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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
魔法学園編

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78作目 垣間見える

昼休みを終え、教室に向かうとそこはもぬけの殻だった。授業までもう少しのはずだが、なぜだ?自席に戻り、少しの間空を眺めた。よく晴れた午後の綺麗な空だ、だれもいない教室はやや不気味だが、天気はいい。春は良い、恵みの季節だ。

誰もいない教室という現実に焦る自分と、記憶に耽り少しの休息を得ようとする自分がいる。そうしていると扉が勢いよく開き、息を切らしたリオネルが出てくる。


「はぁ…はぁ…よかった、ここにいた…」

「リオネル・ヴァンダール…さん?クラスメイトはどこにいったんだ?」

「リオネルでいいよ、実技の授業は現地集合だよ。君がいないから心配して探してたんだ」

「そうだったか?そんな話聞いてなかった気がするが」

「言ってたよ、とにかく早く行こう。準備は出来てる?」

「もちろんだ、すまん」


どこかで話を聞き漏らしたか、こういう詰めの甘さが俺にはあるな。気をつけなければならん。


「新しい生活って色々慣れないもんね、でもなんもなくて良かったよ」

「そうだな、リオネルは慣れているのか?」

「まぁー、学校生活自体は慣れているかな。というより決まったスケジュール通りに動く生活ってやつにかな」

「そうか、凄いな」

「そんなことないよ、姉さんはもっとすごい」


姉、生徒会長のことか。そういえば苗字が一緒だったな。


「姉さんがいるんだな、いいじゃないか。姉弟というのは良い」

「それには同意するよ、ただ姉が偉大すぎるというのは結構ね」


そう言ったリオネルに聞き返そうとしたが既に目的地には辿り着いていた。他の教室と比べかなり大きく重厚な扉をリオネルが開き、中から光が漏れる。外はまだ昼だと言うのに陽光を大きく上回る光が俺の目を刺激した。


「初日から遅刻か?バル」


実技室の中央で大きく腕を組んだ教師がそう言いながら俺を睨みつけた。


「すまなかった」

「すまなかった?すいませんだろ、言葉に気をつけろ。お前一人で進行が遅れているんだ」

「あぁ、すいません」


空返事を返し、室内を見回す。室内には俺たちAクラスの他に、メイとその他見慣れない数人が立っていた。全員が全員強者の圧を放っている訳では無いが、それでも一目で特待と分かるほどには目立っていた。

そしてその中でも一際目立つ、圧倒的強者の圧がふたつ。ひとりはメイの近くにいる銀髪、武器は持っていないがそれでも全身が危険信号を鳴らしている。事前に聞いていた話と擦り合わせてようやく分かった、聖女は危険だ。黒い男(バルバトス)が従えていたあの骸骨の王ですら、負けてしまうかもしれない。

そしてその隣にいる、あいつだ。

全ての元凶、悪虐非道の限りとその権化。

勇者の顔を1年ぶりに見た、あのとき姉さんを殺した顔ではなく家に招き入れた直前の人の皮を被った顔で平然と立っていた。俺と同じ黒髪が揺れる度、殺意が湧いた。その隠しきれない濁った目に反吐が出た。全身の血が沸騰したような感覚と、激しく脈打つ心臓で周りの音は消えていった。今すぐに殺してやりたい、その首筋に刃を突き立ててやりたい、姉が受けた苦しみを何十、何百倍にして返してやりたい。腸が煮えくり返るほどの怒りが体を巡る血液によって全身に迸った。殺す、あいつだけはなにがあっても必ず殺す。

その直後、アストラがじっとこっちを見ている気がした。


「バルが暴れたらそのときはオレが止めるよ」


反響するその台詞には聞き覚えがあった、いつか焚き火の元で交わした約束。目蓋を擦り、もう一度見るとそれはアストラではなくメイだったが幻覚に冷静にさせられたことは事実だ。

徐々に熱が冷めていく感覚になる。

俺が今、ここで勇者に突撃するのは簡単だ。この身に迸る灼熱に絆されて異能を使えばどれほど楽だろうか。だがそれでは姉の無念は晴らせない、俺を信じて送り出した"墓標"のみんなを裏切ってしまう、またくるいつかを信じて旅立ったアストラに顔を合わせることもなくなってしまう。それは今煮えたぎる怒りの感情を抑えることよりも何倍も辛いことだ、苦しいことだ。奥歯を噛み締め、拳を握り締めてゆっくりと視線を外す。

今俺が見た勇者は相変わらず酷く間抜けな顔をしていた。だがそれでも、その身に宿す力は規格外だ。アレンやラーマを優に超える、ドラゴンだってあいつの手にかかれば何千体と現れても脅威になり得ないだろう。間違いなく"最強"、どこから攻撃しても、どのタイミングで攻撃しても全て意味のない行為だと確信する。分からない、と形容するしかない程彼我の差は歴然だった。そうだ、俺は何のためにここに来たのかきちんと心に留める必要がある。事前のシュミレーションをしたのにこれだ、俺はつくづく浅い人間だ。


「全員揃ったことだし実技の授業に入る。といっても特待の連中は規格外すぎて枠に収めることはできん。故に初回はお前たちAクラスの人間と手合わせしてもらう」


教師の言うその台詞にAクラスの連中は俺含め耳を疑った。前後の文脈が滅茶苦茶だ、途中まで言っていたことと結論が違いすぎる。見かねたリオネルが挙手し、教師に意見する。


「アルベルト先生、きちんと説明してください」


アルベルトと呼ばれた教師は頭を掻きながらもう一度説明する。


「お前たちAクラスには天井の強さを、特待クラスのやつらには規格外以外の力の使い方を学んでもらう。今日はその擦り合わせだ」

「分かりました、ありがとうございます」

「組み分けはこちらで決めてある。特待の連中には色々細工してあるから死ぬ心配はない、授業だしな」

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