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1話 お決まりなんてなかった

うっ…ここは…どこだ?…そういえば俺事故って…体はどうなってるんだ?


うおっ髪!邪魔!


払いのけたと同時に自分の手が映る。


小っちゃ、え?


思わず後頭部を掻くと自分のボサボサでガッチガチの髪の毛でなくふわふわでサラサラな何かに触れた。


何かおかしいぞ…?


焦って首うらにも広がるそれを眼前に手繰り寄せる。


…金、髪…?


…え?


そっそうだ!カツラだ!カツラだよ!なんだよ焦らせやがって…


ぐいっ、ぐいっと引っ張る。


いてっ


自分の毛根が悲鳴を上げるばかりであった。


痛みに顔をあげると…


……どこだ?ここ。式場、か?


どこか厳かな雰囲気だけは感じ取れたが意味もわからずなんだろうと思い周りを見渡していると看板が目に映った。


『バルテロ教会』


教会、か


やはり教会は厳かなものだなと考えていたら、見知らぬ誰かが声をかけてきた。


「オルト。リュウカ。準備、終わったから行きましょう?あら、寝ていたの?」


「「うわっ!えっ!?」」


呑気とは言え混乱状態の俺は驚き隣の人と被るように声を上げた。


なんとも間抜けな声であった。


「!...そう。寝ていたのね。ついて来なさい。家に戻るわ」


次の瞬間には話しかけてきた女は教会の扉...出口から外へと歩き始めていたので、訳も分からないまま隣の人、俺より少し目線の高い少年の方を見ると目が合った。


とりあえず付いていくことを決めた俺たちは言葉を交わさずに互いに頷くと、女の後を追い始めた。


歩いているうちにやっと混乱状態が薄らいできたのか、じわじわと自分の置かれている状況に疑問が湧いてきた。


…女...になったのか...それもまだ幼い...


股間が何とも言えない感覚に陥っている。なんというか...寂しい...?あるいは涼しい...?


…それよりも浮かぶ最大の疑問がある。


これはどういった状態なんだ?


夢...なのか...?


居酒屋の、あのときの車と衝突した痛みの鮮明さは夢ではないことだけは分かる。


となると…転生とか?はは…まさかな…はは…あー…


これマジなやつ?マジなやつじゃないこれ?え?マジか!え!?うっそマジで!?せめて来週のアニメの最終回見てからが良かったわ!でもいいや!


鼻から荒い息をふんすと吹き出し、頬を紅潮させ周囲を見渡す。


あぁ、転生と分かった途端に世界が輝いて見える。


木漏れ日でちらつく光が俺を照らすイルミネーションのように感じる。


道外れに生い茂る雑草が俺を導くレッドカーペットであると主張する。


あぁ、なんて美しいんだ。空気すら極上の味がして—―


うわっ、虫柱...


一気に現実に引き戻された。


ただの木漏れ日だし、ただの雑草だ。


「なぁ、ちょっといいかい?」


完全に自分の世界に入っていたため、俺はびくっ、と肩を跳ねさせた。


「ど…どうかしましたか?」


「今から何するか…分かる?」


「…さぁ?」


「そうだよね。ごめんね?急に」


いきなりなんだこいつ


状況から察するに前で歩いているのが母親で隣を歩いているのが兄のようだが...


なんて思いながら兄をただぼんやりと眺めていると、手を顎に触れさせて模索模索…と呟いている。


この普通じゃない行動をする人間が先輩のほかにいたのか...


…先輩なのではないか?転生したのは俺だけだとは限らない。


それに、先のあの声の重なり方。妙に引っかかていた。


だ、が、だ


確かめるすべはないに等しい。


「あなた転生者なんですね」なんて本人に直接聞いてみろ


違ったら変な空気になるじゃないか。変人の烙印を押されるぞ。


…別にいいか。変人認定されたところで、それだけだ。


うし、聞こ。


「先輩今日飲み行かないすか?」


俺は兄にしか聞き取れない声量で話しかけた。


「あぁ、いいよ。駅前のあそこでいいよね。ってあれ?」


どうやら正しかったようだ。


「先輩、お疲れ様です。桐生です」


兄もとい先輩は硬直して少しの間何かを考えているようだった。


「…驚いた。まさかそんな偶然あるんだね!」


驚いた?…なんだか驚いたのとはまた違う反応に思えたのだが…先輩の新しい一面垣間見たやつかな?


「先輩も子供に生まれ変わったんですね…」


「ああ、どうやらそうみたいだね」


「…やっぱり俺たちはあそこで死んで…」


「「…」」


2人の間に重い空気が漂い、互いの体にずっしりとのしかかる。


無理もない。何せ自分自身が死んだのだから…まだ現状を理解しきれないし、理解する脳が途中で止まっているような気もする。


そんな陰鬱な空気を目の前にずっと見えるものが否応なしに邪魔をする。


「髪邪魔だな...」


髪を分けてもすぐに目に被さるように落ちてくる。サラサラヘアーの弊害だ。


「桐生、髪の毛邪魔じゃないか?」


「先輩こそ、目が見えませんよ」


先輩も俺と同じような前髪の長さで、鼻下まで伸びるその前髪は明らかに視界の殆どを阻害している。


もしこれが子供間で流通するファッションだというのなら、苦言を呈したいものだ。


「それにしても…ここ最近に嵐でもあったのかな?」


先輩が見るその対象は土を平坦に舗装した道で、所々の木が薙ぎ倒されており、地面には回転によるものか、渦巻き状のクレーターが伺える。


「ここ異世界ですし、魔物との戦闘とかじゃ無いですかね」


「なるほど、あり得るね」




先輩と未知の世界にキャッキャキャッキャして暫く歩いた頃、母親はピタッと立ち止まり我が家と思われるこの家に入って行った。この間母は終始無言であった。


「……あなたたちには前々から言ってるけど改めて年の境ということで言わせてもらうわ」


母親の出す緊張感に俺たちは息をのんだ。


「うちの家系は13歳で自立することになっているの。これからは全部自分で何とかしなさい」


振り返った母親の顔こそ見れど目が合わない。


「部屋は使い続けて構わないけれど、1階の部屋には入らないこと。お金も私が出したものに関してはこれからは全部あなたたちの借金になる」


言うことを全て言い尽くしたのか「以上よ」という言葉と共に母親は扉の向こうへと消えていった。


…家ルールの極み。ここに見参!といったところか。


「なんだそれは...!やりすぎだ!そんな向き合い方が在っていい筈がない...!」


先輩は母親の通った扉の方向に怒りを露わにしている。


今の俺たちにとって親とかかわらなくて済む都合のいいルールであるため俺はそこまで気にもならないが、子を持つ先輩にとってはそりゃ怒りたくもなる内容だろう。


少し先輩に共感した。


このまま何も知らない状態は良くないと思い、町の散策を先輩に提案した。


それに了承した先輩と俺は道中に見つけた本屋らしきところへ向かうことにした。


理由は2つ


1つはこの世界の文字がどうなってるのか知りたいから。2つ目は……



ないな…


まあいいか


漢字とカタカナがあったことからほぼほぼ日本語と同じとみていいが、一応確認しておきたい。


本屋につ...看板に図書館って書いてる...図書館に着き、目に映った本を手に取りページを開いてみたら—―


だめだ。読めん。


その規則的に並ぶ文字は漢字が使われていることから日本語と同じ文法とほぼ断定できるがひらがなにあたる部分に別の言語と思われる文字が並んでいる。


ひらがなだけが置き換わっている文に気持ち悪さを覚えた俺は本をそっと閉じた。


「ひらがなだけ違うの逆に気持ち悪いですね」


俺はそう涙目になりながら先輩に近づくと、先輩はキョトンとした顔で俺を見た。


「え?」


「え?」


少しの静寂が訪れる。


「...あぁ、僕は転生特典でこっちの世界の言葉が分かるような能力をもらってたんだよ。確かそう言ってたな」


「そうなんですね」


最後の言葉が引っかかる。『言っていた』...?


先輩の言葉通りに受け取ると、先輩は誰かから能力を貰ったということになる。


俺はアニメなどで見る俗に言う神を連想した。


先輩は神と出会い能力を貰い、対して俺は何もなく突然この世界に飛ばされた。と


対応の差がひどい...


俺がしょぼくれていると、先輩は急に肩をビクつかせた。


「どうしました?」


「あ...いや、この本魔法について書かれていて、驚いちゃってね」


?先輩はずっと俺の方を見ていたような気がするが...


先輩が話し始めたため、些細な問題かと俺はすぐに違和感を忘れた。


「どうやら、この本は初学のための内容が書かれているみたいだ。なるべく自然に囲まれた状態で始めた方がいいらしいから、幸いここは図書館だしこの本を借りて自然が多いところを探しに行こうか」


了承した俺と先輩は図書カードを発行されてから本を借り自然を探しに散策を再開した。




再開して間もなく、妙に目立つ建物を見つけた。

そいつは他の建物に比べ特別大きく、なんとも立派であった。


そしていかにも冒険者のような風貌の人たちが入り口を潜って行ったため、おそらくここはギルド…


ギルド!?


これは…あついぞ…!


俺は何も考えずに意気揚々と扉を開け、中へ入った。


!!!


…?


なんか...きれいだな...?


男臭というものを想像していただけに若干のギャップを感じたが、建物の半分を占める飲食店…まぁ酒場であろうところに男性複数人が顔を赤らめながら談笑していた。


そうそうこういうのだよ。朝から男同士で酒を飲むというものを俺は想像していたのだ。


てか朝っぱらから酒飲むなよな。

まったく…


まぁ、そのだらしなさこそが冒険者を体現していていいんだがな。


「おはようございます〜、何かお探しですか?」


酒場の空気に呆然としていると不意に声をかけられた。


彼女はメガネをかけていて髪型はショートボブ。もはやテンプレになりつつある受付嬢のイメージをそのまま持ってきたような格好をしていた。


「あの、ここはいったい…」


まだギルドとは決めきれないと思っていたから、この人に聞くことに決めた。


「あら初めて来られたのですね!歓迎いたします、ここは依頼・求人役所と交換所、食堂を受け持つ国立ギルドとなっております」


やはりここはギルドで正解のようだ。


が、酒場ではなく食堂のようで、よく見ると子供連れの家族が食事を取っている姿がちらほらどころかかなり覗えた。


「それでよ...昨日彼女と手ぇ繋いじまってよ...」


「まじかよ!やるなぁ!」


嘘だろ!!?


酒を飲み談笑していると思っていたグループは恋バナをしていて—―


頬赤らめるって...そっちかよ!?


しかもよく見たらティーカップで紅茶のようなものを飲んでいる...


…なんか。がっかりだな。


名前をギルドから市役所に改名してほしいぐらいにはがっかりしている。


市役所という名前なら...


とても...しっくりくるな。


ギルドのギャップはほどほどに、俺は先ほど聞いたギルド内の施設について思い出す。


依頼・求人…は今はいいとして、交換所とはなんだろうか。気になる。


「交換所…ですか?」


「はい、冒険者が収取したものをカマネと交換する場所です。当ギルドは交換所の中にある、あるものを1番の強みとして謳っているんですよ」


「そうなんですね」


カマネって何ですか?


「そうなんですよ。ちなみにそれは鑑定なんですけど…」


自分で言うんかい。


「今誰もいないので鑑定…してみませんか?」


受付人は目をぎらつかせ目線を合わせるように屈みながらそう提案する。


この受付人は集客に躍起になっているようだ。ノルマでもあるのかね。


「…ちょっと興味あるかも…」


「ではやっちゃいましょう!ダナの部屋でやりましょう」


「ダ…ナ…?」


ダナってなんだ?ギルド専門用語?


「あぁ、ダナというのは...実際見たほうがいいかもしれませんね。とりあえずついてきてください!」


扉がいくつかある部屋の前につくと、思い出したかのように受付嬢がこちらに振り向いた。


「忘れていました。今は職員不足で鑑定部屋に誰もいないんでした!というわけで私が担当しますのでお客様のどちらが先に鑑定なされますか?」


どうやら鑑定部屋なるもので鑑定し、かつそこには一人しか入れないらしいので俺たちはじゃんけんをし、勝った先輩が先に部屋に入っていった。




残った俺は暇なのでギルド内を見て回ることにした。


とはいっても大部分は食堂で、特別目に映るもので言ったら職業掲示板と依頼掲示板、それに地図ぐらいであり、俺は地図を見ることにした。


どうやら地図によると、この町は中心に大きな広場があり、そこから16方向に大通りが続き、それを基準に住宅が立ち並んでいるようだ。


地図を見るに中心付近の道は石造りなのか道の色が灰色であった。


それに町の外には魔樹海と書いてある森がある。


先輩の言っていた自然が多いところはこの魔樹海という場所がよさそうだな。



ほかの場所を見ようとすると、鑑定が終了したのか先輩が声をかけてきたので次に俺もギルドの建物の入り口から見て右側の1番奥の部屋に案内され、席に通された。


受付嬢が部屋の真ん中にある机の中からゴソゴソと重量感のある石板を取り出す。


鑑定とか交換はこの個室でやるのか…人に見られたり聞かれたりしないし結構いいシステムだな。


「ダナというのはこの鑑定板の階級の事です。鑑定板は冒険者によってもたらされるのですが、ものによって質がまちまちでしてね。要はその質を指しているわけなのです!」


へぇ、そうなのか。


「では、唾液をこちらに垂らしてもらって…」


「ちょっ!待ってくださいよ!絵面!絵面最悪ですよ!?」


「はは、ご冗談ですよ〜ご冗談…やってくれれば幸いなんですけどね…」


んん?今なんか聞いちゃいけない事を聞いたような…うわぁ...この人今すげぇやべぇ顔してる。


やっぱり知らない大人についていっちゃいけないって本当だったんだなぁ。


「ではこちらに足を置いてください」


うーん独特。手とか顔とかで計るもんだと思っていたよ。


彼女は石版を少し高い台に置き、そこに俺は片足を置いた。


…なんか下から邪な視線を感じ下…もとい彼女をちらりと覗き込むと。


じー…だらー…


ヨダレを少し垂らしてスカートの隙間を覗き込んでいる…


うわぁきもちわりぃ


異世界の受付嬢は清楚だって信じていたのに!


ピピピ,ピッコリピッコリコリコリコリーン


え?今のが終わりの合図?終わりの合図聞きづらいな〜。なんで?


「はっ!終わりましたね。こちらが鑑定結果となります」


彼女は俺に石板の下から敷いていたであろう紙を取り出した。


鑑定…


俺にどんな力があるのだろうか。


わくわく

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