●第275話●死闘
――ドラゴン。
ゲームやマンガ好きでは無くとも、日本人ならば一度は聞いた事があるであろう、伝説、神話、ファンタジー世界不動のエースだ。
世界各地で、ドラゴンや龍にまつわる話は事欠かない。
時には神として、時には魔物として、またある時は人を助ける盟友として――。
古来より様々なポジションで様々な種類が描かれてきたドラゴンだが、共通点は一つ。
“圧倒的な力の象徴”であることだ。
それはこの世界でも同じだった。
地球との違いは実在するかしないかのみなのだが、その差はとてつもなく大きい。
伝説として語り継がれる一方で、実在する最上級の脅威としても知られるのだから、固まってしまうのは無理もないだろう。
そして相対したのが“普通の騎士達”だったならば、そのまま碌な対応など出来ぬまま一掃されたに違いない。
しかしマツモト家の面々はそうではなかった。
古代魔法を復活させた上、何千年も解読できなかった魔法陣を読み解いて新たな魔法具まで作ってみせた勇。
可愛さ、その強さ共に文字通り神掛かっている織姫。
伝説をリアルタイムで体験し続けている彼らは、伝説の魔物に対して果敢に立ち向かっていく。
「し、射槍砲、撃てーーっ!!」
「「「「了解っ!!」」」」
一瞬固まったフェリクスだったが、すぐに持ち直して指示を飛ばす。
それを受けて、同じく固まっていた射手たちが雷槍を次々に放っていった。
水面から五メートル程の高さにある海竜と思しき魔物の頭部を目掛け、真っ直ぐ雷槍が飛んでいく。
バチバチバチッ!
「ギョァァァァッ!」
大きく口を開けて威嚇していたところへ予期せぬ攻撃を食らったためか、四本放たれた雷槍のうち二本が口の中に飛び込み、海竜が再び声を上げた。
残りの二本も喉と額の辺りに命中したが、雷撃を与えただけで突き刺さるようなことは無かった。
「くそっ、さすがに硬いか!?」
「ええ。でも雷撃は嫌がっています。続けて撃って下さい!」
「了解! 射槍砲は、引き続き撃て! ただし次からは必ず一人は待機だ。近寄る隙を与えるなっ!」
「「「「はっ!!」」」」
海竜の様子を見た勇からの言葉に、フェリクスが指示を出す。
合計十本ほどを有効射程ギリギリで撃ったところで、一定距離で様子を見るようにしていた海竜の動きが変わった。
ザブン
「くっ、動いたか!? 右舷、爆裂玉ばら撒け! 顔を出したら射槍砲も撃て!」
水面下から体の上半分だけを出すように泳いで素早く側面へと回り込んでいく海竜を見て、フェリクスが声を張り上げる。
ドカンドカンと水しぶきを上げる爆裂玉を縫うように躱した海竜は、煩わしそうに目を細めると瑠璃猫号から少し距離をとって停止する。
「ちっ、離れたか」
「このまま引いてくれれ……、なんだ?」
射程から外れたことで一旦攻撃の手を止めていると、海竜が顔だけを海面から出して再び咢を開く。
先程とは違って、声を発するようなことは無かった。
「ん? 水の魔力?? ……はっ!? ヤバい!!!!」
直後、勇の目が海竜の口元に魔力が集まっていくのを捉える。青色――水の魔力だ。
「強威力で風壁いきますっ! 重ねて下さいっ!!」
「「「はっ!!!」」」
そしてそう叫ぶと、自らも呪文を詠唱し発動準備態勢にまで持っていく。
元々壁魔法を準備していた騎士達も、勇の一言を聞いて即座に込める魔力を少し増やして備える。
ジャッッ!!
直後、海竜が口から真っ白な何かを吐き出した。
それが糸を引くように高速で瑠璃猫号へと向かって飛んでくる。
『風壁ッ!』
『『『風壁ッ!』』』
その射線上に勇の角度をつけた風壁が、一拍置いてリディル、ティラミス、ユリシーズの風壁も次々と一列に並ぶように展開された。
バキバキンッ!!
直径五十センチほどの白いラインが風壁を直撃する。
二枚の風壁が破壊されながらも軌道を逸らして威力を減衰、三枚目の風壁が、破壊されること無く斜め上方へ逸らすことに成功する。
瑠璃猫号の上空を越えていった白線から、細かな水飛沫が甲板上へと降り注いだ。
「水のブレス!?」
「おそらく。吐き出す前に水の魔力が集まるのが見えました。合同討伐時に戦ったタカアシガニの光線の水版みたいな感じですね……」
「タカアシガニの……」
「壁を二枚持ってかれたので、威力も同じくらいですね」
水のブレスを吐き出したまま動きを止めている海竜を見据え、会話を交わす勇とフェリクス。
二人とも額には冷や汗が浮かんでいる。
「竜種ですから当然かもしれませんが……、遠距離攻撃があるのは厄介ですね」
「ええ。風壁でどうにか防げるのと連射は出来なさそうなので、すぐやられる事は無いでしょうが……。こちらの射程外なので一方的な戦いになるかもです」
「……どうされますか?」
「ジリ貧ですね。撤退――!! ブレスが来ます!!」
方針を話し合っているところへ、再びのブレスが迫る。
バキバキッ!!
攻撃に備えていた騎士による風壁で再び逸らすが、こちらの攻撃は届かない距離なので反撃は出来ない。
「撤退しますっ!! 艦橋へ連絡。最大船速で即時離脱!」
『り、了解! 最大船速、ヨシ!!!』
二度目のブレスを凌ぐと、すぐさま勇が伝声管で指示を飛ばした。
目的地と思しき島を目の前にして撤退するのは悔しいが、命あっての物種だ。
急ぐ必要も無いので、再チャレンジすればよい。
了解の返答を受けた一拍後、瑠璃猫号が急加速を始めた。船尾から激しく水飛沫が上がる。
「ギャシャァァァッ!!」
それを見た海竜は、咆哮を上げると瑠璃猫号を追い始めた。
「やはり逃がしてはくれないですか……」
追いかけて来る姿を見て、勇が渋い表情で零す。
この世界においては驚異的な速さの瑠璃猫号だが、海の魔物相手では分が悪すぎる。彼我の差が徐々に縮んでいった。
「雷導索を全て投入っ! 予備も含めて全投入してくださいっ!!」
「「了解っ!!」」
ドボンドボン!
バチバチバチバチィィッ!!!
舷側に近付いてきた海竜に、追加投入されたものも含め三機の雷導索が電撃を見舞う。
海面が一瞬白紫色に染まった。
「ギャウゥゥゥッッ!!!」
さすがに効いたのか、叫び声をあげた海竜が海面から顔を出す。
そしてそのまま身体を反転させながら、尻尾を船体に打ち付けて来た。
ドゴォォン!
「うわぁっ!!」
「ぐっ!」
「ひいいぃっ!!」
大きな衝撃と共に激しく船体が揺れる。
対打撃用の魔法陣を施された外装のおかげか船体が砕けるようなことは無かったが、何度も喰らって大丈夫とはとても思えない。
『一発で半分魔力を持ってかれたぞっ!?』
その証拠に、船底のエトからすぐに報告が上がってきた。
嵐の時でもかなり魔力の消費が早かったが、それでも一時間くらいは魔石が持った。
それを一撃で半分近く持っていくとは、竜種おそるべしである。
「くっ、ブレスよりこちらの方が痛いですね。とにかく近付かれないようにしながら逃げるしか……」
「ええ。総員で雷玉を投げましょう。砲台も台座から外して移動できるように!」
「はっ!」
ブレスの方がまだマシと判断した一同は、全戦力を投入して海竜の接近を拒む作戦に打って出た。
それが功を奏したのか、その後しばらくは攻撃されることがなくなる。
かといって逃げるようなことは無く一定の距離を保ったまま、海竜は追尾を止めない。中々の執念深さだ。
時折加速したり側面に回り込もうとしたりしてくるため、中々この海域から離脱する事も出来なかった。
五分ほどそんな緊張感あふれる追いかけっこをしていると、水面下すれすれを泳いでいた海竜の姿が、不意に見えなくなった。
「!? 野郎、多分潜りやがった!!」
その途端、物見から大声が聞こえてくる。
「フゥゥゥゥゥゥッッ!!!」
それと同時に、勇の肩に移動していた織姫が唸り声をあげて甲板に飛び降りた。
そのまま身を低くし、最上級の臨戦態勢をとる。その視線は船の斜め後方を見据えたままだ。
勇の目には、そんな織姫が逃げ水の向こう側にいるように揺らいで見えた。
無属性の魔力が満たされていっている証だ。
「姫、いったい――」
ドッパーーーーン!!
勇が織姫に声をかけようとした刹那、瑠璃猫号斜め後方の海面が爆発した。
「なっ!?」
驚愕の表情で空を見上げて絶句する勇。
そこには、瑠璃猫号のマストと同じくらいの高さまで飛び上がった海竜の姿があった。
勇には、その表情がニヤリと笑っているように見えた。
海竜は、そのまま最高到達点から加速するように瑠璃猫号へ向けて急降下する。
「うにゃっーーっっ!!」
それを見た織姫が、獲物を捕らえる時のように小さくお尻を二、三度フリフリしてから、金色の光を纏って弾丸のように空へ向かって突っ込んだ。
ドガァァァッ!!
「うわぁっ!!」
海竜と正面衝突すると光が辺り一面に広がり、爆発音のような大きな音が鳴り響いた。
バッシャーーーーーン!!
弾き飛ばされたのか、海竜が瑠璃猫号の後方三〇〇メートル程の所まで飛んでいき、大きな水柱が上がる。
「…………。はっ!? 姫っ!!!! どこだっ!!!!」
突然の出来事に一瞬呆けていた勇だったが、すぐに織姫を探す。
「こ、ここっすぅぅ~~~!!」
「え? うわっ!! ティラミス、イーリース、大丈夫ですかっ!?」
「なな、なんとか~~」
船首側から呼ぶ声に勇が振り返ってみれば、甲板から逆さまになってぶら下がるティラミスと、その足を掴んで必死の形相のイーリースが目に入った。
「ふぃ~~、危なかったっす」
他の兵士らの手も借りて、ずりずりと甲板へ引き上げられたティラミスの腕には、織姫がしっかり抱きかかえられていた。
「あのデカいのにぶち当たった先生が、飛んでくるのが見えたっす」
とてつもない一撃を繰り出した織姫は、やはりその反動で空中へと放り出され、それを見ていたティラミスがどうにかキャッチ。
海へ落ちそうなところをイーリースがどうにか阻止したようだ。
「姫…………。良かった、ケガもないし気を失っているだけだ。ティラミス、イーリース、本当にありがとうっ!!」
織姫の胸が小さく上下している事を確認した勇が、泣きながら織姫の命の恩人に礼を言う。
「うひひ、オリヒメ先生親衛隊代表代理っすから。何かあったら代表のミゼロイさんに何言われるか分かんないっす」
そう言って嬉しそうに笑うティラミス。
魔法が使えないため乗船できなかった親衛隊代表のミゼロイから、代表代理を仰せつかっていたようだ。
一瞬瑠璃猫号に柔らかな空気が流れたが、しかしすぐに現実へと引き戻される。
「くそっ! 野郎、また突っ込んで来やがった!!!」
物見から再び怨嗟の叫びが聞こえて来た。
これまで以上の速度で再び海竜が迫り、そして再び海中へと潜る。
「くっ!? 全力で壁を用意!!」
慌てて指示を出す勇。間髪を入れずに、再び海竜が宙に舞う。
『『『『風壁ッ!』』』』
勇含めて四人が、上空に壁魔法を展開する。
バキバキバキバキッ!!!!
海竜は怯むことなく風壁に突っ込むと、バキバキとそれを破壊しながら突っ込んでくる。
落下速度をかなり落とすことに成功するが、止めるまでには至らない。
パウッ!!
バチィィ!!
「なっ!?」
しかし次の瞬間、後方から飛来した一条の光が海竜に直撃した。あまりの予想外の状況に思わず勇が声を漏らす。
貫通するようなことは無かったが、帯電したようにバチバチと火花を放った海竜が、なんと空中で一瞬動きを止めた。
「ギヤォォォッ!?」
思わぬ一撃を食らった海竜がくぐもった鳴き声を漏らす。
『全身強化ッ!!』
ドカァァッ!!
続けて誰かの声が響き、金色の光が一瞬動きが止まった海竜へとぶち当たる。
狙いすました側面への攻撃で、再び海竜が吹っ飛び大きな水柱を上げた。
ズザーーー
「ってぇぇっ!?」
船首の方では、その金色の主――ハーフエルフのユリシーズが、派手に甲板を滑って柵に激突していた。
ユリシーズの大量の魔力をつぎ込んだ全身強化は、戦況を変える切り札となり得る。
そのため強敵との戦闘時には、ユリシーズはなるべく戦闘に参加せず待機する事になっていた。
今回の海竜との戦闘開始後も、彼は戦況を見守り介入するタイミングを見計らっていたのだ。
「よくやった! ユリシーズ!!!」
先程とは違い船から十メートル程の所に海竜が落下したため、ザーザーと水飛沫が甲板へと降り注ぐ中、フェリクスがユリシーズに手を貸しながら絶賛する。
しかし、文字通りこれが最後のカードだ。
まだ多少雷玉などの魔法具は残っているが、騎士達の魔力が限界をむかえている。
このまま逃がしてくれ、という勇の願いは、無情にも数秒後に崩れ去った。
「ギャガァァァーーーーッ!!」
「マジかよ……、まだ追ってきやがる……」
全速で離脱を図る瑠璃猫号にまたもや海竜が迫ってくるのを見た物見が、絶望した表情で呟く。
一度ならず二度までも吹き飛ばされて怒り心頭なのか、水面から顔を出したまま咆哮を上げて追いかけて来ていた。
「ギャオゥッ!」
追いかけて来る海竜が、小さく口を開く。
「くっ、ブレスが――」
そこに青い魔力光を見た勇が注意喚起しようとした矢先。
バシュッ!
ドカァァッ!!
「うわっ!」
「うぉぉ??」
これまでのようにチャージ時間が無いブレスが、船尾下段に直撃した。込める魔力が少なかったからか威力こそ小さいが、その分隙が小さい。
ザザザザァァァァ
直後、船が左右に首を振り始める。
「うわわわわっ!!」
「ぎゃぁぁぁ!!」
「なな、なんだぁっ??」
急な挙動の変化に、船からは悲鳴が上がった。掴まる物が無かった者が、甲板に転がる。
『艦橋から報告!! ジェットが片方やられたっっ!!』
混乱する甲板に、艦橋からの報告が飛んでくる。
二本ある魔道ウォータージェットのうち一本が、先程のブレスを受けて破壊されたようだ。
マルセラの咄嗟の操縦で、船体が急旋回して横転する事はどうにか防いだが、バランスを欠いたせいで挙動が安定しない。
何より推進力が半分になったと言う事は……。
「くそっ! 追い付かれた!!」
ブレスを放って一瞬止まっていた海竜が、その差を一気に詰めて来た。
『ここまでだの』
再び海面下へ海竜が潜ったところで、この世の物とは思えない綺麗な女性の声が、唐突に勇たちの頭に響き渡る。
「え!?」
「なっ!?」
「はあっ?!」
次の瞬間、瑠璃猫号の後方で海が割れた。
週1~2話更新中。
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