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第40話 子育ては楽勝


『チェリーナ、また後で連絡するわね。今は、その子と遊んであげてちょうだい……』


通信機越しにビビの無邪気な声が届いたのか、サリヴァンナおばさまが悲し気に言った。


「はい……。サリヴァンナおばさま、失礼します」


ビビに何て言おうか……。


「あのね、ビビ。ビビのお母さんはこの魔法具を持ってないよね? 残念だけど、魔法具を持っている人同士でしか話は出来ないんだよ」


お兄様……!

ナイスフォローです!


「まおーぐってなーに?」


ビビにはちょっと難しかったようで、こてんと首をかしげている。


「魔法具っていうのはね、魔法で出した道具のことだよ。チェリーナが持ってるあの四角い板みたいなものは、魔法で出したものなんだ」


「まほーってなにー?」


「魔法を見たことないか……。うーん、どう説明すればいいかな」


ナイスフォローかと思いきや、魔法が何かも通じてなかったようです。


でも、とりあえず話題が逸れてくれてよかった……!

がんばれ、お兄様!


「まほーってなーに? ねえ、なーに?」


「えーとね、例えば……。ーーファイアー・ボール」


お兄様は手のひらを上に向けて、空中に小さな炎をポッと出して見せた。


「うわあっ! しゅごいー!」


初めて魔法を見たビビは、吸い寄せられるようにお兄様の方へ駆け寄った。

そして、小さな手を伸ばして炎を鷲掴みにしようとする。


「おっと。この火は本物の火だから触ると火傷をしてしまうよ」


お兄様は、ビビが触れる前にシュッと炎を掻き消した。

手から放つ前の炎であれば、念じるだけでも簡単に消すことが出来るのだ。


「うわあ! ビビもやるー! ふぁやぼー! ふぁーやぼーー! むーん!」


うん、ふぁやぼーじゃ火は出ないよね。

そもそも魔力がないと、詠唱だけじゃどうにもなりません。


「ビビはまだ小さいから、今は無理かな。でも、大きくなったら魔法が使えるようになるかもしれないよ」


平民に魔法使いは少ないとはいえ、可能性はゼロではないもんね。

と言っても、生まれ持った才能がものをいうから、努力ではどうにもならないけど。


「にーた、しゅごい! ビビも、にーたみたいにおっきくなる!」


ビビはすっかりお兄様が気に入ってしまったようで、目をキラキラさせながら熱い視線を送っている。


でも……、女の子の身でお兄様くらい大きくなっちゃったら大変だからね?

2メートルあるんだよ?


「ははっ。うん、早く大きくなって魔法が使えるようになるといいね。チェリーナ、そろそろアメティースタ公爵領へ送って行こうか?」


お兄様はビビのふわふわした巻き毛を撫でながら言った。


「そうですね。ビビ、そろそろ帰りましょうか」


「チェリーナ、その前にお手洗いに行っておいた方がいいわよ」


お母様が唐突にトイレを勧めてくる。


え、急になんで?

でもまあ、紅茶も飲んだことだし、今のうちに行っておこうか。


「そうですね。じゃ、ちょっと行ってきます」


私がトイレに行きかけると、お母様がクスッと笑った。


「いやね、チェリーナじゃなくてビビのことよ。サーラ、ビビをお手洗いに連れて行ってちょうだい」


「かしこまりました」


お母様が傍に控えていたサーラに、ビビをトイレへ連れて行くよう頼んでいる。


「ああっ! ビビですよね、私もそうなんじゃないかなと思ってました!」


そうだよ、乗り物に乗ったらトイレに行きたいと言い出すのが子どもってものじゃない。

ビビもオレンジジュースをたくさん飲んでたし、今のうちに行っとかないと上空でもよおしたら大変だ。


バルーンはどこにでもすぐ止められるわけじゃないから、降りる場所を探してるうちに大惨事になってしまいかねない。


「まったく。この調子で本当に子どもの面倒なんて見れるのかな……?」


「いまのはちょっとした勘違いです」


いやだな、お兄様!

妹を信用してくださいよ!


「チェリーナはちょっとした勘違いの連続で今まで生きてきてるよね」


「エヘ、それほどでも」


あれ、お兄様の視線が冷たい気がするな?


「褒めてないから。あんな小さい子、ちょっとした不注意ですぐに死んでしまうんだからね? ちゃんと気を付けて面倒見てあげないと」


「あ、そこはどうぞご心配なく! どんな怪我でもたちどころに治療できる魔法具を今日ーー」


「そういうことじゃないよ。即死したら魔法具の出番だってないじゃないか。だから最初から危険な目に合わないように、しっかり見ててあげないとって言ってるんだけど」


へえへえ。

ちゃんと分かってるのにしつこいなあ。


「……なんだか私も心配になってきたわ。チェレスにも懐いたようだし、やっぱりうちで預かろうかしら」


お母様まで酷い!


「ビビはお父様が怖いんですから、私たちのうちの方がいいと思います。本当に心配しないでください」


みんなの心配そうな視線を受けてへらへらと愛想笑いを浮かべていると、パタパタという足音が近づいて来た。


「ねーたん! おかいりー!」


トイレから戻ったビビが、ぽふっと私に抱き着いてくる。


ほらー、やっぱり私に一番懐いてるし!

置いていくなんてかわいそうだよ!


「ビビ、こういう時は"ただいま"って言うのよ。"おかえり"は私が言う言葉よ」


「うん! おかいりー!」


だから、ただいまだよ……。

まだ小さいし、言葉を覚えるのは追々でいいけど。


「それじゃ、私たちのうちへ帰りましょう!」





帰りは時間がかかることを覚悟していたものの、アメティースタ公爵領へ向かうバルーンの中でもビビはすぐに眠ってしまったので、風魔法を使ってあっという間に着いてしまった。


「それじゃ、僕はこれで帰るよ」


コテージのソファにビビを寝かせたお兄様は、休みもせずにとんぼ返りするらしい。


「お兄様、わざわざ送っていただいてありがとうございました」


「うん。何かあったら知らせて来るんだよ?」


なんかさっきからお兄様、やけに心配そうですよね。


「はい」


「それから、ビビのことだけどね。余計なお世話かもしれないけど、念のために忠告しておくよ。いくら可哀想でも、簡単に”うちの子になればいいわ!”なんて言うんじゃないよ? 継ぐ家がないならともかく、公爵家の養子に迎えるなんてとんでもないことだからね? 無理難題を言ってクリス様を困らせないように」


それくらい私だって分かってます!


自分たちの子どもだってまだいないのに、アメティースタ公爵家の長子となる養子をもらうわけにはいかない。

後々、血で血を洗う跡目争いに発展しかねないから。


お兄様って……、もしかして私のこと馬鹿だと思ってるのかな!?

ひどい誤解だ。


「大丈夫です、ちゃんと分かってますから! お兄様、お忙しいんでしょう? 玄関までお送りしますね! お帰りはこちらです!」


放っておいたらいつまでも小言が続きそうだったので、私はお兄様の背中をぐいぐい押して玄関へ向かわせた。


「ちょっ、チェリーナ!」


「お兄様、お気をつけて!」


パタン。


ふうー、やれやれ。

体力的に疲れてたところへ、お兄様のせいで気疲れまで加わったよね。


「まあ奥様、もうお帰りだったんですか? 今日はずいぶん早い……。あらっ、その子はどこの子ですか?」


奥で仕事をしていたらしいカーラが居間へやってきて、ソファで寝ているビビの姿を見つけて目を丸くしている。


「実は今日、ジョアン侯爵領で馬車の事故があってね……。この子の母親が亡くなってしまったのよ。だから、父親が見つかるまでしばらくうちで預かることにしたの」


「そんな……、この幼さで母親を亡くすなんて……。よかったらうちでお預かりしましょうか? 奥様に小さな子の面倒は見られないと思いますし」


カーラ!?

なんで私に面倒見られないと思ったの?


まったくみんなして失礼しちゃうな!


「大丈夫よ! ほんのしばらくの間なのに、どうしてみんなそんなに心配するのかしら。ご飯を食べさせてベッドに寝かせればいいんでしょ。それくらい私にも出来るわ」


「そんなものじゃ済みませんけどね。食事の世話やお風呂に入れたりするのは私がいる時間にやれますが、私は寝かしつけの時間までいられませんよ?」


お風呂に寝かしつけくらい余裕だってば。

みんな難しく考え過ぎなんだよ。


どれも楽勝じゃないの。

いいよいいよ、この機会に私の有能さをとくとご覧に入れましょう!






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