第89話「黒の十字架と、囚われの大佐」
前回のあらすじ……。
担当:ルネ・アーサス
ゼークルト達を倒して、あたしたちは遺跡の最深部へ着いた!
やっとだよ~。
扉を開けると、目の前には見たこともないでっかい古代遺産が!
わぁーお! テンションあがっちゃうね~!
これ持てって売ればいくらするんだろ……きっと一生暮らせる金が……!
ってそんな事考えてる場合じゃないね。
さすがのあたしも自主規制。
あたしってば大人!!
でも調べなきゃ結局なんにも出来ないからとりあえず調べる。
でも、調べてるうちにそれが普通じゃない事が分かってきた。
複数文明を複合した装置なんてまともに開発されてるはずないのに……。
こんな高度な技術があったなんてビックリ!
んであたしはなんとか情報盤を発見!
これである程度は分かりそうな気がするけど、これを読める研究所ってなるとそう簡単にはな~。
あたしは発掘専門だから、そう言うのは知識がないし……。
どうしよっかな~…………。
――――
「はぁ……はぁ……なんとか出れたわね」
リナは息切れしながら言った。
「クッソ! こンなトコ二度と来るか……」
ジャミルは苛立ちながら言う。
「だぁ~、もぉ~、とりあえず休もうよ~!」
ルネはげっそりしながら今にも倒れそうになる。
「待て待て……夜が明けそうだ……今休んだら晴れて『黒の十字架』とやらにご対面だ……」
俺だってホントはルネに大賛成だが、それは出来ない。
「だなァ……今鉢合わせたらマジで死ぬぞ俺らァ……」
さてさて、俺らがなぜこんなにボロボロか。
それはまあ、ゼークルトのせいだ。
あんのクソトカゲ、1体1体が強いくせに次から次へと湧いて出てきやがる。
エルがいればだいぶ楽になったんだけどなぁ……。
今までエルに頼ってたのがよく分かるぜ……。
「とりあえず、急ぐわよ」
リナの一言で俺達はここを立ち去る事にした。
それから俺らは、ここから1番近い街である『港町ハックル』へと向かう事になった。
――――
「遺跡に……侵入者?」
時刻は早朝、場所は遺跡の入り口前。
そこに立っている長身でがっしりとした体つきの大柄の男はそう言った。
大柄の男は、騎士だった。
しかし、身に付けているのは銀色では無く、漆黒の鎧。
話している相手は、テレスの向こう側の女性だ。
《はい。実は少し前から正門前の騎士と連絡が取れない状態でした》
女性は無機質な声で淡々と話す。
「フン、まさかあそこに忍び込む物好きがいるとはな。……ただの旅人ではあるまい」
大柄の男の眼つきが厳しくなる。
「恐らく……あの装置を作った者本人か……もしくは"賢者"側の人間か……いずれにせよ、あまり好ましい情報ではないな」
《そうですね。少し、油断しすぎたかもしれません》
セリフとは違い、その声に感情は籠っていなかった。
「ふ……いいさ。ここが空振りに終わろうとも、いずれ戦力は揃う。誰にも留めることなど出来ぬさ」
大柄の男は、ニヤリと笑った。
《その慢心が重大なミスを生まなければいいのですが》
テレスの声は否定的だった。
「ふん、どうせこちらはサブプランだ。フラッズ参謀長も色々手を伸ばし過ぎる」
《愚痴なら後にしてください。それよりも侵入者の目的が気になるのですが》
「戦争を止めたいと思う奴はいくらでもいる。騎士団の動向が戦争へ向かっているのも有名だ。だが、わざわざ侵入までするとなると、これからも少々目触りになる可能性もある」
《そうですね。ところでそろそろ任務を再開してほしいのですが》
「ロゼス、ここに侵入者がいたならば、中を見るまでもない。任務は中止だ。帰還する」
《了解》
大柄の男は、ロゼスと呼ばれた女性との交信を終えた。
「ゴーシュ。やっと終わりましたのね。それで、話の内容からすると任務は中止ですの?」
ゴーシュと呼ばれた大男の隣の、漆黒の女騎士がそう言う。
黒い鎧とは対照的な綺麗な金髪の長い髪が特徴だ。
「そうだ。詳しい話は後でする。ラミア、ローズ、バシス、ルーラ、戻るぞ」
ゴーシュはそう大声で言う。
「へぇ~いへいっと。ほ~れお前ら、撤収だ撤収。よかったなぁ~、遺跡の中なんでめんど臭くて嫌だったんだ~」
ローズと呼ばれた男は頭の後ろで腕を組みながら軽い口調でそう言う。
陽気な口調と裏腹に、顔には何針も縫ったような傷があり、死線を経験してきた事を物語らせる。
「シッシッシ……魔物の群れ目の前にして退散とか残念無念。暴れ足りねぇストレス爆発寸前だ」
髪を眼の下まで伸ばした小柄な男は、クナイをくるくるとジャグリングしながら妙に甲高い声で言った。
「バシス、勢い余って部下に手を掛けたりは無しよ。戦力が減るわ」
そう注意したのはルーラという名の眼鏡を掛けたツインテールの女騎士。
「ウザい死ね鋼鉄頑固女」
「なんですってぇ!?」
バシスはルーラに向かってクナイを投げる。
ルーラは容易く見切って避けるが。
「ま~た始まったよこのすっとこどっこい共ぉ~。ほ~れ、ケンカしてね~で行くぞ~っと」
「早く行かないと置いていきますわよ~」
先に行ったラミアとローズがそう言う。
その様子から、二人の喧嘩は日常的なのだろう。
一行はほどなくして、ここから立ち去った。
――――
「貴様……これはいったいどういう事だ!」
白髪の大男――アレン・ブエノースは叫んだ。
ここは、ドーイング駐留軍基地の一室。
普段は郊外の屋敷で寝泊まりしている彼だが、さすがに襲撃があってからは厳重な警備の元、駐屯基地の一室のベッドで警護を受けていた。
現在意識は回復し、順調に治療が進んでいる。
だが、彼の内心は穏やかではなかった。
「どういう事とはどういう事でしょうか? 情報はこの書類に書いてあるだけで十分でしょう?」
そう言ったこの男は、ドーイング駐留軍の軍長、ウェルナー大尉だ。
「私は、"犯人は金髪の男"だと証言したはずだ! なのに……何故容疑者が変わらない!?」
ブエノース大佐は憤怒していた。
「大佐……あなたは混乱しているのですよ。私どもの捜査によれば彼女が犯人なのは間違いありません」
ウェルナー大尉は、さも自信に充ち溢れたような表情で言った。
「出まかせを言うなッ!」
「大佐。確か容疑者、ルネ・アーサスは、大佐の姪でしたね?」
ウェルナーは大佐に背を向けて言った。
「……それがどうした」
大佐は思わぬ発言に面食らった。
「身内をかばいたい気持ちは分かりますが、事実は変りませんよ」
大尉は冷たく言い放った。
「くッ……貴様の考えは分かっている。私の証言が通れば冤罪を犯した貴様はタダでは済まないだろう。自分の地位をどんな方法を使っても死守する……貴様はそういう男だ」
大佐はウェルナー大尉を鋭く睨む。
大佐にとってウェルナー大尉は狼のような部下だ。
地位にどこまでも固執し、どこまでも上へ上へと貪欲に突き進んでいった。
賄賂、裏取引、不正、なんでもする上、それを掴ませない頭のキレをも持った意地汚い男だ。
その頭脳は大佐という地位を使ってもどうにもならないくらい、完璧なシナリオを作っていた。
しかし冷静に考えれば、その頭脳を持った男が冤罪ごときで左遷の危機に陥るなどおかしな話だった。
だが、頭に血が上ったブエノース大佐は、言われるまでこの事に気付かなかった。
「ふふふ……それだけではありませんよ? 彼女いや……彼らにはどうあっても消えて貰わなければならなくなりましてねぇ……」
「……彼ら?」
ブエノース大佐は、疑問を顔にあらわす。
当然だ。
彼はアーク達を知らない。
「いいでしょう。私も少しだけ腹を割って話しますよ。そうですね……あなたの“落し物”を探している……こういえば分かりますか?」
そのセリフを聞いた瞬間、ブエノース大佐の顔が強張った。
「ッ! まさか……マクシミリアンの差し金かッ!!」
どうやら大佐は、騎士団帝都本隊の参謀長が"落し物"――ブラストレイズ収集にかかわっている事を知っていたようだ。
だが、それにウェルナー大尉までもが関わっていた事には気付いてなかった。
「おや、察しが良いですね……あなたの手にあるうちはうかつに手を出せませんでしたが……探し物なら容易いでしょう」
あくまで騎士団上層部は、表ざたにならないうちにブラストレイズを集めようと動いている。
表ざたになってしまえば、仮想敵国、セトラエスト王国に感づかれてしまうからだ。
ともすれば、いきなりブエノース大佐を襲う事も出来ない。
そもそも、ブエノース大佐は上層部がブラストレイズを狙っている事を知っていたし、上層部も大佐が"賢者"である事を知っていた。
お互い、水面下での争いだったのだ。
それが、先の襲撃事件で均衡が崩れ、このような結果となってしまったのだ。
「……おのれ……ッ!」
自分のブラストレイズが奪われ、さらに騎士団はそれを回収しようとしている。
そこまで分かっていながら、この体でさらに"敵"のど真ん中ではどうしようもない。
ブエノース大佐は、自分の無力さに歯ぎしりをした。
「どの道、あなたにはどうする事も出来ないでしょう。今のあなたには武器もない、仲間もない。……この基地にいる数百人を敵に回す事になりますよ? 命が惜しくば、おとなしく軟禁されている事が賢明ですよ」
「くッ……!」
迂闊だった。
ブエノース大佐は後悔していた。
「(まずいな……。襲ってきた金髪はブラストレイズを多重装備していた。目的は間違いなく全ブラストレイズの収拾だろう。そんな奴を野放しにする訳にはいかないが、しかし騎士団の手に渡ってしまっては更にまずい。下手をすれば……セトラエスト王国との全面戦争が勃発してもおかしくは無い。それだけは避けなければ……)」
ジルドと面識も、いや存在すら知らない彼だが、目的は彼と全く同じだった。




