第72話「ザイルの謎」
前回のあらすじ……。
担当:ジルド・クロームド(8年前)
ラインから聞かされた話は、要約すれば子供の命と引き換えに核の鑑定を強要された、というものだった。
だがその核は、ヴァナルガンドという魔核大戦時代に使用された最終兵器の一つだという。
その依頼主に逆らい、子供アークの命を守るために、ラインは自らの身を投げ打って止めようとしていた。
そんな事を見逃せるはずもなく、オレはラインと共に依頼主ザイルの前に立った。
だが、敵の力は圧倒的で、オレをかばってラインは倒れ、オレ自身も重傷を負ってしまう。
そんな中、ラインは最後の力を振り絞って最終兵器ヴァナルガンドを発動させてしまった。
――現在――
「そうか……親父は、親友だったジルドの事を庇って……ったく、親父らしい死に方だぜ」
この話を聞いて俺が最初に思った事はそれだった。
そして、ようやくあの言葉の意味も分かった。
(アーク……ブラストレイズを、頼む……)
あれは、そのまんまの意味だったんだ。
しかし、俺はそれを8年間もの間ずっと放置していた……。
くそっ、それだけが悔やまれるぜ。
だが、それでも今は、こうして腕輪を付けている。
不思議なもんだな、あの家が壊れずに残っていたのはもしかして親父の力だったのかもしれない。
「違う。ラインはオレを庇って死んだんだ……。あの時、オレにもっと力があれば……、あるいは惨劇は、回避できたかもしれないっていうのに」
「ジルド……」
悔やむ気持ちは……正直分からない。
俺はまだ、親父以外の大切な人を失った事が無いし、親父のときだって、俺自身の力ではどうしようもない現実だった。
くそ、これが人生経験の差ってヤツかよ。
でも、あの時の親父の気持ちは、なんとなくわかる。
「でも、親父は後悔してないと思うぜ? まして、ジルドを恨んだりなんか絶対してない」
断言した、なぜか断言できた。
「……あの時親父は、自身で考えうる最高の選択肢を選んだ。たとえ自分が死んだとしても、俺とジルドは生き残り、ヴァナルガンドを砕き、ラプターも無事だった。親父は、自身の死をもって最高の可能性がある未来を導き出したんだ」
「最高の可能性がある未来……か……」
と、気付けば俺はそんな事を言っていた。
あれ……俺、こんな言葉どこから出てきたんだ……?
それにこの言葉、俺じゃなくて親父の言葉のような……。
って、なーに言ってんだ俺は、そんな馬鹿な話ねぇよな。
「確かに、ラインが言いそうな言葉だわ。流石親子だねぇ」
その言葉で元気を取り戻したのか、さっきまでの沈んだ表情がうそのようにニカっと笑った。
「俺って、そんなに親父に似てるのか?」
「似てる似てる。突っ込み名人なところまでそっくり」
う……。
別に好きでやってる訳じゃないが、なんか改めて言われるのは嫌だ……。
「……それで、その後ジルドはどうなったんだ?」
俺はとりあえず脱線しそうな話を戻す。
「あの後は、オレは気が付いたら貴族街の病院に運ばれていた。誰が運んだのかは知らないが、その後聞いた治癒術師によると白衣を着た男だったらしい」
「白衣を着た男って……医者じゃなくて?」
「らしい。その後ラインは回収されたが、ザイルの死体が出てきたって話は聞いてない。……肝心の野郎は、姿を消しやがったんだ」
ザイルが姿を消した!?
そう言えば、俺が騎士団から聞いた話では、犯人は結局見つからなかったそうだ。
今までの話を聞いてて不思議に思ったが、途中で消えていたのか……。
「つまり、ザイルはあの時、死んでなかったって事だ。もしくは……ザイルを回収する組織または人物が、陰で動いているか」
組織か……。
ザイルは一見一匹狼のように見えるけど、そういう可能性もあるな……。
「っていうかそうだよ! ザイルは親父が倒したはずなのに、なんでまた復活してるんだよ!?」
思い返せば思い返すほど、ザイルに対して妙な事が浮かんでくる。
親父とザイルが戦ったあの日、あれから8年の時を経て今現在、突然ブラストレイズを
集め始めた事。
バスキルト砦で、突然苦しみだして魔物突撃の事を教えてくれた事。
過去に使った“黒い触手のような”攻撃。
「落ち着けアーク。今から俺が今まで調査して分かった事を教える」
ジルドがまた神妙な表情で口を開けた。
「え……調査?」
「ああ。オレはラインの仇を討たなきゃならない。その為に、今まで考えうる全ての方法でザイルの調査をして来たのさ」
そうだったのか……ジルド、親父の死にそこまで責任を感じて……。
「オレは退院後、ザイルが消えたという情報を騎士から聞いたんだ。いや正確には、『ラインの周囲には、誰もいなかった』という証言をな。だから俺は、ヤツを探すために全力を挙げた。だが、結局何も手がかりがつかめないまま、8年が過ぎた。奴の存在を確かめたのは、つい最近さ……」
ジルドは再び、過去を語りだした。