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第38話 お父様とお兄様の違い


ビビは子猫のような俊敏さでシュバッとお父様から離れると、ぎゅっと私のスカートにしがみついた。


どうやらお父様のことをマルティーノおじさまと勘違いしているようだ。


「ビビ、この人は私のお父様よ。私と同じ赤い髪でしょう? お父様はとっても優しいの。さっきの大きなおじさんとは別の大きなおじさんよ」


ポンポンと背中をたたいてなだめるも、ビビはイヤイヤと首を振って私のスカートに顔をうずめたままだ。


「大きなおじさんって……。もしかして、マルティーノが怖いのか?」


「そうなんです。街へ行ったら、何人もの医者がいたのに、わざとジョアン侯爵家の呼び出しに応じなかったことが分かったんですよ。それで、マルティーノおじさまが魔王のように怒り狂ったんですけど、ビビはちょうどそれを見てしまったんです。水魔法で1センチずつ刻まれてゆっくり死ぬか、火魔法で消し炭になって一瞬で死ぬか、好きな方を選べー! とまあこんな具合に、かなりのド迫力でした」


あれは普段のマルティーノおじさまを知らない人が初めて見たら、腰を抜かしそうな怒りっぷりだったよね。


三途の川を渡った先にいたとしても違和感がなかったと思うよ。


「なにッ!? 医者どもはわざと来なかったのか? 領主であるジョアン侯爵の一人娘が、生きるか死ぬかの一大事だったというのに!」


「そうなんですよ、マルティーノおじさまが怒るのも当然です」


「あいつは優しいな。俺なら一瞬で死なせてやるなんて慈悲を与える気にはならん! やけどの苦しみを少しでも長く味わうように、火魔法でゆっくりとーー」


お父様……。

もしお母様がそんな目にあったらと想像したんでしょうけど、邪悪な顔になっています。


「ふえぇーーーーーん! こあいーーーーー!」


「はッ! すまん、すまん! ただの冗談だよ! ちょっと悪ふざけが過ぎたかな? ハッハッハ」


慌てて笑顔を浮かべても、もう遅いかな……。

ビビが完全にビビってます……。


「父上、僕が連れて行きますよ。ビビだっけ、かわいい名前だね? さあ、こっちへおいで」


お兄様がにこっと笑って手を差し出す。


せっかくのご厚意ですけど……、お兄様もデカい男の仲間入りしちゃったしねえ。

ちょっと無理じゃないかな。


「うん」


予想に反して、ビビはトコトコとお兄様に近づき、差し出された大きな手の人差し指を握った。


え!?

お兄様はいいの?

なんで?


「なんでだよ!? 俺とチェレスの何が違うんだ?」


顔かな……。


お父様、今日は無精ひげを剃ってないですよね。

山賊バージョンじゃ子どもは怖がりますって。


「まあまあ、お父様。とにかく中へ入りましょう」


私がバルーンを降りながらそういうと、アルフォンソとクリス様はそのまま籠に残った。


「僕はここで失礼します。この後エスタの街で用事がありますので」


「俺も」


二人は休憩せずにエスタの街へ直行するようだ。

当初の予定よりもだいぶ時間が遅くなっただろうし、仕方がない。


「じゃあ俺も二人と一緒にエスタンゴロ砦へ戻るよ。チェレスはチェリーナたちをアメティースタ公爵領へ送って行ってやってくれ」


お父様はそう言って、入れ替わりにバルーンへ乗り込んだ。


「わかりました」


お父様は腑に落ちない表情で、もう一度お兄様の腕に抱かれたビビを見る。


「何が違うんだ……」


だから……、顔です。


「お父様! お父様の良さは私が分かっていますから、そんなに落ち込まないでください!」


あなたには血を分けた実の娘がいるんですから!


「ははっ、そうだな」


「そうですよ。もしお父様が怪我をした時はすぐに飛んで……。そうだ、今日考えた新作の魔法具をエスタンゴロ砦に持って行ってください。いま、お父様が入れるサイズに微調整しますね」


ジョアン侯爵領に置いてきたやつは全長2メートル位だったから、マルティーノおじさまが入るにはギリギリか、少し小さかったかもしれないな。

まあ、少し膝を曲げれば、なんとか蓋は閉まるだろう。


エスタンゴロ砦用のは、お父様でもゆったり膝を伸ばせるように、20%拡大しておきますから!


「ーーポチッとな!」


ズシーン!


「うわっ、大きいな。これは何なんだ?」


「これはどんな怪我や病気でもたちどころに治す魔法具で、ミッチーナという名前です。これでサリヴァンナおばさまを治療したんですよ」


「へえー」


むむ、治すところを見てないせいか、ちょっとリアクションが薄い……。


「チェーザレ様、どうぞミッチーナをアイテム袋に仕舞ってください。エスタンゴロ砦に着いたら、僕が使い方をご説明いたしましょう」


「おお、そうか。悪いな、アルフォンソ」


アルフォンソ……、親切ぶって説明してあげるなんて言ってるけど……。

今のはさっさとバルーンに戻れと言いたいのをオブラートに包みましたね?


「それじゃ、出発します」


「行ってらっしゃーい!」


もう引き留めませんから!

私たちは、バルーンがゆっくりと宙に浮かび、だんだん高くなっていくのを下から見上げた。


「わあー!」


ビビも大きな風船が浮かぶのを見て、大喜びで手を叩いている。


いつもは自分が乗る方だったから、バルーンが飛んでいくところを見たことがなかったけど、下から見てるとずいぶん早く飛ぶんだなあ。


すいーっと滑るように飛ぶからあまり怖さを感じないし、やっぱりバルーンの方が子どもからお年寄りまで幅広く需要がありそうだ。





屋敷の中へ入ろうと振り返ると、カレンデュラが玄関口に立って私たちを待っていてくれた。


「お義母様、チェリーナ、お帰りなさいませ。お疲れになったでしょう? お茶の用意をしましたので、どうぞゆっくりしてください」


どうやら私たちが到着したタイミングで、使用人にお茶の用意を頼んでくれていたようだ。


「カレン! ただいま! ああー、疲れたー」


「その子はどうしたの?」


お兄様が抱いている子どもの存在に気が付いたカレンデュラが尋ねる。

ビビが一緒に来ることをお父様から聞いていなかったようだ。


「事情があって、しばらくうちで預かることにしたの。ビビ、このお姉ちゃんは優しいお姉ちゃんだから怖くないわよ」


「うん」


ほっ、カレンデュラのことは大丈夫みたいだね。

まあ、見た目からして可愛くて優しそうなカレンデュラは子どもに嫌われる要素がないけど。


「まあ、チェリーナが子どもを預かるの? ……大丈夫なのかしら」


「ほんとだよ。チェリーナ、大丈夫なの? 子どもはおもちゃじゃないんだよ?」


お兄様!?

失礼しちゃうな、そんな事ちゃんと分かってるし!


「大丈夫ですよ。ご飯も食べさせますし、うちには余ってる部屋もありますから! 毎日散歩にも連れて行きます!」


「散歩って……。犬じゃないんだけど」


え、散歩は連れて行かなくていいの?

よくわからないけど、たぶん何とかなりますよ。


「いざとなれば保育所がありますから」


「保育所って?」


あれ、お兄様にはまだこの話してなかったっけ?


「小さい子どもたちを纏めて預かる施設のことです。その間に母親が仕事に出られるようにと考えたんですよ」


「へえー、なかなか面白いね」


そうでしょう、そうでしょう。


「うちの領は人手が足りないので、女性も重要な働き手ですから」


「なるほどねぇ。チェリーナもだいぶ領主夫人らしくなってきたみたいだね」


えへへ、まあね!





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