●第285話●いざ上陸
新章開幕です!!
「――で、オリヒメ先生についてったら、水上バイクの発艦所だったっす」
「にゃふ」
どうにか海竜を撃退し、戦闘の後片付けを終えた頃にはお昼も随分過ぎていたので、瑠璃猫号では遅めのランチタイムとなっていた。
リベンジマッチに成功して高いテンションの食堂にあって話題の中心にいたのは、MVP候補の最右翼であるティラミス&織姫コンビだ。
ティラミスが肉を頬張りながら、織姫と共に水上バイクで海竜に向かっていった経緯を武勇伝っぽく語っている。
「某も驚いた。マックスが突然操作に介入して槍を手に取らせようとしたんだ。あれは織姫の仕業だったのだな」
「な~~お」
そしてもう一人のMVP候補リリーネ&マックスコンビもまた、盾を捨てて槍を投げた経緯を語っていた。
二人の説明によると、あの一連の流れは織姫の誘導に端を発して行われた、二人と二匹の連携なのだと言う。
止めを刺しきれない事に気付いてか気付かずか、危機感を覚えたのであろう織姫が、まずは水上バイクのポテンシャルを最大限引き出せるティラミスを唆し海竜へ突貫する。
その傍ら、リリーネに魔法巨人用の雷槍を手に取らせるよう、例の長鳴きでマックスに合図をする。
そして織姫が海竜に一撃を加えて隙を作ったところへ、やり投げの得意なリリーネ渾身の一撃で止めを刺す。
持てる手札と各自の特性を生かした見事な作戦だろう。
織姫自身が未だ海上では力を出し切れず、決定打を与えられない事まで見越している。
もっとも、ほとんど丸腰で海竜に突撃させられたティラミスは、生きた心地がしなかったであろうが……。
「いやー、最後は魔法巨人が投げた槍で決着したって聞いたら、アベルさんは大喜びするでしょうねぇ」
リリーネの隣で食事を摂っていた勇が、笑いながら言う。
「ほぅ、大ボスが? 確かに実用性以上に槍を気に入っていたそうだが……」
「アベルさんが好きだったアニメ――物語では、槍は重要な位置付けでしたからねぇ。たしか神の槍ロンギヌスだったかな?」
リリーネの問いに、昔見たアニメを思い出しながら勇が答える。
TVアニメ版を筆頭に複数の劇場版が作られたのもこのアニメの大きな特徴だが、作品ごとに設定や解釈が異なるため全容を把握するのは容易ではない。
それでも作中のロボット(のようなもの)が槍を武器として使っていたのは変わらない。
おそらく今回の戦闘をアベルが見ていたら
「はっはっは、まるで神槍ロンギヌスじゃないか! やはり私はこの世界に来て正解だったよ!!」
などと言って大はしゃぎしていただろう。
こうして海竜を倒したテンション冷めやらぬまま一時間ほどで皆が昼食を終えると、いよいよ船島上陸に向けた調査が始まった。
◇
「すげぇな、こいつは……」
「完全に囲ってるんですね……」
海竜のおかわりに注意しながら船島から三〇〇メートルほどまで近付き、ぐるりと一周したところで、レベッキオと勇が思わずため息を漏らした。
「やはり魔物除けなのでしょうか?」
「おそらくは……。陸地には滅多に大型の海の魔物が襲って来ないのも、水深が浅いと動けなくなるためでしょうし。ただ、それにしたって……」
「この規模のもんを実際に作っちまうってのは、ちょっと普通じゃないわなぁ」
問いかけるフェリクスも、答える勇も、それを受けてコメントしているレベッキオも呆れ顔だ。
彼らが呆れているのは、島から一〇〇メートル以上の距離が全面、人工の浅瀬になっているからだ。
おそらく浮いている島の底から板状の人工物が外へ向かって広がっており、それが隙間なく全周を囲っている。
水深はおそらく一メートル程度。石やサンゴっぽいものが全面に展開しているので、元々の水深は二メートルほどか。
その合間には、熱帯魚のような魚が群れているのが見える。独自の生態系が出来ているのだろう。
以前来た時にも一キロメートルほどの距離で浅瀬になっていることは確認しているが、あらためて眼前で目の当たりにするとその異様さに感嘆せざるを得ない。
「これだと船を着ける所がありませんね……」
操縦席のイーリースが呟く。
全面隙無く浅瀬になっているので、小さなボートならともかく外洋を行くような船は座礁してしまい近づくことが出来ない。
「だなぁ……。だがよ、ワミ・ナシャーラ、だったか? そいつの手記が正しいんなら、上陸したって話だろ?」
「そうなんですよねぇ。当時はこうじゃなかったのか、浅瀬でも問題無いような船というか魔法具があったのか……?」
ここが浪渡りの島だったのなら、レベッキオの言う通りワミ・ナシャーラは上陸を果たしていた。
そもそも買い出しのために大陸に来ていたという話なので、船を着けて荷下ろしをしないとあまりに効率が悪すぎる。
「ん~~~、だいぶ日も傾いてきたので今日はここまでにしましょうか」
しばし考えた後、西日の強くなり始めた空を見て勇が言う。
「明日の朝からボートと水上バイクを出して、より詳しく確認してみましょう」
「了解だ。――艦橋から総員へ。今日はこのまま漂泊だ。三十秒後に百八十度回頭する。作業を停止して備えるように。以上」
レベッキオは勇の決定に頷くと、すぐに漂泊準備の指示を出す。
船員たちも慣れたもので、回頭して少し船島から距離をとると、あっという間に漂泊の準備が整った。
その日の夜は宴会となった。
昼食時も祝勝会のようなムードではあったが、時間も短かったしアルコールを摂取するわけにもいかないので、少々騒がしいランチタイムで終わっていた。
それが消化不良だったのとアルコールが入ったこともあって、夜はどんちゃん騒ぎとなる。
もちろんその中心はティラミスとリリーネだったが、最近楽器が弾けるものが増えてきたためか、後半は即興の演奏会へとなだれ込んでいた。
そんな中勇はと言うと、一次会が終わりそうなタイミングでアンネマリーと共に食堂を抜け出し、船長室へと戻っていた。
「はーー、さすがに疲れたよ、今日は……」
「ふふ、お疲れさまでした」
ベッドに腰かけた後、そのまま後ろに倒れこむように寝ころんだ勇が大きく息を吐くと、アンネマリーが微笑みながら声をかける。
「ティラミスが飛び出していったときは肝を冷やしたけど、どうにか勝てて良かったなぁ」
「大怪我をする方もいなかったのも良かったですよね」
「うん、それが何よりだよ」
しばし寝転んでいた勇は、起き上がって冷蔵箱から炭酸水を取り出すと、魔法で氷を作りつつ二人分のハイボールを作る。
キン
軽く金属製のカップを打ち鳴らして、二人だけの二次会が始まった。
「ふぅ、ついにこんな所まで来たんだなぁ……」
「イサムさんは、ずっと走り続けていますね」
「んーー、意識している訳じゃないけど、結果を見るとそうかもしれないね」
ひと口ハイボールを飲んだ勇が、これまでを振り返って苦笑する。
「ふふ、イサムさんらしいですね。となると、明日が何の日か気付いていないですね?」
「明日?? えーーーっと、何の日だっけ??」
しばし考えを巡らせるも、思い当たる節のない勇がアンネマリーに問い返す。
「明日は、イサムさんがこの世界に来て、二年目になる記念日なんです」
「えっ!?」
「ふふふ、やっぱり」
驚く勇に、予想通りとアンネマリーが微笑む。
「五の月の二十日。ちょうど二年前のあの日、イサムさんがこちらに来た……」
「……」
「色々、本当に色々なことがあって、わずか二年で貴族にまでなって。今日はこんな海の真ん中にまで来て。明日には、今は誰も存在すらしなかった海の遺跡に上陸するかもしれない」
ゆっくりと噛みしめるようにアンネマリーが言葉を続ける。
「二年前の私は、こんな事になるなんて全く考えてもいませんでした」
そう言って勇の隣に腰かけたアンネマリーが、その頭をことりと勇の肩へと預ける。
「クラウフェルト領をどうしたらいいのかで頭がいっぱいで、世の中にこんなに楽しくてワクワクする事があるなんて、思ってもみませんでした。本当にありがとうございます」
「あはは、それは俺も同じだよ。突然こっちに来て訳も分からない状態で快く迎えてくれたアンネ達には、本当に感謝してもしきれないくらいだ」
アンネマリーの髪をそっと撫でながら、勇が言う。
「これからもきっと、イサムさんは走り続けるんでしょうね」
「ん~~、ゆっくりしたいとは思うんだけど……。気付いたら走ってるんだよねぇ」
困ったもんだと頭を掻く勇。
「いいんです、イサムさんはそれで。イサムさんが楽しく走れば、自然に周りの皆が幸せになっていくんです。私は勇さんが転ばないように、転んでも真っ先に手を差し伸べられるように、ずっとそばにいますから」
「アンネ……。ありがとう、これからもよろしくね」
アンネマリーの言葉に一瞬目を見開いた勇は、微笑みながら自分の額をアンネマリーの頭へコツリとぶつけた。
船尾にある船長室の窓に映っていた二つの人影が一つに重なり、やがて灯りが消える。
日中の激戦が幻だったかのように静かな波間に笑い声と楽器の音を染み渡らせながら、深い藍色の夜が更けていった。
◇
「やっぱりあの後ろんとこが怪しいっすね」
「私もそう思います。あの前の部分だけ、水深が深いと言うか石とかサンゴが少ないんですよね」
海竜を倒した翌朝、早速水上バイクを使って浅瀬の調査を終えたティラミスとマルセラを交えて、艦橋で作戦会議が開かれていた。
彼女らによると、長方形の船島は現在片方の短辺側を前にして微速で進んでいるのだが、進行方向とは逆方向――便宜上後方――の浅瀬だけが、他の浅瀬とは様子が異なるらしい。
それに加えて、島の外壁の後方の一部分にだけ、綺麗に垂直になっているところがあることも分かっていた。
「ここが開いて中に入れるようになってる、って言うのが一番合理的だよなぁ」
「理屈から言えばそうじゃが、そんな事が出来るのか?」
「どうやるかは想像もつかないですけど、そもそもこんなデカいものを浮かべてそれが何千年も動いたままなんですから、不可能では無いかなぁ、と」
魔法具的なギミックの話もあるので参加しているエトが首を捻るが、勇としてはほぼ確信に近い思いがあった。
規模こそ違うが地球の揚陸艦などが、まさに後部にハッチ付きのドックを備えたそれだったからだ。
その原理や詳しい仕組みまでは当然知らないのだが、そう言うものが割と一般的にあると言う事は知っていたための帰結である。
「仮にそうじゃったとして、どうやって開けるんじゃ?」
「それが問題なんですよねぇ……。分かりやすい可能性は二つで、誰かが中から開けるか、リモコン――遠隔操作で外から開けるかですかねぇ」
「外からってのは無理だから、後は中からだがよ。それにしたって中に誰かいねぇと駄目だからな。いるのか……?」
「いる、とは思うんです。前回の光線による攻撃は、人為的だったと思うので。ただ今回はそれも無かったので自信が無いんですけどね……」
レベッキオの問いに勇が自信なさげに答える。
前回あった光線による援護射撃が人為的なものなら、今回もあって良さそうなものなのだがそれが無かった。
位置関係や動かす条件やら、人がいたとしても動かせない理由も山ほどあるので、いずれにせよ判断には決定打が無い。
その後もしばらく様子を見ていたが、一時間たっても状況に変化が無かったので勇はついに決断を下した。
「救命艇と水上バイクを使って、少人数で上陸しましょう」
船島の壁面は十五メートル程の高さがある壁ではあるのだが、足下から全てが絶壁と言う訳では無い。
岩などの堆積物には斑があり、僅かではあるが小さな磯のようになっていて、人が一人二人なら乗れそうな所があるのだ。
そうした場所でかつ上部に木々がせり出しているポイントへ浅瀬でも移動可能な小型艇で乗り付け、ロープクライミングの要領で上陸を果たそうという目論見だ。
上陸部隊に選ばれたのは四名。
冷静で魔法も得意なリディルをリーダーに据え、身体能力が高くバランスのいいマルセラ、実は木登り等が得意なハーフエルフのユリシーズ。
そして非戦闘員ながらこれまで数々の遺跡に挑んできて探検スキルの高いヴィレムだ。
まずは救命艇と水上バイクで小さな磯もどきに上陸する。
何かあった時用に、ティラミスとリディルがそれぞれ水上バイクと小型艇で付近の海上で待機だ。
そしてユリシーズとリディルの二人が、全身強化の魔法を唱える。
リディルは土台となってユリシーズを打ち上げ、丸めたロープを肩にかけたユリシーズが垂直に高く飛び上がって上空の枝へ取り付いた。
ガサガサッという音と共にせり出した太い枝が揺れ、濃い緑色の葉っぱが何枚か落ちていく。
枝に停まっていたのか、ギャアギャアという鳴き声と共に数羽の鳥が飛び立った。
(……あれは海鷺系か? 今のところ魔物の気配は無さそうだ)
枝に飛び乗ったユリシーズは、すぐには動かず息を殺して周囲を観察する。
三分ほど警戒して安全を確認すると、問題無しのハンドサインを送ってロープを枝に結んで下方へと垂らした。
ヴィレム以外は全身強化を使えるのだが、後詰として上陸予定の者たちの為にもロープを使った登攀を確かめるべく魔法は使わずに登っていく。
遺跡に潜り慣れているヴィレム含めて危なげなく登り切った上陸部隊は、今度は島側への降下ポイントを探して枝の上を移動し始めた。
船島の外壁の内側はかなりの密度で植物が生えておりハッキリ見えないが、地面までの高さは五メートル程か。
しばし太い枝を伝っていると、ようやく二メートル程の範囲で下草の薄い場所を発見する。
その上部には伝って行ける枝が無いため、少し手前にロープを降ろして慎重に降り立った。
潮風と緑が混ざったような独特の濃い香りが、四人の鼻腔に充満する。
「森みたいになってるのに、ほとんど土の香りがしない……」
「……確かにな」
顔をわずかに顰めて呟くユリシーズに、リディルも神妙な顔をして頷く。
「さて、最終目的地はあっちの方角だが、まずはベースキャンプに出来る場所を探すぞ」
「「「了解」」」
リディルの指示に三人が頷く。
彼らの任務は大きく三点。
一つは安全性含めた環境の調査。
二つ目が探索の拠点となる最初のベースキャンプ地の確保。
そして三つ目が、当面の目的地である船島後方へのルート探索だ。
ちなみに二点目が達成された時点で後詰の部隊が送り込まれ、本格的な探索が始まる。
「外に海竜なんてのがいたんだ、この中にも何がいるか分からん。油断するなよ?」
先頭にイーリースとリディル、その後ろにヴィレム、殿にマルセラというフォーメーションで、姿勢を低くしながら歩み始めた。
海上なのである程度湿度はあるが、そこまでジメジメしてはいなかった。
足元は落ち葉と腐葉土、砂が混ざったような土壌で、太い木の根が無秩序に伸びていて歩きづらい。
背の低い植物はシダっぽい見た目の物が多く、その間から大小様々な蔓性の植物が縦横無尽に育ち、視界を悪くしていた。
昆虫は多いが、鳥以外の小動物はおらず、微かに聞こえる波の音とよく分からない鳥の鳴き声以外は驚くほど静かだ。
「静か――」
ガサガサガサーッ!!
静かですね、とマルセラが言おうとした瞬間、右方向の藪の奥から木々が揺れる大きな音が聞こえてきた。
「なんだ?」
警戒して足を止めていると、音はどんどんと近づいて来る。
そのまま戦闘態勢をとること三十秒。
バキバキバキバキーーーッ!
枝や蔓を強引に引きちぎりながら、音の主が派手に登場した。
「マルセラ前へ出ろっ! イーリースは壁魔法! 来るぞっ!!」
即座に反応したリディルが指示を出し、ヴィレムをかばうようにマルセラと共に前へ出る。
「ブルモァァァッッ!!!」
「なんだ、こいつはっ!?」
彼らの目の前に姿を現したのは、体長三メートル程の牛とも豚ともつかない丸々と太った謎の生き物だった。
週1~2話更新中。
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