表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

プロローグ

庭の桜が、ちょうど見頃だった。


 枝の手入れを終え、落ちた花びらを掃き集める。

 山に囲まれたこの辺りの春は遅く、空気にはまだ冷たさが残っている。

 だが今日は妙に静かで、やるべきことも一段落していた。


 そんなところへ、宅配業者から連絡が入った。


 ――本日、十三時から十五時の間にお届けします。


 VRMMOと呼ばれている、初の実用機だという。

 午後の予定を空ける理由としては、十分だった。


 指定された時間帯に合わせて家に戻り、設置作業が終わるのを眺める。

 部屋の中央には、寝台にも似た白いカプセルが収まっていた。


 帰り際、作業員から一枚の広告を受け取る。


「正式サービス開始 18:00〜」


 簡潔な表記だった。


 開始時刻まで、まだ少し余裕がある。


 機材の電源を入れ、取り扱い説明書兼仕様書に目を通す。

 構造や用語は目に入るが、立ち止まることはない。


 開始三十分前。


 初期設定は、すでに可能になっているらしい。


 カプセルの側面に手を置くと、

 低い駆動音とともに、上部が静かに開いた。


 内部は、必要最低限の造りだった。

 体を預けると、背中と脚部を支える感触が均等に伝わってくる。


 カプセルが閉じ、視界が暗くなる。

 わずかな振動のあと、外界の音が遠のいた。


 初期設定用の接続を選び、ログインする。


 次の瞬間、視界が切り替わった。


 足裏に床の感触がある。

 重心も姿勢も、最初から安定していた。


 その空間の上に、設定画面が重なって表示される。


 外見調整の項目が並ぶ。

 操作というより、自分の身体を確かめながら整えていく感覚に近い。


 必要な部分だけを調整し、確定する。


 画面が切り替わる。


 ――プレイヤーネームを入力してください。


 入力欄に、短く打ち込む。


 クロウ


 次に表示されたのは、種族選択だった。


 複数の種族名が並んでいる。

 聞き覚えのあるものも、そうでないものもある。


 クロウは、その一番下にある

 〈ランダム〉を選んだ。


 一瞬、表示が止まり、切り替わる。


 《???》


 一瞬だけ表示を確認し、

 問い合わせ用の項目を選ぶ。


『仕様です』


「そうか」


 それ以上は気にしない。


 職業選択の画面が表示される。


 【戦闘職】精霊術師

 【生産職】錬金術師


 そのまま確定する。


 時刻は、まもなく十八時。


 カプセルの外では、

 庭の桜が、また一枚、風に舞っている。


 ――VRMMO正式サービス、開始。


 この世界が、どんな法則で動いているのか。

 その時の彼は、まだ知らない。


 だが――

 世界を観測する姿勢だけは、

 すでに最初から変わっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ