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白鉛紀  作者: 猫吸い中毒者
第一章  地中深く沈む白い叫声
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第5話 敗残処理

ウェルダンの泥濘に消えた「騎士の時代」の代償は、あまりにも冷酷な形で支払われることとなった。

帝国が誇った伝統ある重騎兵連隊の壊滅。それは単なる局地戦の敗北を意味しない。大国としてのプライド、そしてこれまでの戦争の常識そのものが、王国軍の「ガブリエルのラッパ(重砲斉射)」によって完膚なきまでに粉砕された瞬間であった。

帝国軍上層部は、この国家の威信を揺るがす大失態の責任を、すべて一人の老将に背負わせることで幕引きを図った。【軍報:アルブレヒト元帥の査定】

ウェルダン戦線における独断専行、および前時代的な騎兵突撃による軍資産の壊滅的損失。その罪、国家反逆および軍務怠慢に相当する。

アルブレヒト元帥の査定

――アルブレヒト元帥は、軍籍を剥奪の上、全軍の目前にて公開処刑に処された。

かつて数々の勲章に胸を飾られた老将の最期は、哀れなものであった。剥ぎ取られた肩章、泥に塗れた軍服。

数日前まで彼を「祖国の盾」と称えていた兵士たちの冷ややかな視線が突き刺さる中、老元帥の命の灯火は、乾いた銃声とともにあっけなく掻き消された。国家を支えた巨大な柱の一本が、こうしてあっけなく腐り落ちた。

彼は公開処刑される前に大衆を前に一言言い残した、

「私にとっての祖国は未だに分裂国家のままだ。 形式上の統一は、ただの帳簿上の整合にすぎない」


しかし、彼が処刑台の上で流した血は、帝国軍という巨大な組織を、より合理的で非情な「効率の化け物」へと変貌させる呼び水に過ぎなかった。

これを発端として、帝国軍は歴史上最大規模の組織再編を断行。

時代遅れとなった「騎兵」の枠組みは完全に廃止され、生き残った馬匹と兵員はすべて、物資を運ぶための「輜重兵」へと格下げされた。かつて戦場を華麗に駆けた名馬たちは、今や泥にまみれて弾薬箱を運ぶ荷車引きへと身を落としたのである。

軍の主軸は騎兵から「歩兵の大量増員」へとシフトし、帝国軍は「個の栄光」を捨て、泥臭い「数の暴力」へとその姿を変えていった。

処刑されたアルブレヒト元帥の後任として総司令官の座に就いたのは、かつて元帥の無謀な作戦立案に唯一、真っ向から異を唱えた一般将校――ペリゴール中将であった。

貴族階級の栄光を重んじた前任者とは異なり、ペリゴールは平民出身の冷徹な現実主義者であった。彼は、近代兵器の圧倒的な破壊力(王国の最新鋭の小銃や重砲)の前に、生身の人間が直立して進軍することの愚を誰よりも理解していた。

彼が全戦線に命じた新しい防衛策。それは、誰もが予想だにしなかった泥臭い戦術だった。

【ペリゴール式戦術ドクトリン】

「大地を掘れ。泥に塗れ、土を盾とせよ」

地表に深く掘られた無数の溝

――「塹壕ざんごう」。


ただ土を掘り、身を隠すだけのこの泥臭い防衛陣地は、近代兵器の火線に対して圧倒的な防衛力を発揮した。王国軍の誇る精密な銃弾も、降り注ぐ重砲の破片も、土の壁の向こうに潜む帝国歩兵を容易に仕留めることはできなくなった。

殴り合う前に殺す王国の合理主義と、土に潜んだ帝国の執念。


この瞬間に、華々しかった旧世界の幕は下り、ウェルダン戦線は一歩も前進できぬ泥濘の地で、戦線は腐るように固定された。「完全なる膠着状態」へと突入した

これにて一章前半は完結となります。

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