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疑心

「何者かと言われても、私はこの国に流れ着いたごく普通の魔術師です」


手元にあったギルドの証をイグニスに見せる。最下層のギルドランクを提示することで、何かしら警戒を解けないかと思ったが、彼女の反応を見るに逆効果だったようだ。


「魔術師が肩書や見た目で相手を判断すると思うかい?」


悪手だった。まるで確信を得ているかのように鋭く問いただしてくる。正直なところ全てを話したとしても信じてもらえるような内容でもないし、金銭面でこの国に滞在しているだけで、功名心もなければ承認欲求を満たしたいわけでもない。


目的はただ、アンリが望むままにのびのびと生活してほしい。それだけだ。


「いえ、申し訳ございません。歴戦の学校長に見せるものではありませんでした。しかし、私という魔術師を示せるものは他にございません」


口で躱すことが出来ないだろう。であるならば、率直に答えることでこれ以上の墓穴は掘らないようにするべきだ。

イグニスもそれを察したのか、ニヤニヤと釣り上げていた口元の広角が僅かに下がり、校長室の空気の熱も下がったように感じた。


「なるほど、少しからかいすぎたねぇ。君がその気なら、このまま我が校の教師たちと試合を…なんて思っていたが、どうやらそんな気分ではないみたいだね」


軽い咳ばらいをして、炎の髪を揺らし姿勢を正すイグニス。


「すまない。君に不快感を与えるつもりはなかった。私の悪い癖だ。まずは友人として、というのも厚かましいだろうから、学校長と生徒の親といういたって普通の関係から始めよう」


こちらの警戒心に対して、先ほどとは打って変わった謝罪が行われた。正直なところ、今までの会話の中でこのイグニスという人間を計りかねている。修羅場を生きた数が違うのだろう、見透かしたような態度をとったと思えば、すべてがブラフのようにも感じる。なるほど、国々で信用されずに放逐されたこともうなづける。


「して、君の話はおいておくとして、えー、アンリ君についての話をしようか。あ、それでいいかね?」


罰の悪そうな顔をしてなんとも生ぬるい空気の中、ようやくこちらの本題に入ることができそうだ

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