後編
その後、奴隷を所有するうえでの注意点を聞き、エミリアを引き取ることになった。
俺が新しいご主人様になったと知ってエミリアは一瞬意外そうな顔をした。そりゃあ意外だったかもしれない。どこぞの貴族や金持ちの中年男の性奴隷になると思いきや自分とあまり年の変わらない少女に買われたのだから。
「よろしくお願いしますご主人様。今日からは私の身も心もあなた様のものです」
商館の男に促されて挨拶をするエミリア。ご主人様かぁ、いい響きだ。
表情はあいかわらず暗い。ちょっと罪悪感が出てくるけど、時間がたてば変わるかな?
「よろしくエミリア。あなたのこと大切にするわ」
それはもう優しく何からナニまでじっくり教えてあげよう。ぐふふふ
ちなみに奴隷の首輪の機能は主人への攻撃防止、自殺防止、逃亡防止の3つのみで、専門の人間しかはずせない作りになっている。首輪の機能には命令を遂行させる機能は無い。しかし、奴隷制度は王国が管理しており、奴隷一人だけでは町の出入りどころか商売も何一つできない。そのため逃亡も困難であるし、普通は逆らおうとする奴隷は少ない。また、王国が管理するため何の理由もなく人攫いに奴隷にされるのを防いでもいる。
さて、せっかくなので仲良くしたい。仲良くなるためにはどうすればいいのか、前世でよんだ小説では一緒に買い物して一緒に食事して一緒に冒険とかをしていた。
というわけで、服を買いに行こう!
はやくエミリアのこの嫌々付いて来てますってオーラをどうにかしたい。
町の高級服屋にやって来たのだがエミリアの表情がすぐれない。ショッピングに興味が無いっていうわけでは無い。実際店に入った時は少し興味を示しており、俺が好きに選んでいいよと言うと積極的に服を選んでいた。しかし、デザインや装飾を見てがっかりとした表情になり、仕方ないので選びましたとばかりに2,3の服を見繕っていた。どうやら庶民の高級店にはお気に召すものはなかったらしい。
その後、最近購入した我が屋敷へと連れてきた。服でダメならうまい飯を一緒に食べよう。成金の俺は料理人を雇い無理難題を言って食べたい料理を作らせているのだ。おかげでそんじょそこらのレストランより味がいいと自負している。
屋敷に入った後メイドを下がらせ、部屋に二人っきりになったとき、エミリアが急に俺に詰め寄って来た。
「ご主人様! お願いがあります。どうか私をカリオス公爵領まで連れて行ってください」
「え?急にどうして? しかもそんな遠いところに?」
カリオス公爵は王都からは大分離れた場所に広大な領地を持つ貴族で、力を持っていてかつ王都から離れているため、王宮貴族からの影響は少ない。
「無理は承知の上です。しかし、ドイリンド家再興のためにはもうそれしかないのです。かなり遠い場所ですが公爵領までたどり着けばきっとカリオス公爵が力になってくれるはずです。カリオス公爵は我が家に借りがあるのです。ドイリンド家再興のあかつきにはイズミ殿には相応の報酬と栄誉を約束しましょう」
困ったな。まさかこんなことを頼まれるなんて。しかし、この頼みを受けることはできない。理由の一つとして、
「それは無理よ。犯罪奴隷にされてしまったエミリアは許可なく王都の外に出ることはできないわ」
そうなのだ、特に犯罪奴隷は場所を移動することを制限させられる。しかも首輪には逃亡防止機能があるため、都から出たらすぐにばれるし位置もばれてしまう。
「こっそり出ることはできないの? それか早馬で追っ手を振り切ってカリオス公爵領に逃げ込めば…」
「それも無理よ。こっそり出ても首輪の機能はごまかせないし、追っ手を振り切るのも不可能よ」
この国には逃亡奴隷を捕まえる専用の騎士団がいる。簡単に逃亡はさせてもらえない。
「そんな…どうにかできないの?」
「できないわ。仮にカリオス公爵領に逃げ込めてもそこでは首輪を外すことはできない。奴隷のまま家の再興ができるとは思えない。それに犯罪奴隷を許可なく都の外に連れ出したら私まで犯罪者にされてしまう。そしてそうまでしてあなたの頼みを聞いても私にはメリットがないわ」
「なっ! イズミ殿はドイリンド家に連なるものから依頼されているのではないのですか? あの奴隷商は味方ではなかったの?」
「いいえ、私はドイリンド家ともあなたと敵対する貴族ともどちらとも関わりのない人間よ。だからこそあなたを紹介されたのだから。家の再興はあきらめなさい。今日からあなたは私のものになるのよ」
「そんな…それじゃあ私本当に一生奴隷のまま……うぅ…」
この国では奴隷になってしまった以上もうどうしようもないのだ。特に犯罪奴隷は解放されることはなくあきらめるしかない。
普通、商館で売られる奴隷たちは自分の状況を理解し逆らっても無駄だということを受け入れたものたちだ。エミリアは特殊な環境のため自分の状況を受け入れられないようだ。
だが商館で俺はHな目的で購入することをはっきり言ったはずである。(この国では同性同士の恋愛はそれほど珍しいわけではない)それでも奴隷商が俺にエミリアを紹介したのは貴族に買われた場合の彼女の運命が悲惨なものになってしまうからである。この国の貴族は奴隷落ちした敵対者に容赦が無いのだ。
「安心してエミリア、あなたの家の再興の手伝いはできないけど不自由な生活はさせないわ。私のものになった以上私のために働いてもらうけど、そんなに酷いことをするつもりはないわ」
ちょっと酷いことはするかもしれないけど。
「………でも、だったらどうして私を買ったの? ドイリンド家を利用するでも再興するでもないのに…」
わお! それ聞いちゃいますか? 買ったときはそのへんも納得ずくだと思っていたけど、話を聞く限り違うんだろうな~。
「……え~と…買った理由ね………そりゃもちろん性奴隷として買ったのよ!」
「!!!」
「あと、エミリアが一番好みだったから」
「なっ!………」
やばっ! エミリアがドン引きしている。
「えっと…やっぱりそういう扱いは嫌?」
「いえ、奴隷となった以上は覚悟はできております!……ただ、予想していた買い手とは違ったため無茶な希望を持ってしまっただけなのです。………あと、やっぱり少しだけ心の準備をする時間がほしいのですが………」
あ、一応ある程度は覚悟ができていたのね。
「わかったわ。落ち着くまでは客室を使っていいからそこでゆっくりするといいわ」
「本当ですか! ありがとうございます。買われたのがイズミ殿でよかった」
「あ そこはご主人様と言うように」
その日からエミリアは客室で暮らすようになった。メイドを何人か付けて何不自由ない生活を送れるようにした。
俺はエミリアの事情を知り、まだ心の準備ができていないことも理解した。優しい主人公ならここで時間をかけてエミリアが心を開くのを待つのだろう。しかし、俺は欲望を我慢できないゲスなのである。一晩だけでも我慢できたことを褒めてほしい。
エミリアを買った次の日の晩、俺はエミリアの眠る客室に忍び込んだ。エミリアは大分慣れたのかぐっすり眠っている。肩をゆすって起こすと、エミリアは目を見開いて驚き、体を硬直させた。
「あ、エミリア起きた?」
「!!!」
「どうかな? 心の準備はできた?」
「………………………コク」
エミリアはかなり迷った後うなずいた。
ちょっとかわいそうなぐらい緊張している。今日は軽めのスキンシップでとどめておこう。
「大丈夫よ、今日は一緒に寝るだけで、変なことはちょっとしかしないわ」
「………ちょっとはするの?」
「ちょっとだけね」
俺はエミリアの頭を両手で抱き寄せ、しばらくの間頭をなで続けた。さらさらとした髪を指で梳きながらその感触を堪能する。そのさらさらとした感触はいつまでたっても飽きが来ない。男の体だった時と違い、今は軽いスキンシップでも気持ちを満たすことができる。十分堪能した俺は最後におでこにキスをする。
「おやすみのキスよ。エミリアからもお願い」
大分緊張がとれたようで、素直におでこにキスしてくれた。
それから一週間、毎日スキンシップと軽めのキスをして同衾するようになった。
エミリアはこの生活に大分慣れたようで、だんだん遠慮がなくなってきた。欲しいものを聞くと、高級家具一式やお気に入りの仕立て屋によるドレスを数十着、料理は高級食材を使ったフルコースがいいと言う。「メイドが足りないみたいだけどお休みしているのかしら」なんて言っていたこともある。この国のブルジョワは一体どうなっているんだ。あと、エミリアも意外と図太いのかもしれない。
今日はせがまれて演劇を見に二人で出かけている。俺はまったく興味が無いので、エミリアのためのお出かけになってしまっている。俺がご主人様のはずなんだけど………。でも、女の子との初デートと思えば悪くないかもしれない。
帰り道複数の男たちに襲撃された。返り討ちにしたけど。
おそらくエミリアの家の政敵が雇ったチンピラだろう。いくら上級貴族でも他人の奴隷を傷つけるのは許されていない。表だって攻撃できないのならこんなチンピラいくら来ようと怖くない。
その日、初めてエミリアの方から俺の手を握ってくれた。頼りに感じてくれたのかもしれない。そんなエミリアに俺はあっさりと理性を放棄してしまった。ついムラムラきちゃって………。
これまでよりも深くキスをすると、エミリアは抵抗せずに受け入れてくれた。後は欲望のまま、ひたすらエミリアに夢中になった。
1年後、
おはようのキスから始まり、いってきますのキス、ただいまのキス、つい目があったのでキス、夜の営みを挟んでおやすみなさいのキス。周囲にラブラブっぷりを振りまいていた。
今日は仕事を休み朝からエミリアとイチャイチャしていると、にわかに外が騒がしくなってきた。外を見るとなんと館が衛兵に囲まれている。そして俺はありもしない罪を着せられて捕えられてしまった。何かの間違いだと言っても取り合ってもらえない。自分のことも心配だが、エミリアのことも心配だ。どんな扱いを受けているのか不安でたまらない。しかし、その心配は杞憂だった。エミリアはなんと俺の犯罪を告発したことにより奴隷から解放されていた。
なぜ、こんなことになったのか。実は少し前に政変が起こっていたのだ。1年前死んだと思われていたエミリアの父親が実はしぶとく生きていて、油断しきった政敵を罠にはめ、見事返り咲き、しかも以前よりも強大な権力を手にいれてしまったのだ。俺が罪を着せられたのはエミリアを解放するためだった。
犯罪奴隷になった俺はオークションにかけられかなりの値が付いた。まあ、かなり名の売れた冒険者だったからね。それに自分で言うのもなんだがそこそこ美人なんだ。今は嬉しくないけど。
それから俺は一通りの奴隷としての教育を施され、主となる人間に引き渡される日が来た。オークションで俺を競り落とした男はただの仲介人だったらしく、主となる人間とは初めて会うことになる。フードを被った小柄な人物が新しい主だと紹介され挨拶するように促された。
「よろしくお願いしますご主人様。今日からは私の身も心もあなた様のものです」
「よろしくイズミ。あなたのこと大切にするわ」
聞きなれた女性の声だった。
そこにはフードを取ったエミリアがにっこりとほほ笑んでいた。
絶望しかけていた俺は嬉しさのあまり泣いてしまった。俺はエミリアのことが大好きだけれども、エミリアも俺のことを想っていてくれていたのだ。きっとこれからも以前と同じようにいや、以前と違い俺たち二人は恋人として幸せに生きていくのだ。異世界に来てよかったと心からそう思える。俺はこの後の自分の運命も知らずにそうのんきに考えていた。
「ありがとうエミリア。迎えに来てくれて本当にうれしいわ」
「うふふ、私もうれしいのよ。それではイズミ、さっそくだけどこのドレスに着替えなさい」
あれ? いつもと口調が違う。というよりも命令口調?
この服は何? リボンとフリルがふんだんにあしらわれていてものすごく可愛らしいドレスだけど、ピンクを多く使った色使いやデザインがすごくロリータチックである。これを着るのはちょっと恥ずかしいのでは…。
「あと、私のことはご主人様と呼ぶように。ほら、速く着替えるのよ」
何が起こっているのか頭がすぐに理解してくれない。そうするうちに後ろからぞろぞろ現れたメイドさんたちに俺は服を引っぺがされて可愛らしいドレスを着せられた。しかも、首輪には鎖が付けられて、その先をエミリアが握る。
あれ? 私がエミリアにした扱いより酷くない?
「エミリア、これはいったい………どういうこと?」
「私のことはご主人様よ。次間違えたらお仕置きね」
「うっ………ご、ご主人様、これはいったい…」
「見ての通りよ。今日からあなたは私のものだから、私の命令に従ってもらうわ」
ああ、エミリアは俺を奴隷として欲しているだけだったのだ。大金を出してまで救ってくれるほど俺を好いてくれているなんて俺の思い込みでしかなかったんだ。そう思うとまた涙が出てきた。
「ぐす………ご主人様は結局、私のことを好きではなかったのですね…」
「いいえ、イズミのことは大好きよ。だけどそれ以上にイズミのことを征服したかったの。イズミをいじめたい。イズミを自分好みに変えてしまいたい。ずっとそう思っていたの。
でも、自分の欲望をさらけ出してしまうと嫌われるんじゃないか、捨てられるんじゃないかと思ってずっと我慢してきたの。だからイズミを所有できる日が来るなんて夢みたいだわ。ふふ、そのドレスも私ごのみですごく似合ってるわ」
よかった、嫌われてはいなかったんだ。でも安心している場合じゃないぞ! エミリアは俺の想像を超える欲望の人だった。俺はこれからどうなってしまうのだろう。
「イズミ愛してるわ。私の欲望を受け止めて」
そうして俺は抱き寄せられ、キスされた。今までされたことのないような激しいキスにあっという間に腰砕けにされる。それからのエミリアの攻めは激しかった。エミリアの強烈な欲望を受け止めてしまった俺はどSなエミリアのことも好きになってしまった。
その後、俺は毎日エミリアに可愛がられる日々を送る。最初の目標からはだいぶズレてしまったけど、現状に不満は無い。むしろ幸せを感じてしまっている俺とエミリアの相性はやっぱりよかったのだと思う。