第82話「明らかになる事実と、迫りくる危機」
前回のあらすじ……。
担当:ジルド・クロームド
行き倒れていた所を助けてくれたのはアークとその一行だった。
まあ感謝はしてるけど、正体ばれる訳にはいかないのよねぇ。
そんなわけで、マクラーレンと合流を果たす為、オレはドーイングへとやってきたが、そこでは賢者アレン・ブエノースがアークのツレに襲われたという不可解な事件が発生していた。
――バスキルト砦内――
オレはあの後、村内でアーク、ジャミル、リナと合流した(名前はアークに聞いた)。
三人にルネが容疑者で捕まってる事を報告し、犯人がやはりザイルである事を付きとめた。
最終的に騎士団にいるリードからバスキルト砦内で金髪の侵入者がいるという情報を元に、4人で砦へと侵入した。
その直後、マクラーレンから連絡が入ったので、オレはアーク一行から離れ、合流場所へと向かっていた。
「ここか……。まったく、マクラーレンから地図を貰ってなかったら辿りつけなかったなぁ……」
地図を見て行ったり来たりしながら、ようやく辿り着いた場所は、何の変哲もない部屋だ。
何の変哲もない、とは砦の中だからであって、これが普通の家の中にあったなら十分変哲だ。
天井には光る棒こと“蛍光灯”と呼ばれる明りが灯っていた。
動力はなんだか分からんが、まさか放棄されてからずっと光っていた訳でもないだろう。
中央には朽ち果てたテーブルとイス、それと見たことも無い機材が隅に積み上がっている。
「随分早かったな」
と、室内にマクラーレンが入ってきた。
「たまたますぐそこに居たんだよ。まあ幸い、魔物は騎士団が一手に集中させてるからオレは出会わなかったけど」
ここに居るのは魔獣級の上位に値するゼークルトだから、もし会ったら接近戦向きじゃないオレはちっとヤバかったけどな。
「で? わざわざこんなところまで呼びつけて、どんなヤバい話を聞かせようってんだ?」
表情に思わず笑いが出てしまう。
今から聞く話に純粋に興味もあったし、もしかしたらザイルに関する重要な手掛かりを得られるかも知れないからだ。
「……そうだな、本題に入ろう」
マクラーレンは覚悟を決めるようにそう言った。
「サファールと繋がりがあるのは第六魔法研究所所長のローランド・ワインバーグであるという話まではしたな」
「ああ。表沙汰になっちゃヤバい研究をしてるってアレだろ?」
「そうだ。第六魔法研究所の研究内容は魔法だけじゃない。そして、その中には戦略級古代兵器の研究も含まれている」
戦略級古代兵器……ブラストレイズの事か……。
「ラシアトス城へ潜入していた俺は、初っ端から極秘人物が訪問してくるという情報を掴んだ。その人物こそ、ワインバーグだ。その相手は、帝都精鋭軍第133連隊隊長……まあこっちの方は後で説明する。そのワインバーグの通信を傍受した。その相手が……」
「ザイルだったって訳?」
マクラーレンの言葉の先を予想する。
黙って頷いた。……正解か。
「内容は“例の計画”や“あの野郎”など傍受対策なのか知らないが推し量れなかった。……が、だいぶ分かった事がある」
「なんだ?」
どんな内容だったのか知らないが、そんな抽象的な表現で分かるなんてさすがは諜報員だな。
「まず、サファールは単独犯じゃない。ローランドの他に最低でも二人はいる。それと、サファール勢力内に、『思考詠唱』を扱う者がいる」
「思考詠唱!? それってあれだろ? 考えただけで魔法を発動できる詠唱いらずの発動法……でも、あれは都市伝説の類かと思ってたんだが……」
オレも何度か話を聞いた事がある。
詠唱呪文を省略してしまった、究極の発動法。
詠唱呪文を頭の中で1000回唱えるとか、魔法を使ってる自分をイメージしてそれを現実に変えるとか、脳味噌に詠唱呪文を刻み込むとか、どれも面白がってる馬鹿が広めたとしか思えない話だったが……。
「“人の口に蓋は出来ない”、か……」
マクラーレンは呟くように言った。
「軍事機密だが、一応そういう理論は検証されている。実験も未だ成功は無い……はずだった」
「はずだった?」
「言っただろ。いるんだよ。サファール勢力にそれを使ってるやつが。副作用は自我を保てない程の強烈な憎悪。ある集団に対しての無差別攻撃。そして、その人物の属性は氷。最近よく聞く名があるはずだ」
ある集団……が、盗賊団だとしたら……?
氷って……まさか。
「“盗賊殺し”か!?」
確かに、盗賊殺しが現れたのは、ここ最近……ちょうど、ザイルが再び現れたって話を聞いた時と一致する。
それに聞いた話だと、盗賊団に対し異常な怨みを持っているとか。
「これも詳しく調査しなければならないが、それ程重要じゃない」
重要じゃない?
思考詠唱と言えば、究極の発動法だ。
それを重要じゃないって……。
「帝都精鋭軍第133連隊」
マクラーレンが、唐突に言いだした。
「別名、『黒の十字架』と呼ばれる、騎士団の暗部組織だ」
またまた物騒な名前が出てきたもんだ。
「んで? それもザイルと繋がっていました、って?」
そう言えばさっき、ローランドと対話してた相手がそれの連隊長とか言ってたっけ。
「いや、違う。むしろ対立側だ。ここからはもしかしたらクロームドの興味の無い話になるかもしれないが、まあ聞いてくれ」
どうやら、ザイルと直接関係のある話ではないらしいが、一体何を言い出すのだろうか。
「黒の十字架は強硬派のマクシミリアン・フラッズ参謀長の直轄部隊。要するに、戦争推進派の部隊だ。何が言いたいかっていうと、こいつらはサファールの持つブラストレイズを狙っている。連中に先を越されると、恐らくすぐにでも戦争が始まるだろう」
なるほど……、ブラストレイズは、古代の最終兵器。
戦争推進派の連中は、当然それを欲しがるって事か。
「待って。ザイルも結局は第六魔法研究所の人間なんでしょ? 同じ帝国の人間なのに奪い合ってんの?」
その研究所も、結局は戦争の為に兵器を研究してるんだろうから、目的は同じのように思えるが……?
「おいおい、帝国騎士団や各研究所が全て一枚岩だと思っているのか?」
呆れ顔で言われてしまった。
「目的はバラバラさ。少なくとも、サファール勢力が戦争の為に動いている訳ではないというのは確かさ。最も今のところ目的は不明だが。ちなみに、サファール勢力に第六魔法研究所が入ってるだけでサファールが何物かは分からん」
なるほど……、上の方は色々キナ臭い事ばっかだねぇ……。
「もうひとつ。第六魔法研究所の研究内容の一つに、“魔物洗脳音響兵器”という古代兵器のジャンルがある」
また初めて聞く単語だ……。
「……そりゃあなんなんだ?」
「そのまんまさ。魔物を洗脳する音を響かせる兵器。だが実験では、洗脳どころか、異常種や凶暴化をいたずらに増やすだけで、肝心の洗脳は失敗に終わっていたそうだ」
あらら。
洗脳して魔物を戦力として使う兵器だったんだろうけど、凶暴化した上に従わないんじゃ話にならない訳だ。
ん……凶暴化……?
「まさか……、それじゃあ、ここ最近の凶暴化って」
「ああ、この兵器のせいだ、とも考えられる。そしてその場合、凶暴化の騒ぎの中心になっている、この遺跡の地下には何があると思う?」
何かを企んだような、薄気味の悪い笑みを浮かべてマクラーレンはオレに尋ねた。
「おいおい……その兵器があるとして、今騎士団が突っ込んだんだろ? それじゃわざわざ騎士団に調べてくれって言ってるようなもんだろ。研究所の重要機密をそんな簡単に晒す訳――」
「そこで、……装置が発動したら、どうなると思う?」
相変わらず楽しそうにマクラーレンは聞く。
こいつの言っている意味を理解した時、寒気と焦燥が体を襲った。
「騎士団は大打撃を受ける……。いや、それどころか、ドーイングに住む市民がやばい! 村に張られた領域は、飽くまで“魔物が入ろうと思わない”程度だ。凶暴化で意思が狂っていれば効果は薄い! おい! お前それを知ってて、なんでこの話を最後に持ってきた! いや……そもそもなんで何の対策もしていない!?」
クソッ、まず、ザイル勢力が騎士団を排除して何か利点はあるのか?
分からん……、分からんが、わざわざ凶暴化をここだけ目立たせ大量の騎士をこの地に集めたのはそれしか理由が思い浮かばん!
「お前は何か勘違いしていないか? 俺はこの国の人間じゃない。所詮スパイ。この国のたかが一部隊と一つの村が消えようがなんの損得も無い。俺に下された指令は、帝国の古代兵器『00ナンバー』の調査だ。その一環でサファールを追っているのであって、俺はせいぜい音響兵器の存在を報告すればいい。その後どうするかは上が決める事だ。ここで兵器が発動してくれれば脅威か否かいい判断材料にもなる」
しまった!! オレはどうやらコイツを信用し過ぎたらしい。
このままじゃ騎士団もアーク達も村もやべえ!




