第88話「遺跡から得た手掛かり」
前回のあらすじ……。
担当:ジャミル・ハワード
俺達はなンとか遺跡に侵入できたみてェだ。
にしてもアークの野郎慎重すぎだぜェ。
暴れねェとストレス溜まっちまうっつーのォ。
漢は黙って強行突破って決まってンだよォ!
しかも俺らが考えた連携は結構上手く行ってて我ながらちょっとビックリだぜェ。
それァともかく、リナが俺の事ジミージミーってウゼェンだがァ……。
俺の名ァジミーで固定なのかァ?
嫌だァァァ!!
あ、これあらすじじゃねェわァ……。
――遺跡内部・三階層――
「ジミーッ! そっち行った!」
「ジミーじゃねェけど分かったッ! ファイアバレッド!!」
ジャミルの炎の弾丸が連続でゼークルトに当たる。
「ガアアァァ!」
胸の正面から炎を受け、うめき声を上げていた。
ゼークルトは瀕死状態だ。
「貰った~ッ! 空襲脚!」
ルネは高くジャンプして、勢いを付け一気に真上から風を纏ったキックを放つ。
ゼークルトは火傷の痕にキックを喰らい、後ろに飛んだあと、起き上がらなくなった。
「ふう……終わったな」
俺はたび重なる激闘でため息を吐いた。
さすがに疲れたぜ。
「ああもう魔物多いわね~! これで何体目よ!」
ルネはイライラしながら、だらーんと両腕を前に倒していた。
「知るかァ。ンなのいちいち数えてっかよォ」
ジャミルも溜息を吐きながら、右手で前髪を掻きあげて言った。
「13体目」
「数えてンのかよッ!」
リナが無表情で答え、ジャミルが驚愕した。
まあそんな事はどうでもいい。
気がつくと俺達は如何にもな感じの扉の前に辿り着いていた。
その二枚の扉には、なにかの彫刻が描かれていた。
すり減って見えづらいが、これは多分龍だ。
龍は大昔天災によって絶滅したと聞いていたが……これを作った時代に龍は存在していたのだろうか。
「うん。ここだな。間違いない」
考えても仕方ないので俺は周囲に確認を取る。
「だろォな」
「ん」
リナは黙ってうなづく。
「じゃ、はいっちゃうよ~?」
ルネは元気よく扉を開く。
ギィ……と古びた扉にありがちな効果音を出しながら、扉は開いた。
「うわ……すご……」
ルネの第一声はそれだった。
俺達は言葉も出ない。
俺達の前には、巨大な機械が堂々と居座っていて、なんかところどころ青白く光っている。
機械の至るところには触ったらヤバそうなスイッチやコードなんかがいっぱいあった。
「それで? なんだっけ? これぶっ壊せばいんだっけ?」
リナは平然とした顔で元も子もない事を口にする。
「待て待て待て俺達は手掛かりを探しに来たの!! なんでお前は猪突猛進なんだよこの猪野郎!」
「コロス」
「ちょまて――ぶへっ!!!」
俺は30秒の間気を失った。
「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! いきなり顔面パンチっていくら俺でもキレるぞぉぉぉーー!!!」
「おおお、落ち着けアークゥ! ンな事したら装置がァァ!!」
「うるせぇぇぇ知るかぁぁぁ!!」
俺は久々にプッツンし、理性を失い暴れようとしたが、ジャミルに押さえつけられてそれは出来なかった!
「猪呼ばわりしたアンタが悪い。アタシは無実」
リナはこの状況でも動じず、ただただ身の潔白を主張していただけだった
「ぜぇぇ、はぁぁ、この野郎……それが全力顔面パンチに匹敵する罪かよ! 明らかに適性レベルを越えてんだろ!! 万引きで死刑レベルだぞこれは!」
俺はというと、徐々に理性を取り戻していたがそれでも怒りは収まらない。
「被害者はアタシ。加害者は――」
「――動くな」
ドスの効いた、低く鋭いがした。
まるでその声自体が刃物であるかのように、俺達に突き刺さった。
人物の姿は見えない。
「よし。そのまま両手を頭の後ろに付けろ。妙な真似はするなよ」
俺たちは言われた通りに両手を付けた。
ジャミルやリナが暴走しないか心配だけど大丈夫そうだ。
心臓の鼓動が跳ね上がる。
やっべー、騎士か?
でも騎士ってこんなに慎重だったっけか?
なんなんだよもう、騎士はまだ入り口にしかいないんじゃなかったのか?
もしくはなんか別のヤバい奴?
そういやザイルも最初にあった時はこんな感じだったっけな~、と必死で呑気な事を考えようとしたけどやっぱ無理、冷や汗が止まらない。
「悪いな。子供相手にこんな事する大人もどうかと思うが、職業柄、こうしないと安心出来ん。それに、今や強さは年齢に比例しないからな」
そう言って拳銃を向けながら俺達の前に出てきたのは、銀髪に褐色の肌の騎士だった。
手には一丁の拳銃が握られていた。
体外装備兵器か?
ジャミルのよりも少し小型だ。
ただ、声はさっきよりは若干柔らかくなった感じがしたけど。
「ジルド・クロームドという男を知っているか」
拳銃を下して問いかけた。
ジルド……?
そう言えば、ジルドの話に出てくるスパイは、褐色の肌だったような……。
「知ってるわ。というか、アタシの事も知ってるでしょ。早くそれどけて」
リナは全く緊張していない声で、しかも褐色騎士をジト目で見ながら言った。
「おぉ、リナ・ベルナールか。そう言えば一緒に居るんだってな。まあ、楽にしてくれ」
スッと、拳銃を腰にしまった。
ふぅ……、なんか緊張が解けた感じだぜ……。
「どうせクロ-ムドが話したんだろう。あえて名乗りはしないが、敵ではない。それと同時に味方でもないがな」
褐色騎士は釘をさすように言った。
ええと名前は確か……、ヴィクトリア・マクラーレンってヤツだったか。
ジルドの協力者で、セトラエスト王国王都軍のスパイ。
今は騎士団に侵入してるから騎士の格好なのか。
「俺はもう情報は集め終わった。あとは君達のやりたいようにやればいいさ。俺はもう行くよ」
そう言って、俺達の間に割って入るように歩き、出口へと向かっていく。
情報か……。
おっさんの言ってたように、遺跡から騎士を遠ざけて情報を独占するつもりだったんだろうな。
「おい待てよ、よかったら協力しないか? 俺達の目的は、ジルドと同じだし」
ザイルについての手掛かりが欲しいのは、俺だってジルドだって同じだ。
そう思って振り返りながら手を添えて大声で言ったが、
「勘違いするなよ。俺は自分の目的にクロームドが必要だから協力していただけだ。今、俺の目的に君達は必要ない」
それだけ言い残して、暗闇の中に消えてしまった。
「ケッ、随分とドライな野郎だなァ。職業柄ってヤツかァ?」
その様子をジャミルは睨みつけるように見ていた。
どうしたんだ? と言おうとしたら、
「――見つけたぁ!!」
と、ルネの叫び声が聞こえてきた。
ん?
そういや珍しく絡んで来なかったな。
「何を見つけたんだ?」
「情報盤よ!」
と言って差し出したのは、銀色の丸いくて薄い謎の物体。
「なんだこりゃ」
と言うしかない。
「も~! そこから!? これは神聖ゲデラント文明で情報源とされていた物なの! あ~……簡単に言うと、あたし達の文明レベルの書物みたいなものかな」
ルネ先生の講習が始まった。
だが、俺達3人は古代文明については素人。
ここで覚えておいても損はないだろう。
「書物だァ? ドコにも文字なんて書いてねェじゃねェか」
ジャミルは不思議そうに『情報盤』とやらを四方八方から眺める。
確かに文字は書いていない。
表面は多少汚れているが綺麗だ。
「違うのよ。これはね、専用の機械で情報を読み取るのよ。情報が載せられている円盤。だから情報盤っていうの。まあ名前は今の人類が考えただけだけどね」
なるほど……言ってる事はなんとなくわかる気がする……。
「理解。つまり、読み取る機械がないとタダのゴミ?」
リナは遺跡の機能していない機材の上に座りながら淡々と言った。
「そうなのよね~。でも、情報盤の情報を読み取る技術は確立してるはずだから、どこかに専用の機械があるはずなんだけど……」
ルネは周辺の機材を探して回っていたが、一通り見た後に首を横に振った。
どうやら、あったはいいものの壊れていて機能していないらしい。
「ンでェ、結局ソイツを調べると何が分かンだァ?」
ジャミルは話についていけないのか、頭を掻きながらめんどくさそうに言う。
「そこまではちょっとね~……ただ、この装置がなんなのかは少なくとも分かると思う。情報盤は何が凄いのかって言うと、本や紙なんかよりは比べ物にならないくらいの情報を圧縮できるの。掌に乗る程度のこの情報盤だって、本にしたら10万3千冊以上の内容が入っててもおかしくは無いのよ」
「どこかのシスターの頭の中みたいね」
「おいお前らぁぁぁ! 世界観をまたぐボケはどこから突っ込んでいいか迷うからやめろぉぉ!!」
俺は全身全霊を掛けてこれ以上被害が広がらないように努めた!!
「それだけ大量の情報を保存できるから、逆に手に入る情報も大きいと思うんだ」
ルネは何事もなかったかのようにさっきの話を纏めた。
「ンで結局なンなンだよォ! 100文字以内で纏めやがれ!」
ジャミルが理解できなくてイライラしてる!
「つまり、この情報盤を解析できれば色々情報が手に入る。以上」
「随分簡潔にまとめたな……さすがリナ……」
サルでも分かる情報盤、とか本を出せそうだ。
「なるほどなァ……よォし、じゃあその円盤持って逃げるとするかァ! ン? 待てよ? ってことはルネが見てもこのデカブツはなンだか分かンなかったって事かァ?」
お、ジャミル意外な事に気がついた!
確かにそうだな……この装置をルネが見れば何か分かるもんだと思っていたが……。
「まあ、そうなのよね~。実はこの装置、やっぱ古代文明じゃないわね。ごく最近作られたっぽいのよ」
ルネは顎に手を当てて深く考えながら言う。
「いやまあ、騎士団もそれは指摘してるし、問題はそこじゃないの。重要なのはこれが複数の文明を複合させて作られたって事なのよね~」
「複数の文明?」
装置を見ながら、う~んう~んと唸るルネに確認する意味で聞き返す。
「うん。まあ大きく言うとダール文明、神聖ゲデラント文明、アーデラ源流文明とか、この三大文明以外にも多数の文明の技術が混ざってるの」
「ここまで理解。つまり何?」
「……今の技術だと、2種類の文明くらいは合体出来たけど、こんなに複数の文明が混ざってるなんてありえないのよ。あたしにとっては未知の技術も良いところなのよ……」
ルネの表情が落胆に変わる。
「つまり、見てもよく分からないってことか……」
「そ~そ~。ただやっぱり、特殊な音波を出してるって事は間違いなさそうだね~。後はこの情報盤を調べてみないとなんとも言えないね」
ルネは手に持つ情報盤をコンコン、と叩いた後、ショルダーバッグの中にしまった。
「なるほどな。まあ、『黒の十字架』とやらが騒ぎを聞きつけてやってくるかもしれないし、早いとこ退散したほうがいいな。もう調べ終わったし、装置は壊すんだろ?」
『黒の十字架』に、戦争に使われるかもしれない技術を残す訳にはいかないからな。
「アタシの出番ね」
「腕が鳴るぜェ!」
お前らなんでそこで楽しそうな顔するかな!!
「あ、大丈夫大丈夫、これで十分! アーク、ナイフ貸して」
「ダガーだよ!」
ルネは俺からダガーを受け取り、隅っこにある小さな配線を切った。
すると、青白く光っていた装置は光を失った。
「ある配線を切ると、使用不能になるっていう特徴の文明があってね、その配線はカモフラージュされて壊されるのを防止されてるんだけど、アタシの目にかかればこんなもんね!!」
ルネは得意げにウインクする。
「…………そう」
「…………あァ」
なんでお前らは無駄に落胆してんだよ!!
破壊魔かお前らは!!
ともあれ、俺達は無事手掛かりを手に入れたのだった。
この“手掛かり”が、後に多くの犠牲を生み出す事も知らずに……。