよう手を尽くすことを考えなければ。


私は悪い考えを振り切るように、ザバッと勢いよく立ち上がった。






着替えを済ませて国王陛下がいる方のコテージへと戻ると、4人の子ども達の姿が見えなくなっていた。


「ただいま戻りました。子ども達はどうしたんですか?」


「みんなお昼寝をしているわ。クララのせいで大変な目にあわせてしまってごめんなさいね」

「すまんな、マルチェリーナ」


王妃様と国王陛下は申し訳なさそうに眉尻を下げた。


子ども達はお昼寝中かあ。

そりゃあれだけ暴れれば、さすがに疲れるわな。


「いえ、そんな……。あれは私のせいでもありますし、クリス様が助けてくれましたから」


私がガラス戸さえ開けなければ、あんなことにはならなかったしね……。


いま考えると、私は飛び込まない方が足手纏いにならずに済んだな。

今度からは魔法で浮き輪を出すとか、他の方法で助けることにしよう。


「ところで、明日のことなのだけれど、やっぱりクララに魔の森はまだ早いということになったのよ」


「えっ?」


私がいない間にそんな話になってたの?


「魔の森で予想もつかないような行動を取られたら、本当に命取りになってしまう。何かあってからでは遅いから、今回は諦めてほしいと頼んだんだ」


クリス様の言葉に、部屋にいる全員がうんうんと頷いている。

みんな不安に思ってたんだね……。


「そうだったんですね。それじゃあ、明日は何をしましょうか?」


代わりに牧場に行って乳しぼり体験とか?

クラリッサ姫にぎゅうぎゅう絞られる牛が気の毒だけど……。


「いや、トニーとアルは予定通り連れて行くんだよ。楽しみにしていたのに、クララに合せて二人が行けなくなってしまうのは可哀想だからな」


「たしかに、アントニーノ王子とアルバーノ王子まで連帯責任ではあんまりですね」


二人には何の落ち度もないもんね。


「だから明日は、女性陣と男性陣に分かれて別々に観光するのはどうだろう? チェリーナが女性陣をどこかへ連れて行ってやってくれないか」


なるほど!

それはいい考えです!


「それなら、女性陣はフィオーレ伯爵領へ行ってみませんか? この季節はお花がとても美しいんです。見渡す限りのお花畑は、まるでおとぎ話の世界に入り込んだような気分になれますし、街ではフィオーレ伯爵領名産の香水や化粧品などのお買い物も楽しめますよ」


「まあ、それは楽しそうね」


王妃様もお供の侍女さんたちも、魔の森の話をしていた時よりずっと嬉しそうだ。

こっちの方が断然女性向けの企画だもんね。


「はい! 楽しんでいただけるよう精一杯ご案内いたします!」


「……チェリーナが精一杯何かをするって聞くと、なんとなく不安になってくるな。カレンデュラも誘ってみたらどうだ?」


クリス様、どういう意味かな?

私に失礼すぎるよ?


だけど、フィオーレ伯爵家出身のカレンデュラの方が、案内役として私よりふさわしいのは事実だ。


「そうですね、誘ってみます」


「あら、それならプリマヴェーラ辺境伯夫人も是非お誘いしてみて? わたくし達は魔法学院の同級生だったのよ」


そういえば、お母様と王妃様は同い年だったな。

話し相手にもってこいだ。


「承知いたしました。二人には私から連絡しておきます」


あのクラリッサ姫を追いかけつつ、王妃様の話し相手を務めるのは至難の業だもんね。

お母様、王妃様の接待はお任せしました!






翌朝、私が目が覚ました時には、すでにベッドはもぬけの殻だった。

どうやらクリス様達はとっくに魔の森へ飛び立ったらしい。


そんな遠くもないのに、朝イチで出かけないといけないんだろうか……。

やっぱり別行動にして正解だったな。


「ねーたん、おちたー?」


私が居間へ入っていくと、先に起きて待っていたビビが笑顔で迎えてくれた。


「おはよう、ビビ。起きたわよ。今日はとっても綺麗なところへ連れて行ってあげるから楽しみにしててね」


「わあー!」


嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるビビと一緒に、布をふんだんに使ったスカートもふわりと広がる。


「あら? そのドレスはどうしたの?」


なんか、とんでもなくお高そうなドレスなんだけど……。

ピンク色の服なんて、買ってあげてないよね?


「きれーなひとが、きていいよーってゆってたー」


綺麗な人?

クリス様のことはわざわざそんな風には言わないだろうから、もしかして王妃様のことかな?


「王妃様が昨日のお詫びにと、クラリッサ姫のドレスをくださったのです」


テーブルに朝食を並べていたカーラが、ビビに代わって説明してくれた。


「そうなの。よかったわね、ビビ。とっても可愛いわよ」


「えへへー」


レースやフリルをあしらった上等なドレスを着てはにかむビビは、きっと誰が見ても貴族の子どもだと思うだろう。


ーーやっぱり、貴族の……、というか、ロマーノの血が入ってるんじゃ……?


でも、何の証拠もないのに、いきなり「あなたの隠し子なんじゃないですか?」なんて問い詰めるわけにもいかないし……。


そうだ!

まずは状況証拠から探ってみればいいじゃない!


ビビの年がクラリッサ姫と大体同じくらいだとすれば、妊娠した時期は3年半くらい前になる筈だ。

その頃にロマーノが、旧デゼルト子爵領へ行ったことがあるということが分かれば!


いや、待てよ……。

もし仮にそれが分かったとして、それで幸せになれる人っているんだろうか……。


「うう……」


ロマーノの妻子はもちろんのこと、ビビだって幸せになれるかどうか分からない。


「ねーたん、どちたのー?」


「奥様? どこか痛むのですか?」


あまりにも難しい問題に直面し、思わずうめき声が出てしまった私を、ビビとカーラが心配そうに覗き込んでいる。

みんなの前では普段通りに振舞わないと、心配をかけてしまう……。


「なんでもないわ。今日のお昼は何を食べようかなと考えていたのよ」


「よく起き抜けにそんなこと考えられますね」


カーラが呆れた目を向ける。

ちょ、私はただ心配かけないようにって思っただけだし!


「ビビはー、いちごのろーるーけーきーがいいなー!」


いちごのロールケーキを食べたいといいながら、ビビが無邪気な笑顔を見せる。

私はその笑顔を見て、ぎゅっと胸が締め付けられるような思いに駆られた。


ビビがこれからも、こんな風に笑って暮らせるように……。

何とかしてあげたい……!





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