第66話「その男の後悔」
前回のあらすじ……。
担当:アーク・シュナイザー
なんか……いろいろ大変だった……。
ルネが調理係を申し出たので、試しにやらせてみたら、せっかくまともに出来上がってたのに地獄の激辛なんちゃらを山のように振りかけた……。
俺はジャミルと死闘の末敗北し、ジャミルは1人だけまともな料理を食える権限を勝ち取ったのである。
――――
「よォし、腹も減ったし、メシにしよーぜェ!!」
ジャミルは勝ち誇った上々で1人だけ上機嫌だ……。
くそ……ていうかあれマジで食わなきゃならんのか……?
普通に死ぬと思うんだが……。
「いっただーきまーす!! ……く~っ、キク~~!!」
ルネは何のためらいもなくあの激辛を口に運んだ!?
「お前……これ食えるなんて一体どういう神経してんだ……頭おかしいんじゃねーのか?」
「何言ってんのよ~! この辛さが病みつきになんのよ~!」
そう言いつつパクパクと食べている。
今分かった……。
こいつ、料理は下手じゃない。
ただ……味覚センスが狂ってやがるんだ……。
歌のセンスも狂ってるくせに……。
「じゃあ俺も食うかなァ!」
くっそ~、1人だけまともな料理を~……!
「モグモグ…………お、おお、ヒィィィィィィィィィ!!! 辛ェェェーーー……がく」
えええぇぇぇぇぇーー!?
「ちょ、ジャミル、おま、どうしたんだぁぁ!?」
なんでまともな料理食ってる奴が気絶するんだよ!!
俺は恐る恐るルネを見た。
「お前これ……まさか……」
「もちろん、下味付けもこれよ? あたりまえじゃない!」
そう言ってさっきの地獄の激辛を出した。
「……ルネさん。これ一般人食ったら死にますよ?」
「ああもう! さっきからごちゃごちゃアンタうっさわね! 料理なんて所詮腹に入ればおんなじなの! 味位我慢しなさいよ!」
ええぇ!?
なんかリナに怒られた……。
「まったく……食事の時間くらいおとなしく出来ないのかしらアンタ達は……」
そう言って真っ赤な生姜焼きを口に運ぶ……。
ちょ……やめた方が……。
「モグモグ………………うっ! ゲホっ! ゲホっ! み、水、水ぅぅ~!!」
食った瞬間、案の定リナは目に涙をためてむせ返った。
「たく……だから言ったのによ~」
といいつつ俺は水を渡した。
「な……何よこれ! どんな劇物入ってるの!?」
まあある意味劇物ではあるな……。
「口に入れば料理は一緒じゃなかったのか?」
「こんなの料理じゃないわ! これは兵器よ! 毒物よぉぉ!」
確かに合ってるとは俺も思うが……。
つーかここまで取り乱してるリナは初めて見た。
「人の料理毒物って! 失礼にも程があるわ~!」
「ひ、人にこんな料理出す方がどうかしてるわ!」
「あたしはこれが好きなの!」
「アンタの好みには全人類が賛同しないわよ!」
あれ……?
なんか女の争いが始まってる……。
あ~、もうめんどい!
そういやおっさんは何やってんだ?
俺はおっさんの様子を身にテントへ戻った。
――――
「よ~、って! おっさん何1人で食ってんだ!!」
おっさんは1人で古代麺を食っていた!!
ちなみにこの古代麺とは、数年前遺跡で発掘された食べ物で、なんとお湯を注いで待つだけでラーメンが出来上がるという目から鱗の食べ物だ。
仕組みが簡単だったので現在は量産されている。
「料理、ルネ嬢が作ったんでしょ? どーせまともな物出てこなかったでしょ」
「最初から期待もしてなかったのかよ……意外とひでぇ奴だな……」
「おっさんも死にたくは無いからね」
「それより……それもう1個ない?」
腹減った……さすがにあれを食う訳にはいかないし……。
「ん。最後の一個」
と言っておっさんはカバンの中から古代麺を取りだした。
「お、さすがおっさん……で、そろそろおっさんの正体教えてくれないか?」
俺はあの時からずっと聞きたかった事を聞いた。
とりあえず……ただのおっさんでない事はもう分かっている。
「ラーメン食いながらこの話ってのも絵面的はちょっと間抜けじゃない?」
「なんだよ……もうもったいぶらなくてもいいだろ」
俺はたき火で沸かしたお湯を注ぎながら言う。
「へいへい。ま、本名はジルド・クロームド。表向きは一応採掘員をやってる」
「採掘ねぇ……」
「……そのダガー、親父さんから貰ったんだって?」
いきなり何だ……?
「そうだけど。ってまさかこのダガーの事なんか知ってるのか!?」
「うんにゃ。何にも?」
おっさんはジェスチャーで“分からない”と示した。
「知りたい?」
「んーまあ一応。使い方はだいたい分かるから、別にどうでもいいんだけどな。気になるだけで」
俺はダガーを眺めながら言った。
「……ホント。そういうとこまでそっくりだなあんたらは……」
おっさんはなんか遠い目をして言った。
「……おっさん?」
そっくり?
誰に?
……まさか。
「おっさんもしかして……俺の親父と、面識、ある?」
俺は確認するように聞いた。
「あるよ。オレとラインは、一応親友って奴だったのさ」
おっさんと親父が……親友!?
マジでか!?
「意外過ぎて言葉もでねぇ……」
「……たく、ドジ踏みやがって……でもまさか、ラインが持っていたはずの『ラプター』をあんたが持ってるなんて、運命というか何と言うか……」
「ちょ、おっさんなんでブラストレイズの事を!?」
「あ~、おっさんこれでも、賢者の1人だから。ホラ」
とおっさんは左手首の赤く光る腕輪を見せる。
「えええぇぇぇ!? おっさんが……賢者!?」
「そ。このブラストレイズは『ミラージュ』。全属性の魔術を使用する事が出来る。さっきのあれもコイツのおかげさ」
うわぁ……おっさんって実は……凄い人物なんじゃ……。
なるほど確かに、それならあのバカ強い魔法も納得できる……。
「おっさん……実は凄かったんだな……」
俺は驚くしかなかった。
「ははは……そうでもねぇさ」
「え?」
おっさんの……ジルドの表情が暗くなった。
「こんな力持っておきながら……オレは、お前の親父を救ってやれなかったのさ……」
救ってやれなかった……?
まさか!!
「おっさん……あんたもしかして、"あの場"にいたのか!?」
あの場……父さんが殺された場所……。
「ああ……8年経った今でも、あの日の事は鮮明に覚えているさ……忘れられるはずがない」
――――8年前。
ジルドが33歳、ラインが35歳、そして、アークがまだ10歳だった頃。
物語は……ここから始まった――