バトルフィールド
前書きカード紹介第一弾。今回は前回の篠崎隼人対広瀬和樹戦で使われたカードの紹介をします。
天空騎士団長ランギット
光属性の戦士族でHPは300の魔法転移モンスターとなっています。
経過ターンが3ターンを超した状態でHP50以上のモンスターを転移元として墓地へ送ることで召喚できます。
強いかどうかは別として、他の魔法転移モンスターと比べるとそこそこ軽いモンスターではあります。
また、攻撃宣言を行った際に、墓地の装備カードを一枚装備でき、且つ自身の効果で攻撃力も上がるので、装備カード多めにしておけばそこそこ活躍できるのではなんて思いますね。
広瀬とMCGの話をしながら何戦か交えているうちに窓から差し込む陽は橙色に変わっていた。
教室に残っているのは既に僕と広瀬だけだというのに、待てと言っていた当の本人、細峰は遂に現れなかった。
「来なかったな、二人とも。ほんとに待ってろって言われたのかよ」
「言われなくてもどうせ残ってるだろ、僕ら」
「そーですねえ。はー、もうまじクソだろ。次のストラク天空騎士確定だわ」
ストラク確定、これは主にファンデッキを使うカードゲーマーの口癖のようなもので、意味はデッキパワーが足りないから強化してください、だ。似た言葉は他に何パターンかあって、新規確定や新規よこせといった具合だ。
「天空騎士専用フィールドカード寄こせよ。墓地封印装備サーチと装備カード増やせよ。墓地のこのカードを封印して発動出来る。デッキから天空騎士と名の付く装備カード一枚を手札に加える、とかそんな感じで二、三種ほど新規来いよ」
装備カードはモンスターに装備し、強化、或いは弱体化させるカードの事で、サーチというのはデッキから任意のカードを手札に加える効果の事だ。
MCGのデッキの枚数は四十枚以上で、そのうち十五枚は手札と手元に来るが、それでも来ないときは来ない。だからサーチカードが必要になる。
四十枚であれば必要なカードは来やすくなるが、代わりにメタカード、つまり、弱点をつかれた時の対応等に問題が生じ、多くなれば多くなるほどデッキの幅は広がるが代わりに必要な時に必要なカードが来なくなる。
カードゲームにおいて、基本的にデッキの安定性は勝率に直結するので、広瀬はサーチカードを強くご所望なわけだ。
「アニメで天空騎士使ってくれればいいんだよ」
これもストラク確定と意味は大体同じで、強化しろと言っている。
「俺今からカードショップ行くけど、お前どうする」
「僕は、そだな、もう少し待ってみて来なかったら行くわ。その間せいぜいボコられてろ」
「だあから、調子乗んなって二回戦」
広瀬との別れ際、手に持ったデッキを一度置き、お互いに手のひらを見せあって軽くはたく。
置いたばかりのデッキを手に取り、シャッフルを始める。
「んじゃ、またあとで」
「おう」
自然に返事したけど、広瀬は来ないこと前提で話を進めているらしい。
僕自身も半ば来ると思っていないけど。
対戦相手もいなくなり今はもう使わないだろうからシャッフルをやめてデッキケースへしまう。
それと同時に大きな欠伸が出る。
「やーっと君一人になった」
シャッフルする音も消え、静まり返った部屋に声が響く。
声の聞こえてきた場所、教室の後ろ側の扉を見ると、そこにはどや顔をした細峰が立っていた。
「私たちずっと待ってたんだよ、君が一人になるの」
そんなことを言われても困る。待ってろとしか言われてないからMCGしながら待ってただけなのに。
「それはいいとして、とりあえず私たちと一回やろうよ」
「はあ?」
教室の前のドアから西村さんが姿を現す。
「え? え、じゃあ、西村さんもそう?」
「はい」
透き通った声でそう言いながらゆっくりと頷いた。
「え、うわまじか、うわまじか。えぇ……」
完全に西村さんの見た目から、図書室の端っこで本を読んでる文学系女子か、美術室の端っこで絵を描いている芸術系女子だと思っていた。
「自分が二回戦で負けてうわんうわん泣いた大会の優勝者とやるのは嫌だろうから、弥生、こいつの相手は任せた」
完全になめられていることは苛つくけど、クソみたいなデッキは遠慮したいのもまた事実だ。
「はい。じゃあ、えっと、しのざき、さん。相手してくれますか?」
今朝はMCGプレイヤーだと思っていなかったこともあって興味なかったが、今こうしてみると、どんなデッキを使うかはさておき無駄に顔はいいのがわかる。
「まあいいですよ、やりたくないわけじゃないので」
片付けたばかりのデッキを取り出す。
「そーと決まればっ――」
細峰が勢いよく抱き着いてくる。
彼女の胸の柔らかさが制服越しに伝わってくる。いや、それよりも僕の手札内容、情報アドバンテージを奪うつもりか。
「放せ、邪魔だ」
「弥生、準備は良い?」
「うん、多分。間違えてないはず」
西村さんが初心者だからせめてものハンデ、くらいのことかもしれないけど、それはそれで不公平だろ。馬鹿なのかこいつは。
「それじゃいくよ」
「うん」
「「バトルフィールド展開」」
二人の掛け声とともに現れた七色の閃光に目が眩む。
「ほーら、目開けてみて」
言われたとおりに目を開けると、見たことのない光景が飛び込んできた。
手元にはMCG専用のボードがあり、すぐ目の前にはグラウンドのような場所が広がっていて、左右にはまるで観客席のようなものが備えられている。
それは、まるで。
「闘技場……」
「気に入ってくれた? 気に入らなくても弥生の相手してあげてね」
ここが何なのか感覚的にしかわかっていないのに気に入ったかどうかなんて答えようがない。
「弥生先攻でいいよね?」
ビートダウン、つまり、攻撃によって相手ライフを0にするのが基本のフラムビーストにとっては、バトルフェイズの無い先攻よりも後攻の方が有利だ。
黙ってうなづく。
「それでは私から行きますね。スタートフェイズ」
――1ターン目、先攻、西村弥生
その掛け声を合図に、僕らはセットしてあったモンスターをオープンする。
すると、グラウンドのようなフィールドに紅蓮の毛並みと、燃え盛る炎で出来た耳と尻尾を持つ屈強な犬――『フラムビースト・ドッグ』が現れ、向こうには下半身が魚で青い鎧と盾、三叉槍を持つ青年――『マーマン・ソルジャー』が現れる。
「モンスターが、実体化した!?」
最近の大きい大会ではARを使ってモンスターを実体化させるエキシビジョンをやっているらしいが、そういうことか。
「メインフェイズ。『マーマン・ソルジャー』効果発動、デッキから『群れる小魚』を墓地へ送る。墓地の『群れる小魚』効果発動。このカードを封印し、デッキと手札から『群れる小魚』を召喚」
その宣言通り、フィールドに小魚の群れが二つ現れる。わかっていたことだが、まるでモンスター感はない。
「『群れる小魚』一体を墓地へ送り、手元から『海竜の御使い』を召喚」
牙の並ぶ口に長く伸びるひげ、薄く長大な身体を持ったモンスターが現れる。小魚の群れなんかよりはよっぽどモンスターらしい姿だ。
「『海竜の御使い』効果発動、自分のライフを150払い、デッキからHP100以下の魚族モンスター1体を手札に加える。私は『獰猛な怪魚』を手札に加える。『マーマン・アーチャー』を召喚してターン終了」
――西村弥生
ライフ1850
手札4枚、手元9枚
墓地1枚、封印1枚
フィールド、《マーマン・ソルジャー》1体、《海竜の御使い》1体、《群れる小魚》1体、《マーマン・アーチャー》1体
『マーマン・アーチャー』は『マーマン・ソルジャー』のような姿で、下半身が魚の鎧を纏った青年。違うのは持っているものが三叉槍ではなくボウガンのようなものだということ。
それにしてもなんだろう、この、デッキに対しての違和感は。
「僕のターン、ドロー。『フラムビースト・レオ』召喚」
僕の目の前に炎のたてがみを持つライオンが現れ、相手を威嚇するように咆える。
「楽しんでるところ申し訳ないけど、そんな調子だと進まないんだけど」
「すいませんねえ」
初めてなんだからいいじゃないかという文句を込めて溜息を吐く。
「『フラムビースト・レオ』効果発動、手元から『フラムビースト・エレファント』を墓地へ送り、攻撃力を+60し、エレファントの効果によりドッグとレオの攻撃力を+40する。『フラムビースト・ドッグ』効果発動、デッキの一番上のカードを墓地へ送り、攻撃力を+50する。墓地へ送られた『フラムビースト・グリフォン』効果発動。デッキから『フラムビースト・スフィンクス』を手札に加える。バトルフェイズ、レオで『マーマン・ソルジャー』を、ドッグで『マーマン・アーチャー』を攻撃」
攻撃を宣言すると、二体の炎を纏った獣は勢いよく駆け出し、弓と槍をもった人魚に襲い掛かる。
弓を射て槍を伸ばし迎え撃つが、それを躱した獣は相手の喉に食らいつき、苦しそうに悶えながら人魚は姿を消した。
「……ターンエンド」
――2ターン目、後攻、篠崎隼人
ライフ2000
手札6枚、手元9枚
墓地2枚、封印0枚
フィールド、《フラムビースト・ドッグ》1体、《フラムビースト・レオ》1体
――西村弥生
墓地3枚、封印1枚
フィールド、《海竜の御使い》1体、《群れる小魚》1体
「あまり動かないんですね」
「必要以上に動かないのも戦術だからね」
「そうですか、では私のターン、ドロー。『海竜の御使い』の効果発動、ライフを150払い、デッキから『獰猛な怪魚』を手札に加えます。手札から、『マーメイド・マリンロイデ』召喚し、『マーメイド・マリンロイデ』効果発動。デッキからHP130以下の水属性モンスター1体を封印する。デッキから、『マーメイド・マリンアゴ』を封印し、『マーメイド・マリンアゴ』効果発動。マーメイドモンスターの効果によって封印されたことで、デッキから『マーメイド・マリンアゴ』1体を召喚。『マーメイド・マリンアゴ』を転移元として魔法転移召喚。3ターン目以降、水属性HP70以上。『マーメイド・マリンアゴ』は水属性魔法転移モンスターの転移元となるとき、HP+50する。『マーメイド・マリンテルス』を魔法転移召喚。『マーメイド・マリンテルス』効果発動、デッキからHP150以下のマーメイドモンスター1体、『マーメイド・マリンクラーク』を墓地へ送る。『マーメイド・マリンクラーク』効果発動。しのざきさんの墓地に存在する『フラムビースト・グリフォン』を封印する。墓地に存在する『マーマン・アーチャー』と『マーマン・ソルジャー』を封印して手元から『闇の大鯨』を召喚。『闇の大鯨』の効果発動、手元に存在する『マーメイド・マリンクラーク』を墓地へ送り、相手プレイヤーに120ダメージ与える」
――3ターン目、篠崎隼人
ライフ1880
真っ赤な目をした黒いくじらが頭を下げると、背中から勢いよく水が噴き出し、薄い水色をしたバリアのようなものがそれを遮る。
それと同時に、思い切り殴られたような痛みを感じ、カードを落としそうになる。
「痛かった? でもバトルフィールドだから仕方ないね」
後ろから見ているだけの細峰がそう言って笑う。こっちは全然笑えない。
「もう一度『マーメイド・マリンクラーク』効果発動。『フラムビースト・エレファント』を封印します。自分のライフを100払い、手札から『獰猛な怪魚』を召喚。バトルフェイズ。『獰猛な怪魚』と『群れる小魚』で『フラムビースト・ドッグ』を攻撃、『闇の大鯨』で『フラムビースト・レオ』を攻撃、『海竜の御使い』、『マーメイド・マリンロイデ』、『マーメイド・マリンテルス』でしのざきさんを攻撃」
襲い掛かってくる魚と人魚から僕を守るかのように、再び僕の前に透明な水色をしたバリアのようなものが現れる。
マーメイドや『海竜の御使い』がそれを攻撃すると、今まで感じたことのない先程よりも強い衝撃に襲われ、膝をついてしまう。
「ごほっ……、な、なんだこれ」
「痛いの嫌なんだったら、さっさと弥生の事倒してしまえばいいんだよ。次のターンで倒してしまわないと、もっと痛い思いするかもしれないよ」
次のターンで決める、それが出来なければまた物理ダメージを受けると?
やるしかない。
でも、出来るかわからない。
それでもやるしかない。
「私はこれでターン終了です」
――西村弥生
ライフ1700
手札3枚、手元7枚
墓地4枚、封印4枚
フィールド、《海竜の御使い》1体、《群れる小魚》1体、《マーメイド・マリンロイデ》1体、《マーメイド・マリンテルス》1体、《闇の大鯨》1体、《獰猛な怪魚》1体
――篠崎隼人
ライフ1570
墓地2枚、封印2枚
フィールド、なし
出来るかわからない、じゃない。出来る気がしない。
相手の残りライフは1600、フラムビーストならそれくらい問題なく削り切れる。だから問題は大小六体のモンスターだ。フラムビーストは火力はあるが除去能力は低い。
100ライフを払って手札、手元からぽんぽん飛んでくる『獰猛な怪魚』、150ライフ払って魚族サーチの『海竜の御使い』の他に、封印時にサーチがある『マーメイド・マリンクラーク』が墓地に置かれている。
一体二体除去ったところで追いつかないのは目に見えている。
「僕のターン、ドローし、『フラムビースト・スネーク』を召喚。手元から『フラムビースト・ドッグ』を召喚。『フラムビースト・スネーク』を転移元とし、魔法転移召喚。4ターン目以降、フラムビーストと名の付くHP80以上1体。『フラムビースト・スフィンクス』。『フラムビースト・スフィンクス』、スネーク、効果発動。デッキから『フラムビースト・フェニックス』2体を墓地へ送る。『フラムビースト・フェニックス』の効果により、『フラムビースト・ドッグ』、スフィンクスの攻撃力を+150し、攻撃回数を1回追加する。手元からフィールドカード『フラムビーストの火山地帯』を発動」
『フラムビーストの火山地帯』を発動した瞬間、何もなかったフィールドが変化し、火山弾を噴き出す火口と紅蓮に輝く川が現れる。ただの運動場にも思えた場所が赤と黒の火山へと変貌を遂げた。
「『フラムビーストの火山地帯』効果発動、デッキから『フラムビースト・神鳳鳥エルフェニックス』を墓地へ送り、『獰猛な怪魚』に90ダメージ与える」
すると火口から飛び出した炎を纏った火山弾が鋭い牙を巨大な口いっぱいに並べた魚を撃ち抜き燃やす。
「『フラムビースト・神鳳鳥エルフェニックス』効果発動、自分フィールド上に存在するフラムビーストは攻撃力が+80され、次の自分のターン終了時まで相手の魔法カードの効果を受けない。バトルフェイズ、『フラムビースト・スフィンクス』で『マーメイド・マリンテルス』、『闇の大鯨』を攻撃、『フラムビースト・ドッグ』で『海竜の御使い』、『マーメイド・マリンロイデ』を攻撃……。ターンエンド」
――4ターン目、篠崎隼人
手札5枚、手元8枚
墓地6枚、封印2枚
フィールド、《フラムビースト・スフィンクス》1体、《フラムビースト・ドッグ》1体、フィールドカード《フラムビーストの火山地帯》
――西村弥生
墓地9枚、封印3枚
フィールド、《群れる小魚》1体
だめだ、全然足りない。
「それでは私のターン行きますね。ドロー。『マーメイド・マリンヒッポ』召喚して、マリンヒッポを転移元に魔法転移召喚。4ターン目以降、マーメイドと名の付くHP130以上1体。『マーメイド・マリンラブカ』。マリンラブカ効果発動、墓地に存在する水属性モンスター1体を封印して相手フィールド上に存在するHP160以下のモンスター1体を破壊する。墓地に存在する『マーメイド・マリンクラーク』を封印して『フラムビースト・ドッグ』を破壊します。マリンクラーク効果発動。マーメイドモンスターの効果によって封印された場合、デッキからHP100以下の水族または魚族モンスター1体を手札に加える。私はデッキから『マーメイド・マリンロイデ』を手札に加えます。墓地に存在する『マーメイド・マリンテルス』の効果を発動します。このカードを封印し、デッキからマーメイドと名の付く魔法または設置カード1枚を手札に加える。『恋慕するマーメイド』を手札に加えますね。魔法カード『恋慕するマーメイド』発動、封印されているマーメイドモンスター3体をデッキに戻し、カードを1枚ドローします。デッキに戻すのは『マーメイド・マリンテルス』、マリンクラーク、マリンアゴです。墓地に存在する『恋慕するマーメイド』の効果発動。このカードと『マーメイド・マリンヒッポ』を封印し、カードを1枚ドローします。マリンラブカ効果発動。墓地の水属性モンスター1体を封印し、デッキからHP200以下の水属性モンスター1体をデッキから墓地へ送る。マリンアゴを封印して、デッキから『マーマン・アーチャー』を墓地へ送る。マリンアゴの効果発動。デッキから『マーメイド・マリンアゴ』を召喚します。手元から魔法カード『泡沫のマーメイド』を発動。自分フィールド上に存在するマーメイドモンスター1体を破壊して、カードを2枚ドローする。破壊するのは『マーメイド・マリンアゴ』。墓地に存在する『マーマン・アーチャー』と『マーメイド・マリンアゴ』を封印して『闇の大鯨』を召喚。手元に存在するマリンアゴを墓地へ送り、しのざきさんに120ダメージを与えます」
――5ターン目、篠崎隼人
ライフ1450
再び現れた黒いくじらが、その背中から勢いよく水を噴出する。
薄い水色のバリアにそれは防がれるが、勢いよく殴られたような物理ダメージは飛んでくる。
「ライフを100払い、手札から『獰猛な怪魚』を召喚してバトルフェイズ。マリンラブカと『獰猛な怪魚』で『フラムビースト・スフィンクス』を攻撃、『闇の大鯨』と『群れる小魚』でしのざきさんに攻撃します」
くじらが勢いよくその巨体で突進を繰り出し、おまけ程度に小魚が薄い水色のバリアをつつく。
受けるダメージ量に比例しているのか、感じる痛みは先程よりも小さい。
しかし、痛いことに変わりはない。
――西村弥生
ライフ1600
手札5枚、手元5枚
墓地8枚、封印7枚
フィールド、《群れる小魚》1体、《マーメイド・マリンラブカ》1体、《闇の大鯨》1体、《獰猛な怪魚》1体
――篠崎隼人
ライフ1320
墓地8枚、封印2枚
フィールド、フィールドカード《フラムビーストの火山地帯》
「僕の、ターン」
どうして僕は今、こんな痛い思いをしながらMCGをやっているのだろう。
「ドローし、『フラムビースト・エレファント』召喚。『フラムビースト・ハウンド』を召喚し、エレファントを転移元として魔法転移召喚。5ターン目以降、フラムビーストと名の付くHP100以上1体。『フラムビースト・ケルベロス』。ケルベロス効果発動。デッキの上からカードを3枚墓地へ送り、1枚につき攻撃力を+50する」
ケルベロスの効果で送られた二枚目のカードは『連撃のフラムビースト』だった。今欲しいカードが使う前に墓地へ送られる。よくあることだが、今あってほしくなかった。
「墓地へ送られた『フラムビースト・ハウンド』効果でケルベロスの攻撃力を+50する。火山地帯の効果でデッキからグリフォンを墓地へ送り、『獰猛な怪魚』に90ダメージ与える。さらにグリフォンの効果でデッキから『フラムビースト・神鳳鳥エルフェニックス』を手札に加える」
目を思い切り閉じてこのターン、ケルベロスの攻撃力をどこまで上げられるか計算する。
しかしおそらく、80足りない。いや、80ならルートを変えれば捻出できるか。
西村さんの残りライフは1500。いけるか。
「手元から魔法カード『爆炎の猛撃』発動。ケルベロスを対象にし、そのほかの手元7枚を墓地へ送る。これによりこのターン終了時までケルベロスの攻撃力は+700される。更に『フラムビースト・ケルベロス』の効果発動。自分の手札、手元からカードを3枚まで墓地へ送り、送った枚数1枚につき+50する。手札から神鳳鳥エルフェニックス、スネーク、ケルベロスを墓地へ送り+150、エルフェニックス効果で+80、ケルベロス効果でケルベロスとハウンドの攻撃力を+150、スネーク効果で+20し、デッキからスフィンクスを墓地へ送り、ケルベロスとハウンドの攻撃力を+200、これで『フラムビースト・ケルベロス』の攻撃力は1420の三回攻撃となる」
その代わりに残っているものは手札が一枚とモンスター二体なのだが。
「バトルフェイズ。ハウンドで小魚に攻撃。ケルベロス、『闇の大鯨』、『マーメイド・マリンラブカ』、西村さんに攻撃――」
言い終わって気付いた。
誰も物理ダメージを受けるのは僕だけだなんて言っていない。
あのダメージが受けるライフダメージに比例して大きくなるなら『闇の大鯨』の効果ダメージの十二倍近いダメージ、僕が受けた戦闘ダメージの三倍か四倍のダメージになるはずだ。
いやでも、僕は耐えた。それに、これは向こうから仕掛けてきたんだ。やられることくらいわかっていたはずなんだ。
三つの頭から吐き出された炎は透明な薄い赤色をしたバリアに遮られていた。
攻撃が終わって炎もバリアも消えると西村さんの姿が視界に入る。
俯いてはいるけど何事もなかったかのように、手札を持ったまま膝をつくこともなく立っていた。
「これで……、終わり……、ですね……?」
そう言いながら西村さんは顔を上げる。
ダメージ設定が僕だけおかしいのかと思ってしまったけど違うようだ。
その声は震えていて、痛みを紛らわすためなのか唇を噛み、涙の浮かんだ右目は思い切り閉じられている。
「どーしたの? やることなくなったんだからターン終了宣言しないと」
完全に他人事とみているような声が後ろから届く。
「ターンエンド」
――6ターン目、篠崎隼人
手札1枚、手元0枚
墓地24枚、封印2枚
フィールド、《フラムビースト・ハウンド》1体、《フラムビースト・ケルベロス》1体、フィールドカード《フラムビーストの火山地帯》
――西村弥生
ライフ80
墓地12枚、封印7枚
フィールド、なし
右手を握りしめながら宣言する。
「私の……。私のターンですね。ドロー」
西村さんは長くゆっくりと息を吐く。
「『マーメイド・マリンヒッポ』を召喚します。それから手元から『マーマン・アーチャー』を召喚します。墓地に存在する『マーメイド・マリンラブカ』の効果、このカードを封印して、デッキからマーメイド魔法転移モンスター1体を手札に加える。デッキから『マーメイド・マリンテルス』を加えます。マリンヒッポを転移元に、魔法転移召喚。3ターン目以降、水属性HP70以上1体で、『マーメイド・マリンテルス』。マリンテルス効果によってデッキから『マーメイド・マリンミリオ』を墓地へ送る。マリンミリオがマーメイドモンスターの効果で墓地へ送られたとき、相手モンスター1体に70ダメージを与える。『フラムビースト・ハウンド』に70ダメージ。マリンテルスの効果発動。墓地のマリンヒッポを封印して『フラムビースト・ケルベロス』に90ダメージを与える。さらにマリンヒッポの効果で『フラムビースト・ケルベロス』に60ダメージ。バトルフェイズ。『マーメイド・マリンテルス』と『マーマン・アーチャー』で『フラムビースト・ケルベロス』を攻撃してターン終了です」
――7ターン目、西村弥生
手札5枚、手元4枚
墓地12枚、封印9枚
フィールド、《マーメイド・マリンテルス》1体、《マーマン・アーチャー》1体
――篠崎隼人
墓地26枚、封印2枚
フィールド、フィールドカード《フラムビーストの火山地帯》
ご丁寧に西村さんは毎ターン僕のモンスターを掃除してくださる。
「僕のターン、ドロー。『フラムビースト・レオ』を召喚し、『フラムビーストの火山地帯』効果発動。デッキからフェニックスを墓地へ送り、レオの攻撃力を+70してフェニックス効果発動。レオの攻撃力を+150し、攻撃回数を1回増やしてバトルフェイズ。レオで『マーマン・アーチャー』とマリンテルスを攻撃」
――8ターン目、篠崎隼人
手札1枚、手元0枚
墓地27枚、封印2枚
フィールド、《フラムビースト・レオ》1体、フィールドカード《フラムビーストの火山地帯》
――西村弥生
墓地14枚、封印9枚
フィールド、なし
何とか首の皮一枚繋がっているが、僕の負けはほぼ確実だろう。
「私のターン。ドローして『海竜の御使い』を召喚。墓地に存在するマリンテルス効果発動。マリンテルスを封印して、デッキから『恋慕するマーメイド』を手札に加える。魔法カード『恋慕するマーメイド』発動。マリンアゴとマリンテルス、マリンラブカをデッキに戻してドロー。墓地の『マーマン・アーチャー』と『闇の大鯨』を封印して手札から『闇の大鯨』を召喚。手元からマリンアゴを召喚してバトルフェイズ。『闇の大鯨』で『フラムビースト・レオ』を攻撃、『海竜の御使い』とマリンアゴでしのざきさんを攻撃します」
バリアが張られ、今までで一番痛くない物理ダメージが飛んでくる。
「ターン終了です」
――9ターン目、西村弥生
手札5枚、手元3枚
墓地12枚、封印9枚
フィールド、《海竜の御使い》1体、《闇の大鯨》1体、《マーメイド・マリンアゴ》1体
――篠崎隼人
ライフ1240
墓地28枚、封印2枚
フィールド、フィールドカード《フラムビーストの火山地帯》
「僕のターン。召喚可能なモンスターが存在しないので僕の負けです」
――10ターン目、篠崎隼人
ライフ1240
召喚可能なモンスター、なし
手札のカードは『連撃のフラムビースト』だ。
フィールドにいたモンスターが消滅し、ちょうど真ん中くらいから最初に見たような七色の閃光が放たれる。
気がつくと、僕はデッキ片手に教室の元いた場所で立っていた。
目の前には同じようにデッキを持った西村さんが立っていて、後ろには細峰が笑みを浮かべながら立っていた。
「はーいお疲れさまー」
西村さんはふらふらしながら一番近くの座席に座る。
「なかなか弱いね、君」
相性が悪かったんだ、と言いたかったがやめた。どうせわかって言ってるだろうから。
「弥生からは何かある?」
西村さんは何も言わずに首を横に振った。