第3章 3-04
現場に戻ったところ、エヌミー刑事のパトカーだけが現場に残されていた。しかしそこには誰もいなかった。
次に、オヨー刑事と私(イヒロ刑事)は200メートル先の雑貨屋に行き、店長に事情を聴いたが「誰も来ていない」ということだった。
「これはまずいですよ、オヨー刑事。二人は誘拐されたのではないでしょうか」
「誘拐!って、何だい?」
「本人の意思とは無関係に、脅迫や実力行使によってその身柄を一定の場所に軟禁、あるいは身体の自由を奪って監禁することです。今回であれば、二人を連れ去った、ということです」
「何だって!そんなのは犯罪以外の何ものでもないじゃないか」
「ええ、犯罪です」
「イヒロ刑事、それはありえないのでは。相手は警官だぞ、しかも、あのイリカ警部補だよ」
「普通に考えるとそうです。私もそのあたりがどうにも腑に落ちなくて。とにかく、この第3コロニーの管制局に問い合わせてみてください」
「わ、わかった」
オヨー刑事が無線で管制局に問い合わせると、L1所属の車両が15分ほど前に出航していたと回答があった。乗員は5名だったそうだ。これは誘拐で確定だろう。
「ど、どうしよう、イヒロ刑事」
「落ち着いてください、オヨー刑事。二人の身の安全なら大丈夫です。危害を加えるつもりなら連れ去ったりはしないはずですから」
「そ、そうか、それもそうだね」
すみません嘘です。本当はその可能性もあります。しかし、この世界の人たちでは……さすがにないな。最初からやるつもりだったら、おとなしくエヌミー刑事の指示に従ってなどいなかっただろう。何より、エヌミー刑事一人のときを狙って犯行に及んだはずだ。何らかの突発的な事が発生したのだろう、おそらく。
「はい。ですから一度、本署に戻りましょう。犯人側から要求があるはずです」
私とオヨー刑事は本署に戻った。ルキオ署長に状況を報告した。
署長は動転した。
「ど、ど、どうしよう、イヒロ君!」
「署長、落ち着いてください。当面二人の身の安全は大丈夫です。とにかくまずは、対策本部を設置することですよ」
「対策本部!って何?」
「えっとですね。対策本部とは非常時の組織です。会議室に人を集め、情報集約と指揮命令を一本化します。対策本部長は署長です。つまり、本署の総力を挙げて事態に対処する、という意味です」
「な、なるほど。分かったよ、イヒロ君!」
「では、署長了解でしたら、さっそく、館内放送で署員を集めていただけますか?」
「なるほど、そうか。まずは人を集めないとね、うん。あー、それでその、何て言って放送すればいいだろうか」
「えっと。では、代わりに私が放送しましょうか、署長」
「それは助かるよ、頼んだよ」
「(アナウンス音。あー、テステス)全署員に告ぐ。非常事態が発生した。通常業務を中止し、直ちに会議室に参集せよ。繰り返す……」
まだ放送の途中だったが、署員が皆、必死の形相で会議室に集まってきた。皆、息も絶え絶えで、少しでも遅れたら殺される、とでもいう様子だった。
あれ? 放送の口調が怖かった、ってこと? あー、これは申し訳ないことをしたかな。まあ、非常時なんで勘弁してもらおう。参集が早いのは、正直なところありがたい。
ブリーフィングを行い、適当に役割を押し付けた。少しは皆、落ち着いたようだ。
とにかく、まずは通信体制だ。何とか形は整った。
この世界の人々はもともと受動的で物静かではあるが、物事の理解は早いし、順応性もある。時間が経つにつれ、各自、徐々に能動的に動き始めた。
本部長は、私を本部長補佐役に任命した。私に言われてではなく、自発的にだ。これには内心、驚いた。なるほど、署長という肩書は伊達ではない、ということか。
これならば、作戦行動を開始しても大丈夫だろう。
「本部長。私の予想では、そろそろ犯人側から連絡が来ると思いますが、逆探知の用意はできてますか?」
「ああ、逆探知か。逆探知ね、うん……逆探知って、何?」
おっと、これは想定外だった。いや、当然予想すべきだったか。とにかく、さすがにここで躓いたら、すべておじゃんだ。
署長に、少し待ってください、と了解を取って、誰に向かって話すでもなく、日本語を口にした。
「おーい、アリス。逆探知、無いってよ。これ、詰みじゃないか」
1年もの間、私の呼びかけを無視していたアリスが返事をよこした。
「詰みではないんだが。まあいい、勇者の頭の固さは筋金入りだしな。解決策を考えてもらうより時間を節約しようか。じゃあ、代表電話に逆探知機能付けたから、あとは自分で考えてくれ」
「すまんな、助かるよ。ところで、詰みではなくて解決策あるって言ったか?」
「ああ、そうだ。犯人に『お前はどこから電話をかけているのか』と聞けば良かったんだがな。まあ、結果は逆探知したときと変わらん。好きにやってくれ」
なるほど。言われてみると確かに。うーん、やはり私は、根っからの地球人だってことか。
「ああっ!ちょっと待ってアリス。部長と、今回の仕事の仲介人とかいう人とまったく連絡が付かないんだ」
「そりゃまあ、ずっと通信妨害してたからな」
「やっぱりお前だったかアリスよ。あのねえ……」
「悪いが今は苦情はなしだ。とにかく、まずは今回の事件を解決してくれ。話はそれからだ」
「わかったよ、もう」
ルキオ対策本部長(署長)に、逆探知について説明した。
突然、電話機に機能が追加されたこともあり、あやしさ100%だったが、ちょっとした電気回路の変更です、と誤魔化しておいた。
一時間ほどして、ついに電話が鳴った。
「お願いです!許してください!」
いきなり謝ってくる犯人って……どうすればいいんでしょうか。




