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act3-3

 五十フィートの洋上を六機のF‐18FJ、ベルーガ・フライトが飛行していた。ベルーガ・フライトは当初の予定通り敵空母攻撃のため、ASM‐3空対艦ミサイル四基、AAM‐5B短距離空対空ミサイル二基を装備。さらに低空で増す燃料消費量を補うため、センターラインの増槽に加え、背面にCFTコンフォーマル・フュエル・タンクを装備していた。

 そのベルーガ・フライトに先行する形で飛ぶ、F‐18FJの四機編隊、シータス・フライトの二番機を駆る麻井二尉は、HMDバイザーと酸素マスクに覆われた顔面にじっとりと汗をかいていた。

 シータス・フライトの任務はベルーガ・フライトのエスコートだった。武装はAAM‐4B中距離空対空ミサイル四基、AAM‐5B短距離空対空ミサイル四基を搭載し、ベルーガ・フライトに迫る敵艦隊防空戦闘機を排除する任務を負っている。

《遼寧》空母戦闘群と日本艦隊の間は敵のジャミングの真っただ中だった。レーダーも通信も妨害を受けており、耐妨害性に優れたリンク16戦術データリンクによって共有される情報が頼みだった。そのため、早期警戒機が最後に《遼寧》空母戦闘群を探知した位置を凡その目標として飛んでいる。


『間もなくIPです』


 レーダー管制幹部(RIO)の内藤貞明二尉が航法システムを確認して読み上げた。


「オッケー。始めるぞ」


 麻井は答えながら自らもMFDに表示した航法システムのデータを確認した。IP(イニシャル・ポイント)でベルーガ・フライトは編隊を二機編隊の三個に分けることになっていた。


『ベルーガ・リードより各機へ。散開(ブレイク)……ナウ』


 編隊長の木場一尉が呼びかけた。ベルーガ・編隊が散開する。その時、警告音が鳴った。

『敵機です。二時方向、こっちに向かってきます』

 内藤が告げる。EOTSのIRSTが赤外線反応を捉えた。レーザー測距が行われ、脅威の位置が明らかになる。四機の敵機がこちらに向かってきていた。艦隊防空戦闘機だ。


「ファング、こちらアイク。フォア・ボギー、ホット。我々が引き付ける」

『アイク、頼んだぞ』


 木場一尉の声はジャミングで途切れ途切れに聞こえた。敵のレーダー波を浴びてIEWSが警告音を鳴らした。敵機にこちらを捕捉されたが、こちらも敵機の位置をはっきりと捉えた。


「アイクより各機、散開。エンゲージ」


 シータス・フライトの四機は編隊を解いた。同時に麻井は増槽を投棄して身軽になる。


「ドッピー、295度から接近するボギーを撃て。ナックルはそれを援護(カバー)

『ラジャー、アイク』


 四機中の二機の対処を指示した時、こちらが敵機をロックオンしたことを知らせる電子音が鳴った。


『ボギー、ロックオンした』


 内藤が言った。内藤は麻井が指示を飛ばす間にレーダーを駆使して敵機を捕捉していた。麻井は素早く兵装選択装置を中距離兵装に切り替える。


「FOX3」


 麻井がウェポン・リリースボタンを押すとミサイルが機体を離れ、ロケットモーターに点火して敵機に向かって突っ込んでいった。


『FOX3』


 ドッピーこと仲谷(おきや)二尉がミサイル発射をコールした。麻井の放ったミサイルは回避機動中だった敵機の一機を食い破った。しかしもう一基のミサイルは不明中だった。耳元にIEWSの警告音が鳴り響く。撃ち漏らした敵機が反撃してきた。


『ミサイル、ミサイル!』


 内藤が叫んだ。


「ブレイク!」


 麻井はすかさず操縦桿を倒し、チャフを放出して回避機動に移る。麻井と内藤は強烈なGに歯を食いしばって耐える。ミサイルは麻井達を追尾していた。


『気を付けてください、ボギー、もう一発撃ちました』回避機動中、掠れる声で内藤が言った。


「レーダーミサイルとIRミサイルだな」


 左急旋回のGに耐えながら声を漏らす。二段式の攻撃を行った敵機に対し、麻井と編隊を組む隅野二尉が反撃していた。双方のミサイルが空域を飛び交い、激しい空中戦となっている。


『見えた、四時方向!』


 内藤が叫んだ。キャノピーフレームのミラーにちらりと視線を向けると四時方向からミサイルがターンしながら迫っていた。まるで弾丸のような凄まじい勢いだ。


「チャフ!」


 チャフ弾を放って一気に右に操縦桿を切り返す。放たれたチャフ弾は破裂し、アルミが蒸着されたグラスファイバー片がまき散らされ、チャフ雲を形成する。接近していたミサイルはそのチャフ雲の中に飛び込んで近接信管を作動させて炸裂した。


 後方で爆発が起きる。だが、まだもう一発のミサイルが麻井機に迫っていた。


「もう一発はどこだ?」


『五時方向!』


 ミサイルは麻井機のすぐ後ろに迫っていた。


「ダイブするぞ!」


 内藤に言いながらフレアを放出しつつ、麻井は機首を海面に向けて位置エネルギーを速度エネルギーに変換して逃げる。速度は跳ね上がり、音速を越えた。しかし、放たれた大量のフレアの内側をミサイルが飛び抜け、真っ直ぐ接近してくる。


『まだついてくる!』


 キャノピーフレームに手を突いて背後を振り返った内藤が叫ぶ。海面が目の前に迫っていた。思わず唸り声を上げながら操縦桿を引いて機首を引き起こす。

 次の瞬間、爆発音と衝撃を感じた。


「どうなった?」


『回避に成功』


 ミサイルのシーカーがフレアに惑わされて追尾が遅れ、ミサイルは海面に突っ込んだ。


『アイク、スミノフ。ボギーワン・キル』


 隅野も敵機を撃墜した。敵艦隊防空戦闘機はもういない。麻井は対艦攻撃の成功を確信した。


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