軀方さんは今日も距離感がおかしい!
―――あれから一週間。
軀方魑瑠は、完全に〝学園の中心〟なっていた。
歩けば視線が刺さる。
靴箱は毎日パンパン。
ラブレター、挑戦状、謎の呪い文書。
そして当の本人は。
「唯一君、今日もいっぱい入ってたの」
にこ、っと笑って、机にどさっと封筒を広げる。
「相変わらずすごいですね……」
「全部読むの、ちょっと大変で」
パラパラと覗く。
『付き合ってください』
『断ったら後悔させる』
『七人に同じ手紙を送らないと呪われます』
最後のやつはチェーンメールか何かだろうか。
……ちなみに。
これは軀方さんに言ってないけど。
僕の靴箱にも、最近増えている。
赤ペンで物騒なことが書かれた封筒が。
軀方さんの隣にいる―――それだけで、感情の矛先が向く。
背中にじっとりとした視線。
慣れた、とは思う。
けどたぶん普通じゃない。
「放課後に校舎裏で待ってます、だって」
軀方さんが、何気なく言った。
「……え?」
変な声が出た。
「えっとね、手紙の内容」
「ああ……なるほど」
「どうして放課後なんだろう?決闘?」
「告白だと思います」
「そうなの?いつでも良さそうだけど」
噛み合ってるようで、微妙にズレている会話。
僕たちは、そっち方面の経験値がゼロだ。
「行くんですか?」
「うーん……行かないかな」
胸の奥が、少しだけ軽くなる。
別に深い意味は無い。
軀方さんが無自覚に誰かを斬らずに済む、それだけだ。
「今は唯一君と一緒にいるのが一番楽しいし」
「そ、そうですか」
落ち着けい、僕。
これはいつもの天然発言だ。
深読みするな。
《急激な体温上昇を感知。唯一君、ピンチ?》
イヤーカフからミゴちゃんの声。
「だ、大丈夫だから!」
《そっか。無理しないでね》
逆に意識してしまい、心臓がうるさい。
深呼吸だ。
冷静に。
「どうしたの、唯一君?」
顔を上げる。
紫の瞳が、至近距離。
近い、近すぎる。
「な、何でもないです!」
「お熱でもある?」
「平熱です!すごく平熱!あと、近いです!」
「あ、ごめんね」
元の席に戻る軀方さん。
同時に、教室の空気が一段重くなる。
殺気、増量中。
ミルクティーを一口。
落ち着け、僕。
そのときだった。
「このご時世で手紙とは、古いな」
低い声。
見上げる。
でかい。
軀方さんより一回り大きい。
不良然とした男子生徒。
黒と金の混じった髪。
だらしなく開いたブレザー。
「男なら直だろ、直!」
封筒を机に放り、獣みたいに笑う。
「あの、どなたですか?」
「は?覚えてねえのかよ」
ああ、なるほど。
軀方さんが忘れているだけだ。
「特待生の集会で会っただろ。杷生笨だ」
その名前。
気をつけろと言われていた不良。
間に入ろうとした瞬間―――
「ぐっ!」
肘が、頭に乗った。
軽く置かれただけなのに、重い。
「なぁ、俺と付き合えよ、軀方」
直球過ぎる。
「いやです」
即答だった。
「なんでだよ。俺、結構モテるんだけど」
廊下の向こうで、女子たちがざわつく。
見た目だけなら、確かに人気はありそうだ。
「だって、一緒に居ても楽しそうじゃないですし」
バッサリ。
「イヤでも楽しませてやるよ。色々とな」
言い方がアウト。
「意味が分からないけど、唯一君と居た方が楽しいのでお断りです」
「唯一?学園最弱の?」
「今も、あなたが来るまでは楽しかったです」
空気が冷える。
「どこだよ、その唯一」
「……僕です」
肘を払う。
「チビすぎて肘置きかと思ったわ」
ニヤける杷生。
「あまり唯一君を馬鹿にしないでください!」
軀方さんの声が、ほんの少し低くなる。
「勝負です!」
「は?」
「勝ったら、デートだけじゃなくここでほっぺにチューしてあげます!」
「えっ⁉」
僕の脳が処理を拒否する。
「そっちが負けたら一晩―――」
「代わりに勝ったら、唯一君を馬鹿にしないって約束して下さい」
視線がぶつかる。
空気が張り詰める。
次の瞬間。
軀方さんは僕の背後に回り、背中を押した。
「ということで、唯一君。やっちゃって」
「えええええええええっ⁉」
目の前には臨戦態勢の杷生。
背後には、疑いのない信頼。
目立ちたくはない。
できれば穏便に帰りたい。
でも。
彼女が、僕を選んだ。
静かに息を吸った。
指先が、懐中時計―――時の解明者に触れた。
さあ。
〝最弱〟の時間だ。
また投稿が遅くなりすみません。
でも、それこそまたこうして投稿出来ました。
お待ちいただきありがとうございます。
それでは、今回も皆様の暇つぶし程度になってましたら、幸いです。




