第100話「疾風の翼、艦上戦へ」
前回のあらすじ……。
担当:ルネ・アーサス
あわわわわわ!!
なんか大変な事になってきたよ~!!
疾風の翼の船に乗せて運賃タダ! とか思ってたら西大陸最大の盗賊団、紅蓮の覇王に攻め込まれるし!
しかも紅蓮の覇王の狙いはあたし達が持ってる情報盤だし!!
まあ、情報盤は希少価値高いから狙われるのは仕方ないけど、なんでそんな噂が広がってるのよ~!
でもこの情報盤にはライドン遺跡の装置の大事なデータが入ってるし……絶っ対奪われる訳にはいかないね!!
今最も渡したらヤバイのは騎士団だけど、盗賊団にだって渡していいものじゃないし!
こうなったら何がどうなっても守ってやる!!
――――
「ハリスッ!!」
俺は艦橋の扉を勢いよく開けた。
そこにはハリス、アイリ、ガイスと他数人の団員がいた。
ただ今艦隊戦の真っ最中という事で、団員の声が左右から飛び交う中、俺はお構いなしにハリスに向かう。
「おい、俺が狙われてるって本当なのか!?」
俺はハリスの元に歩いて背中から声をかけた。
「アークか……。恐らくな! 今やつら、この船に乗り込んで艦上戦を仕組んできそうなんだ! 狙いはお前の持ってる『情報盤』しか考えられない」
ハリスはこちらを振り向かず焦りながら早口で言った。
艦上戦……敵が直接この船に乗り込んでくるって言うのか!?
それに……紅蓮の覇王の狙いが情報盤ってことは……。
「ちょっと待てよ……だったら、俺達がいるせいでこんな戦いになってるのか……?」
俺は今更ハリスに対して多大な迷惑をかけている事に気がついた。
相手は凶悪な盗賊団。
当然殺す気で掛って来るだろう。
まさか……いや最悪、俺のせいで死人がでるかもしれないんじゃないか……?
「気に病むな。お前さんが街にとどまれば、恐らく街が砲撃にさらされていたハズだ。なぁに、結果オーライさ」
ハリスはこっちを振り向き、優しい口調で俺の頭にポン、と手を乗せる。
確かにそうかもしれないけど……。
「なら、脱出艇を1隻貸してくれ! 俺が敵を引きつけて離脱するから、そうすれば紅蓮の覇王だって――」
俺のセリフがさえぎられる。
「――いいから!! 少年達はここにいな。奴らにそいつを渡せば、どこへ流れるか分かったもんじゃない。戦争が起こるのは俺たちだって困るし、お前さん言ったよな? 『どっちもは駄目か』って。どっちも叶えるってんなら、お前さん達はそいつを全力で守れ。連中の相手は、俺ら疾風の翼が引き受ける!」
ハリス……お前……。
俺はハリスのその言葉に胸が熱くなった。
「でも――」
「うざったいねぇボーヤ、アンタの負けだよ。ウチの団長がここまで気合い入れてんだ。アンタは黙って自分の大切なモン護ればいいのさ」
アイリが俺の前を通り過ぎながらポン、と俺の肩に手を置く。
「ガッハッハ! その通りだ! 俺たちゃ俺達の護るモンってのがあんだよ。盗賊団同士の抗争に、一般人介入させるワケにはいかねぇしな!!」
豪快に笑いながらガイスも言う。
「……分かった。ハリス、ありがとな」
俺は心の底からお礼を言った。
これほどまでに疾風の翼が頼もしく映ったのは初めてだった。
「はは、礼はこの一件が片付いてから頼むぜ」
「――団長!! 紅蓮の覇王団員! 艦内に乗り込みました!!」
団員の1人が叫ぶ。
「ッ! 早いな! 防衛は!?」
普通、船に乗り込ませない為には、魔法師を配備して広域魔法で妨害をする。
多分それの事だろう、さっきアイリと話している時に聞いた。
「やってます。何人かは抑え込んでいますが、相手が多すぎて……。数に任せてつっこんで、まるでバルードの大群ですよ」
「その攻め方……、なるほどな」
ハリスはその戦術でなにか心当たりを見つけたようだが、俺にはさっぱりわからん。
「リディを甲板前に呼べ。俺達も行くぞ!」
ハリスはそう叫び、操縦してる団員以外は全員部屋から出て行った。
艦上戦が始まったことで砲撃が止んだのか、艦橋内は異様な静けさに包まれた。
「クカカ! 漢気のある奴らじゃねェか! 盗賊団も案外悪かねェかもなァ!」
ジャミルが言う。
「所詮は犯罪者……でも今は感謝」
リナも一応感謝してはいるみたいだな。
ホント、悪い事したかな……。
「アークッ! 落ち込まない落ち込まない! ネガティブは人生を不幸にするよっ!!」
ルネはバンバンと俺の背中を叩いた。
「ったく、お前はいつ見てもポジティブだもんな」
それを見て思わず笑顔になる俺。
くそ……今甲板の方では戦いになってるのに、俺達は何もできないのか……。
――ラシアトス城・帝国騎士団本部・視点:リード・フェンネス――
「――今回集まってもらったのは他でもない」
僕――リードは今現在、帝国騎士団本部の巨大な多目的室にいた。
まだ正式に任官してから数日しか経ってないにも関わらず、僕たちに緊急任務の話がやってきたのだ。
しかも、個々には全ての帝都即応部隊……100人以上が集まっていた。
話をするのは即応部隊の事実上の最高責任者であるマクシミリアン・フラッズ参謀長。
僕達の部隊、『第十三独立中隊』はアークの拘束という任務があるが、それよりも優先度の高い任務がついさっき発表された。
僕達帝都即応部隊は、そういう緊急任務時に素早く動けるように作られた集団だからだ。
「実は、我が帝国とセトラエスト王国を結ぶ海域、『バイアル中海』で盗賊団同士の大規模な艦隊戦が現在行われているとハックル駐留軍から通報があった。情報によると紅蓮の覇王艦隊37隻に対し、疾風の翼はたった6隻らしい」
フラッズ参謀長はそう言った。
盗賊団って……あの時の疾風の翼!?
相手は紅蓮の覇王……かなり分が悪いんじゃないか……?
「だが、疾風の翼艦隊は結成以来今まで一隻も失っていない事から相当の錬度を誇っている事が分かる。現に艦隊戦開始からわずか10分で敵艦2隻を海に沈めている。これを利用し、艦隊戦で疲弊した時を見計らい、ハックル駐留艦隊と我が艦隊が合流し、一気に野蛮な盗賊団共を駆逐する。今まではパワーバランスから見逃してきたが……この好機、逃すわけにはいかぬ」
そうか……。
僕が騎士団になるってことは、盗賊団を取り締まることもするんだよな……。
仕方ない。
彼らは法を犯して物を盗んでいるんだし、受けるべき罰則は受けて貰おう。
別に殺す訳じゃないんだし。
……いや、違うか。
それは抵抗しなければ、の話だよな?
場合によってはそういうのも……ありうる。
でも今まで、こういう事を上は黙認してきただろう……?
なんで今になって……。
上層部の……フラッズ参謀長のこの決定に、大きな意図があることを、僕はまだ知らなかった。