第83話「事態の収拾」
前回のあらすじ……。
担当:ヴィクトリア・マクラーレン。
俺は騎士団と上手い具合にはぐれ、クロームドと合流した。
しかし、ここでアルバートの奴と会うとはな。
奴とは昔ある作戦で知り合って以来、ウマが合うというのもあって割と親しい関係にはなっていた。
最も、奴も俺がスパイだとは当然気付いていないが。
そんな事を考えつつ、クロームドに手短に情報を渡す。
ここまで知れば、装置が発動しても、周辺の魔物はクロームドが駆逐してくれるだろう。
オレはその間、装置の情報を集めるだけだ。
しかしこれが国家機関ではなく、一集団の行動だとすると、また話は厄介になってくるな……。
――輸送駆動車の荷台の上――
「アーク!! 早く乗って!!」
輸送駆動車の上でリードが、向かうアーク達に向かって叫ぶ。
オレはあの後、マクラーレンを置いて急ぎ地上へ脱出し、丁度発進準備をしていた騎士団の輸送駆動車に乗せて貰っていた。
「おい、他の騎士はどうしたんだよ」
輸送駆動車に乗り込んだアークが言う。
聞けば、騎士団は最深部で奇襲を受け、数えるほどしか脱出できなかったという。
こりゃあいよいよヤバそうだわ。
「壊滅……したんだ。あの凶暴化した魔物にやられて……」
アークの言葉にリードが言い辛そうに答えていた。
こんな状況、普通なら一目散にとんずらするところだが、今のオレにはこの事態を収拾できる“力”がある。
ブラストレイズ、ミラージュによって使用可能な魔法のうち、一つはここ一帯を火の海に変えられるほど強力な物がある。
だが、それを今ここで使えば、自爆どころか騎士団も巻き込んで全滅だ。
強すぎる火力ゆえに、近距離じゃ使えない。
要するに、一度村まで戻って、そこから攻撃する必要があるのだ。
「驚いてる場合じゃないよぉチミ~、その大群が村に押し寄せたら被害はこんなもんじゃすまないよ~?」
「そうだな……っておっさん!?」
アークはどうやらオレの存在に気づいていなかったらしい。
この少年もまさかオレが今から遺跡ごと魔物をぶっ飛ばすなんて夢にも思ってないだろうな……。
――ドーイング――
駆動車は発進し、無事村へと着いた。
が、村の有様は混乱していて酷いものだった。
しかし、避難する必要なんて、今からおっさんがふっ飛ばしちゃうけどねぇ。
そんな気楽な事を考えつつ、オレは避難民を押し寄せて最北端へと向かう。
「おいそこのおっさん! ボケたのか!? そっちは魔物が迫ってる方だぞ!!」
んげッ!!
この声はアーク!?
「アークか!? いいから、おっさんの事はほっとけって!」
あっちゃー、こっちに走ってるの見つかっちゃったか~!
アーク一応ブラストレイズ所持者だし、あんまオレが使ってる所見られたらやばいんだけどな~……。
「おいおっさんどうしたんだよ! マジで死ぬ気か!?」
ラインに関わるなって散々念押されてたんだけどなぁ~……ええい、すまんライン! この状況じゃもうしょうがねぇ!!
「ったく、誰に似たのかしょうもない少年だこと。にしてもまあ、疾風の翼が出張ってくれんのはありがたいが、その程度の砲撃じゃぁねぇ~」
オレは応援で駆けつけた盗賊団の空駆船に目をやる。
それで撃退出来ればオレはお役御免で事なきを得るが、そうもいかないようだ。
「ま、ここまで着たら仕方が無い。とりあえず危ないから下がってな!」
よし、この辺からなら魔物の群団を十分狙える。
オレはアークの目の前で、ミラージュを発動した。
「――出でよ、万物を司る源よ」
目の前に何枚ものカードが現れ、その一つを手に取る。
「灼熱の世界に君臨せし、絶対の力を持つ炎帝よ。許されざる者に地獄の火炎を与え、煉獄へ招き全てを無へ導け。爆熱の焔!!」
――現在:アーク視点――
「――とまあ、あとはアークの知ってる通り。オレの知ってる話はこれだけだ」
と目の前のおっさんことジルドは言って、ようやく長い話が終わった。
やべぇよ、長すぎてどこから振り返ったらいいのか分からんもう。
とりあえずアレだ、まずおっさんと親父は親友だった。
んで、ザイルは一回親父に殺された(?)のに八年後復活してリナの親父を殺す。
その間色々頑張ってたおっさんは、謎の情報屋ワルキスと、謎のスパイマクラーレンと知り合う。
ちなみにそのワルキスは俺達も知ってるあのコミカル骸骨と同一人物。
んで王国の北に行ってリナを救出し、そのリナがおっさんの話を聞いて幽霊船へ。
おっさんは無人島でタリスマンに合うけどその直後ザイルにやられた。
次はバスキルトでスパイさんと合流して情報交換、と。
分かった事はザイルとエイリアスは仲間っぽいらしい。
んでもう一人、ローランド・ワインバーグという研究者。
あと、ザイル達と敵対関係にある、黒の十字架。
これは騎士団のやべー組織で、戦争しようぜっ! って言ってる連中の手下。
最後に、リードから聞いた謎の装置はザイル達が騎士団を攻撃する為に用意したっぽいけど、それをザイルが教えてくれたって事はどうなんのかなー。
結局なんかまだまだ分からん事は多そうだ。
「ま、おっさんの話はそんな所だからさ、早く“それ”食った方がいいんじゃない?」
ん……?
そう言えば何か忘れてるような……。
「うぎゃああぁぁぁぁぁ!!古代麺が延びてるぅぅぅぅぅ!!」
汁気0%だよこれぇぇぇ!!
なんか麺が太くなってミミズみたいに絡まってる!!
「かっかっか!ちゃんと残さず食うんだぞ~?それ、最後の一個だからねぇ~!」
なんだこのオチ……。
しかし空腹には勝てず、これを拒否したら激辛しか残ってないので食う事にした……。
「う゛~……」
ズルズル。
俺は伸びた古代麺をしかめっ面しながら食っていた。
おいおい……超絶シリアスな過去話の後こういうのってどうなんだよ……台無しってレベルじゃねーぞ……。
「さあてぇ、話も"全員"に聞かせたし、次の行動を決めちゃっていい?」
「全員?」
聞いたのって俺だけじゃ……。
「かっかっか、盗み聞きはよくないよねぇ~」
そう言ってジルドはテントの入り口をめくった。
すると……。
入口に耳を当てている三人の人間が。
うわぁ、ルネ、ジャミル、リナ……お前ら全員聞いてたのかよ!