第40話「任された厄介事」
前回のあらすじ……。
担当:アーク・シュナイザー
リナと別行動していたが、足つき目玉野郎とに遭遇しいきなりピーンチ!な俺だった。
しかし危ないところをまったく予測不可能な人物、エイリアスが助けてくれた。
今日のコイツはなんか紳士的だったので色々話してみる。
大体予想はついていたがやはり行動理由は復讐らしい。
俺も人のことは言えんが、だからって関係ない疾風の翼の連中を殺していい理由にはならない……はず。
じゃあ俺は?
エイリアスが盗賊を殺すのを許せないのに、俺はザイルを殺して許されるのか?
……分からない。
だから、自分から振っておきながら最終的に何も言えなくなった。
情けねぇな……まあ俺が何か言ったところで、エイリアスも自分の考えを曲げる気は無いんだろうが……スッキリしねぇな。
面倒になった俺は、全ての考えを放棄し、リナの合流に急ぐのだった。
――――
「リナ、怒ってんだろうなぁ……」
あれからだいぶ時間経ったしなぁ。
いやそもそも勝手にどっかいった可能性もあるな。
アンタが遅いのが悪い、とか。
言いそ~、っていうか居なくなってたら絶対言う。
……にしても、マジでこのダガーって何なんだろうな。
前にも言ったが、これは親父が死んだ日、部屋を漁っていて偶然見つけたものだ。
んでもってこのダガーで攻撃を斬ると、魔素は砕け散り、ダガーに吸収されて強力な一撃を放つことが出来るみたいだ。
ザイルの『裁きの雷』やあのバケモノの雷撃とか。
あと確かドラゴンウルフの火炎も防御したこともあったっけ。
とにかく、そうなるってことは何らかの魔法が掛けられてるってことなのかな。
うーむ、よくわからん。
そんなことを考えてるうちに、リナを見つけた。
「遅い」
まず一言。
「すまん。途中目玉に足生えた奴と戦っててさ」
とりあえず訳を言っておく。
「はぁ? なにいってんの?」
信じてねぇ!!
「……まあいいや、とりあえず、行くぞ」
こうしてまた世界うんたら探しを再開。
――――
俺達は、探し回った挙句、ようやく船長室という、それなりにいそうな場所を発見した。
木で出来た部屋で、薄暗い中ランプで明かりが灯っている。
壁には変な肖像画とか、黒いボードみたいのがある。
そして部屋の中央には机とイスがある。
イスは背もたれしか見えないが、それだけでもう豪華な感じがした。
だが、人の気配は全くない。
「ここでも、ないかぁ」
こういう奴は大抵船長室みたいなトコにいると思ったんだが、勘が外れたか。
「みたいね。行くわよ」
相変わらずそっけない返事をするリナ。
だが、俺は見てはいけない物を見てしまった。
船長室のイスに誰か背を向けて座ってる……?
「あのー……もしかして……」
声をかけると、イスはゆっくりと回転した。
「うけけけけけけけけけけけけけけけけけっ!!」
「うぎゃあああぁぁぁぁーーーーーーー!!!」
骸骨だぁぁーー!
骸骨が笑ってるよぉぉぉぉーーーー!!
「あ、骸骨」
リナぁぁっ!
お前リアクション薄すぎだろぉぉ!!
俺は一目散に背を向けて逃げた。
「逃がさっへんで~!」
俺が扉に近づくと扉は消えてなかったことになった。
「うぉいっ! なんでもアリかっ!!」
退路は断たれた!!
アレ? 何気にピンチ?
「うけけけけけけけけけけ!!」
ってやばい!!
後ろから来てる!!
骸骨がのっそのっそと俺に近づいてきた!!
「うけけけけけけけけけけ!!」
そして俺に手を伸ばし、
「うけけけけけけ」
手を伸ばし……。
「うけけけけけけ」
「……おい」
手は、伸びたまま動く気配がない。
「うけけけけけけ」
「クロスエッジ!!」
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
――――
「いやぁ~、ひさびさの来客にちょっとテンションあっがてもうた~、すまんすまん」
いいつつ、骸骨は骸骨の癖に陽気に笑う。
ん……良く見たらコイツあんま怖くない……。
なんていうか……全身からコミカルオーラがにじみ出ている。
「で……なんなんだこいつ……」
俺は思わず口に出して言った。
拍子抜けしてしまった俺は、改めて骸骨を見た。
姿は完全な骸骨だが、なんでか表情は不思議と読み取れた。
一応服装は赤を基調とした黒や金色の装飾の入った豪華そうな船長服。
口には高価そうなキセルを銜えていた。
スパスパとすっているが、どこから呼吸が出来るのか全く持って理解できん。
「……アンタがもしかして、世界最高の情報屋?」
リナは全く動じずに骸骨と話す。
「そんな大層なモンやないけど、まあそれはあってると思うで」
骸骨なのにニコッと笑う。
ああ……なんかいろいろと突っ込まなきゃいけない事はあると思うんだが、ちょっと俺1人では対応できないこれは。
見た目はホラーなのに、中身はコミカル。
こんなに砕けたヘンテコな口調だともはや恐怖も感じねぇ……。
という訳でとりあえず話を進める事にしよう。
「えーっと……、お名前、教えて教えて貰えますか?」
とりあえず名前を知らないことには話は始まらないと思った。
「ワシはワルキメデス・アスヴァルト・グラウディーナちゅーモンや。長いモンやから、ワルキスでいいで」
確かに名前なげぇな!
「そんで、わざわざここまで来て宝探しっちゅーこともないやろ。どないしたん?」
本当に宝探ししそうな奴(ルネ)がいるのだが……それはまあいい。
「今世界中の『賢者』を殺して回ってるザイルって男がいるの。そいつについて教えてちょうだい」
リナは単刀直入に言った。
つーか敬語も無しかコイツ。
「ほっほう、そーきよったか。なかなか面白いこと言いハンなぁ」
ワルキスは再び豪華なイスに座りながら言った。
イスがギシリと軋んでいる。
「で、ジブンらは何モンなん?」
ワルキスは肘を立てながら言う。
「俺はアーク・シュナイザー、8年前殺されたライン・シュナイザーの息子です」
「アタシ、リナ。ダアト・ベルナールの娘」
俺達は分かるように自己紹介する。
「賢者の子供ねぇ……、ほっほう。なるほどなるほど~。2人揃って仇討ちっちゅー訳かい。物騒な世の中やわ~」
相も変わらず陽気な口調言うワルキス。
随分と軽い気がするが、賢者とか普通に知ってる辺りやっぱ情報屋というのは間違っていないらしい。
「で、ザイルって奴は今どこにいんの? それを聞きに来たんだけど」
リナは結論をさっさと求めたいのか、ワルキスの前に仁王立ちして言った。
俺はペース乱されがちだがこいつは物ともしてないな……。
「その前に、カネ、情報料もらっとこか~。せやな、結構レアな情報やし~、ざっと30万Jでどや?」
高ッ!!
いや、情報なんて相場しらないからこんなもんなのかもしれないけど、俺そんな金持ってねーぞ?
「おいリナ、お前金持ってんのか?」
俺はリナに小声で聞いてみる。
「ないわ」
リナは俺ではなくワルキスに面と向かってしれっと言った。
「だからわざわざここに直接頼みに来たのよ」
そんなにふてぶてしく言ったらさすがにキレるんじゃないか?
と思ったが、
「む~、それもそうやな~。ま、こんなヘンピな所まで来たちゅーことは評価してやるさかい、代わりに別の条件ちゅーのはどや?」
意外となんとかなりそうな雰囲気になってきたから不思議。
「あの~、ちなみに別の条件って……?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
なんか……とんでもない条件を言われそうだったからだ。
「たーまーしーいーを…………ここに収めることやぁぁぁーーー!!」
ぎゃああぁぁぁぁーーー!!
やっぱとんでもないのキタァァァアーーー!!
「茶番はいいから早くして」
と思ったらリナは一言でピシャリと返した!
なんて強いヤツ!!
「……ちっ、なんちゅーツマンナイ女やぁ……しゃあない。本題にはいろか」
おい! 茶番だったんかい!!
……もしかして俺ってかなり騙されやすい?
キセルを吹かす骸骨船長ワルキスは、豪華なイスから立ち上がると黒いボードの前まで歩き、手に平で叩いた。
すると、何でかもう訳分からんがボードに映像が灯る。
「……あぁ、もう驚かねーよウン。……っつーかこいつらって」
俺はボードの中に灯る映像に驚いた。
そこに映っていたのは恐らく現在進行形で歩いている見覚えある集団だった。
「実はなぁ、ちょい前に『疾風の翼』っちゅー盗賊団がワシの船に乗り込んで来てんや。船ん中荒らされんのもゴメンやから、こいつら追い出してくれへんかの? したら教えてもいいで?」
……やっぱり。
映像の中にいたのは、真っ白いスーツとシルクハットを着用する『疾風の翼』団長ハリスだった。
なんつー腐れ縁だよオイ……。
「分かったわ。盗賊を追い払えばいいのね」
リナはあっさり承諾した。
なんだか面倒が起こりそうな気がしないでもない。
「あと1つ。も1人レイピア持った物騒な女がうろちょろしとる。かなりの腕やから気ィつけるこった」
映像が切り替わる。
そこには赤い目をした銀髪長身の女がいた。
「げ、エイリアス……」
俺は思わずつぶやく。
そういやあいつも居たっけ!
そうか……、なんでエイリアスがここまで来てるのか謎だったけど、盗賊団を追って来てたのか……。
うわぁやばい。
間違いなく俺は今厄介ごとに飛び込もうとしている。
でもほっとけばザイルの情報は手に入らないし、エイリアスと盗賊団がぶつかれば死人が出てもおかしくない。
それを見て見ぬ振りすんのも気持ち悪いし、俺なんかが言って解決できるとは思えないけど、でもやっぱほっとけない。
ええい分かった行くよ行けば良いんだろちくしょー!!
ようは2人がぶつかる前に疾風の翼をこの船から追い出せばいいんだ!!
「せや、さすがに2人じゃ心持たないやろし、お仲間連れてってもええで」
ワルキスから提案が来た。
「まあそうしたほうがいいかもな……つーか、お前なんでも知ってんのな」
俺はまだ仲間のことを一言も言ってないのに……。
「そらそうや。この船はウチの庭みたいなモンやからな」
なんでもアリかよ……こいつ一体何者なんだ……?
っていうか、せっかく分かれたのに結局合流するのか……。
となるとまたここに戻ってくるとき分かれなきゃいけないのか。
めんどくせーな……。
(その心配はあらへんで~)
「うわっ!なんだ!?」
頭の中に声が入り込んでくる!?
(こんな風に心に直接声を届けれるんや。だからお仲間連れてきても全く問題あらへんで)
そうなのか……。
「あんた……マジで何者だよ……」
「気にせんといて~。じゃ、さいならぁ~」
――――
「……あれ?」
目の前の風景が急に変ったぞ?
「アークおそいね~」
「まったくだ。待たされる身にもなってほしいよ」
「霧もだんだん濃くなってきたねー」
「オイオイこのまま帰ってこなかったらどうすンだァ?」
「案外本当に駆け落ちだったりして~?」
「はっ! そりゃねェだろ。あんなひょろっちい奴――」
「――誰がひょろちいって?」
「うっぎゃああぁぁぁぁーーー!! テメェアーク!! い、いつから居やがったァ!!?」
……目の前には墜落した空駆船にいたみんなだった。
ルネ、リード、エル、ジャミル、ルネ、ジャミルの順に話していた。
「今」
リナが答える。
信じがたいが……俺達はワープしたらしい。
――――
船長室で、ワルキスと名乗った骸骨はキセルをふーっと吐く。
「シュナイザーに、ベルナールかぁ……。あいつらの残して行った子孫、そして『ラプター』に、こんな形で出会えるとはなぁ……」
誰に言う訳でもなく、独り言をつぶやく。
だが、その言葉を聞いている者が一人いた。
「コソコソ隠れんで出てこんかい」
「隠れてねぇ。誰も骸骨の独り言に興味はねぇよ」
そう言って姿を現したのは、金髪に迷彩服を着込んだ男、ザイル・サファール。
「……んでアンタは、また趣味の悪い実験を始めたモンやな」
ワルキスはボードに手を伸ばし、映像を出す。
エイリアスが映っていた。
「オレじゃねぇ。シャドウの連中だ」
ザイルはどうでもよさそうな顔をして答えた。
「どっちでもええわい。あの女……ソッチで制御出来てないんやろ。やなかったらこんな所に野放しにするハズあらへん」
「何度も言うがオレは知らねぇ。そういうには全てシャドウの連中に任せてる」
「なに、独り言や。気にする事は無い。にしても随分、揃えたモンやのぉ」
ザイルの腕にある、3つの腕輪を見て言う。
「クク……まだまだだぜ。あと4つも残っている。全てそろえればオレの勝ちだ」
ザイルは狂気の笑みを浮かべる。
「……無駄な事を。そんなことはワシが死んでもさせん」
豪華なイスに座り、背を向けたまま言う。
「面白ぇ。なんなら今この場で掛かって来たらどぉだ?」
「ソイツはご遠慮や。物事にはタイミングっちゅーモンがある。だが……時が来れば、アンタも、“シャドウの連中”とやらの計画も必ず潰す。そう伝えておけや。分かったらとっとと消えるんやな」
「気が早ぇぜジジイ。オレは警告を伝えに来た。これ以上オレ達の計画を邪魔するな。じゃねぇと先にオマエをぶっ潰す」
ザイルの目線が鋭いものになる。
「おぉおっかねぇ。まぁコッチとしてもアンタらと潰し合いするにはまだ早ぇ。……だが、一言言っておくで」
おどけながらも真剣な声でワルキスは付け足す。
「あぁ?」
「アーク・シュナイザーはエイリアス・ラクシリアを殺せる男や。あんまナメてっと、足元すくわれるで」
「ふん、敵に警告か?」
小馬鹿にしたような態度で、鼻で笑う。
「敵やない。今はただの利用できる組織や。しばらくの間は、お互い利用し合おうやないか」
「ま、オレはどーでもいいんだがよ。伝える事伝えたからずらかるぜ」
そういい残して、ザイルは去っていった。
「さて……アーク・シュナイザーには多くの経験を積んでもらわんとな。にしても……エイリアス・ラクシリアか……。また進み過ぎた技術で、人は不幸になって行くんやな……」
その小さな呟きは、今度こそ誰にも聞こえていなかった。
新キャラ、ワルキメデス・アスヴァルト・グラウディーナ……ワルキス登場です!
本名なげぇ! 殆どワルキスで通すので覚えなくていいですよ。
一見骸骨という一風変わったコミカルキャラですが、物語の根幹にかかわる人物の一人です。
その様子はザイルとの会話にも現れていますね。
にしてもザイル神出鬼没だなぁ、意外と使いやすいキャラだったり。