兄弟 Indutria―英知の番人 2
「郁磨様、お時間でございます!」
玄関の方から大声が上がって郁磨は瞬く間に唇を尖らせた。
「えぇー、もう? 僕、もっと兄さまと静香さまと一緒にいたいです! 僕兄さまのお部屋が大好きなんです。たっくさん面白い本があるし、兄さまとお話ししてると楽しいですから」
図書室と静香と琢磨が呼んでいる琢磨の自室で、郁磨は声を上げて笑いながらズラリと並んだ書架を見渡す。
「よそ見していると転ぶぞ」
「大丈夫ですよぉー。でもどうして兄さまは学校へ行かないのですか? 兄さまの部屋にはいっぱい本がありますが、学校の図書館にはもっといぃっぱい本がありますよ! ここにはない、兄さまの好きそうな本だってあると思います」
「そっか……、でも、僕はこれでいいんだ」
苦笑する琢磨の後ろで静香が悲しげに目を伏せた。
きょとんと小首を傾げていると再び外から声がする。
「……僕、まだ帰りたくありません。まだ時間にもなってないのにぃ」
そう言って郁磨は壁掛け時計を見る。確かにいつもよりも早い時間だった。
「郁磨さま! 本日は奥様とお出かけの予定でございましょう。奥様がお待ちになっておいでですよ。お早くお願いいたします!」
使用人の声に焦燥感が滲み始めた。それでも動こうとしない郁磨を見かねて静香が声を掛ける。
「郁磨様、また来週いらっしゃいな。佳奈様がお待ちですよ」
「でもぉ……」
「郁磨、母様を待たせるものじゃないよ。この本の続きはまた来週だ。来週は今日の分まで長めにいれば良いじゃないか」
「…………はぁーい」
不服そうに立ち上がった郁磨を連れて玄関を開ける琢磨。カバンを持たせてやってポンと頭を撫でる。
「また来週な。忘れるなよ」
「っ、はい! また来週、来週は絶対にこの本を読み終えてもらいますよ、兄さま!」
「あぁ、分かった」
琢磨を振り返って郁磨は大きく手を振った。琢磨は軽く手を振ってそれに応えた。




