第68話「鑑定士」
前回のあらすじ……。
担当:ジルド・クロームド(13年前)。
あらすじ?
ん? とりあえず思った事を書いていけばいいのか?
えぇー……ある日の事。
オレは仕事帰りに町外れを歩いていたんだが、そこで魔物と戦う男を見た。
興味本位で首を突っ込み、“ミラージュ”の力を使い、魔法をぶっ放したが、
なんと助けた相手も賢者だった。
名前はライン・シュナイザーというらしいが、どうやら記憶喪失らしい。
悪い奴には見えないし、この男に少し興味を持ったので、家に招く事にした。
――現在:アーク視点――
「って、親父記憶喪失だったのかぁぁぁぁ!?」
俺は驚愕した。
そんな事は一言も聞いていない。
「んぁ? 少年知らなかったの? まあ……本人もあんま気にしてないようだったし、言う必要も無かったんじゃない?」
親父……適当だな……いやそれは知ってたけど。
「つーかてっきり8年前から話すのかと思いきやさらに5年前からかよ」
あの流れは完全に8年前から話していく流れだったろ……。
「まあオレとラインが出会った頃からのほうが色々分かりやすいしな」
おっさん口調昔に戻ってるぞー。
「まあ口挟んで悪かった、続けてくれ」
「あいよ」
――13年前:ジルド視点――
「ここがオレの家。汚いけど勘弁してくれな」
「確かに汚いな……」
「思ってても言うなよそこは!」
若干ショックを受けた。
「冗談だよ。予想よりはマシだ」
いやそれはそれで傷付くんだが。
そんな感じで、オレはラインを家へと招き入れた。
「ちょっと、帰ってきたらただいま位言いなさいよ……って……」
奥から出てきたのはオレの女房だった。
「ちょっとお客さん連れてきたの!? もう! 一言ぐらい言いなさいよ!」
かなり慌てている。
まあ突然連れて来ちちまったしな。
「あっ……なんかすみません、急に押し入っちゃって」
「いいっていいって」
「アンタが言うな!!」
女房はご立腹だった。
だって、片手にフライパンを構えて睨みつけているから。
こりゃあ後で謝っとかないと大変な事になりそうだ。
「えぇ……俺、ライン・シュナイザーと申します。道中ジルドさんに助けてもらって、家へ誘われてしまったのでつい……」
「いいのよ。この馬鹿の勝手には慣れてるわ。私はミラル・クロームド。よろしくね、ラインさん」
そんな感じで2人とも自己紹介をして、居間へと入っていく。
「ミラル。なんか食えるモン適当に頼む」
「食えるモンって大雑把過ぎるわよ! アンタが急に連れてきたから大したもん揃ってないわよ?」
台所から声が飛んでくる。
オレとラインは、今はイスに座っていた。
「あっ、別になんでも構いませんって!」
ラインが慌てて制する。
まあ記憶喪失の割りに礼儀とかは分かってるらしい。
「にしても、こんなトコで俺以外の賢者と会うなんてなぁ~」
ラインは腕輪をものめずらしそうに見る。
「案外、運命の出会いだったりして?」
「それはない。というか拒否る」
むぅ、酷い言われようだ。
「はい、お茶とせんべい。すみませんね~、こんなものしかなくて」
苦笑いを浮かべながらミラルがテーブルへやってきた。
それから暫くは、3人で他愛もない話をしていた。
ラインというのは不思議な奴で、出会って間もないはずのオレ達はまるで親友のように語り合っていた。
時間は深夜と呼べる頃になり、大人3人、自然と酒が入る。
ミラルは酒が強くないため、早々に潰れてしまったが、俺とラインはまだ起きていた。
「そうだぁ~。お前、今働き口ってね~んだよな~?」
何杯目かすら分からないビールを飲んでいるラインに言う。
「あぁ? あ~、そうだな。なんで急に?」
……なぜそんな平然としてるんだ……。
ラインは恐ろしく酒が強かった。
「ココで働くってのはどうよぉ~」
「ココって……鉱山で?」
「違ぇよ~、オレん家」
「使用人か!? つーかこの家使用人いらねぇだろ! なんで金持ち気取ってんだよオイ!!」
この数時間で気付いたが、この男、律儀に突っ込む。
それが面白くってついつい変な事を言ってしまうのだ。
「わはは、おもしれ~」
「……でも鉱山で働くのはアリかもなぁ。体力には自信あるし」
うーんと真面目な顔で唸るライン。
頬がちょっと赤くなっているだけで、全然酔ってねぇ……。
「給料は高くねぇけど、やりがいはあるぜぇ?」
「……アリだな。あっ、家どうしよう……」
「知り合いに物件ギルドの人いっから、知り合いのよしみで家なんか貰ってみる?」
こういうときにコネは使えるんだよなぁ。
「本当か!? 助かるぜ!」
「まあ、この辺の家なんてみんなすぐ解体出来るように安く作れるし、苦労はしねぇよ」
「あっ、でもあれだろ……賢者同士、あんま親交深めんのって……ヤバくね?」
「あぁ!? 何今更堅ぇ事言ってんだよ! 掟なんて糞喰らえだって! それとも何か? オレと一緒にいるのがそんなに嫌なのかぁ!?」
「うるせぇくっ付くなこの酔っ払い!! 分かったよ分かったよ! 本気にすんなって!!」
そんな感じで、朝起きたらラインはこの町に住むことを決めていた。
……ちなみにオレは、何も覚えていなかったらしい。
――2年後・NC2098年――
ラインがこの町に来てから、二年が経った。
オレとラインは仕事が同じになる日も多く、気の合う友人として日々を過ごしていた。
そんなある日の仕事中。
「ん……おい、これ……」
オレはいつも通り、鉱山でツルハシを持って採掘していた。
そしたら、きれいな水色の球が埋まっているのを発見した。
「これは……まさか核?」
ラインが言う。
核……文字通り、レイズの核だ。
「ほぉ~。すげぇ、これ高く売れるかもしれねぇぞ! おい! このことは秘密にしておけよ!」
オレはテンションが上がっていた!
やべぇ、核なんて間近では初めて見たぜ!
状態はあんま良くないけど……10万Jぐらいは行くんじゃないか!?
「よし! 掘ってみようぜ!」
2人で慎重に掘って、核を取り出した。
「すげぇ……本物だ……」
「そんなに珍しいのか?」
ラインはイマイチなリアクションだった。
「お前……分け前やらねぇぞ?」
「あっ、待って、それは困る!」
金は欲しいらしい。
「ちょっと貸して」
ん? なんだ? 金と聞いたとたんにコレかよ。
「……………………」
ラインは黙り目を閉じて手を翳していた。
真剣な表情だったので、声をかけるのを少し躊躇う。
「体外装備兵器かな。残念、あんまレアじゃ無かったな」
当然の如くに言う。
「はぁ……お前、鑑定できるのか!?」
しかも今の動作だけでレイズの種類が分かるなんて……何者なんだ!?
普通、核の種類判別は、専用の道具を使わないと出来ないはずだ。
まあ、それすらも特殊な技術と才能がいるんだけど……。
「カンテイ? って何だ?」
ラインは全く理解していなかった。
「……って、そっからか! 今お前自分でやっただろ!」
「は、はぁ……」
仕方ない、一から言った方が早そうだ。
「鑑定っていうのは発掘された核が何番目に当たるか調べること。例えば魔法詠唱兵器の性能を引き出す核を能力操作兵器用に装備したってなんにもならねぇだろ?」
そりゃそうだ、とラインは頷いた。
「だから遺跡発掘ギルドが発掘した核を鑑定して番号を見分ける鑑定士って仕事があるんだよ。で、それが鑑定」
「……そんな過程が必要なのか……」
……思い出した、というよりは初めて知ったような顔をしていた。
コイツもしかして只のバカなんじゃないか……?
「おいおーい……そこだけ記憶スッポリ抜け落ちてんのか? まあ、身に染みた才能だけは体が覚えていたって事なのか……」
しかし、それだけで当てられたならホントに凄腕だぞ?
「もしかして、お前昔、この仕事やってたんじゃねーのか?」
初めてであんなスゴ技が出来たらもう人間じゃねぇ。
「そうかもな……なんかそんな気がしてきた。とにかく、これは後でよく調べてみるか」
「いやいや、ちゃんと政府に許可証貰って、鑑定士に渡すんだってば」
やっぱ変なところで覚えてねぇな……。
後日、あの核を鑑定してもらったら、やっぱり体外装備兵器だった。
――――
「……それで、結局帝都に行く事にしたの?」
ミラルがラインに言う。
あの後、3人で話し合って、ラインは鑑定士として働く事になった。
だが、鑑定士になる為の許可証は帝都でしか発行していないし、レイズを製造してる町は国内に二つしかない。
帝都と、工業都市ヴェルランドだけだ。
ここデルヴァからだと、一番近いのは帝都になる。
だから、ここを引っ越して、帝都で暮らす事にしたようだ。
「ああ。世話になったな、二人とも」
今はもう、出発する直前だ。
「なぁに。暇があったら、いつでもそっちまで押しかけていくから覚悟してろよ?」
「大丈夫。あなたの性格なら、どこへ行ってもやっていけるわよ。そんな不安そうな顔似合わないわよ!」
今思えば短い二年間だったような気がする。
まっ、その気になればいつでも会えるよな。
「ははっ、そうだな! んじゃ、またな~」
そんな軽い挨拶で、ラインは帝都へと旅立った。