対決
賑やかな通りを全力疾走し、鉄は工事現場裏の空き地へと走る。
途中何人かの人にぶつかりそうになって、剣呑な視線を向けられた。だが鉄は構わず走った。静かに、だが確実に後ろをあの男が追ってきているのを感じたからだ。
「カナンっ!」
空き地へと滑り込み、鉄は掠れる声で叫んだ。
空き地に一つしかない街灯の下、瞑想するように佇んでいたカナンが顔を上げる。
鉄はそれまでの勢いを殺すように足を踏み込んだ。砂埃が夕闇に舞いあがる。
「カ、ナン……?」
白を基調にした制服に腰まである長い黒髪。
数メートル離れたところにいるのは確かにカナン・マジェッツだ。
――気を付けて。もし危ないと思ったら、ポイントに誘い込むことより逃げてくださいね。約束です。何があっても絶対、絶対ですよ。
そう、つい一時間前、苦痛と気遣いを滲ませて言ってくれたはずのカナンその人だ。
だが、違う。いつもは慈愛を湛える青い瞳は身が竦ませるような怜悧さを宿し、まるで別人のように殺伐としていた。鉄は戸惑い、出会った時に槍を向けられて以来初めて、カナンを恐ろしいと感じた。
カナンはゆっくりと鉄に近づきながら手を腹部にあてた。淡い光が腹と手のひらから漏れ、カナンは細長い柄を引き抜いてゆく。
ジッと音を立てて街灯が消えた。空き地に夕闇が降りる。
「鉄くんは、下がっていて下さい」
その言葉に振り返ると、空き地の入り口にはいつの間にかあの男が立っていた。
先ほどと変わらぬ、やたらと鋭い光を放つぼんやりとした目で鉄を、いや、カナンを見ていた。
純潔の槍を手にしたカナンと四人目のシンズ。
二人の間に生じた殺気とそれによる息苦しい程の威圧感。カナンの目にも、男の目にも鉄の存在は既に入ってはいない。
(ここまでだ……)
首尾よくポイントまでシンズを誘い出し、今カナンはあの男と対峙している。
役目を終えたことを悟った鉄は男から目を背けずにジリジリと後ろに下がり、積み上げられた鉄骨の裏に身を潜めた。小刻みに震える膝と手を擦りながら鉄は二人を窺う。
この場にはそぐわない穏やかな秋風がカナンのスカートの裾を揺らす。
「あなたは罪を犯してきました。これは罰。悪魔をその身に宿し、シンズへと堕ちた者は
神の名の下に消えるのが定め」
静まり返った空き地に凛とした、いつもより硬質な声が響いた。
男は聞いているのかいないのか、ぼんやりとしたまま、ただカナンを見つめ返す。カナンはスラリと槍の切っ先を男に向け、目を細めた。
「――復讐するは……我にありっ」
そう言うなり、カナンは男に向かって大きく踏み出し槍を振り下ろした。




