act1-7
沖縄
与那国島
September 21.2021
特殊作戦群の偵察班は夜を待って動き出していた。班は二手に分かれ、霧島以下三名は島の北側、祖納地区と飛行場を、進藤以下三名は与那国駐屯地と久部良地区に向かう。
与那国島の祖納地区は夜になってもほとんど灯りは点かずに静まり返っていた。時折、空を飛び交う航空機の爆音や中国軍の警備部隊が巡回している以外は静かだ。
外出を禁じられ、どうやら灯火管制が敷かれているらしい。カーテンを閉め切って家の奥で眠れぬ夜を過ごしている。
だが、その指示に従わない住民も少なからずいるようだった。反抗的な態度こそ取らないものの、不満を溜め込んだ顔で中国軍の兵士に対面する住民の顔を物陰から霧島達は撮影した。銃を突き付けられながらも怯えることなく、立ち向かおうとしている。やがて話がまとまったのか、住民は家の中に消え、家の灯火が消された。
港と飛行場の間では多数の車輛が行き交っていた。資材が運び込まれているらしく、飛行場では煌々と光が照らされ、今も何らかの作業が行われているようだった。住民達の様子を撮影した。
巡回の車輛と徒歩警備部隊をかわし、前進する。飛行場に近づくにつれ、警備兵の数は増したが、闇夜に紛れて霧島達は潜入した。
軍事基地化の進む与那国飛行場を撮影する。地対空ミサイルが配備され、H‐6爆撃機に弾薬が補給される様子や輸送機から次々に装備が下ろされていく様子をはっきりと捉えることが出来た。
飛び立つ戦闘爆撃機が向かう方向は日本ではなく、台湾方面だった。台湾に対する攻撃のために離着陸する航空機の数は多数で、その合間に飛行場の拡張が着実に進められていた。
一方、進藤たちは島の南側に向かい、与那国駐屯地を偵察した。監視所のレーダー施設は対レーダーミサイルを受けて破壊されているが、直接攻撃を受けていない与那国駐屯地に目立った被害はない。しかし、駐屯地の外には攻撃されたPAC‐3迎撃ミサイルシステムの残骸が集積されていて、施設内には中国軍の戦闘車輛が並んでいる。中国軍の拠点となっている他、与那国駐屯地の自衛隊員達が捕虜となって収容されており、営庭には鉄条網と柵が張られ、その中にテントが並んでいて、隊員達はテントで寝泊まりをしているようだった。
この国を守るという志を同じくする仲間達があのような生活を余儀なくされていることに対し、進藤は怒りを覚えた。用を足すためには柵の外に出るようで、小銃を持った中国兵がそれに付き添っている。
彼らは仲間を失いながらも冷静に反撃の時を待っているに違いない。早く解放しなくてはならないという焦りと怒りを進藤は押さえ込みながら懸命に現状を正確に伝えることの出来得る証拠画像の撮影に勤めた。
東京市ヶ谷
防衛省中央指揮所
September 21.2021
沖縄の状況は時間を追うごとに悪化する一方だった。現地で諜報活動を行っている中央情報隊と特殊作戦群からなる特務班が傍受した通信を中継しており、その解析も進められている。
中央指揮所内の会議室で統合幕僚長である泉は、陸海空三軍のトップたちの議論を聞いていた。
陸自機甲科出身の泉は、中期防衛整備計画見直しにも関わって来た。三軍の統合運用を推し進める一方、大幅な増員と共に増強される陸自の改編にあっては、出身の機甲科部隊の削減も既定路線に沿って進めてきた。機甲科出身の統合幕僚長の下で機甲科部隊が再編されることを望んでいた機甲科部隊には落胆されたが、その一方で本州の戦車部隊を九州と北海道に集約するのではなく、その他の各方面隊にも一個戦車大隊を残し、将来戦車が必要となった場合の基盤を残す等、ダブルスタンダードを使い分けている。
沖縄の部隊の増強も推し進めており、第十五旅団唯一の機甲科部隊である第15偵察隊にも機動戦闘車を配備し、第十五旅団隷下の普通科連隊を整備しようとしていた矢先に南西有事が起きた形となった。
「偵察の眼は確実に出ているが、敵は日増しに増えるばかりだ。嘉手納基地も反撃しているが、部隊は消耗している。なんとかしなくては」
統合幕僚副長の堀江海将の言葉に海上幕僚長の岩島海将も頷いた。
「海上優勢の確保のために第二五任務部隊が沖縄に向かっていますが、まだ到着には時間がかかります。沖縄の陸自部隊を援護しないと」
第二護衛隊群と第五護衛隊群及びその艦載機、補給艦や潜水艦などから編成された機動艦隊は第二五任務部隊として運用されている。
「奄美空港に進出している支援戦闘機に近接航空支援を実施させるか?」
「まだ防衛出動が出ていない。武器使用はあくまで海上警備行動と国民保護等派遣の範疇で行わなくてはならない」
航空幕僚長の中之条空将の提案に泉は釘を差した。
泉自身、命令と現状の間で葛藤していた。
なんと曖昧な命令なのか。今は戦争をしているというのに、戦力に勝る敵相手にこちらはハンデ付きで戦わねばならない。現場ではもしかしたら必要のない血が流れているかもしれないというのに。
「ですが、統幕長……今も陸自は戦っています」
「そんなことは分かっている。だが、我々は皆、自衛官なんだ」
自衛官の命よりも優先されることは、確かにあるのだ。文民統制に従う自衛官は仲間の命よりも命令を優先しなくてはならないことがある。そんなジレンマを生むほどに旧軍の一部部隊は暴走したのだ。
「第13普通科連隊が奄美空港で命令を待っています」
藤枝が腰を上げて進言し、部下にモニターの表示を指示した。
大型ディスプレイに沖縄周辺の地図と展開部隊が表示される。奄美大島にはすでに多数の部隊が入り、SAMサイトや地対艦ミサイルの射程範囲を表す表示が加わっていた。
奄美空港で待機している部隊に、第十二旅団第13普通科連隊、同第12偵察大隊、同第12ヘリコプター隊の表示があった。
「これを沖縄に先遣部隊として投入。後方攪乱に当たらせます」
「制海権も制空権も確保されていない場所に部隊を送るのか。孤立無援のまま、嬲り殺しにされるぞ」
「第13普通科連隊は山岳戦を得意とする軽歩兵部隊です。北部演習場を使って潜入を。それに中部演習場には第3水陸機動連隊の一部部隊がまだ潜伏しています。中国軍に山林に潜入した部隊を掃討する能力はまだありません」
泉は顎に手を当てて考えていた。沖縄に展開する中国軍の戦力が嘉手納に集中するのは避けなくてはならない。だが、寡兵を分散配置したところで各個撃破される。旧軍がガダルカナル戦で犯した愚策だ。しかし山岳戦を得意とする精強な隊員達で構成された部隊がゲリラ戦を繰り広げることを前提とすれば部隊を一隊でも多く沖縄に展開させておき、じ後の奪回作戦をスムーズに進める手段としては有効だ。
「十二旅団の司令部と調整を。細部の作戦計画を詰める」
「分かりました。十二旅団長は統合作戦のためにすでに方面総監部にいます」
泉は防衛大を出て第七師団の戦車部隊に配置された当初は出世には興味が無かった。しかし自衛隊が自衛軍となり、大規模な改編を迎えるに当たって、自身の能力を生かしたいという思いから出世に邁進し、次に権限を増やしたいという思いから幹部から将官へと這い上がっていった男だった。一般隊員からすれば雲の上の存在になったが、決して椅子にふんぞり返っていることを夢見て出世した訳ではないと常日頃から思っていた。
「では、速やかに進めてくれ」
泉の指示で新たな作戦が動き始めた。その結果がどうなるにしろ、必要な行動だと泉は信じるしかなかった。




