戦績
前書きカード紹介第二弾。今回は前回の篠崎隼人対西村弥生戦で使われたカードの紹介をします。
マーメイド・マリンラブカ
水属性水族でHP250の魔法転移モンスターです。
魔法転移召喚の条件は4ターン経過とHP130以上のマーメイドモンスター1体となっています。
召喚時効果は対象のHP制約付き単純除去で、魔法転移召喚で失ったボードアドバンテージを即座に回収できます。一応、墓地コストとして水属性モンスターの封印があります。
フィールド上での起動効果は墓地をコストにした墓地肥やしです。枚数だけ見るとプラマイ0ですけど、登場したカードの中では、マリンアゴを封印して群れる小魚を墓地へ送るだけで最大三体の展開が可能です。
墓地での起動効果はこのカードを封印してのマーメイド魔法転移モンスターのサーチです。これだけでも優秀な気がしますね。
「なんだ、彼女に勝ったって聞いたからもう少し強いものだと思ってたんだけど、ちょっと、弱すぎだよ。ああ、本当に弱かったな君は」
地面に倒れ荒い息を漏らす雑魚を見下し嘲笑う。
「彼女も彼女だ。こんな、ただの無能に負けるなんて、いくら手を抜いていたとはいえ、抜きすぎだよ。その罰は……、そうだね、君に受けてもらおう」
本来ならあの娘に受けてもらうべきなのだろうけど、あの娘を傷つけることも、辱めるようなこともしたくない。
なら、どうすればいいか。
簡単なこと、目の前に程よい肉塊が横たわっているではないですか。
「睦月、後は任せた。適当に片付けておいてもらえないか?」
街灯の側に側に佇む青年――睦月に声をかける。
「おっけい、まかせろ。バトルフィールド、展開」
うめき声をあげるものと一人の青年が宣言と共に現れた七色の光に包まれて消えた。
睦月が負けるなんてことは微塵も思っていない。
ただ、僕が止めを刺せばよかったものを、睦月には面倒事を押し付けてしまったなと、申し訳なくなる。
このまま目を閉じれば想い人が現れ、手を引いてはくれないものか。
夜の空は、感傷に浸るには十分すぎるものだ。
「フェクダ、ポラリス、アルデラミン……。僕はちゃんと戦うよ」
とおいとおい星へ思い切り手を伸ばす。
「だからちゃんと見守っていて」
手を閉じても開いても、目の前にある星の光は変わらない。
「僕は……」
すっかり日も暮れて真っ暗な空に月が浮かぶ。
結局、広瀬の待つカードショップにはいかなかった。
少し悪かったかなと思ったけど、どうせショーケース眺めながらストレージ漁っているだけだろうからそこまで気にすることもないだろう。
文句言われたらその時はその時だ。
それにしても、やはりフラムビーストは全体的にみて除去能力が低い。魔法転移モンスターのHPも全体的に低めなのも問題だ。
マーメイド軸の中途半端にも思える【水属性】にも除去が追いつかなくなって負けるくらいには。
わかりきっていたことだけど、横に並ぶ系のデッキ相手は相性が悪い。
汎用から数枚除去カードかロック系を持ってくるべきか。
フラムビーストは墓地を肥やすことは得意だから、墓地利用系で除去豊富な別のカテゴリを交ぜた方が動きやすいのか?
その辺りはネットを見ながらの方が考えやすいか。
記憶違いや裁定によって出来る出来ないも変わるし。
違う、そうじゃない。それも大事だけどそうじゃない。
何かが違う。何かははっきり言えないけど、こう、何かが違う。
それにバトルフィールドだ。あれはいったい何なんだ。モンスターは実体化するし、本当にダメージくらうし。不思議なことにもう、全く痛くないけど。
唐突にダメージを受けた時の西村さんの顔が思い浮かぶ。
全く罪悪感を感じないわけじゃない。
だからこそ、あれは向こうから仕掛けてきたことなんだと正当化したい。
「やっぱ明日、謝った方が……、いいのか?」
いや、謝らない。あれはあくまで正当防衛だ。多分。
大きく息を吐く。
あまり良い気はしない。自宅玄関のドアすら心なしか重く感じる。
「ただいま」
何も返ってこない。寧ろ帰ってきた方が今日は休みだったのかと驚く。
デッキをいじるためにすぐ二階にある自室へ駆け込んだ。
すぐに鞄からデッキケースを取り出す。
棚からストレージを取り出してセパレーター三つ分のカードを積み上げた。
属性分けも種族分けもなんにもしてないので、どこに何があるかなんて覚えてない。
携帯のロックを解除MCGの非公式総合サイトを開いて、フリック入力を駆使して迅速にフラムビーストのデッキページを表示する。
「もしかして」
画面をスクロールし、お勧めカードを見ている時、違和感が何だったのか気付いた。
負けておいてあれだけど、何か中途半端な感じの漂うあのデッキに対してのカードの扱いやプレイングが問題なんだ。
モンスターの火力をあげ、連続攻撃で速攻を狙うフラムビーストというデッキを知らない初心者ならライフを払ってサーチ、展開するかもしれないけど、そんな初心者はたいていの場合カード一枚よりもライフを重視する場合が多い。
事実、僕も昔はそうだった。勝負に直結するからという安易な理由、デッキの枚数を増やしてライフゲインを多く入れていた。
それを考えると西村さんは、はっきり言っておかしい。
中途半端なデッキ構成でもフラムビーストの攻撃を凌ぎきるだけの自信か、負けようとでもしない限りあんなにほいほいライフを減らしたくはない。
確かにライフ2000を一ターンで飛ばそうと思えばフラムビーストなら簡単に飛ばせる。
だから最初からライフはないものとして、ただのコストとして見ていたのか。
ただ、パックは買うけどシングルでは買わないというのはあり得るし、半分くらいのプレイヤーはそんなものかもしれない。それならデッキに関しては何もおかしくはない。
しかし、バトルフィールドのダメージはどうする?
バトルフィールドでのプレイヤーの受けるダメージが平等に設定されているなら、あの痛みに慣れ過ぎてないか。
僕なんか一撃受けただけでやめたくなったというのに、MCGというのはそういうものだと悟っている、というより、何か別の覚悟や意思のような、戦闘不能まで戦わなければならないというものがあった。
細峰があのデッキを使っていたら、こいつなめていやがる、で済むものを。
なめていた? 確かに僕は最初、西村さんの外見から初心者だと思って手を抜こうとは思ったけど、痛いのが嫌で真面目に……、やって勝てなかった。
悔しいけど僕より強い。
「西村さん。下の名前、なんだっけ?」
細峰は覚えていると思う。確か皐月だ。
西村さんは最初、ただの転校生くらいにしか思ってなくて気にしていなかった。
新しくタブを開き、「西村 MCG」と検索する。
当然出てくるのはショップ大会の公式ページやMCG関連のブログやSNSのアカウント、全く関係のない企業のホームページだ。
出てくるなんて最初から期待していない。
公式SNSを開いて新パックの発売情報やキャンペーン情報なんかを特に意味もなく眺める。
新カードの情報以外にも大会や交流会の情報、大会出場者のデッキレシピなんかが基本的に発信している情報だ。
新カードを見てこれいいなと思ったり、大会出場者のデッキレシピを見てこいつのデッキはクソそうだなんて思っていると、何か妙に惹かれるデッキを見つけた。
それは先月別の場所で開かれたショップ大会準優勝者のデッキらしい。
プレイヤーの名前は三月うさぎ、デッキは【マーメイド】となっている。
大会でカテゴリ名を名乗るときはデッキの中にそのカテゴリに属するカードが一定枚数入っていなければならない、というのがある。だから別にマーメイドと名乗っても問題はない。
そのデッキや名前に問題があるわけじゃなくて、入っているカードがやけに見覚えのあるカードばかりなのが問題だ。
本人の写真はないし、三月うさぎなんてあからさまな偽名だ。
テンプレート的なデッキだという可能性も無きにしも非ずだし、このデッキを参考にしたというのもありえるけど、多分、西村さんその人なんだろう。
つまり二人とも、相応の実力があって僕に挑んできたわけだ。新手の嫌がらせかよ。
嫌がらせ、か。そういえば、デッキがクソデッキだということと、出会ってすぐにいじられたこと以外は別にそれ程西村さんは勿論、細峰にも何かされたわけじゃないのに、何をそんなに嫌ってるんだろう。
まあいいか、別に。
「明日だ、明日」
伸びをするとつられて欠伸が出る。
デッキいじる予定だったのになんにもいじってない。ネット見るだけで時間が過ぎてた。
「こっちも明日でいっかなー」
やらない人の常套句な気もする。
腹も減ったし、それからでも遅くないだろう。
さて、今日の晩飯はなんになるだろう、何があるだろう。インスタントラーメンかレトルトカレーかパスタか。
部屋を出る時に少し悩んだ結果、一人で回すのに一応デッキを持って降りることにした。




