第101話「修羅」
前回のあらすじ……。
担当:リナ・ベルナール
私の番ね。
攻め込んできた紅蓮の覇王の目的が『情報盤』だと分かると、アークは一目散に艦橋へ向かった。
どうやら自分のせいで盗賊団に迷惑かけてると思ったのね。
アタシは利用できるものは最大限利用するし、アタシ達だけで紅蓮の覇王相手にすんの疲れるし、このままでいいんだけどね。
と思ってたら、結果的にそうなった。
犯罪者だけど、今は感謝。
で戦闘は任せてアタシ達は艦橋に避難していた。
これはこれで気分悪いわね。
ジミーなんか今にも暴れ出しそうだし。
紅蓮の覇王……めんどくさい連中ね。
早くどっか行かないかしら。
――――
天気は気持ちのいい晴れ。
風もなく、波は穏やかで、こんなところを航空していると甲板で昼寝でもしたくなるような、そんな天気だった。
だが、ここで行われているのは、血と火薬がの臭いが入り混じる、紛れもない"戦争"と言ってもよかった。
小型軽量の疾風の翼の船が、大型重甲の紅蓮の覇王の船に囲まれ隣接し、そこから何人もの敵団員が乗り込んでくる。
「オラ野郎共ォォ! 突撃だァァーー! 乗り込めェェ!」
紅蓮の覇王の突撃の指揮をとっているのはアストというスキンヘッドの男。
その男の号令で一斉に数十人単位で甲板になだれ込んでいく。
「中には侵入させるな! ここで食いとめるんだ!」
疾風の翼のトレードマークである黄緑色のバンダナを頭に巻きつけた団員の1人が言った。
「おう!! 奴らに俺達の恐ろしさを思い知らせてやる!!」
「行くぞ!!」
その言葉を合図に、両陣は甲板で大激突した。
「くッ!」
1人の若い団員が、サーベルを横にして敵の攻撃を防ぐ。
サーベルは攻撃を防ぎはしたものの、敵の力強さに若干押され気味だ。
「おら死ねやァ!!」
その隙をついて、もう1人の敵が男を刺そうとする。
「危ねぇッ!」
その窮地を小柄な団員が救った。
ナイフを投げて敵の足に刺し、転倒した敵の顔面を思い切り踏みつける!
「んがぁッ!」
「てめぇ!」
若い団員と鍔ずり合いをしてる敵は注意を一瞬小柄な方に向けた。
「ベル! 助かったぜ!――このッ!!」
若い団員――アルスは、一瞬注意を削いだ敵の剣を押し返し、反撃する!
峰打ちで首筋を狙い、敵を沈めた。
「アルスッ! やりゃあできんじゃねぇか!」
小柄な団員――ベルは、アルスに声をかける。
「冗談! あんたの助けがなきゃ死んでたかもな!」
そう言いつつ、向かってきた別の敵の剣を弾き、峰打ちで腹を打つ。
「だったら後でビールの1杯でも奢ってくれよな!!」
ベルは腹を押さえた敵に飛び蹴りをお見舞いし沈める。
そのベルに1本の矢が迫る。
ベルは気付いていない!
「ベル~、死ぬよ~?」
その女が射った矢は、ベルに当たるはずだった矢を撃ち落とし、さらにもう1発、弓を射った敵も倒した。
「セシリー、忠告はもうちっと大声で言ってくれって!」
ベルは新たに向かう敵を倒しながら文句を言う。
「ヤーダ、ていうか何だい敵の数! 裁ききれないよ!! ――キャァ!」
後方で爆発が起こった。
密集していた為、数人の団員が吹き飛ばされ、中には死んだ者もいた。
「おいッ! しっかりしろ! 大丈夫か!」
「ヒーラーを呼べ! おい、ぼさっとすんな!」
「敵に炎系の術者がいる! 船の中か…? まずい! また来るぞ!!」
甲板の一か所に炎が収束する。
「離れろォォー! 来るぞッ!!」
轟音、爆炎、だが今度は巻き込まれた者はいなかった。
だがそのおかげで、陣形は総崩れとなった。
「くっそォォォーー! おいベル! セシリー! 無事かッ! ――このォッ!」
アルスは向かってくる敵を倒しながら叫んだ。
「無事だよッ! けど! 近くに敵が来て――」
セシリーの武器は弓矢だ。
本来接近戦は出来ない。
そんな彼女をじりじりと敵団員は追い詰める。
「させっか!」
だがそこに別の2人の団員が立ち塞がる。
「ディック! エルモ!」
セシリーに迫っていた数人の敵を一気に蹴散らす。
「ここは押さえるから、後ろから頼むぜ!」
「分かった!」
そう言われ、セシリーは一旦後ろに下がる。
「行かせるか!! 死ね!」
それをしつこく追う紅蓮の覇王団員。
剣を一振りすると、前方が炎に包まれた。
だが、その炎に包まれた者は居なかった。
「こっちだよ。はぁッ!! 瞬斬!」
アルスは、能力操作兵器の剣術を発動させ、敵を戦闘不能にする。
「ベル! こいつら頼むぜ!!」
「分かった! 大気に渦巻く我らが刃! その刃を敵に向け、思うがままに切り刻むがよい! ストームバーンッ!!」
ベルは足元に緑色の魔法陣を展開し、手をかざすと同時に数本の風の刃を敵に向けて放った。
刃はうまい具合に仲間を避けてあっという間に敵を切り刻んだ。
無論命は奪わない程度に。
「よっしゃぁ! さすがベル! この調子で頼む!」
「ったく……あんま船壊すと、団長に怒られるんじゃないか?」
歓喜するアルスと、ある種の余裕を見せるエルモ。
だが――。
「この……ツメが甘いんだよ! 馬鹿めぇぇ!!」
ベルに倒されたはずの敵が、倒れたまま剣でエルモを突いた!
「え――……うぐッ……ま……じ…かよ……」
ごふっ、と血を吐いたあと、エルモは倒れた。
「エル……モ? てめぇぇ! よくも!!」
「うがぁッ!!」
アルスは怒りながら敵の腹を蹴り、気絶させる。
「ヒーラーッ!! エルモを頼む!!」
必死に叫ぶアルスに、急いでヒーラーが訪れて、回復をする。
幸い、命は助かったようだった。
だが、同じように、攻撃を喰らいながら起き上って来る者が次々と現れた。
「駄目だ……殺さないように気を使ってたら……負ける!?」
アルスはそう思ってしまう。
そう、疾風の翼がここまで押されてる原因の1つは間違いなくそれだった。
誤解しないように言っておくと、彼らは決して団長命令で殺すのをためらっている訳ではなかった。
ここにいる者は、実はほとんど、過去に人を殺した事がある者なのだ。
人殺しの罪は重い。
だが、騎士団から無事出所して、罪を償えばまた生活ができる。
そのはずだった。
しかし、世間の目はあまりにもつめたい。
人殺しと名が広まっていれば、依然と同じ生活など出来ない。
そういう者達が集まって、自然と行動を共にするようになって出来たのが、この『疾風の翼』なのだ。
いわば、前科持ちの集団で、今もまだ法を犯し続けている。
だが、それは団長の――ハリスの願いでもあった。
世の中の富を平等に分け与えられたら……そう願っていたのだ。
富豪から富を奪い、その富を貧民に分け与える。
そういう事を、この盗賊団はやってきた、いわば典型的な『義賊』なのだ。
最も、ハリス達もこの事を公表していないので、アーク達はおろか殆どの人々はその事を知らない。
だから、せめて誰も殺さずに物を盗る、という事を信条にしていた。
ここにいる者は、もう誰も、殺したくないのだ。
だから、人を本当の意味で『斬る』のは躊躇っていた。
「ギャハハハハ! 所詮お前らは甘ちゃんなんだよ!! ここで死んどけやァァ!!」
アルスに極太の斧が迫る!
思わずアルスは目を閉じてしまう。
甘ちゃん、か……確かに、そうかも知れないな……。
そう思い、死を覚悟した。
――ガキン、と、突然の金属音が響く。
「て、てめぇはまさか――」
アルスを救った男は、その斧の攻撃を跳ね返し、
「ま、まて、ぎゃあぁぁぁ!!」
躊躇なくその男を『斬った』
「甘ちゃんかどうか、これで分かったか」
その目は、さながら氷のようだった。
「団長!!」
そう呼んだアルスの思いは複雑だった。
死んでない、救われた、団長が来てくれた、助かった、これで勝てる、でも、男は死んだ、団長が殺した……。
「いいかお前ら!! 俺達は疾風の翼だ!! 人は絶対殺さない!! それは何故だ!?」
ハリスは、甲板の中心で叫び上げる。
「構わん、やれぇぇ!!」
誰かのその声で、数人の敵がハリスに押し寄せる。
「殺すのが恐いからか? 相手がかわいそうだからか? 違うだろ!! 自分の大切な物を護る為だろうがぁぁ!!」
ハリスは薙刀を使い、右下から左上へ逆袈裟斬りして敵の命を絶つ。
「お前らの大切な物はなんだ!? 自分の命か? 仲間か? この『疾風の翼』か!? なんでもいい。だったら、自分の力出し切ってその大切な物護って見せろッ!! 相手の命を奪う事を躊躇うなッ!!」
ガイスとアイリが両隣から現れ、斧とボウガンで敵を一掃する。
「これより……我ら『疾風の翼』は修羅となる!! 全団員、俺に続けぇぇ!!」
「「「うおおおォォォォォーーーー!!」」」
ハリスは、薙刀の先を敵陣に向け、突撃した。
団長の登場で、一気に指揮が上がる疾風の翼。
「くッ! なんだコイツらは!!」
「さっきまであんなに弱かったのに……ぐはぁッ!!」
次々と、紅蓮の覇王の団員が押されていった。
「グハハハハ!! 意外と骨があるじゃねぇか!!」
その様子をアストは後方から腰に両手をあてて見ていた。
「疼く……左腕が疼くぜぇぇ!!」
そして、一気に前線へと駆けだし、左腕をガトリング砲に変える。
それを見ていた側近の団員2人は止めようとする。
「待ってください! そこにはまだ戦ってる仲間が――ぐはッ!」
文句を言う団員を右手で殴った。
「あんな屑共の代わりなんていくらでもいんだよぉ……まずはてめぇから絞め殺したっていいんだぜぇ?」
アストは殴った後その団員の首を締め上げた。
「すみ……ません……がはッ! ……はぁ……はぁ……」
男は急に手を離され、床に叩きつけられた。
「きぃ付けろ、ッたく、興が覚めちまった……」
この様子を見たもう1人の団員は、虐殺を辞めるのかと思った。
だが――違った。
「盛り上げる為に2倍増しだぁぁぁ!! グハハハハハハハ!!」
両腕をガトリング砲に換装し、甲板一面を弾丸の嵐で覆った!
甲板には悲鳴が木霊し、血飛沫が舞い、敵味方問わず幾人もの死体が積み重なった。
「グハハハハ……ハ?」
妙な気配を察し、笑いが止まるアスト。
そして次の瞬間――
「おおっと!? てめぇ! いつの間に!!」
知らぬうちに背後に立たれたアストは思わぬ不意打ちに遭いながら何とかかわした。
そこにいたのは、薙刀を構えるハリスだった。
「お前がアストか……身体変形兵器を使い、敵味方構わず皆殺しにする最低のゲス野郎……話には聞いてるぜ?」
その表情には、ある種の余裕が含まれていた。
「へ……疾風の翼の団長さんよ、だったらどぉした……」
その笑みに、思わず嫌な予感が頭をよぎる。
その予感が何かは分からないが、超然としたハリスの態度に完全に気圧されていた。
「何の策もない、集団突撃戦術。まさかとは思ったが、予防策を張っておいて正解だったぜ」
「な……なにいってやがる……お前にもう味方はいない……お前の主力部隊はあの通り――!?」
アストは振りかえり驚愕した。
なんと、殺したはずの疾風の翼の団員が次々と起き上がってきたのだ!
「バ、バカなァッ!! あいつらさっき俺のガトリング砲で!!」
目を丸くして、甲板を見つめる。
だが、確かに疾風の翼団員は生きていた。
それも、殆ど無傷で。
「対ガトリング砲用の特殊な防御用魔法陣を全員の体に組み込んでおいたのさ。ウチの天属性魔法師を使ってね」
ハリスは飽くまで軽い口調で、簡単なマジックの種明かしでもするように伝えた。
「あ……ありえん! 普通の防衛用魔法陣じゃ、コイツを完全に打ち消せないはずじゃ――」
「――だから言っただろうが……“特殊な”って」
アストの言葉を遮って、呆れながらも説明をする。
その姿にアストは一層いらついていた。
「確かに、普通の防御用魔法陣じゃ完全には打ち消せない。それは火、水、風……全ての属性と物理攻撃に対応してるからだ。なら話は早い。その防御範囲を"弾丸"に設定すりゃいいのさ。お前の頭使わない攻め方。すぐ誰が指揮取ってるか分かったぜ」
ハリスは、魔法防衛を無視して進んでくる戦術を見たとき、既に気付いていたのだ。
そして味方を変わり変わりに下げ、リディを始めとする天属性魔法師を使って防御用魔方陣を掛けたのだった。
「くッ……馬鹿なッ!!」
信じられないと言わんばかりに、キッとハリスを睨む。
だがでたらめを言っている訳ではないのは、アストでも分かった。
「お前さんは自分の味方だけを殺したんだよ。集団突撃の豪快さも結構だが、ちっとはココ、使った方がいいぜ?」
と言いハリスは自分の頭をコンコン、とつつく。
「ふ……ふっざけやがってぇぇぇ!! 兵隊どもはこっちにゃいくらでもいるんだよ!! ええい! 第二陣、第三陣纏めて突っ込みやがれぇぇ!!」
「「「うおおおおおおお!!」」」
ハリスが左腕のガトリング砲を甲板に刺しながら叫ぶと、紅蓮の覇王の船からまた大量の団員が甲板になだれ込んできた。
「……そうやって大切な仲間を使い捨てのように扱う野郎……気に食わねぇんだよ!!」
さっきの余裕な笑みはもうない。
今のハリスの表情からは、怒りや嫌悪しか感じられなかった。
「面白ぇ! サシでやろうってかァ!? 来いやぁぁ!!」
ハリス対アストの戦いが始まった。




