07-3
深夜。
少年が繁華街の裏通りに座り込んでいる。
表通りほどではないが、ここも結構な人通りがある場所だ。こんな時間帯でさえ。
少年がそこに居る理由など特に無かった。
どこでもいいから座りたくて、ここなら通行人の邪魔にならないだろうと考えただけだ。
クローズしたブティックの玄関へ続く、妙にお洒落な白い階段である。
段は、三段しか無い。
女性向け商品を展開しているナントカと言うブランドのショップらしいが、詳しくは知らなかった。
興味も無い。
「あら? きみ、中学生くらいじゃないの? こんな時間にそんな所に居ると補導されちゃうよ?」
今夜だけで何人目だろうか。次々と女性が声をかけて来る。
今日はこれまで全部スルーして来たが、久しぶりに微笑みを返したくなるルックスの人だ。
白いコートにミニスカート、華奢な足にブーツ。
服装は平凡そのものだったが、顔立ちが可愛らしい。
ナチュラルな色彩の黒髪が、愛らしい顔立ちに似合っている。
「お姉さん綺麗だね。大学生?」
「そうよ。子供がこんな場所に居ると、怖いお兄さんやおじさんに誘拐されちゃうよ? きみ、可愛いんだから」
「そんな心配してくれるなんて、優しいな。ねぇ、独り暮らし?」
「そんなの、内緒」
「あ、同棲とかしてるんだ? 不潔だなぁ」
「ナニ言ってるのよ、もう」
「ねぇ、ボクの事拾ってよ。彼氏なんか追い出してさ」
「え?」
「お姉さんのペットにして」
「バカね。そんな事を言われたら、拾えるわけないでしょ。家出少年っ」
「例えあなたがその気になっていたとしても?」
「そうよ」
「ボクは懇願してるのに」
彼女はクスッと笑って「どこがよ」と言い、少年の隣に座り込んだ。
ここまで近づいたのなら、もう逃がしはしない。
「そのフレグランス、お姉さんには似合わないね」
少年は女性の首元にゆっくりと顔を近づけてゆく。
「そぅ? 気に入ってるのにな」
そう答える女性は、少年から逃げなかった。
むしろ、自分から僅かに身体を寄せた。
「もう少し優しくて薄い香りがいいと思うよ。例えば」
女性の肌に、くちびるが触れるか触れないか。
限界ギリギリの距離で声を出す。
吐息と声の振動は、女性の産毛を撫で上げた。
「ん……例えば?」
「何もつけない、とかね」
耳元で囁き、少年は女性からスッと身体を離した。
そして薄く微笑む。
「ね。一緒に帰ろう」
「……はい」と答える女性は、もう声も表情もとろけ始めていた。
頬が紅潮している。
耳や、首筋まで淡く染まっていた。
少年は立ち上がり、女性へと手を差し出す。
「さぁ、お姫様」
女性は少年の瞳から視線を離さず、その手に自分の手を添えた。
震えながら立ち上がる。
「ボクの名前を知りたい? 好きな名前を付けてくれてもいいよ?」
「教えて……あなたの名前」
「うん、じゃあ言うね。ボクは陽成」
「ヒナ……」
「そう。〈陰の気〉を吸って育った、まだまだ未熟な〈妖異見習い〉さ」
・ お わ り ・




