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与那国島
与那国駐屯地
September 18.2021
与那国島に設けられた与那国駐屯地。この営庭には、南西方面航空隊第五高射群のPAC‐3迎撃ミサイルが展開していた。
中国海軍の攻撃は、西部方面情報隊与那国沿岸監視隊のレーダーサイトと、このPAC‐3への空爆から始まった。
PAC‐3を警備していた第51普通科連隊から派遣されていた一個小隊のうち数名が負傷したが、人的被害は幸いにも最少だった。しかし、通信設備も破壊され、電波妨害を受けているため、沖縄及び本土との通信は途絶していた。
沿岸監視隊警備小隊と第51普通科連隊から派遣されていた警戒隊の隊員達はこれから起こりうる最悪の事態を想定し、独自に行動を開始した。とはいえ、最大の火器は84mm無反動砲M3で、対戦車ミサイルも携帯型地対空ミサイルもない警備部隊にできることは限られていた。
沿岸監視隊は与那国島役場まで小型トラックで連絡幹部を前進させ、空港及び港周辺の住民に避難を呼びかけさせるとともに、衛星通信によって朝霞の陸上総隊に情報を送り続け、警備小隊は最大の港である久部良港まで前進した。
*
中国軍の揚陸部隊主力は沖縄方面に集中しており、与那国島には056型軽型護衛艦二隻が差し向けられた。
056型コルベット艦《上饒》の艦橋で艦長の温少校は双眼鏡で陸戦隊が上陸しようとする港を確認していた。久部良港は右手に見えている。このまま港を確認した後に小型戦闘上陸舟艇を下ろし、陸戦隊を送り込む予定だ。
先の空爆で破壊された日本軍のレーダーサイトと対空ミサイルから上がる黒煙が見える。住民は戦いの兆しを感じ取って港などの重要施設から離れようとしていて、車のヘッドライトがちらちらと見えた。
「対潜機、発艦します」
副長が報告し、Ka‐28対潜ヘリが後部飛行甲板から発艦した。同軸反転式ローターが特徴的なKa‐28対潜ヘリは上陸援護のために汎用機関銃を装備しているが、あくまで対潜ヘリであって専門のヘリではなかった。
この与那国島は容易に制圧できるだろうという判断だったが、艦長は油断していなかった。元々警察官が二人しかいなかった島だが、今では非戦闘職種が主体とはいえ、二百人弱の兵士が駐留している。
「対潜機より報告。港に敵影なし」
「よし。上陸艇を下ろせ」
《上饒》と僚艦である《吉安》は島の岸に対し、平行に進みながら艦後部扉から陸戦隊の兵士を載せた小型戦闘上陸用舟艇を一艇ずつ発進させた。
二艇の上陸艇が港へ向かう。
「警戒しろ。ただし流れ弾を市街地に出すなよ」
温は射撃管制卓の前に陣取る砲長にそう指示しながら、自らも双眼鏡で島を睨み続けた。ただでさえ国際社会から非難を受けることになる先制攻撃と侵略行為だ。いくら憎き日帝とはいえ、これ以上の非難材料を作って祖国を不利に陥れるわけにはいかないと思っていた。もっとも艦付き政治員や副長達は市街地にも構わず砲撃を加えるべきだと考えているようだが……
76mm単装速射砲の砲塔は港へと向けられ、30mm機関砲もまたいつでも撃てるよう、銃架右側の銃手席には銃手が配置についている。
港までの距離は一キロを割っていた。陸戦隊が上陸し、港を確保すればすぐさま接岸して陸戦隊を直接上陸させる。岸が近いと温は気持ちが落ち着かなかった。
黒煙の上がる島の住民たちは恐怖に震えるのか、先制攻撃に対し、怒りを燃やしているのか。温には分からなかった。
*
港及び人口密集地から離れた林の中に展開した警備小隊の指揮官である比嘉一尉は迷っていた。攻撃を受けている今、反撃しなければ与那国島は中国軍に瞬く間に占領されるだろう。だが、ここで限られた武器と弾薬しかない警備小隊が抵抗することで、与那国島で島民を巻き込んだ戦闘になりかねないという懸念があった。
比嘉は沖縄出身であり、他の隊員ももちろん住民の生命と財産が最優先だと考えていた。国と領土を守る義務と、その優先すべき住民の生命は天秤にかけられなかった。
「小隊長、指示を……」
小隊陸曹の島袋曹長がドーランを塗った顔を突き出して決断を迫る。島袋は西部方面隊対馬警備隊に所属していた経験を持っている。レンジャー隊員であり、ゲリラ戦のプロだ。
Ka‐28は港上空に差し掛かろうとしている。キャビンドアを開けて機関銃を構えた兵士が地上を見下ろしていた。
「……敵艦が射程に入り次第、攻撃を始めろ」
「了解」
島袋は下がったが、その決断の重みに比嘉は胃が痛むのを感じた。港の上空で旋回するKa‐28が高度を下げ、敵のコルベットが射程に入った。
「砲手、目標は船だ。外すなよ。砲塔と艦橋を狙え。小銃、機関銃はヘリだ。各員、射距離を合わせろ。射撃用意」
各配置場所に散った各班の班長が応答する。
「撃て!」
島袋の号令と共に小銃班の5.56mm機関銃ミニミ四挺と十数挺の小銃が一斉にKa‐28に5.56mm弾を浴びせた。さらに島に持ち込まれた二輛の軽装甲機動車の機関銃を下ろしており、7.62mm機関銃Mk3二挺もまた弾幕を張る。
低空を飛んでいたKa‐28対潜ヘリは激しい銃撃に晒され、パイロット、コ・パイロット共に負傷し、操縦不能に陥った。それでもパイロットは何とか機体をオートローテーション降下させ、機体を海面に不時着させた。
海上に不時着したKa‐28は波を切り裂くようにローターを海面に叩きつけながら瞬く間に傾き、沈んでいった。
続いてほぼ同時に84mm無反動砲M3が強烈な後方爆風を噴き上げながら対戦車榴弾を発射した。
84mm無反動砲はスウェーデン製だが日本でライセンス生産され、口径からハチヨンと呼ばれる傑作対戦車無反動砲だ。対戦車榴弾だけでなく、多目的榴弾や発煙弾、照明弾も発射できる多様性があり、持ち運びの難儀さを補ってあまりある働きをする。高価で複雑な、車輛相手にしか使用できない対戦車誘導弾より、よほど隊員達からは評判が良い。さらにこのM3は当初配備されていたM2よりも軽量化されている。
発射された三発のうち、二発がコルベットを直撃、うち一発が76mm砲の砲塔に命中した。不意打ちを受ける形で被弾した056型コルベット《吉安》の艦橋は混乱に陥った。
「ヘリが撃ち落されたぞ」
「攻撃を受けた、右舷被弾!火災発生!」
「反撃しろ!」
しかし30mm機関砲の銃手は発射地点をまだ特定していなかった。林の限界まで出ていた陸上自衛軍の擲弾手が続いて66mm個人携帯対戦車弾を発射する。
66mm個人携帯対戦車弾は、部隊ではLAWと呼ばれている。M72E8軽量対戦車火器をライセンス生産したもので、110mm個人携帯対戦車弾のサイズと重量が大きな負担になることから、空挺部隊や山岳部隊などのレンジャーや偵察部隊向けに調達されている。
使い捨ての対戦車ロケット弾である66mm個人携帯対戦車弾は四発が発射され、うち一発が混乱に陥る《吉安》の艦橋を直撃した。
目の前で僚艦の《吉安》が被弾するのを目の当たりにした《上饒》艦橋の乗員達は一瞬、茫然となった。
「何をしている、反撃しろ。敵の火点に機関砲を撃ち込め!」
温が怒鳴りつけ、砲長がようやく我に返った。
「射撃開始!敵火点に火力集中」
「何をしているか!早く艦を岸から離させろ!」
政治員が温に向かって叫んだ。
「しかし、上陸部隊がこのままでは攻撃を受けます!」
「あれは個人携帯の対戦車火器だ!一キロ以上離れれば攻撃を受けない、早く回頭しろ」
政治員の声を聞き、温は歯がみした。
「取舵一杯!両舷最大船速」
艦首を左に振って離脱を開始する。
「第二目標、離脱を開始!」
「続けて撃て!」
三門しかない84mm無反動砲の弾薬手は直ちに対戦車榴弾を装填し、砲手の肩を叩いた。他の隊員達はすでに陣地変換を開始し、離脱を始めていた。
再び84mm無反動砲が発射されたが、砲弾はコルベットの艦尾のヘリコプター格納庫を直撃しただけで、大きな打撃を与えることは出来なかった。
「撤収!」
敵が上陸援護の艦砲射撃を開始すればひとたまりもない。さらに上陸用舟艇が港へと到着していた。
陣地変換していた小銃班がそれを迎え撃つ。機関銃による銃撃を受けた陸戦隊も応戦して射撃するが、小銃班は一斉射するのみにとどめて後退した。上陸を果たした陸戦隊はもう一機のZ‐9哨戒ヘリに上空援護を要請すると、自衛軍の牽制に動じずに市街地へと前進を開始した。




