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第98話 天津飯


「それじゃ後は」


「時間が過ぎるのを待つだけ」


 でございます。


「シンデレラの陽子かぁ」


 お兄ちゃんは嬉しそうだ。


「晴れ舞台ですね」


 凜ちゃんもニコニコ。


 今日の夕餉は天津飯。


 休憩がてら、私たちの部屋に顔を出した凜ちゃんでした。いつもの通りのいつもの如く。


 天津飯はぐはぐ。


「美味しいですか?」


「すごく」


「美味し」


 兄妹揃って凜ちゃんのお世話になっていた。


 凜ちゃんはタブレットでお仕事。夕餉が終わると、学校にとんぼ返り。仕事は山積しているとの事。


「うーん。サラリーマン」


「だな」


 お兄ちゃんも、同意見らしい。


「仕事は?」


「急ぎは無いな」


 それはようござんす。


「ま、仕事があっても出来る事しか出来ないんだが」


 それも事実ですね。


 確かな予感。ただ問題が其処にないだけで。


「陽子は働かなくて良いからな」


「いや、働きますよ」


「金なら心配ない」


「そう言う問題じゃございません」


「そっかぁ」


 さいです。


「結構稼いでるつもりだがなぁ……」


「自分のために使って」


「だから自分のために……」


「巡り巡って私のためでしょ? ソレ……」


「だな」


「ダメ」


「ダメか?」


 シュンとするお兄ちゃん。こういうところはズルいと思う。こっちを泣き落とす意味で、お兄ちゃんは勘所を察している。


「誕生日プレゼントくらいなら受け取るから」


「じゃあそうしよう」


 そうしてください。


 疲れる。


 お兄ちゃんの妹ラブは、時々、少し、恐ろしい。


 ――ズキン。


 古傷はまだ瘡蓋を残し、時折剥がれそうになり血も滲み……と。


「私のせいか」


「何がだ?」


「お兄ちゃんが幸せなのが」


「ああ、陽子のおかげだ」


「いいんですけどね」


「いいんだ」


 会話が成り立っているようで、成り立っていなかった。


 何時もの事ではあれど。


「一緒にお風呂入ろうぜ! もちろんお互いにフルオープンアタックで!」


「セクハラ」


 嫌いになってしまいそう。


「え~」


「何で残念そうなの?」


「俺は陽子と混浴したい!」


「頑張れ」


 感情も込めずに言葉が出た。


「ハートがこもってねぇ!」


 混入しておりませんので。


 ていうか本気で事案です。


 百十番。


 ピ、ピ、ポ。


 三桁で終わる番号。


「そこまで!?」


「身の危険を感じますので」


「兄妹なんだから気さくに付き合おうぜ? お兄ちゃんと一緒にお風呂入ったって良いじゃないか。アイドルにも兄妹でお風呂に入っていた的な意見は聞くし」


 本当の此奴は……。


 私としては気疲れしかしない。


「凜ちゃんも良く付き合っていられるよ」


「基本善人だしな」


 それは認める。


 凜ちゃんは、およそ毒がない。


 腹の内は知らないけど、外から見る分には。どういう経緯で、あの人格が出来たのか。少し不思議だった。


 天津飯も美味しかったし。皿洗いまでしてくれて。


「陽子。コーヒー飲むか?」


「飲む」


 インスタントだけど。


 兄妹揃ってコーヒーを飲みながら、ニュースを見やる。


 誰が死んだの殺したの。


 事故に、脱税に、スポーツ選手。


 昨今は国際間の緊張についても報じられる。


「世の中は暇人だらけだな」


 お兄ちゃんがいいますか。


 在る意味で暇潰しの求道を極めた存在が……。


「俺はボヘミアンだから」


 大学生なのに?


 少し疑問を覚えたりして。


「ま、大学生なんてみんなボヘミアンだ」


「そんなものなの? 色々と幻想が瓦解するんだけど……」


「基本的に青春の暇潰しだしな」


「えー」


 それもどうよ?


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