Act.0 序章〜夜の邂逅〜
どうも。白黒粉砂糖でございます。
初投降。
勢いに任せて書いてしまいました。
文章の拙さなどが目立つかもしれませんが、温かい目で見守ってくだされば感激です。
「ありがとうございましたー」
店員の活動意欲が決定的に欠如した声を背に星塚鈴月は深夜のコンビニを出た。
褐色のブレザーに赤色のネクタイ。灰色のズボンに茶の革靴。それは近隣のとある高校の制服であり、今が日付も変わるような時間帯でなければ同じ格好の人間も多く見かけられただろう。
「―――寒い」
軽く背を丸めるようにする鈴月。夜風に流れる艶やかな髪は栗色を湛え、それが染料によるものではないことがはっきりと分かる。小動物を思わせる、薄い青の瞳。イギリス人の祖母を持つクォーターである顔立ちは線が細く、何処か儚い印象を与える。可憐、と表現するに相応しい容姿。
『彼』が―――そう、男で無かったなら、だが。
黒色のマフラーに口元を埋め、鈴月は足早に自宅へと足を進めていく。
「・・・・・・・・・・・・」
―――ふと視界に異物が映る。体の向こう側が透けて見える中年の男性。
「・・・・・・まただよ」
俗に言う、幽霊。鈴月には幼少の頃より、世間一般で『異常』と呼ばれるモノが視える傾向があった。何でも祖母が英国でいかにもな職業に就いていたことが原因らしいのだが、母親も父親も、妹でさえも自分と同じ能力が無い。こうなると先天的な才能か、はたまた死んだ祖母の呪いか何かだろうか?
奴らは下手に相手すると何処までも付き纏ってくる。『視える』ことを悟られるような行為も禁物だ。以前に物珍しそうにガン見したところ、『視える』と判断した霊に丸三日も追い掛け回された経験が鈴月にはあった。中年男性から目を逸らす。
―――目を逸らしても、そこにいるのが気配で分かる。
霊感。幽霊などが近くに居れば嫌でもその気配を察知してしまう、傍迷惑な代物。もしもテレビで出てくる霊能者達もこの気配を察知しているのだとしたら、どれだけ怖いもの知らずの奴らなのだろうか?
こうして街を歩いているだけで、何人(何体?)もの霊を見かける。その全てが何とも形容し難い負の鬱オーラを纏っているものだから、余計に性質が悪い。
―――夜は嫌いだ。奴らが跋扈する。
「もっと働けよ、霊能者」
お祓いが出来るなら金の話などせずにせっせと働けというものだ。
―――いつものように彼らに背を向け、歩き出そうとした瞬間だった。
消えていく。幽霊が。周囲を飛びまわっていたはずの奴らがまるで最初からいなかったかのように。
「―――成仏か・・・・・・?」
それにしても様子がおかしかった。既に彼らは鈴月にとっては風景の一部。それらが欠落していくことに言い表しようの無い違和を覚えた。それが正常だというのに。
―――違う。成仏などといった『消滅』などではない。あれは―――
「・・・・・・吸収?」
そう。幽霊達は一瞬にして一箇所に吸い寄せられていた。闇が渦巻く、黒色の球体。
―――逃げろ。あれは危険だ。関わるな。
そう思い、背を向ける。
―――闇が、蠢く。
深夜。電柱の隅から。停車した車の下から。店前に立てられた看板の陰から。
―――こちらを見据える紅い雫。それは目? 眼? 瞳?
鮮血の如き紅の双眸で鈴月を射抜く。それは何だ? ―――蠢く闇は異形の化物。
犬がいる。鳥がいる。鼠もいる。この辺りの動物を象った闇が走り出す。
―――鈴月に向かって。
「は―――?」
呆然とする。鈴月一直線。数十、下手すれば三桁の瞳が自分に対してひたすらに敵意を向けてくる。
―――犬が犬歯を剥き出しにし、喰らいついてくる。
それを咄嗟に半身でかわし、足元に潜り込んで来た鼠の胴体を踏み潰す。そして絡み付かれる
前に横に転がり、群がる鳥を右腕で薙ぎ払った。
―――熱い。右腕が燃えるような熱を持っている。目に映るのは焼きつくような赤。鮮血。
「何だよこれ・・・・・・!」
鈴月はそのまま起き上がると駆け出した。右腕から流れる血は勢いこそ凄いものの、傷はそう
深く無さそうだ。痛みを堪えて走る涼月だが、追って来るのは犬や鳥、鼠といった動きの速い獣達。
商店街を駆け抜ける鈴月。シャッターの閉じられた風景。
そこで新たな事実に気付く涼月。―――人がいない。
まったく以って人気が無いのだ。これだけ異常な現象が起こっているのに、騒ぎ立てる人間も
いない。
―――助けが求められない。
咄嗟に路地裏へ入り、如何わしい店の並ぶホテル街へと移動する。あの場所ならば幾らなんで
も人がいるはずだ。今が客入れ時の風俗店。出来れば近づきたくないが、この状況で何か縋れ
るものが欲しかったのだ。ネオンに照らされたその場所に辿り着いた鈴月。
―――視界の先には誰もいない。
足が段々と重くなる。既に数キロメートルは全力疾走している鈴月。この体力は明らかに常人以上だろう。それでも距離が離せない。
ホテル街を抜け、閑静な住宅街へと突入する。やはり人はいない。
「・・・・・・何でこんな・・・・・・!?」
足が縺れる。ぐらり、と体が傾き、視界が九十度回転する。まずい。転倒する。
背中に感じる衝撃。アスファルトの地面が堅い感触を体に与える。耳に響いてくる足音は恐らく獣達のものだろう。鈴月は這いずるように逃げようとするが、既に鉛のように重くなった足では思うように動かない。漆黒の獣達が紅い雫のような双眸を獰猛に光らせ、黒い牙を剥く。
―――逃げられない。
恐怖? そう恐怖だろう。鈴月は目を閉じる。深く、強く、目を閉じる。視界が闇に閉ざされた。
「何でだよ・・・・・・」
理不尽な恐怖に悔しさが沸くが、それよりも先に死神の鎌が自分の首を刈り取っていくだろう。その一瞬の訪れが酷く緩慢に思える。いつになったらやって来るのか―――?
ふと、気付く。遅すぎる、と。そして―――
「・・・・・・暖かい?」
熱を感じる。体全体を包み込み、癒してくれるような心地よい熱。鈴月は恐怖に閉ざされていた瞳をゆっくりと開く。するとそこには―――
「・・・・・・あ」
蒼白い炎が踊り狂い、影達を片っ端から焼き払っていく。それは禍々しく、残虐で、それでいて背筋が凍りそうなほどに美しい。消えいく命の儚さを湛えた、そんな情景が広がっていた。
「―――大丈夫ですか?」
声。鈴の音を転がしたような、耳に心地よい声。
タン、と地面に着地する音が耳を叩く。蒼白い炎をその身に纏ったその人物は―――一人の少女。
―――長く伸びた柔らかな栗色の髪を靡かせ、顔の一つ一つのパーツが美を湛えた、神様に贔屓されたとしか思えない端整な顔立ち。桜色に染められた羽織の袖が宙に舞い、緋色の袴に不似合いな茶のブーツの踵がアスファルトの地面を叩く。
だが鈴月は少女の容姿より何よりも、その手に握られた物に目を奪われる。
―――純白の菱が刻まれた漆黒の柄。鍔は黄金色で装飾が施されており、そこから伸びる刀身は鴉の濡れ羽のような、仄かな黒みを帯びている。反りの浅いそれは月光を受けて更なる光を放つ。
―――漆黒の光沢。あまり見ることの無い、美しいそれ。
極めつけに柄頭に結いつけられた緋色の紐。
少女はそれを鞘に納めた。
―――古今東西で現存する刀剣の中でも至ってシンプルな造りの刀。それなのに何故これ程に美しいのだろうか。完成された刀は一種の美術品ですらあると云う。
だが、違う。少女の携えた刀は違う。あれは美術品ではなく、人を斬る為に拵えられた肉斬り包丁だ。秘められた残虐性から溢れる、そんな美しさだ。
炎の中から飛び出してきた犬がこちらに駆けてくる。鈴月を狙うそれは少女を邪魔だと言わんばかりに鉤爪を振るい、排除しようと動いた。しかし―――
「―――ごめんなさい」
少女は誰にとも無く謝罪を述べる。それはこれから起こり得る、否―――自身が起こす事象への告解。自身の罪を裁けとでも告げるように。あるいは祈るように。
鞘走りの音が響く。肉斬り包丁が奏でるものとは思えない、軽快かつ美しい音色。『居合い』と呼ばれる抜刀術。解放された漆黒の刃が、冷たい夜気に包まれた闇の空へと躍り出る。
刀身が犬の顔面へと吸い寄せられる。横薙ぎに振るわれたそれは毛皮を貫き、硬質な肉を裂き、骨を砕いた。二枚に裁かれた体躯が宙を舞い、やがて地面に叩きつけられる。それでも影は影。血が噴き出るようなことは無い。
―――少女が再び、刀を鞘に納めた刹那。世界が再び燃え上がり、清浄な蒼白の炎がその勢いを増す。まるで蝋燭が最期の刻に燃え上がるように。
「・・・・・・君は?」
勢いを弱めていく炎の中、鈴月は少女に問いかける。
「私ですか? 私はですね―――」
ふにゃり、と柔らかな笑みを浮かべて。黄金色の月を背にした少女は告げる。
「―――稲葉千歳と申します」
これが星塚鈴月と稲葉佳乃の突然すぎる出会いだった。
如何でしたでしょうか?
感想、アドバイスなどがあれば是非よろしくお願いします。




