●第283話●リターン・マッチ
「――続けて散魔弾を混ぜて目くらましだっ! アレを使ってみるぞ!」
『『了解!』』
ボシュボシュッ!!
矢継ぎ早に飛んだフェリクスの指示で、今度は爆裂弾に散魔弾が混ざる。
こちらも着弾時に爆発すると同時に散魔玉のように魔石粉をバラ撒く仕様に改装されている。
物理的な目くらまし効果をアップさせるために、細かい石粉も混ぜられていた。
「ギョアァァッッ!?」
顔付近で粉塵をバラ撒かれて少々海竜の気が散った所で、新兵器が投入される。
ボンッ!
これまでの魔弾砲よりも低い音を響かせて、二回りは大きな砲身から黄色に塗られた派手な砲弾が発射された。
砲身の大きさに比例した大ぶりで長さのある砲弾が、やや山なりの軌道を描いて海竜へと迫っていく。
パンッ
そして海竜の手前上空数十メートルあたりで、砲弾が四つに分裂した。
分裂した砲弾は速度を落としつつも緩やかに四方へ広がりながら海竜へと向かう。
よく見ると、分裂した四つの砲弾の間に糸のようなものが張り巡らされ、朝日をキラリと反射していた。
四つの砲弾は海竜に当たることなく付近の海へと落ちたが、一メートルほど沈んだ所で沈下が止まる。
先程朝日を反射していた糸のようなものが、水面あたりで海竜の背中に被さるように絡んでいるのだ。
「よし、ネットランチャーが絡みましたね」
その様子を見た勇が小さく頷く。
ネットランチャー。その名の通り、網状の弾を撃ち出す兵器の事だ。
地球においても捕縛用の兵器として存在しており、最近ではドローンを無力化するためにも使われている。
それを参考に試作した物を、目くらましをしている隙に使用したのだ。
狙いは大きく二つ。
一つ目は、網を絡めることで海竜の動きを阻害する事。そのため網の部分には、細くても丈夫な魔鯨の髭を使っている。
もっとも、海竜相手にどこまで持つかは分からないが……。
そして二点目は、泳ぐ速度を少しでも減速させるためだ。
その為のギミックがちゃんと機能するか、勇が真剣な表情で水面下にある砲弾を見ていた。
「お!? 無事展開されましたね!」
砲弾のひとつからずるりと何かが伸びてくるのを確認した勇が、ぎゅっと拳を握る。
その後も全ての砲弾から同じようにひも状のものが伸び、しばらくするとその先端が少し広がった。
伸びてきたのは、いわゆるシーアンカーだ。
水中で広がるパラシュートのようなもので、水の抵抗を利用して船が流されるのを軽減したり、船首の向きを安定させるために使われる。
水の中で開いた傘を持ったまま泳ぐことを想像して欲しい。
傘が水を受け止めることで抵抗となり、泳ぐのが大変になることが容易に想像できないだろうか?
それを応用して、海竜の泳ぎを乱そうという狙いだ。
シーアンカーが飛んでいくときに広がってしまうと射程距離が極端に短くなってしまうため、小さく折り畳まれて特殊な魔物素材で固められている。
鎧蛞蝓という巨大なナメクジともカタツムリともつかない魔物の粘液で、乾くと固まるのだが塩がかかると溶ける性質があった。
その性質を生かして、海中に落ちたらほどけるギミックになっているのだ。
しかしこちらも、海竜相手にどれくらいの効果が発揮されるのかは分からない。
事前に何度か海洋性の魔物で試し撃ちをして効果がある事が実証されてはいるものの、海竜相手にはぶっつけ本番だ。
「ギャギャウッ!」
二発目のネットランチャーが絡んだところで、動きを止めていた海竜が再び動き出した。
水面下すぐのところを泳いで、こちらへと向かってくる。
「ギャウッ!?」
そして数秒泳いだところで訝し気に振り返り、身体に見かけないものが絡んでいる事に気が付く。
そのまま何度か大きく体をくねらせると、ネットが何箇所か破れ、シーアンカーのいくつかが千切れる。
それで満足したのか、再びこちらへ向かって泳ぎ出した。
残ったシーアンカーは水中で目いっぱい広がっているので、その機能は十全に働いていそうだ。
「……多少の効果はある、と言う感じですかね」
「そうですね。隙を見てまた打ち込んでみます」
様子を見ていた、勇とフェリクスが顔を見合わせる。そしてすぐに次の指示を出した。
「いよいよ通常誘導魚雷でいくぞ! 弾頭は爆裂タイプ。左舷十一番と十三番発射用意。十二番と十四番も装填して待機だ!」
「「「「了解っ!」」」」
フェリクスの指示に、メインの発射台である第一甲板から返事が返ってくる。
「十一番、識別番号1001を装填!」
装填手が、魚雷本体に描かれた数字を読み上げながら発射台へ魚雷を装填する。
「識別番号1001了解。操縦桿の切り替え完了!」
そしてそれを受けた操縦手が、小さな板のようなものを操縦席の窪みへはめ込み、太いペンのようなもので素早く二箇所に線を引いた。
誘導魚雷は、魔法巨人の書記に使われている第一世代魔法巨人の技術で遠隔操作するのだが、複数同時使用時に混線しないよう、本体と操縦側で一対になる識別番号が必要だ。
魚雷の本数分操縦席を用意するわけにもいかないので、魚雷側にはあらかじめ識別番号を埋めておき、発射時にそれに対応する識別子が描かれた小さな魔法陣を操縦席側の魔法陣に連結するようにセットする運用を行っているのだ。
撃つたびに小さな魔法陣を入れ替える必要はあるが、色々試した結果これが最もロスが無い運用だった。
動的に識別番号を変える方法が編み出されるまでは、この運用が続くだろう。
「十一番準備完了!」
「十三番も準備完了!」
出航前に訓練を繰り返してきたことで、十秒とかからず発射準備が整う。
ドカンドカン!
その間にも距離を詰めていた海竜が最初に展開した機雷水域に突っ込み、派手な水飛沫がいくつも上がった。
「ギャオオオゥッッ!!」
驚いた海竜が叫び声をあげて、一度水面から頭を出す。
再び潜って突っ込むが、またしても機雷が数個爆発した。
大きなダメージにはなっていないようだが、さすがに爆発をモロに喰らうのは嫌なのか、機雷のある水域ギリギリを8の字を描くように警戒して泳ぎ始める。
「よし、十一番、十三番撃て!」
海竜の動きが単純になったのを見て取ったフェリクスの合図で、甲板の発射台から二本の魚雷が射出された。
魚雷は静かに水深二メートル程のところまで沈むと、一気に加速して航跡を残しながら進んでいく。
操縦手が魚雷から水面へと延びる浮きも目印にしながら誘導する魚雷は、機雷の下を通過して両サイドから回り込むように海竜へと向かった。
ドッパーーーーン!!
右側から回り込んでいた魚雷が同じ方向へ泳いでいった海竜へと直撃し、この日最大の水柱が上がった。
「ギャァァァァーーーオォォォッ!!!」
たまらず海竜が叫び声をあげ水面から鎌首をもたげる。
「よし、効いているぞ! 十三番いけるか?」
「すみません! 今の爆発で見失いましたっ!!」
火力の強い魚雷がダメージを与えていることを見て取ったフェリクスが、同時に発射したもう一本の魚雷の操縦手に確認をとる。
しかし残念ながら、爆発によって激しく海が乱れた状況では位置の把握は難しくロストしてしまう。
「分かった! 事故らないよう不発状態にして接続解除だ!」
「了解! ……解除完了!」
目視による有視界誘導なので、この辺りは割り切るしかないため、フェリクスは即座に投棄の指示を出す。
しかし起動状態で放置しておくと誤爆する可能性があるため、爆裂の魔法陣が発動しないようにする事は忘れない。
ちなみに不発にするのは、魚雷側で舵を操作している腕で物理的に魔法陣の一部を壊すという原始的な手法だ。
「よし。十二番、十四番準備出来次第撃て!! 十一番次弾装填、十三番は静穏魚雷準備だ!」
「「「「了解っ!」」」」
ロストした魚雷の投棄完了後、準備していた第二弾が発射される。
「ギュアッッ!!」
ドパパーーーン!!
しかし先程ダメージを与えられた物を覚えていたのか、海竜はチャージ時間のごく短いブレスで魚雷を迎撃してしまった。
「くっ、もう見切られたのか!? 十二番次弾装填、十四番は静穏魚雷だ!」
「「了解!!」」
「十一番は十二番と同時発射、十三番はその――」
「!! またブレスが来ますっ!!」
フェリクスの次の指示も終わらぬうちに、今度は勇が叫ぶ。
勇の目が、海竜の口にブレスの前兆である水の魔力を捉えたのだ。
魚雷の迎撃に使ったブレスとは違い、しっかりと水の魔力が集まるのが分かる遠距離攻撃用のブレスである。
ジャッッ!!
勇の注意喚起から二秒程。放たれたブレスが真っすぐ瑠璃猫号へ迫る。
それと同時に、リリーネの操縦する魔法巨人が盾を射線へとかざした。
バチュイン!!
ブレスが直撃した盾の表面に、白紫の魔力光が隅々まで走る。
少し盾が弾かれるように上を向いたが、それ以上は何も無くボタボタと盾から水が滴った。
「ギャァウ!!」
ブレスが効かなかった事に腹を立てたのか海竜がさらに二度ブレスを吐くが、それもやはり魔法巨人の持った盾に防がれた。
この盾も、対水竜用に新開発されたもので、騎士団のマントのように対魔法用の魔法陣が仕込まれている。
水に対する強属性である雷の魔法を盾の全面に発動させることで、威力を分散し相殺する仕様だ。
魔法に対する防御なので大きな盾ではなくマントのように布などでも良いのだが、水魔法は質量を伴う事もあるため念のため盾にしていた。
船の外装にも対衝撃用の魔法陣と共に施してはあるのだが、そちらは複数の効果を持たせているため効果や魔石の消費効率が悪い。
それに戦闘時は人も魔法具も甲板上でその姿を晒すことになる。
主にその甲板上を守るため、大型の盾を魔法巨人に持たせる運用を採用しているのだ。
また水のブレスは、かつて対峙したタカアシガニの光線ほどのスピードは無いがそこそこの速度がある。
そのため盾を操る魔法巨人の装甲はギリギリまで削られ、デフォルトでオーバードライブモードも発動していた。
こうしてかなり万全に練られたかに見えたブレス対策だったが、思わぬ落とし穴があるのもまた実戦だ。
「うわっ! ちょっとこの水の量はヤバいっ!! 急いで排水しよう!」
魔法巨人が立っている格納庫にいたヴィレムが、慌てて大声を上げた。
水魔法は相殺しても水自体が無くなる訳ではない。
威力を削がれた上盾に弾かれて四方八方に飛び散りはするのだが、盾の直下である格納庫に滝のように水が流れ落ちてきたのだ。
魔法巨人に踏まれないように端の方で様子を見ていた船員たちが、慌ててモップや水切りで排水口に水を集めていく。
魔法による水だったため、海水でなかったことだけが救いだろう。
「……で、これで半分ちょっと魔力を持っていかれた感じかぁ。リリーネさん、念のため盾を持ち替えといて!!」
排水作業もそこそこに盾の裏に付いている魔石の状態を見たヴィレムが、リリーネに大声で声をかける。
それに気付いたリリーネの魔法巨人は、サムズアップしてから素早く準備してあった盾へと持ち替えた。
手放した盾の方の魔石は急いで新しいものに交換され、再びホットスタンバイ状態となった。
それからしばし、戦闘は膠着状態となる。
近づくのを嫌った海竜は引き続きブレスによる遠距離攻撃を選択したものの、普通に撃っていたのでは効果が無い事に気付く。
船の周囲を回遊しながら別方向からの攻撃を試みるのだが、瑠璃猫号もそれに合わせて船を旋回させて死角を晒さないようにしつつ機雷を適宜投下。防衛ラインを堅持する。
サイドスラスターのあるウォータージェット推進により、その場で旋回出来るからこその戦術だ。
時折フェイントをかけられて逆側に回られる事もあったが、魔法巨人は素早く反応できるため、防御している間に態勢を整える事が出来ていた。
一見優位に戦闘を進めているように見えたが、勇は内心少し焦り始めていた。
(このままではじり貧だな……)
こちらはダメージらしいダメージは受けていないが、それは相手も同じだ。
一番の懸念は、手持ちの武器や魔石に限界がある事だ。かなりの量を持ち込んではいるものの、無限と言う訳にはいかない。
誘導魚雷も上手く死角をつけたものは命中しているが、多くは近接ブレスで潰されているのが現状なのだ。
対して海竜はと言えば、体力や魔力が尽きることはあるだろうが、その場合は手を緩めて休めばある程度回復させられるだろう。
その間こちらも休めはするが、無くなった武器や魔石は回復しない。
戦闘が長引くと不利になるのはこちらなのだ。
「……ここまで慎重な戦術をとってくるのは予想外でしたね」
同じことを考えていたのか、フェリクスが勇にそう声をかけた。
「ええ。前回が割と好戦的だったので、そういうタイプだと思ってたんですが……」
渋い表情で勇が返す。
勇の言う通り前回の戦闘では、色々な攻撃手段は繰り出しつつも終始攻めの姿勢だった。
そのため今回は防御策も考えた上で戦いに臨み、実際それは上手くいっている。
いや、上手くいきすぎていた。
ある程度強引に突破してくることも想定して中間距離での決着となると踏んでいたのだが、不用意に近づくことなく遠距離戦となってしまった。
考えての物なのかたまたまなのかは分からないが、このままではいずれ厳しくなるのは明白である。
「いかがしましょうか?」
「……今なら撤退も出来るでしょうが、そう何度も道楽の為に領地を空けるわけにもいかないですね……。あえて一度、機雷を薄くしてみますか」
フェリクスの問いに苦笑しながら勇が答える。
「了解しました。――機雷投下は一旦中止だ! 中距離に誘い込むぞ。二十番代は高速魚雷を準備」
「「「「了解!」」」」
『『『『了解!』』』』
勇の返答に小さく頷いたフェリクスが各所に指示を出し、戦闘は第二フェーズへと移っていった。
「ギョアアァッ!」
機雷のお代わりが無くなってしばらく。
魚雷を潰されるたびに誘爆して機雷が減った事で、いつのまにか海竜が自由に動ける範囲が広がっていた。
しばし半信半疑だった海竜だが、しばらく経ってもその状況が変わらないと分かり、瑠璃猫号へと接近していった。
時折付きまとうように向かってくる爆発するなにかは煩わしいが、急所に当たらなければどうと言う事は無い。
一気に決着をつけてやろうとばかりに雄たけびを上げて向かっていく。
「射槍砲撃ちまくれ! 魔弾砲は散魔玉だ。ボーラ準備!! 高速魚雷はまだ撃つなよ!」
「「「「「了解!」」」」」
戦況が一気に動き始めたことで、船上も慌ただしくなる。
動きの自由度が増し、海竜に躱されたり迎撃される魚雷が増えたため、海上戦力による牽制が増える。
合間に先程までより近い間合いでブレスも飛んでくるため、甲板は大わらわだ。
彼我の距離は百メートル弱。最終防衛ラインに敷設された雷導索に時折海竜が触れ、苛立たしげな声を上げていた。
そんな中、散魔玉の煙が広がったタイミングでまた新たな試作兵器が投入される。
ボボンッ! ボボンッ!
砲身が二本横に並んだ変則的な魔弾砲から、二発の砲弾が同時に発射された。やや間隔を置いてもう一撃発射される。
砲弾の間にワイヤーのようなものが張られており、くるくると回転しながら海竜へと向かっていった。
一発目に打ち出したものは想像以上にカーブしてしまい外れたが、二発目が海竜の顎下二メートルくらいの位置に命中する。
ワイヤーの中心より左側が海竜の胴体に当たり、そこを起点にワイヤーの両端が慣性でぐるりと胴体に絡みついた。
「よし、命中だ! 次弾もすぐ発射!」
上手くいったのを見てさらに二発発射される。
こちらも片方だけが命中し、先程より少し下の位置に絡みついた。
ボーラと呼ばれる狩猟武器を参考に開発したボーラ・ランチャーだ。
原理は元となったボーラと同じで、両端に錘の付いたロープを遠心力で相手に絡ませる。
「ギャオッ!?」
突如身体に絡みついて来た見慣れぬワイヤーに戸惑いの声を上げた海竜だったが、それによって何か制約を受けたかと言えばそんな事は無かった。
多少煩わしいが、言ってもそれだけだ。人間であれば、腰の辺りに縄跳びが巻かれているくらいの感覚だろうか。
今はそれ以上に対応しなくてはならない事があるため、海竜はそのまま捨て置くことにした。
狩猟武器としてのボーラは、足などに絡めて自由を奪うのが主目的なので、普通であればこの時点で失敗であろう。
しかし勇達が使ったボーラ・ランチャーは少々用途が違った。
「よし、嫌がって切られたりしませんでしたね」
「ええ。二発命中していますし、ジワジワ効いてくるはずです」
気にせず再び元気にブレスを吐き始めた海竜を見て、勇とフェリクスが胸をなでおろす。
ボーラの両端に使われているのは、高価なメタルリーチだ。
当然ただメタルリーチを使っている訳など無く、魔法陣によって魔力が常に流し込まれるようになっている。
魔力の属性は、土。その効果は――“重くなる”だ。
想定以上に長くなってしまったため分割しました。すみません……
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