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やさぐれ巫女は祝婚歌を歌う  作者: Eμ(エミュー)
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第二話 婚活? 知らない言葉ですね

「例の件? ……ああ、あれか。お主への縁談のことか」

「ですですっ! ようやく新しい巫女が見つかって私はお役ご免になるのです。と、くれば晴れて自由の身! これでやっと、やーっと! 結婚できるのです!!」


 先程からやけにリルが二十五歳というのを強調していたが、これには訳があった。

 この世界では女性は大体十代後半から結婚し始めて二十歳になる頃には子供がいることも珍しくないのである。つまり今年で二十五歳になる彼女は先程の参列者の人々が言うようにこの世界の基準と比較すると立派な「行き遅れ」女性というレッテルが貼られてしまうのであった。


 だが、これまでの前例をみるなら巫女を務めていた女性には例えその力が失われようとも女神の寵愛を受けた者として在任中から「引退したら是非とも私(我が家)へ嫁いでほしい」と縁談があちらこちらからくるのが常であった。


「と、いうことで神官長。私への縁談話、当然いくつかきてるんですよね? 前に言ってましたものね~私の引退が決まったら、そのときには私に来ている縁談の話を教えてくれるって!」


 そう、今までであれば巫女の嫁ぎ先は引く手数多の売り手市場であり、リルもきっとそうであろうと考えていたのだ。


「あー楽しみだなぁ! あ、でも何もそんな高望みはしてないですよ? ええ、昔は王族に嫁いだ巫女もいたと聞きましたけど私はもういい歳ですし、何より今の王族の独身男性には私好みの苦み走ったおじさまがいないですし!」

「やれやれ、お主は相変わらず年配男性が好きなんじゃなぁ」


 半ばあきれ顔の神官長を尻目にリルはへらっとした顔で妄想する。

 

 そりゃぁやっぱり結婚相手に求めるのは若さや美貌や地位よりも落ち着いた大人の男性の包容力とそれなりの財力よね! 逆に相手の位が変に高いとこっちも付き合いとかで大変だからね~「いけおじ」なそこそこ成功している小金持ちの商人さんなんていいわよねぇ。

 うん! がんばれ私! 憧れの「にいとらいふ」のために!


「なんといったかのぅ、お主の出身の村の方言でそのような年配男性が好きな者のことを言う言葉があったと前に聞いたぞ?」

「……えっ? ああ、『ふけせん』のことでしょうか? んー、私はそこまでではないですけどね」

「そ、そうなのか。どうにもお主の育った村の方言は特殊なものが多くてよくわからんが……おお! そうじゃ! 縁談よりもまずは一回その故郷に帰ってみるのはどうじゃ? お主はこの神殿に来てから一回も里帰りをしておらんだったろう?」

「田舎に、ですか? いえ、それは結構です。七歳の時に両親が流行病で死んで、ここにくる十五歳までの八年間は育ての親になってくれたばっちゃと一緒に村で過ごしましたけど、そのばっちゃも私がここに来てから一年後には……もう村には私の知ってる人なんていないんですよ」

「そ、そうであったか。それはすまんこと言ってしもうたのぅ」


 しんみりとした空気が二人の間を流れたが、次の瞬間リルは顔を上げて食いつくように神官長へと迫った。


「だから! 私は一刻も早く結婚をして温かな家庭を築きたいんです! さあ、神官長! 勿体ぶらずに早く私に来ている縁談を教えてください!」

 

 前例から見てきっといくつかの縁談が来ているはずだとリルは信じていた。信じていたのだ。神官長が目を泳がせながら次のような一言を言うまでは。


「あー、それなんじゃがのう、その、なんだ……どうにもお主の望みそうな縁談の話というのがなくてなぁ」


「……はい? 今なんておっしゃいました?」

「いや、な。お主が十九歳くらいまでの時にはいくつも縁談の話が来ていたのだよ。それこそここ王都に住む貴族の方からもな。だがのぅ……そう、お主が二十歳を過ぎたら申し込みのあった男性本人やご家族の方から相手が見つかったからこの話はなかったことに、と次々となぁ」

「……ええと、何も初婚男性でなくともいいんです。後添いを望むような男性からの申し込みとか、そういうのも?」

「残念じゃが」


 そう申し訳なさそうに話す神官長から目をそらしリルは「……がっでむ!」と小さく口に出す。

 これは故郷の村でもあまり使わない方が良いとされた悪態をつく言葉であり、ましてや神に仕える巫女であったリルが使うべき言葉ではないのだが、今の彼女の心境はまさにこの言葉そのものであった。


「ああそうですか~女神の巫女よりも結局若い娘がいいんですか~ふざけんなよこの野郎ども! 十代なんてハナタレ小娘、女の真の魅力は三十路を超してからだとばっちゃも言ってたぞ!? ええぃおまえら全員もげちまえ!」


 もはや「やさぐれてる」というレベルではない内容の独り言をぶつぶつと呟きはじめるリルの様子にさすがの神官長も一体どうしたものかと考えあぐねてしまったその時、控え室の扉をノックする音が響きその後に見習い神官の声が続いた。


「あのー神官長、たった今早馬が神官長宛の封書を届けに来られたのですが如何いたしましょうか?」

「早馬でわざわざ? 一体誰から……いや、だれからでもいいわい。ささ! はようここへ!」

 

 この最高に険悪な空気をどうにもできない神官長は渡りに船と見習い神官がおそるおそる持ってきた分厚い封書を受け取りその場で読み始めた。

 

「ふむ、ふむ……なに? ……なんと!? リル、リルや! 喜べ! 朗報じゃぞ!」

「あ~なんですかぁ? どこぞからか多大な額のお布施の報告でもありましたかぁ?」

「いや、いやいや! そうではないぞ? もちろんお布施もあれば朗報じゃがこれはそうではない。喜べ! なんとお主に縁談の申し込みが来たぞ!?」

「……へ?」


 それまでどんよりとした空気を纏い俯いていたリルであったがその一言に思わず目を見張る。


「たった今な、早馬が届けてくれたこの手紙に書いてるんじゃよ! 差出人はフレデリック・バーンズ。なんとあの南方辺境伯のバーンズ卿がお主を是非自分の妻にもらい受けたい、と!」


「ええと、南方辺境伯といわれてもどうにも私にはピンとこないのですが」

「ああそうか、お主は北方のアイザス地方出身であったな。南方辺境伯のバーンズ家と言えばこの王都を挟んでちょうどアイザス地方と反対側に位置するエイブリー地方を納める領主様でな、隣国との国境の警備を主に担当しておられる古くからの名門のお家柄なんじゃぞ?」

「むむっ! 名門……名門ですか。それはちょっといろいろ面倒くさそうな」

「なにをいうか! 歴代巫女の中でもこれは滅多にない良縁じゃぞ? 神殿での勤めが終わったらまずは一度領地に来てほしいとこの手紙に書いてある。いやぁよかったのう!」


 満面の笑みを浮かべる神官長を胡散臭そうに見つめていたリルであったが、大きなため息を一つつくと半ばあきらめたように頷いた。


「わかりました。 今になって私に縁談を申し込んでくるような方です。きっと神官長と同じか、あるいはそれ以上のお年を召したご老人なのでしょうが私はこのままではどこにも行き先はないんです。準備が出来次第バーンズ伯の元へ向かいます」


「……ご老人? 誰がじゃ?」


 リルの言葉に納得がいかない顔をして神官長が聞き返す。


「誰って、そんなの決まってるじゃないですかぁ。神官長ですよ」

「いや、その後に続いて言ったことで」

「神官長よりお年寄りなバーンズ伯、ですか」

「そうそう。それなんだが」


 神官長は送られてきた手紙の中から一枚の紙を取り出すとそれをリルに見せた。


「そこに書いてあるのがフレデリック・バーンズ伯の履歴じゃよ」

「どれどれ? ええと、氏名フレデリック・バーンズ。生年月日……ん? んっ!? あの、これ記載間違えてません?」


 思わず書類を二度見するリルに優しく神官長は真実を伝える。


「間違えておらんよ。 私の記憶にあるバーンズ伯の生年月日もその頃だ」

「え? でもこの生年月日だとするとバーンズ伯は……」

「今月で結婚できる成人年齢の十八歳になるということじゃな」


「……十八歳?」

「十八歳」

「……二十五歳の私より七つも年下?」

「二十五歳のお主より七つ年下」

「……」

「……」


「『おねしょた』じゃないですかやだーー!!」 


 神殿内にリルの意味不明な絶叫が響き渡った。


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