五
これは、職種を聞かれると素早く自営業の名を考えた。
しかし、彼が口にしたのは全く別のことだった。
「ご迷惑にならないでしょうか」
「は?」
「いえ、何せ変わり者の上に精神病院に通った事もあります」
「あなた!」
婦人が非難の声を上げるが、構わず彼は続けた。
「それでも宜しいですか?息子に勤まりますでしょうか?」
藍太は少しばかり気になって、詳しく聞くことにした。
「例えばどのような?」
「いくつに見えます?」
え、とまじまじ総一をみる藍太に息子です。と低く彼は付け足した。
改めて、隣に目をやる。
恭介の口角が愉しげに緩んでいた。
「三十ですか?」
少し若めに答えてみる。
「整形したんですよ」
「え、では」
四十代という可能性に驚く。どう多く見積もっても彼の両親は五十を越えて無さそうだった。
「それは随分」
若い時のお子さんですね、と言う先をよんだか彼は苦い顔で言った。
「私は今四十三になります。恭介は二十三の時の子供です」
思考が停止する。
つまるところ。
「早く年を取りたいと整形で顔を老けさせて来まして。腰が抜けました」
それは、間違いなく抜けるだろう。
「異常です」
きっぱりと父親が自分を判ずるのに、彼は笑みを浮かべたままだ。
ますます、意図の見えない話になりそうだった。
二十なのに三十の顔を持つ男は笑っている。
「妙なことをしないように、金銭管理を厳しくしております」
苦笑気味に彼の父が話した言葉を思い出す。いや、成人男子に小遣いやるほうが間違いではないだろうか。
今は、彼と藍太、それに瑠輝の三人だけだ。
両親には多少無理を言い席を外して貰った。
面接も兼ねてと言う藍太の言葉に二人は心配そうにしながらも、三人を置いてリビングに戻る。さすがに家の中心スペースから彼等を追い出す訳には行かない。
藍太たちは、恭介の部屋に場所を移して向かい合っていた。
恭介の部屋は、見えない呪の力が浮いて彼の犯人説に念を押している。空気は多少埃臭いが、それ以外は一般的な青年の部屋だ。いや、一般よりも生真面目に片づいているかもしれない。勉強机は物一つ置いてなく、本は理路整然と並び整えられてラックに収まっていた。
「さて、何が目的だ」
藍太が言うと、青年は考えても見なかった質問を聞いたとばかりに瞬いた。
それを見て、瑠輝が口を挟む。
「ほら、おじいちゃんの家水浸しにしたり、掃除機で攻撃したり色々したでしょう? あれはなんだったんですか? 新手の就活…ぶっ」
いきなり折れ曲がって肩を震わす瑠輝に、コイツもどこかおかしいのではと心配しながら藍太は言葉は継いだ。
「でどうなんだ?」
青年は、急に深刻な顔になる。それにつられて、部屋に緊迫感が流れた。気がした。
「好みのタイプは何なのかと思いまして」
訳が分からねえ。
藍太の心情が伝わったように、恭介は言った。
「妖で生まれれば、種族を理由に断られ、身分違い、異性として見れない、同性。様々な理由で断り続けられて面倒になりました」
挙げ句、恭介は無意識か藍太を睨み付けながら言った。
「もしや、あなた変わった趣味をお持ちなのかと私怨も交えて」
「はあぁあああ?」
「じいちゃん、怨恨と夜這いが重なったみたいだねぇ」
そんな馬鹿な、藍太は眉をしかめた。しかし、と思い返せばしゃもじが宙に浮いたのは夕飯だったし、その他も圧倒的に夕方から夜間にかけてが多く非常に迷惑だった。いや、そういう類は夜と相場が決まっているとしてもだ。
瑠輝が好奇心を隠しもせずに問い掛ける。
「前世からの記憶があるの?」
「いえ、最初から最後まで藍太さんご本人に告白してます。」
「嘘でしょっ!?」
初耳だとばかりに瑠輝が祖父を振り返った。より深くなる眉間の縦皺は、なんのことだと主張している。気難しげに考え込み、ゆっくり数えて六秒後。心当たりが有ったか、藍太は自信なさげに言った。
「ガキの頃、親父の目を盗んで飼ってた子鬼が、妙なこと言ってた気がする」
「失礼ですね、僕は幼いながら必死だったのに」
「あー、学生時働いてた所のお嬢さんが血迷ったこと言ってたような」
「友人に頼んで好きな人物を探って貰いました。懐かしいですね」
「…お前、まさかあの破門した恭子…」
「お久しぶりです。本当は男なんですよ。告白したら拒否られて悲しかったです」
「いやいや、だって、お前いきなり妹だと思ってた奴から好きって言われても、なあ?」
困ったと表情にありあり浮かべる藍太に、恭介はにこりと人造の老顔に笑顔を浮かべた。




