1 脳筋令嬢
公爵家の長女でこの国の王太子殿下の婚約者。それが私、シルビア・サフランです。
私は昔から感覚で生きて来ましたから。淑女教育も要領でこなします。
王太子の婚約者になってからは仕事も言いつけられるようになりましたけど、慣れれば勘でできることも多いですから。
だけど、王太子なんて立場の人から見たら、それはイライラするみたいです。
「シルビア、お前のような無能女とは婚約破棄だ」
王太子は貴族が集まる場で私を断罪します。彼にしては最近大人しいなーと思っていましら、この日のため備えていたのかしら。
「シルビア・サフラン、お前のような野蛮な人間が良くも私の婚約者などやっていられるな」
「野蛮とおっしゃいますか? わたくしはただ馬に乗ったり剣の稽古が好きなだけだですよ」
まあ確かに体をきたえすぎて、王太子より颯爽としているとかなんとか言われましたけれど。
「無能なのも困りものだ。私が言いつけた仕事をまだ片付けていないとは」
「できないことはできないと申し上げております」
周りの貴族たちの反応が面白いですわ。状況を理解している方としていない方にはっきり分かれて。
「お前は私の命令にことごとく反発し余計なことばかりした。王太子妃にふさわしくない。私は愛する聖女ビビアンと婚約する!」
えっとまだ婚約破棄の手続きも済んでいない内に、私以外に愛するとか言っちゃダメですよ。
「ビビアンは泣きながら私に打ち明けてくれたのだ。貴様から陰湿な嫌がらせを受けていると」
はあ‥ビビアン様は目を泳がせていますわ。王太子がこんな公的な場で嘘を言うとは思ってなかったみたいですね。
私は慣れているけど、この人打ち合わせもなく始めちゃうから。
ま、聖女様なら私よりうまくやるかもしれません。
「シルビア、何か言い分があるか? ないならサフラン公爵とはこれから話をつける」
えっと、そう。まだ私たちは婚約者ですの。
だったら最後にこれだけはやっとかなくちゃ。
「殿下」
「なんだ」
「おふざけにならないでこの野郎!」
おざなりにこちらを向いた王太子殿下の鼻骨を、私の拳が砕きました。
「っぐふ」
すかさず護衛が駆け寄り私に剣を向けます。
「何をなさる!」
「落ち着いて下さいな、これはただの痴話げんかですのよ」
私はにっこり笑ってやりましたわ。
男に捨てられた女が1発殴ることは普通のこと、そのくらいではこの国の警察は動きませんの。
まあこれで気がすんだわけではありませんが。
「陰湿な嫌がらせ? 腹が立った相手には真っ向勝負で向かうことを信条としている、このわたくしが? 侮辱もいい加減になさいませ!」
あっけに取られる王太子に背を向け、私は王宮を後にします。
「お前は何と言うことをしてくれたのだ」
屋敷でお父様に怒られてしまったわ。
でもしょうがないですね。
「わたくしに王太子妃など、荷が勝ちすぎました」
私は公爵家に生まれ育った割にわがままでした。
やりたくないことはやらない性分でしたから。
家柄的に王家から選ばれますが、絶対に王子妃も王妃も無理。
「なんでお父様がこの婚約話を受けたか理解不能でしたの」
「お前なら何となくうまくやると思ったからだ。実際に陛下からは頑張っているとお褒めの言葉もいただいたのだぞ」
お父様は髪の毛をかきむしっていますね。
まあ私の性格から考えたら成功していたのかしら。
勘が良すぎるのも考え物ねえ。




