第二十六話「裏、裏、表」
037
「高校生組」「伊御組」よりもいち早く機械島の地上に到達した「クロノス」のメンバーは残り数分内で崩落する島を後にするべく、地上を抜けて少し歩いた所に用意をしていたジェット機の元へと急いだ。
纏まりの欠片もない彼達だが、実力は世界と比べても折り紙つきである。
先頭を歩くのは幼女「アリス」を背負う、クロノスのリーダー「紫原昴」。
その後ろを「天原佳織」は「皇小夜子」とブツブツ文句の言い合いを繰り広げていた。
更にその後ろからは、気絶している「獅子島十三」を担ぎながら、義手義足の「赤城涯」と刀を携えて両目を瞑っている「月凪秋水」が下らない口喧嘩をしていた。
地上からの入り口からほど近い場所に霧で隠れていた巨大な影が浮かび上がった。
それは無道木通によって銃殺された機械島の警備、八咫烏の能力ではあったが昴が気前よく霧の中へと侵入したと同時に濃霧は呆気なく掻き消されて、大きなジェット機の期待が皆の視線に止まる。
「さて、それじゃあ、この地から離れるとしよう」
一言、昴が大きな機体を見て呟くと全員は無言で頷いて自動で降りてくる飛行機の搭乗口に乗り込んだ。一番先頭にいた昴はアリスを佳織に預けると全員が搭乗したことを確認した。
最後尾に着いた昴がジェット機の搭乗口に乗り込もうとした瞬間、彼は後ろを振り向いた。
次の瞬間、一発の銃声が聞こえ、昴の横数センチを掠めた銃弾はジェット機の期待に被弾をすると硝煙の匂いを立ち昇らせた。
頬を掠め、切り傷のような出血が昴の顎を伝い、地面に数滴、垂れる。それを拭い、銃弾が飛んできた方向に影が見えると彼はその人物に見当がついていた。
「せっかく、あの場から逃がしてあげたのに君って奴はどこまでもしぶといんだね」
足音が聞こえ、物陰から人影が浮かび上がってくる。そこにいたのは昴と同じ元メンバーの姫宮アゲハ。煙が立ち昇る拳銃を下に向けながら、苦行な表情で昴を睨み付ける。
「ここでアナタを逃がすわけにはいきません」
目付きは覚悟を決めた。
表情は苦悩を表し、思いは死期を察した。
拳銃を握りしめる掌は震えて、今にも逃げ出したくなるほど桁違いな実力差がある。
だが、アゲハはここで身を引くわけにはいかなかった。
「つくづく面白い人だよ、アゲハ」
そして、何を思ったのか射程圏内にいる昴はジェット機の入り口前で大きく両手を広げると当ててくれ、と言っているような行動をわざとアゲハに見せつけた。
同時に、アゲハに対してプレッシャーをかける。
「別に僕をどうこうするのは構わないけれど、そんな鉛玉数発で僕を殺せると本気で思っているのかい? 銃弾じゃ、僕は絶対に殺せない」
フードの奥に隠れる異様な狂気に、アゲハは屈服せざるを得ないほどの威圧を受けた。既に心は折れ、逃げ出したい。身体は硬直して動けない。
だけど、彼女の良心を支えていたのは今まで犯してきた罪の償いだった。そして、一条奏と佐藤真桜を護るために最後の力を振り絞る。
立ち上がった。
「殺せるだなんて思ってはいません……」
屈服し、膝を付いた時に掌から零れ落ちた拳銃を拾い上げると鉄のように重い身体を未来に託す二人のために、ゆっくりと、ただ静かに、アゲハは拳銃の先を昴に向けた。
今度は絶対に、外さない。
「ただ、この銃弾は絶対に当たると予知しています!!」
狙った焦点に願いを込めて、アゲハは引き金を引くと同時に反動で身体のバランスが崩れて硬く冷たい地面に尻餅をついた。
だが、同時に銃弾が金属ではない、何かに被弾した生々しい音が彼女の耳に響く。
やりきった思いと共に、アゲハは尻餅をついた腰を摩りながら、悲劇となっている可能性のある光景を見るために瞼を開けて、真実を目の当たりにした。
そして、その光景を見た時、アゲハは心底、絶望する。
目の前にいるのは紫原昴ではない、別の誰かが掌で銃弾を受け止めていた。
「そうやな、確かに自分の銃弾は当たったわ。うちの掌の中に」
鉛玉が掌で尋常ではないほど高速に回転をしている。にも、関わらず現れた女性は痛み一つ無い様子で驚くアゲハを見て、ニタニタと笑っていた。
「遅かったじゃないか」
「しゃあないやん、これを手配すんねんに時間が掛かったんやから」
現れた女性は昴が乗ろうとしているジェット機を指差した。
その一言にアゲハの精神は更に混乱してしまう。動揺が表情に出ているのを必死に隠そうとしているが頑張っても意味はない。
予知では起こりえなかったことが今、起きて彼女の頭は再び激しい頭痛に悩まされた。手が震えると、大事に受け取った拳銃が指の隙間を通り抜けて、地面に落下する。
「アナタは一体……?」
未来の予知がアゲハの頭に突き抜けてくるように浮かんできた。
そして、自然と口角が上がってしまう。
やはり、最初から決まっていた未来は絶対に覆せないんだと、この時は能力を恨んだ。
「うちか? うちはな」
膝をついて、虚ろな瞳でアゲハは顔を上げる。目の前にまで近づいた女性が、アゲハの顎を掴んで軽く上に挙げると嬉しそうに微笑んだ。
目の前で見ると改めて、昴の仲間なんだと思ってしまうほど、普通とはかけ離れていた。
赤城涯、千歳とは違って、それよりも深く濃い、深紅の赤髪が首元で綺麗に切り揃えていて顔の右側に十字架の焦げた痕が鮮明に映ってしまう。
そして何よりも、印象に残るのは彼女が来ている服装。抜群のプロポーションを最高な形で見せるかのように身体の線がしっかりと出ているチャイナ服を着ていた。
「うちは“ヴァイスハイト”の五席。千条秦花や。ああ、今はクロノスか」
アゲハが“ヴァイスハイト”に所属をしてから、初めて対面することとなった第五席。秦花はアゲハから離れると足元に落ちている拳銃を拾い上げて、引き金の部分で遊び始める。
それを見て、何を思ったのか、搭乗口の階段にいた昴が一定のリズムで階段を下ってくるとタイミングよく秦花が手元で遊んでいた拳銃を背後に投げつける。
そして、昴がそれを手に取ると秦花と入れ替わりで、アゲハの前に影を覆う。
「君は良い能力を持っている。僕の崇高なる目的のために力を貸してくれるというのなら、裏切りの件は水に流そうじゃないか。クロノスは君を歓迎するよ」
拳銃を握らない、もう片方の掌を尻餅ついているアゲハに向かって伸ばした。
しばらくの間、考えた様子を見せたアゲハだったが昴が伸ばした掌を勢いよく引っ叩く。
「残念ですが、私は腐っても人間。悪魔に手を貸すきはサラサラありません」
未来の視えた、その先に希望は一寸も見られない。
けれど、彼女は奏に誓った。
もう二度と、未来から目を背けないことを。
「そうかい。それじゃあ、ここでお別れだね」
満面の笑みを浮かべ、昴に最初で最後の抵抗を見せた彼女は次の瞬間、木霊する銃声の音に紛れ込んで仰向けのまま、地面に崩れ落ちた。
彼女の正面に立つのは硝煙の立ち昇る拳銃を携えた、無表情の昴の姿だった。
「ええんか? さっきの奴の能力って結構、優秀やったんやろ」
「彼女は非常に優秀だったよ。けど、その程度の人間さ。神には慣れない哀れな存在だよ」
「あらそ」
拳銃を下ろして、アゲハの胸元に投げると、昴はジェット機の方に向かって歩いて行った。呆れた顔でため息をついた秦花は既に絶命しているアゲハの傍によると死んでいるアゲハの額にお札のような紙切れ一枚、貼り付けて立ち上がると昴の跡を追った。
最後の秦花が乗り込んだことを確認して、搭乗口の扉は閉まる。そして、正面の扉を開けて久し振りに再開した仲間に景気よく声を掛けた。
先ほどまで秦花がいなかったので、突然の登場にメンバー全員が呆然としている。
「みんな、久し振りやな。達者にしとったか?」
「誰かと思ったら、秦花さんじゃないの」
「最近、見ないと思ったら一体どこにいらしていたのですか?」
「そーいや、最近見てなかったな。チャイナ服」
「相変わらず、奇妙奇天烈な雰囲気をしているでござるな」
自家用とだけあってか、広々とした一室に専用の椅子が取り揃えられていて全員が気前よく座っていた。ただ、気絶している十三だけは床に転がしてある。
昴が部屋の入り口から、一番、上座の席に腰を降ろすと足を組んで、頬杖を突き始めた。
「久し振りの再開に花を咲かせるのは結構だが、そろそろ本題に移ろうか」
ジェット機が機械島を飛び立ったことを窓から確認した昴は昔の話題に花を咲かせる全員に一声掛けるとメンバーの雰囲気が一変とし始めた。
わいわい、と談笑していた彼達の表情が一瞬で切り替わると、それぞれの席に腰を降ろす。
「天原佳織、赤城涯、皇小夜子、獅子島十三、月凪秋水、千条秦花、紫原昴。あと、残りはその内、合流するとして今いるのは計七名。クロノスの主要初期メンバーが改めて揃ったというわけだ」
クロノス。
全貌の見えない紫原昴をリーダーとした、裏を暗躍する組織。
アリスを含めない計九人の内、七名がこの場で鎮座していた。もう、身を隠す必要はないと昴が判断を下し、隠れ蓑にしていた“ヴァイスハイト”を抜け、空へと羽ばたき始める。
「さて、帆を広げようか、君達。僕達の崇高なる目的はすぐ目の前にある」
奮闘を繰り広げたメンバーが荒々しい態度に変わり始める。目の前に見えるのは崇高な光。その栄光な目的に近づける一歩が切り開き始めた。
「彼女を救うには「ソロモンの鍵」と「女神の匣」が必要不可欠だ。そして、今、僕達には二つの情報とそれを入手できる力と方法を手に入れた」
すやすや、とアリスは別室で寝息を立てている。
そんなことも気にせずに昴は地上数千メートルを飛ぶジェット機の椅子から、立ち上がると長年秘めた目的を残り少しで完遂することに嬉しさを感じていた。
全員の目がよりいっそう、耀きを増す。
「この世界は僕達で塗り替えよう。歴史は終わり、新しい時代の幕が開ける」
世界を塗り替える。
そんな、未だかつて誰も出来ないような所業を企み、孤独の王は広い大空へと飛び立った。
038
紫原昴が統率をする「クロノス」が崩落寸前の機械島から、飛び立った頃、時を同じくして鳶姫伊御も前々から準備をしていた脱出経路に向かって、地上を歩いていた。
後ろには頭の後ろで手を組んで退屈そうにしている少年と凛々しく続く、ジャンヌ。
「それで他のメンバーは?」
少し早歩きで歩いて行く伊御に遅れまいとスピードを上げながら、ジャンヌは口を開いた。相変わらず、少年の歩く速度は変わらない。
「それぞれの場所で情報を収集中です。私達は一足先に情報を収集し終えたのでリーダーの跡を追って、ここまで来ました」
「そうか……。それで収集し終えたってことは、それ相応の成果があったってことだよな」
「はい、もちろんです。追々、報告します」
伊御の背中を見つめながら、清く凛々しく、ジャンヌは後を追いながら、彼が立ち止まると真横にまで移動をしてから、一歩後ろで足を止めて待機をする。
少年は数秒遅れでジャンヌの隣で立ち止まる。
「長きに渡るお勤めご苦労様でした。伊御坊ちゃま」
「悪いな、バトラー。突然、無理なことをいって」
「いえ、私は伊御坊ちゃまの専属執事でございます故、この程度、造作もございません」
バトラー、と呼ばれた高身長の燕尾服を着た爽やかそうな青年は伊御の前で深々とお辞儀をすると背後に止まっている機体に手を伸ばして、誘導を始める。
「それじゃあ、さっさと行こうか」
バトラーに案内された伊御は五人乗りのヘリコプターの後ろに乗り込んだ。
続いて、ジャンヌが隣に乗り込んで最後に少年が座り込むと外にいたバトラーが扉を閉めて彼は運転席に乗り込むと防音のために、ヘッドホンを全員付け始めた。
口元に届く、マイクにバトラーは声を掛ける。
「それで次はどちらに行かれますか、伊御坊ちゃま。一度、本家に戻られますか?」
「いや、本家には戻らない」
少々、その発言に驚きながら、ジャンヌに会話をさせる相手を頼むとバトラーはハンドルを手に構えてエンジンを付けると、ヘリコプターを起動させる。
激しいエンジン音とプロペラの騒音に耳を傾けながら、四人は機械島を飛び立った。
「それなら、次はどちらに行かれるのですか?」
外の景色を見て機械島が米粒程度にまで上昇しきってから、ジャンヌは改めて伊御に聞く。すると伊御は少し思いつめたような表情を浮かべて、マイクに声を通す。
「実は未来予知の能力を持っていた姫宮という奴から、良い情報を聞いたんだ」
「良い情報、ですか?」
「ああ、俺達が狙っているのは恐らく、クロノスと同じ「ソロモンの鍵」と「女神の匣」。その二点を結ぶ鍵が、ある昔の書籍に隠されていると姫宮は教えてくれた」
「過去の書籍……、ですか?」
「そうだ」
狭いヘリコプターの中で伊御は足を組み替えると気難しそうな表情で顔を上に向けた。首を傾げているジャンヌ、運転をしているバトラーとは違って少年は外の景色を堪能していた。
「その書籍の名前は【GRIMOIRE】。日本語で表現するならば、魔導書って所か。それを手に入れることが俺達の次の目的になりそうだ」
「グリモワールですか。聞いたことありませんね」
「……ん? どうした、クロノワール。外に変な奴でもいたのか」
「いや、その書籍。随分と懐かしい響がしたからさ、少し思い出しただけだよ」
「奇遇ですね、クロノワール様。私もその書籍には少々、所縁がございまして」
黒髪の少年――クロノワールとヘリコプターを操縦しているバトラーが懐かしそうに書籍の名を聞いて不敵な笑みを両者共、浮かべていた。
二人の様子を見て、何かを察したのか。伊御はマイクを手に掴むとヘリコプターの中にいる全員に次の指令を告げた。
「丁度いい機会だ。海外に飛んでいるメンバー全員を一度、日本に召集しろ。早くしないと全てクロノスに奪われる」
「かしこまりました。伊御坊ちゃま」
「私もメンバー何人かに連絡してみます」
ヘリは高く、高く飛び上り続けていった。
機械島は既に見えない。
だが、そんな海原を伊御は静かに見下ろして、数ヶ月の友に別れを告げる。
「今度、会う時は全力でお前を潰しにかかる。覚悟しておけよ、奏」
高く舞い上がって行ったヘリコプターは雲を突き抜けて、陸地に向かって飛んで行った。
伊御と奏が再び相まみえるのは、そう遠くない未来だろう。
そう思いながら、伊御は長きに渡る潜入捜査を終えて、数か月振りに熟睡の眠りについた。
039
機械島の地下が既に海水によって浸水されていることに気付いたのは、全員が地下一階にて感動の再会をしてから、五分も経たない頃だった。
地上に上がる階段を進もうとした際に、下の方から浸水しているのに気付いて慌てて全員は機械島地下からの脱出をし、地上へと飛び出した。
しかし、同時に地上に上った瞬間、周囲を見渡した双月が何かを悟る。
「……というか、思ったんだけど。僕達、どうやってここから逃げればいいのかな?」
何も考えていなかった一同は、双月の正論中の正論の発言に場が凍りついた。
そして、双月、奏、真桜以外のメンバーが一同に慌て始める。既に動き回る力なんて残っていないのに火事場の馬鹿力発動時並みに活発に動き回っていた。
「……って、思ったんだけど木通と瑠璃はどこにいるんだ?」
自分よりも背の高い真桜が「もう歩けません、奏さん。ですから背負ってください」などと地上に出る前に物欲しそうな顔で言われたものだから、その気になった奏は彼女を背負って最後に地上に昇り終えると腰を降ろしながら、目の前にいる全員に聞いた。
脱出経路がない現状に慌てふためく全員だったが、木通と瑠璃の存在を思い出して、姿がないと気付くと先ほどにもまして慌てふためきだした。
渚に至っては、オロオロとしている。
「どうするんだよ、せっかく全部が終わったと思ったのによ」
「どうしますか、あと数分で機械島は崩落してしまうのでしょう? わたくしの能力を使って全員を岸に送ることも出来ますが、この人数は流石に一度には……」
「大丈夫さ、まだ何か策があるはず」
「めぐる、手、震えてるけど」
「どうするんですか、一条くん。このままだと私達」
半泣きになりながら、渚が真桜を背負っている奏にすがり寄った瞬間、真桜が周囲を見渡し始めていた。それにつられて、全員の言動が次第に静まり返って行った。
そして、静かになったこの地に一人のハイテンションガールの声が高々と響いてきた。
「おーい!! かなぴょん、まおまお、まちまち、なぎちゃん!!」
声の聞こえる方向に全員が視線を向ける。そして、全員はその方向に向けて走り出した。
全てが終わった、戦いの終末に。
木通、瑠璃。そして、陽炎が海に接する場所で大きく手を振っていた。
そして、三人の奥には船に乗り込んで優雅に煙草を吹かしている、粟木一徹の姿があった。
「うげっ!」
真桜を背負い、二倍の負荷が掛かっていた奏の身体が目的地まで残りわずかという所で急にバランスを崩して、コンクリートの地面にヘッドスライディングをする。
唖然と足を止めた皆を余所に、彼の上に乗っていた真桜が立ち上がった。
「だ、大丈夫ですか! 奏さん」
「あ、ああ。なんとか」
意識はあるらしく、赤色になった顔を横に向けて会話を続けるが立ち上がろうと手をついた奏はここに来て急激に力が入らなくなって、掌が床から逸れた。
再び、コンクリートに身体を預ける結果となる。
「力が入らない」
「当たり前だろ、この阿呆が」
立ち上がれない奏の目の前に一徹が腰を下ろして、煙草を吹かした。
「お前は度重なる強敵との戦いで力を使いすぎた。なおかつ、今まで否定し続けてきた力を受け入れた。本来なら、死んでもおかしくないくらいだ」
「粟木。お前、どうやってあそこから……」
「簡単な話だ。あの部屋が暗くなった時に俺と姫宮は紫原によって強制的に外に弾かれた。しかも、俺は大海原の上。流石に死ぬと思ったが運よく、うちの組織が助けに来てくれた」
煙草をそこらへんに投げ捨て、足で火を消した一徹は身体を動かせない奏を持ち上げて皆の所に行った。担がれた奏は全員がいる所を見て、一人足りないと声をあげた。
「粟木、姫宮はどこにいるんだ?」
その問いに一徹は言葉を発さなかった。
ただ、奏には薄々わかっていた。彼女が――姫宮アゲハが何かのケジメとして、高校生組に加担をしていたことも知っていた。
必ず、また会えると信じて奏は言葉を噛み殺す。
全員が乗り込むと一徹は操縦している組織の人に合図をだして船が出港する。
しばらく、船が地平線を進み続けると背後から、この景色が壊されるほど強烈な音を上げて島が黒煙を上げ始めた。
次々と爆発していく。
遠くなっていく、それをただ見ることしか出来ない奏達は静かにその方を見続けた。
「一条くん。お腹空いてませんか? 粟木さんの同僚の人が食べも――――」
「しーっ。静かにして、なぎちゃん」
お腹の空いている他の人達が荒れるように晩餐会を行っている最中、渚が気を聞かせて奏と真桜のいる場所におにぎりの乗ったトレーを持って来て、瑠璃に足止めを食らう。
小首を傾げて、瑠璃が指を向けた方にこっそりと目線を向けた。
「今は幸せそうに寝ている二人を起こして上げるなんて、無粋な真似はしない方が良いよ」
「そうですね。なら、このおにぎりは私達で食べちゃいましょうか」
「いいねー」
船の甲板で二人もたれ掛りながら、幸せそうに眠っている二人の姿は全てが終わったことを表しているように誰しも、思うことだろう。
進行方向から、昇って来た朝日の陽射しが寝ている二人を包み込む。
いつまでも幸せそうに眠っている二人を邪魔するものはこの世界にはいない。
040
一人の劣等生は前世の罪を償おうと世界と戦い、
一人の天才は世界の禁忌を犯し、人を救うために、悪事に手を染めて、
一人の孤独の王は大切な人を護るために人を殺める。
邂逅し、激突した三人は、それぞれの日常に戻る。
それがいつしか、更なる悲劇を生むことになるなんて誰も予測は出来ないだろう。




