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監禁

 田所の電話の相手は御手洗正憲だった。正憲は自分の執務室のデスクに座り、電話の受話器を耳にあてて田所所長と通話していた。

「二年という時間が私にあるか、それすらわからない。余命半年と言われてからすでに二年が過ぎた。もう二年間生きていられるのかもしれないし、ダメなのかもしれない……そう考えるといまある吟のデュープに私の脳を移植するのがもっとも手っ取り早いんだが……拒絶反応は百パーセントまちがいないのか? そうか……私のデュープの件と、遺伝子情報を書き換えた吟のデュープの両方とも進めておいてくれ」

 正憲が電話の受話器を下ろし、椅子に座ったまま天井を仰ぎ、ため息をついた。


※    ※    ※


 田所の電話を盗み聞きした山形と木下の二人は、地下の廊下を歩いていた。

「救世主ベビーってなんだ?」

 木下には田所が言っていた言葉が引っかかっていた。

「臓器を移植するとき、問題になるのが、HLAの相性だ。HLAというのはHuman Levkocyte Antigen ヒト白血球抗原の略で、このHLAにはいくつかの型があって、この型が違うと移植した臓器を異物とみなして免疫器官が攻撃してしまう。このHLAは親子でも違っている。さっきの話だと、亡くなった吟常務はなにかの病気にかかって移植が必要だったけど、父親の正憲社長も母親もそのHLAが異なっていて移植することができなかった。そこで父親の精子と母親の卵子を使って人工授精をし、できた子供の遺伝子情報を調べてHLA型の一致した子供だけを誕生させ、生まれた子供から病気の子供に移植する。そのとき人工授精で生まれ、HLA型の一致した移植可能な子供を救世主ベビーとかデザイナーベビーって言うんだ」

「HLA型が一致するのってむずかしいのか?」

「親子でも四人に一人っていうからどうだろう……」

 木下が続けた。

「吟さんは亡くなったあの常務だろう? じゃあ救世主ベビーは、事故にあったあの人か?」

「たぶんそうだろう。御手洗肇さんのことだろう。事故のときにデュープに脳移植したあの人だ。この間、会ってデュープの話をしたときにずいぶんとショックだったようだ」

「それはそうだろう、自分がデュープだなんてそんなわけのわからないものだったなんて……しかも自分で頼んだわけでもないのに。その人は救世主ベビーとして生まれて、いまはデュープか……数奇な運命といえば運命だな……」

「そうだなぁ。助けてあげたい気持ちもあるけど、この監禁状態じゃあどうしようもない」

 木下も繰り返した。

「そうだなぁ」

 廊下の端にまで来ていた。木下が頑丈にロックされたドアを見た。

 この地下室は階段では行き来できず、エレベーターでしか階を移動できなかった。とくに地下二階のセキュリティは厳重で、山形と木下の権限では地下二階を出ることができなかった。ある種の監禁状態だった。


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