●第284話●リベンジ
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ボーラ・ランチャーで狙っている効果はシンプルで、土の魔力を流すことでどんどん重くなる性質を利用して海竜に重しを付けて動きを鈍らせる事と、体力を奪う事だ。
両端に付いている砲弾兼錘の重量は、一個につきおよそ十キログラム程度。
今回それを四つ巻きつけることに成功しているので、総重量は四十キログラム程か。
そのままの重量では、人間や人と同じくらいの大きさの魔物に対してはかなりの負荷になっても、海竜のような大きな魔物相手では心許ない。
かと言って砲弾を重くし過ぎると飛ばすことが困難になる。速度も距離も出なくなってしまっては本末転倒だろう。
それを解決したのは、もはやマツモト領のお家芸とも言えるメタルリーチだ。
土の魔力を込めることで重くなることを知った後何度も実験をした結果、十倍ほどまでは重くなる事が分かっている。
それ以上は魔力を込めても重くはならない。
(無限に重くなったらブラックホールになるのではと密かに恐れていた勇は、内心ほっとしていた)
ちなみに上限には個体差があり、計測したサンプルにおいては最低が十倍、最大で十五倍であった。無機物ではなく魔物素材であるためだろう。
今回はなるべく倍率の高いものを選別しているので、試算上は最大で五〇〇キログラムを超える枷を嵌める事が出来る。
浮力の働く水中では額面通りとはいかないだろうが、コンパクトカーを半分載せられると考えればそこそこの効果が見込めそうである。
ただし、すぐに最大重量に達するわけではなく時間がかかる。
その時間はおおよそ五分。一秒が生死を分ける魔物との戦闘においては、決して短いとは言えない時間だ。
そのあたりを考慮して、勇から新たな指示が出された。
「ここが堪え所ですね……。浮遊機雷をもう一度展開しましょう。ただし、海竜より少し後方に」
「……なるほど、雷玉と機雷で中間距離に閉じ込めるんですね?」
「ええ。近づかれるのもマズいですが、ここで逃げられるのが一番マズいですから」
「了解しました。――魔弾砲の一番と二番は再び浮遊機雷を展開だ! 距離は一五〇から二〇〇!」
「「「了解っ!」」」
勇の決定を受けてフェリクスから砲撃手へと指示が飛ぶ。
「ギャオォォッ!」
自身の頭上を越えていった事に気を良くしたのか、海竜が次々とブレスを発射してくる。
先程までよりさらに間隔が短くなり、盾で防いでいる魔法巨人の動きが慌ただしくなった。
「盾の魔石交換急いでっ! タイミングをミスるとヤバい!!」
まだ錘の効果が発揮されていないのか、右へ左へ動きながら短い間隔で放たれるブレスの攻撃に、盾の魔石の魔力の減りが早くなる。
交換のタイミングがシビアになるため、格納庫を仕切っていたヴィレムからも注意喚起がされた。
そんな攻防が二分ほど続いたところで、海竜の動きに変化が起きる。
「ギャウ?」
これまで多くを迎撃できていた、散発的に放たれる射槍砲と誘導魚雷に被弾する事が増えてきたのだ。
「……ボーラが効いてきたのか? ネットの効果もありそうだな……」
動きづらさに戸惑うような素振りを見せる海竜の様子を見た勇が呟く。
身体をくねらせる様にしていた海竜だったが、一瞬その動きを止める。
そして――
「っ!! 潜りやがった!? 来るぞーーっ!!」
カンカンカンカン!
海竜が小さな水柱を上げて海中へ潜ったのを見た物見が、大声を張り上げながら危険を知らせる鐘を打ち鳴らす。
「来たかっ! 舵その場で三十度旋回! 魔弾砲三番から五番は迎撃モード! 魔法使いは準備!! 急げっ!!!」
「「「「「了解っ!」」」」」
物見の知らせに、フェリクスから矢継ぎ早に指示が飛ぶ。
「先生も念のため準備をお願いします!」
「にゃっふ」
勇の頭の上に移動してきていた織姫が、フェリクスの言葉に頷くように短く鳴いた。
「まずは魔弾砲。それから魔法使いだ! 誤爆には注意しろっっ! ――来るぞっ!!」
慌ただしく準備が進む戦場に、今日一番に緊張したフェリクスの声が響く。
それに了承するより早く、海面が爆ぜた。
「ギャォォォーーーーッ!!」
大きな雄たけびと共に海竜が空中へと飛び出す。
ドドドンッ!!
ドガァァァッッ!!!
瑠璃猫号へと飛び掛かって来る海竜に対して、三つの砲身から立て続けに弾丸が発射される。
サイドスラスター全開で旋回する事で海竜の斜め側面に直撃した砲弾の爆発で、海竜の飛んでくる方向をややずらすことに成功したが、まだ完全回避は出来ていない。
『『全身強化ッ!!』』
一瞬間を置いて、甲板後方へ迫る巨体へ二つの光が飛んでいく。
予め船尾寄りに移動していたリディルとティラミスが、全身強化の魔法を使って突っ込んだのだ。
ドカカッ!
息の合った二人のドロップキックが、ほぼ同時に海竜の側面に叩き込まれる。
ドッパーーーン!!
さらに斜めに軸をずらされた海竜は、瑠璃猫号の船尾側斜め前方三十メートル程の位置で水柱を上げた。
「おっととっと……!」
「うひーー、当たって良かったっす!」
海竜を蹴り飛ばした勢いで甲板へと帰還したリディルとティラミスが汗を拭う。
「よくやった! 舵、左舷を海竜正面へ! 機雷は着水地点後方にバラ撒け!!」
二人が無事着艦したのを見たフェリクスが、労いの言葉をかけると共に再び戦闘態勢を整えていく。
勇達が最も対応に苦慮したのが、海竜のジャンプアタックだった。
大きな質量を伴った攻撃なので、海面に浮いた瑠璃猫号で受け止めようとするとまず間違いなく転覆してしまう。
躱そうとしてもそこまで素早く動くことも出来ないため躱しきれない可能性が高い。
そこで考えたのが、軌道をずらしつつ避ける事だった。
最初は威力を上げた爆裂玉の爆風だけで吹き飛ばそうとしたのだが、あの質量の物を爆風だけで飛ばそうとすると、こちらもその爆風に巻き込まれてしまう事が分かり廃案に。
苦肉の策で考えた次善策が、爆風と全身強化の両方を使った合わせ技である。
比較的近距離で炸裂する事を想定して作られた迎撃専用の爆裂玉を最初に当てた後、全身強化を使った魔法騎士が追い打ちをかけて軌道を逸らす。
その間船はその場で旋回をして、なるべく海竜の軌道上から軸を逸らすのだ。
ただ、魔力が豊富なイーリースと完全に旧魔法威力で発動させることが出来る勇以外は一人では心許ないため、二人コンビでの対応となる。
そのため魔法を使える騎士が常に二名、フリーに近い状態で甲板で待機していた。
ペアは半固定で、出港までの期間に何度も練習を繰り返してきている。
なお織姫は、魔法具の補助が無くても吹っ飛ばすことが出来るため、最終防衛ラインとなっていた。
「やはりジャンプ力が落ちていますね」
「ええ。前回ほどの距離や高さがありません」
ひとまずの迎撃に成功した様子を見て、勇とフェリクスが初戦の時ほどの勢いが無い事に気が付いた。
戦闘開始以降地道に重ねてきた、弱体化狙いの魔法具の効果がようやく利いてきたのだ。
「ギャアゥゥゥッ!?」
自分が思ったほど飛べなかった事に気付いた海竜が、苛立たし気に咆哮する。
そしてもう一度海へと潜った。
ドドドンッ!!
ドパーーン!
しかし先程よりもさらにもう一段その勢いは落ち、迎撃されてしまう。
気付けばボーラを使用して五分が経過していた。
「ギャギャギャギャッッッ!!!」
ようやく体にまとわりつくコレが調子が悪い原因だと気付いたのか、どうにかして解こうと本格的に体をくねらせ始めた。
浮力があるため水中での動きにそこまで影響が大きくなかったため、影響がモロに分かるジャンプ攻撃まで気付けなかったのだろう。
「マズい……。錘を解かれたら一気に不利になります。ここで一気に決めましょう!」
「了解です! ――総員決戦態勢だ!!」
カカカカカカァァーーーンッ!!
これまでで最も速く打ち鳴らされる鐘が、決戦の合図となって響き渡る。
ボーラを引きちぎろうともがく海竜の回りに、次々と誘導魚雷が向かっていく。
あまり直撃を受けすぎるとダメージを受けるため、もがきながら迎撃する海竜。
そんな総力戦に打って出た船上では、ティラミスが魔力を使ったため魚雷の操縦席に向かおうとしていた。
「にゃにゃっふ!!」
「ん? オリヒメ先生どうしたっすか?」
小走りで走り出したティラミスの元へ、織姫が駆け寄る。
「にゃにゃっ」
ついて来いとばかりに一度クイッと顔を振ると、ティラミスの返事も待たずに船室への階段を下っていった。
「ちょ、先生!? 待つっす!!」
一瞬戸惑ったティラミスだったが、織姫教ナンバーツーの彼女に織姫を無視するという選択肢などあり得ない。
また、こういう時には織姫に従うのが最も良い選択なのだと、マツモト家に仕えるものは皆知っていた。
「にゃにゃにゃっ!」
「ええっ! こ、これっすか!?」
全力で織姫を追いかけていった右舷の地下二階で、ティラミスは驚きの声を上げていた。
「刺突電撃弾頭の高速魚雷、発射っ!!」
一方左舷では、これまで温存していた刺突電撃弾頭を備えた高速魚雷が次々と発射されていた。
止めを刺すことになるであろうこの魚雷は、速度が速いために誘導性が極端に低い。
警戒されて躱されないよう最後まで取っておき、ボーラ等で動きが鈍ったタイミングで一気に投入して勝負を決める作戦である。
通常魚雷や散魔玉による目くらましが展開される中、ほぼ真っ直ぐな航跡を描いて高速魚雷が海竜へと向かう。
ドン ドドン
爆発に気をとられていた海竜に、一斉発射された高速魚雷の第一陣六発の内半分の三発が命中した。
「ギャオゥッッッ!?」
水中にいる事で強度の下がっているであろう鱗を貫通して、鋭い切っ先が三本突き刺さる。
思わぬ痛みに声を上げる海竜。
そして次の瞬間――
バチバチバチィィィィッッ!!!
「ギャオォォォーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」
突き刺さった突起から雷撃が放たれ、海竜が絶叫する。
海竜の鱗の隙間から小さな紫電が見え隠れしているところ見ると、体内に雷撃が叩き込まれているようだ。
バチチチチィィィィッッ!!!
「ーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」
更に発射された第二陣が命中し、海竜が声にならない叫び声を上げた。
その後も続けて発射されるが、痛みにのたうつように暴れる海竜には中々当たらない。
随分とダメージを与えて動きは鈍っているのだが、力強さはいまだ健在だ。
止めを刺さんと次々と攻撃を仕掛けていく中、それは起こった。
ブチブチッ
「ギュオァッ!!」
緩慢な動きを見せていた海竜の動きに、少しだが精細さが戻る。
「くっ、ボーラが千切られたようですね。あと少しのところで……」
良く見えないが、状況からすると枷となっていたボーラのロープが切れたのだろう。
金属ワイヤーのようなかなり丈夫な魔物素材で作ってはあるが流石は竜種、ずっと捕縛してはおけなかった。
「総員、決戦態勢を解除、特殊戦闘配備に戻せ!」
随分弱ってはいるが、自由を取り戻した海竜がどう出てくるか分からない。
攻撃に全振りした決戦態勢は危険と判断したフェリクスが、当初の特殊戦闘配備へと切り替える。
「さて、どう出るか……。なっ!?」
相手の動きを伺っていたフェリクスが目を見張る。
「くそっ、逃げるつもりか!? 機雷準備急げ!!」
反撃に出てくると思いきや、このままでは不利と悟った海竜が、距離を離す素振りを見せたのだ。
兵器類が潤沢にあるのであれば、仕切り直しても相手にダメージがある分こちらがだいぶ有利だ。
しかし、ここまでかなりの量の兵器を使ってしまっている。
逃げに回った相手を倒すにはかなり心許ないばかりか、帰路用にもある程度残しておく必要もある。
「くっ、ここまで来て……。ん? なんだ??」
距離を取ろうとする海竜に機雷による足止めを開始される中、勇の目が海竜へ向かっていく何かを捉えた。
後方から激しく水飛沫を上げて、かなりの速さで突っ込んでいるようだ。
「なっ!? ティラミスかっ!! あいつ、何をやって……。ちっ、機雷発射中止だ!!」
フェリクスも同時にそれに気が付く。
そしてそれがティラミスだと分かって機雷を撃つのを止めさせる。
「うひぃぃぃ~~~、おそろしいっす~~~~っっ!!!」
「うにゃにゃーーーー!!」
「ひーーー、まだ突っ込むっすかぁぁぁっ!?」
機雷が飛んでくるのが止まったのを確認したティラミスが、さらに速度を上げた。
頭の上では織姫がテシテシ叩きまくっているので、どうやら織姫の指示のようだ。
「ひ、姫までっ!?」
それに気付いた勇が思わず叫ぶ。
先程ティラミスが織姫に誘導された先は、偵察用に積んである水上バイクの発艦所だ。
両弦に一箇所ずつ設けてある内、戦闘が行われていない右舷の発艦所から飛び出して、回り込むように海竜へと向かっていったのだった。
ちなみに水上バイクの現行モデルは初期に作られた物から何度もチューンナップが施され、かなりの速さで走れるようになっている。
全速で走るこれをまともに操れるのはティラミスだけだ。
そんなじゃじゃ馬が、水面を時折バウンドしながら海竜へと向かっていく。
距離を置こうとしていた海竜も、けたたましい音をさせながら猛スピードで近付いて来る水上バイクに気が付き、振り返った。
「ギャギャルゥゥッ!」
「うっひーーー、気付かれたっすーーーっ!!」
煩わし気に睨む海竜を間近で見たティラミスが涙目で叫ぶ。
「にゃおぉぉぉぉん!!」
その頭の上に乗ったままの織姫が、力強く遠吠えのような長鳴きをした。
「!?」
その長鳴きに、盾を構えて防御姿勢をとっていたリリーネの操る魔法巨人がピクリと反応する。
そして手にしていた盾を置くと、壁に掛けられていた長い槍を手に取った。
「え? リリーネさん、何を!?」
格納庫の端にいたヴィレムが、その動きを見て驚く。
一方のティラミスは、速度を緩めることなく海竜へと肉薄していた。
「ギャオォォーッッッ!!」
「ぎゃーーっ、死ぬっすぅぅぅっ!!!!」
突っ込んでくるティラミスたちを危険と判断した海竜が、海面から鎌首をもたげて攻撃態勢に入った。
「にゃっふ」
その瞬間、見計らったかのようにティラミスの頭から織姫が飛び上がる。
金色の光を纏い、一直線に海竜の顎を目掛けて突っ込んでいった。
バグン!
「!!??」
顎の真下に鈍い音をさせてクリーンヒットした一撃によって海竜の顔が跳ね上がり、仰け反るようにその巨体が上方へと流れる。
「にゃにゃにゃっにゃ!」
顎にめり込むような一撃をお見舞いした織姫は自由落下を始めるが、一度くるりと回転すると、海竜の体表をピョンピョンと器用に駆け下りていく。
「にゃん!」
そして、一度海竜の横をすり抜けた後Uターンして戻って来たティラミスの頭に見事着地した。
ブンッ!!
一同が呆気に取られてその様子を見ている中、魔法巨人が手にしていた槍を投げ放った。
ゴウと空気を切り裂きながら飛んでいった槍が、伸びきった海竜の喉元に突き刺さる。
バチバチバチバチッッ!!
さらにそこから、紫電が迸った。つい最近試作された魔法巨人用の雷槍だ。
海竜との戦闘に使う想定は全くなかったのだが、上陸後に使うかもと持って来ていたものである。
「ギャルルルルォォォォォォォッッッ!!!!!!!」
致命的な一撃を受けた海竜が、断末魔の叫びをあげながら激しくのたうち回る。
「ぎゃーーーーっ、し、死ぬっすぅぅぅーーーーー!!!」
荒れる海面の中を必死の形相でティラミスが離脱を図る。
しばらく暴れていた海竜だったが、やがて動きはゆっくりとなっていき、ついにその動きが止まった。
急に静かになった海域に、巨大な身体が漂う。
やがてその巨体が、音も無く煙となって消え去る。前回の探査時にアムピュリエが言っていた通り、遺跡種であった証だ。
再びの静寂。
そして――
「「「「「うおぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」
「「「「「っしゃーーーっっ!!!!」」」」」
皆の喜びの声が、藍い船と碧い海、そして青い空へと木霊した。
本話にて第17章は完結、次話より新章です!!
週1~2話更新中。
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