第37話 『魔獣』と『銭ゲバ豚』『白鴉』
所長side
第八十四支部を発端とする、怪植物大量発生事件。どうにかこうにか、事件は解決。しかし、物事は後始末が必要でな。『事件解決、後は知らん』は通用せん。そんなのが通用するのは、フィクションの世界だけだ。
数日間に渡る本部に泊まり掛けの事後処理の末、やっとの事で片付けた。特に事件の当事者であるチェシャーとイナバは、文字通り目の回る多忙ぶりだった。最終的に二人の提出した報告書を読み、受理。ふん。さすがによくできている。ま、これまで散々、却下を繰り返し、鍛えてきたからな。まともに報告書も書けん奴などいらん。
迅速、正確な情報こそ、最大最強の武器にして防具。故に儂はギルド本部職員に対し、報連相を徹底的に仕込んできた。更に報告書の書き方も徹底的に叩き込んだ。情報を制する者が勝者となる。情報弱者は死ね。
連日の本部泊まり込みの事後処理から解放され、帰宅した二人だったが、突然、ホットラインによる緊急連絡が来た。送ってきたのはイナバ。異世界からの来訪者と遭遇したと。
名はザヤン・ルゲーブ。フリーランスの賞金稼ぎだとか。ギルド本部による保護を求めていると。
……イナバは馬鹿ではない。価値無き存在なら、はなっから相手にしない。逆に言えば、こうして連絡してきたという事は、そのザヤン・ルゲーブとやらが、有能な奴だという証明だ。
それに、未知の乗り物に乗って、空から落ちてきたらしい。実に興味深い。本人も乗り物もな。これは他所に押さえられる前に、こちらで確保せねばな。儂は本部長権限で許可を出し、本部へと連れてくるように指示した。
ザヤン・ルゲーブ。どれ程の者か、見極めてやろう。ヤタの奴にも連絡せんとな。採用にしろ、不採用にしろ、やるべき事が有るからな。
「早く来い、ザヤン・ルゲーブ」
先日の『名無しの魔女』の弟子に続き、興味深い奴が現れたものだ。
で、チェシャーに連れられ、当のザヤン・ルゲーブがやってきた。とりあえずは椅子に座るように勧め、その上で、面接を始める。まずは観察だな。ふむ………………できるな。
面接会場の応接間に入り、椅子に座るまでの行動を見ていたが、実に良い。まず歩き方が良い。体幹がブレていない。無駄な力みが無い。フリーランスの賞金稼ぎと聞いていたが、なるほど、イナバが連絡をよこすだけは有るな。では、面接を始めるとするか。
『では、面接を始めるぞ。あと、無理に礼儀正しくせんでも良い。そういう柄じゃなかろう?』
面接を始めるにあたり、無理に礼儀正しくせんでも良いと告げた。明らかにそういう柄ではないからな。
『そいつは助かる。あまり堅苦しいのは苦手なもんでな。ま、状況において使い分けはするけどな。……その程度できない馬鹿なら、あんた不採用にするだろ?』
『如何にも。馬鹿はいらん。儂が求めているのは優秀な人材だけだ』
なるほど、馬鹿ではないな。確かに儂は無理に礼儀正しくせんでも良いとは言ったが、礼儀がいらんとは言っていないからな。状況に応じて使い分けのできん馬鹿なら、不採用だ。
……下級転生者がその代表格だがな。かつてスライムに転生した奴がいてな。何を血迷ったか、東の火竜山脈一帯を統べる竜の元にアポ無しで押し掛けた上、タメ口を叩いた。
結果は言うまでもない。竜の逆鱗に触れ、その場で炎の息吹を吐かれ、瞬時に焼き尽くされた。その話を聞いた時、儂は心底あきれたものだ。これがゆとり世代かとな。ただの馬鹿ではないか。
圧倒的格上。しかも初対面の相手に対し、雑魚がタメ口を叩くなど狂気の沙汰だ。少なくとも儂はやらん。……まぁ、下級転生者だからな。根本的に頭がおかしい。
対し、この男。ザヤン・ルゲーブ。見た目や言動は粗野、粗暴だが、見境なしに噛み付く狂犬ではない。凶暴な獣性と冷徹な理性。相反する二つを兼ね備えている。何せ、今現在も儂を観察しているからな。値踏みか。中々やるではないか。対し、下級転生者はとにかく、自分が上。異世界は下と見下しているからな。……生前、何一つ成せなかった負け組のクズの分際でな!
ともあれ、この男。ザヤン・ルゲーブを見極めねばならん。
『手始めに幾つか質問する。難しく考えなくても良い。率直に答えよ。その代わり、嘘偽りは許さん。嘘偽りを述べた時点で足切りだ』
『了解』
さ、面接の始まりだ。儂を失望させてくれるなよ?
『では、最初の質問だ。アニメやゲームの世界に行けると思うか?』
最初の質問を投げ掛けた。さぁ、どう答える? 最初にして、一番肝心な質問だ。返答次第で即、足切りだ。
すると、ザヤンは頭を掻きつつ、ため息をついた。そして答えた。
『……あのな。あんた俺を舐めてないか? 確かに俺は生まれも育ちもスラム街の貧乏人で、学は無い。だからってな。フィクションと現実を一緒くたにする程、馬鹿じゃねぇぞ。どんな名作だろうが所詮、フィクション。架空の物語に過ぎない。存在しない世界になんか行ける訳ない。俺をカキューテンセーシャと同列に扱うな』
『それはすまなかったな。非礼は詫びよう。あと、お前の言う通りだ。アニメやゲームの世界になんか行けん。存在しないからな。しかし、それがわからん馬鹿がいてな。自分はアニメやゲームの世界に来たと思い込む。原作知識で無双などと戯言を吐いて暴走する。……下級転生者という馬鹿がな』
『ケッ! 救いようのない馬鹿だな。学の有る無し以前の問題だな』
最初の質問。『アニメやゲームの世界に行けると思うか?』に対し、ザヤンは否定。どんな名作だろうがフィクション。架空の物語。存在しない世界には行けないと答えた。あと、下級転生者と同列に扱うなと。チェシャー達から聞いたか。まぁ、最初にして、一番肝心な所はクリアだな。これをクリアできん馬鹿などいらん。では次だ。これもまた、重要な質問。さぁ、どう答える?
『では、次の質問だ。ザヤン・ルゲーブ。お前はこの世界、イメムンイドーメで何を求める? 巨万の富か? あらゆる者達を統べる権力か? 全てを破壊する暴力か? 酒池肉林のハーレムか? そして何より。力や知識が有れば、全てが上手くいくと思うか?』
次の質問はこの異世界。イメムンイドーメにおいて何を求めるか? 下級転生者の定番。巨万の富。権力。暴力。ハーレム。 それらを求めるか? と。何より、力や知識が有れば全てが上手くいくと思うか? と聞いた。今度はどう答える? ザヤン・ルゲーブ。
『……あのな、おっさん。さっきも言ったが、俺を舐めるなよ。そんなもん興味ねぇよ』
これまたあっさり否定したザヤン。
『ならば、何を求める?』
『俺が求めるのは、強い奴との命懸けの戦いだ。その時こそ、俺は自分が生きているという実感を得られる。あと、食うに困らないだけの金だな。必要以上にはいらねぇ。金目当ての奴らが群がってくる。馬鹿はその辺がわからねぇみたいだがな。何より、力や知識が有れば全て上手くいくだぁ? んな訳ねぇよ。世の中舐めんな! 無能が幾ら凄い知識や力を得たところで使いこなせない。無駄だ。俺も向こうで賞金稼ぎをしていたから、よくわかる。武器、兵器に頼り切りの雑魚がいたからな。良いカモだったぜ』
俺が求めるのは、強い奴との命懸けの戦いと言うザヤン。あと、食うに困らないだけの金だと。
更に力や知識が有れば全てが上手くいくか? との問いも否定。無能が幾ら凄い知識や力を得たところで使いこなせない。無駄だと。正に正論。無能に知識や力など使いこなせん。無能だからな。
全くもって、下級転生者は救えんな。下級神魔に踊らされ、チートで異世界最強、無双と浮かれているが、調子に乗って異能を濫用した挙げ句、『加護』切れで死ぬのがオチだ。もしくは、周囲の奴に裏切られるか。下級転生者は力は有るが、カリスマは無いからな。下級転生者に従うのは、馬鹿か、利益目当ての奴だけ。特に後者は、利害関係次第であっさり裏切る。
そもそも何の対価も無しに異能を使える訳がなかろうが。何より下級とはいえ、神魔がただで無能極まりないクズに異能を与える訳がなかろうが。最初から見え透いた詐欺に過ぎん。そんな事すらわからん無能だから、生前から下級転生者は負け組なのだ。
『そうか。欲が無いな。あと、お前の言う通り、力や知識が有っても、それだけで全てが上手くいく程、世の中は甘くない。そんなに世の中単純なら、誰も苦労せんわい』
『全くだぜ』
ふむ。チェシャー達が連れてきただけはあるな。粗野粗暴。しかし馬鹿ではない。少なくとも最低限の常識、礼儀はわきまえている。協調性も有る。下級転生者のような問題外とは違うな。……しかし、そう簡単には採用できん。そうだな。
『ザヤン・ルゲーブ。とりあえず仮採用とする。しばらく試用期間だ。その間の内容次第で、正式採用か不採用か決める。近日中に仕事を任せる。異世界で賞金稼ぎをしていたその実力を示してみせろ』
『上等だ。賞金稼ぎの実力見せてやるよ』
仮採用とし、しばらく試用期間を設けた。やはり、実際に働かせねば、真価はわからん。幸い、仕事は有る。ちょうど良い仕事がな。他の奴に回すつもりだったが、こいつにやらせるか。……成功すればありがたいし、失敗しても切り捨てるだけだ。
とりあえず、最初の仕事はこれだな。最近、調子に乗っている下級転生者の抹殺だ。何人か報告が上がっている。どいつもこいつも、くだらないクズばかりだ。
アイテムボックスから各種アイテムを出して異世界無双。
ステータス変更能力で、スキル改変、スキル付与。
成長チートが云々。
実にくだらない連中だ。突如得た異能に浮かれた馬鹿共が。放っておいても、いずれ『加護』切れで死ぬが、早めに始末しておきたい奴がいる。ステータス変更能力でスキル改変、付与の奴だ。
異能とは、その者の魂に深く関わるもの。故に軽々しく改変してはならない。危険極まりない。そんな事をしようとするなら、かの三大魔女が一角。『冥医』ルーナ・イメナトア辺りを連れてこなくてはな。
少なくとも、下級転生者如きがスキル改変、付与などしてはならない。必ず、恐ろしい副作用が起きる。化け物に変異するのだ。事実、過去に何件も有った。にもかかわらず、この馬鹿に縋り、スキル改変、スキル付与を求める阿呆共が後を絶たん。いずれ変異者が出るだろう。
まぁ、儂としては、スキルに干渉する事の危険性をわからん阿呆共を淘汰してくれてありがたい程だが、さりとて、変異者により被害が出ては困るからな。災いの芽はさっさと摘むに限る。
全く、下級転生者はどいつもこいつもスキルガー、チートガーとうるさい馬鹿共ばかりだ。チートが無ければ何もできん無能と公言している事すらわからん連中だ。世の中を腐らせる悪質極まりない外来種であり、駆除せねばならん。
で、件のスキル改変、付与能力持ちの下級転生者抹殺をザヤンにやらせるつもりだ。スキル改変、付与能力は有るが、戦闘力は雑魚だ。本人だけならば、ザヤンは問題なく仕留めるだろう。
問題は取り巻き共だな。スキル改変、付与され、下級転生者に心酔する阿呆共がな。下級転生者定番のハーレムだ。馬鹿女共めが。……念の為、チェシャーとイナバを付けるか。ザヤンは並外れた身体能力を誇るが、異能は無い。異能の使い手を相手では不利。異能は物理法則を超越するからな。
ザヤンside
冒険者ギルド本部最高責任者である、本部長との面接。何やかんやと質問された末、とりあえず仮採用となった。しばらく試用期間だそうだ。その間の内容次第で正式採用か不採用か決めると。
まぁ、当然だよな。どこの馬の骨とも知れない奴。それもいきなり来て、『即採用』なんて、俺でもしない。むしろ仮採用にしてくれただけでも温情だ。
『とりあえず、仮採用に辺り、お前には標準装備一式を支給しよう。あと、仮採用の身分証もな。これが有れば、本部の各施設を利用できる。現時点では、食堂、宿泊施設、資料室だ。それと、当面の住居として、本部職員寮の一室をあてがう』
『そいつはありがたいな。特に資料室がな。ここは異世界。俺の知らない事だらけだ。だから、この世界について知らなきゃな。知らない、わからない程、恐ろしい事は無い。俺は貧乏人で学が無いからな。こういう学びの場は本当にありがたいぜ』
これは本心だ。俺は生まれも育ちもスラム街の貧乏人。学校になんか通えなかった。全て独学で学んだ。……だからな。裕福な家庭に生まれ育ち、エリート校に通っていたのに、それら全てを放り出したアカツキには多少、ムカついた。まぁ、エリートにはエリートなりの悩み、苦しみが有るのは知っているから、口にはしなかったがな。
『では、面接は以上だ。それとお前が乗ってきた緊急脱出ポッドとやら、実に興味深い。異世界の技術。計り知れない価値が有る。お前の宇宙船とやらが有れば、なお良かったがな。では面接は以上だ。下がって良いぞ。お前の働きに期待している。後で儂の秘書に支給物資一式を持って行かせる』
『了解。ご期待に沿えるように努力するぜ』
『うむ』
こうして、面接は終わった。さて、今後に向けてやる事は多いな。頑張らないとな。
本部長室から出たら、猫耳ねーちゃんが待っていた。わざわざ待っていてくれたのか。
『待っててくれたのか。先に帰っていても良かったのによ』
『連れてきたのは私だからね。そのぐらいの責任は取るよ。で、面接はどうだった?』
『仮採用だとよ。試用期間を経て、その間の働き次第で正式採用か不採用か決めるとさ。中々に話せるおっさんだな。……あと、猫耳ねーちゃん達の言っていた通りだな。ありゃ怖い。あんな化け物、元の世界でも見た事無い。間違っても敵に回したくねぇ。本部最強は伊達じゃねぇな』
猫耳ねーちゃんに面接の結果について聞かれたので、仮採用だと告げる。あと、本部長の怖さも。あんな化け物、初めて見た。何だあれ? 本当に人間か?
『良かったじゃない。頑張って正式採用を勝ち取りなさいよ。それと、所長の怖さがわかる辺りはさすがね。下級転生者は馬鹿だから、所長を見た目で判断して舐めて掛かるのよね。……全員、死んだけど』
『見た目は脂ぎったデブのおっさんだからな。間違っても強そうには見えねぇ。だからこそ怖い。……なぁ、猫耳ねーちゃん。あのおっさんも異能持ちか?』
『そうよ。というか、冒険者ギルド本部職員に採用される絶対条件が異能持ちである事。仕事柄、異能持ちの馬鹿と関わる事が多いから、そいつらを制圧できる強さが求められるの。まぁ、あんたの場合は職員じゃなくて、あくまで外部エージェントだから、その限りじゃないけど』
『……大変だな。本部職員も』
『まぁね。その分、社会的地位も収入も高いけど。冒険者ギルド本部職員は、エリートの代名詞なのよ』
『なるほど。納得だ』
ギルド本部職員はみんな異能持ち。魔法や異能が存在する世界故に、それらで暴れる馬鹿がいる。そんな馬鹿共を制圧できるだけの強さをギルド本部職員は求められる。結局、最後に物を言うのは暴力なんだよな。金、権力、名声なんざ、クソの役にも立たない。
……ただし、使いこなせれば、だけどな。幾ら凄い力を得ようが、使いこなせなければ、身を滅ぼす。昔から変わらない世の鉄則。凄い力を使いこなせるのは、凄い奴だけだ。カキューテンセーシャは、その辺がわからない馬鹿なんだな。
ともあれ、異世界でやっていく為の第一歩は踏み出せた。次は結果を出さないとな。何せ、あくまで仮採用。試用期間内に結果を出せなければ、元の木阿弥。そんな事を考えていたら……。
『あなたがザヤン・ルゲーブね?』
『うおっ?!』
いきなり背後から声を掛けられて、思わず変な声が出た。振り返れば、そこには白い髪、白い肌、そして背中に白い両翼を備えた、妙齢の美人がいた。猫耳ねーちゃん達と同じ服装。ギルド本部職員か。
『あ~! びっくりした! おう、俺がザヤン・ルゲーブだ。あんたは?』
いきなり背後から声を掛けられてびっくりしたが、気を取り直し、名乗った上で、あんたは誰だと聞いた。
『驚かせてごめんなさい。私は本部長付きの秘書。ヤタ・カラス。本部長からあなたに標準装備一式を届けるように言われたのよ。はい、これ。受け取って』
差し出されたのは包み。受け取るとずっしり重い。マジで標準装備一式用意してくれたのか、あのおっさん。仕事が早いな。
『それと、これが身分証。無くさないでね。再発行はできるけど、色々手続きが面倒なのよ』
続いてカードを渡される。こういう身分証に定番の顔写真は無い。
『顔写真は撮らないんだな』
『まだ仮採用だから。あくまで仮免。正式採用になれば正式な身分証が支給されるわ』
『そうかい。こりゃ気合い入れないとな』
『期待しているわ』
そう言って、秘書さんは去っていった。…………あ~〜怖かった! 何だよあの人。全く気配がしなかった。ただ者じゃない。まぁ、あのおっさんの秘書だからなぁ。
『さすが先輩。相変わらず、背後を取るのが上手いわね』
『やっぱり凄いのか。あの人』
『当然よ。元、特級冒険者にして、『白鴉』の異名持ち。鴉族の英雄よ。右腕を失って引退したけど、それでもギルド本部で所長に次ぐ、第二位の実力者よ。実力、権力共にね』
猫耳ねーちゃん曰く、元、特級冒険者。『白鴉』の異名持ち。鴉族の英雄だと。ギルド本部で第二位の実力者だとも。
『猫耳ねーちゃん、特級冒険者って何だ? 凄いってのはわかるけどな』
ただ、特級冒険者ってのが気になったから聞いてみた。字面からして凄いってのはわかるけどな。
『あぁ、言ってなかったわね。冒険者にはランクが有るの。まずは一番下の第三級冒険者。ほとんどがこれ。その上に第二級冒険者。いわゆるエリート、一流冒険者ね。更にその上に第一級冒険者。超一流。最後に特級冒険者。英雄クラスの実力者よ。一人で戦局を引っくり返す、戦略兵器級の存在』
『そりゃ凄いな! 戦略兵器級かよ!』
『先輩の戦歴は本当に凄かったのよ。圧倒的な勝利を重ね続けてきたんだから。その功績、人格を称えられて、冒険者ギルドから『白鴉』の異名を与えられた程。異名持ちは冒険者として、最高の名誉。特級冒険者ですら、異名持ちは数人しかいないの』
『マジで凄いな』
考えていた以上に凄い人だった。世の中広いな。俺も自分の実力には自信が有ったが、上には上がいると痛感。あと、あのおっさん、そんな凄い人を秘書にしてるのか。恐ろしいおっさんだぜ。
ともあれ、今日のところは帰る事に。行き先はギルド本部職員寮。ぶっちゃけ、深夜なんだよな今。色々有り過ぎて、さすがに疲れた。さっさと寝たいぜ。
『遅くまで付き合わせて悪かったな。金が入ったら、ねーちゃん達に飯を奢るぜ。今回、本当に世話になったからな。俺一人だったら、詰んでたぜ』
『まぁ、こちらとしても関わった以上、きちんと付き合うわよ。あと、奢りならステーキでお願い。良い店知っているから』
『しっかりしてるな。だが、ステーキか。良いな。よし! 金が入ったら、三人でステーキ食うぞ!』
今回、色々と世話になった猫耳ねーちゃん、兎耳ねーちゃんに、金が入ったら飯を奢ると約束。すると、しっかり高いステーキを要求してきた猫耳ねーちゃん。良い店を知っているらしい。
『そうこなくちゃ。期待してるわね』
『ま、金が入り次第だけどな。……さて、あのおっさん、どんな仕事を振ってくるだろうな? あんまり無茶苦茶な事を要求してこなけりゃ良いが』
ただな〜。金を得るには仕事をしなけりゃならない。で、あのおっさん、どんな仕事を振ってくるのやら? いきなりドラゴン退治やれとか言わないだろうな? 俺は伝説の勇者とかじゃねぇぞ。
『それなら大丈夫。所長は無茶振りはするけど、無理な事は要求しないから。所長が一番嫌うのが『無駄』。徹底的な効率厨なのよ。ただし、人遣いは荒いわよ。優秀な人材であればある程にね。その分、報酬も高いわよ。……結果を出す限りは。これ、経験者からの忠告。ちなみに無能は容赦なく切り捨てるから、気を付けてね。これも忠告』
『ありがとよ。忠告痛み入るぜ』
『素直でよろしい』
猫耳ねーちゃんと話しながら歩いていたら、職員寮前まで来た。しかしまぁ……。
『まるで高級ホテルだな、おい』
やってきたギルドの職員寮は高級ホテルさながらの立派な建物。こんな高級ホテル、入った事ねぇよ。
『実際、元、高級ホテルよ。経営破綻したのを所長が買い取って、職員寮に改装したの。元のホテルよりグレードアップしている辺り、所長のこだわりを感じるわね』
『あのおっさん、金持ってんだな』
さすが冒険者ギルド最高責任者。金持ちだ。しかし、太っ腹だな。高級ホテルを買い取って、職員寮に改装するとはな。
『そうよ。凄い銭ゲバの守銭奴だけど、後の利益に繋がるなら、必要な金は惜しまない人なのよ』
『できる奴だな、あのおっさん。中々できない事だぜ』
金を貯め込む奴は多いが、必要な金を惜しまず使える奴はそうそういない。俺はあの脂ぎったデブのおっさんに対する評価を上げる。
『じゃ、私はここで。また明日』
『おう、またな』
職員寮の入り口前で猫耳ねーちゃんと別れる。入り口は男女別々。猫耳ねーちゃんは女子入り口に。俺は男子入り口に向かう。
受付に有るカードリーダーの読み取りスリットに身分証を通すと、ゲートが開く。その先には妙な模様の描かれた床。
『転送魔法陣に入ってください。所定の階まで転送します』
音声指示に従い、魔法陣に入るといきなり景色が変わった。
『所定階に到着しました』
転送システムか。大したもんだ。で、俺の部屋はっと……。渡された資料を読みながら、あてがわれた部屋に向かう。
『ここだな』
幸い、部屋はすぐに見つかった。ドアの横のカードリーダーのスリットに身分証を通すとドアが開く。
『ヒュー♪ こりゃ大したもんだ』
部屋はいわゆるワンルームタイプ。風呂、トイレも備え付け。この部屋だけで全てが完結する造り。派手さは無いが、必要な物は一式揃っている。一人で使うなら十分だ。何より良い品揃い。試しに座ったソファーの座り心地の良さにはたまげた。あのおっさん、本当に良い仕事するぜ。金の使い所をわかってやがる。
『とりあえず、風呂だな。それから、飯』
キッチンの戸棚を覗いてみたら、カップ麺、缶詰めが有った。冷蔵庫にはミネラルウォーター。……酒は無いか。とりあえず、風呂を沸かす。俺はよほどの事が無い限り、風呂は欠かさない。シャワーだけじゃ物足りなくてな。
じきに風呂が沸き、ゆっくりと浸かって疲れを癒す。『風呂は命の洗濯』とはよく言ったもんだぜ。
『…………異世界イメムンイドーメか。まさか、こんな事になるとはな。ま、命が有るだけでも丸儲けだ。死んだらおしまいだからな』
元々が賞金稼ぎ。いつどこで死んでもおかしくない、ヤクザな稼業。死ぬ覚悟はいつでもしている。しかし、今回ばかりは予想外。
『異世界に行くって作品は幾つも知ってるが、まさか、俺が当事者になるとは思わなかったぜ。正に『事実は小説より奇なり』ってな』
しかし、これは漫画、小説、ゲームといったフィクションではなく、現実だ。俺は物語の主人公じゃない。よって、主人公補正なんて御都合主義も無い。やれ、チートだ、最強だ、ハーレムだ、成り上がりだなんて、阿呆な事を抜かす気も無い。
『俺は学は無いが、馬鹿じゃないぞ』
賞金稼ぎをしてきた中で、時々、そういう浮かれた馬鹿共を見てきた。そいつらは一切の例外なく、死んだ。その中にはカキューテンセーシャもいたんだろうな。
『さて、あとは飯を食って寝るか。明日。いや、もう日付が変わったから今日か。頑張らないとな』
風呂に浸かってさっぱりしたら、上がって飯だ。カップ麺食ってさっさと寝よう。朝になったら、いよいよ本格的に異世界デビューだな。ただな……。
『レディ。やっぱりお前がいないと締まらねぇな』
これまで共に幾多の戦場を潜り抜けてきた俺の相棒であり、宇宙戦闘機『フォーチュンレディ』に宿る意思。
しかし、あのイカれたクソ女。ユウヒ・ヒグラシの放った空間消滅兵器『イレイザー』の攻撃から俺を庇ったせいで機体が大破。最後の力を振り絞って俺を脱出させた後、爆発四散してしまった。
『ジジイは亡くなり、アカツキはいない。その上、レディもいなくなった。……やっぱり寂しいな』
見知らぬ土地、この場合は異世界だが、一人放り出されるのは、さすがに堪える。そういう意味では、猫耳ねーちゃん、兎耳ねーちゃんの二人と会えた事は幸いだった。そのおかげで冒険者ギルド本部と繋がりが持てた。異世界でやっていく当てができた。見知らぬ異世界で、一人でやっていくのは無理が有るからな。寄らば大樹の陰ってな。
ともあれ、今は試用期間。結果を出して正式採用を勝ち取らないとな。あのおっさんは甘くない。無能と見なせば、躊躇なく切り捨てる。
逆に有能であると示せば、惜しみなく報酬を払う。そういう奴だ。
『よっしゃ! やってやる! やってやるぞーっ!!』
両頬を叩いて気合いを入れる。異世界だろうが、何だろうが、俺のやる事は変わらない。賞金稼ぎ『魔獣』ザヤン・ルゲーブの名を知らしめてやるぜ!!
後に、冒険者ギルド本部に『銭ゲバ豚』『白鴉』『魔猫』『凶兎』に続き、五人目の実力者が現れたと評判になる。
『魔獣』ザヤン・ルゲーブ。その荒々しい獣性と冷徹な理性を兼ね備えた戦いぶりで次々と犯罪者。特に下級転生者を狩り、下級転生者狩りの『魔獣』と異世界イメムンイドーメに広くその名を知らしめる事となる。
もっとも、本人曰く。
『下級転生者はチートに頼り切りで全く戦い方がなってないから、戦ってもつまらねぇ。何が最強だ。貰い物の力で笑わせんじゃねぇよ。下級神魔の手の上で踊らされているだけの素人が、プロの賞金稼ぎ舐めんな』
との事。
賞金稼ぎ『魔獣』ザヤン・ルゲーブ編、とりあえず完。
ギルドから支給された装備を駆使し、犯罪者。特に下級転生者を狩りまくる日々を過ごしています。
ちなみに支給された装備は対異能戦闘装備。魔力を打ち消す効果持ち。故に異能を持たないザヤンでも下級転生者と渡り合えます。
何度でも言いますが、所詮、下級転生者、なろう系はチートに頼り切りの無能。チートを潰されたら、何もできない。本物の実力者。プロの賞金稼ぎであるザヤンの敵ではない。格好のカモ。
結論。クズはチートを得てもクズ。無能な事以上に、そもそも性根が腐り切っている。その腐り切った性根が変わらない限り、同じ事の繰り返し。いずれ裏切られて終わる。なろう系に従うのは、馬鹿か、利益目当ての悪党だけ。特に後者は、状況次第ですぐ裏切る。
『なろう系、力は有れど、カリスマ無し』
次回、魔女師弟の帰還編




