2章2話
1914年。
この年、数十年ぶりとなる大戦が勃発した。
「すぐに終わる」
「父さんはすぐ帰ってくる」
誰もがそう口にし、僕もまた、そう信じて疑わなかった。
しかし、わずか一週間後。
我が家に届いた朝刊の暗いインクが、その希望を容赦なく塗りつぶした。
『ウェルダンにて帝国重騎兵連隊、壊滅! 原因はウルブリヒト元帥の愚策か?』
「嘘だ。父さんが死ぬわけがない。ましてや、あんな鉄砲なんかに負けるはずがないんだ……」
絶対に生きている。
どこかで泥にまみれながらも、笑ってこちらへ向かっているはずだ。
そう自分に言い聞かせ、祈るように日々を過ごした。
――そして、さらに三日後。
学校で座学を受けていた僕のもとに、その瞬間は訪れた。
いつも生徒たちから嫌われている偏屈な校長が、珍しく格式高い正装に身を包み、教室へやってきたのだ。
「ルドルフ君……伝えたいことがある。少し、ついてきてくれるかね」
重苦しい声とは裏腹に、僕の胸は跳ね上がった。
(父さんが帰ってきたんだ! なんだ、やっぱり生きていたんだ!)
期待に胸を膨らませ、校長室へ向かった。
そこで校長は、おもむろにベニヤ板で作られた粗末な木箱を開いた。
そして、その中から“何か”を静かに取り出した。
それを見た瞬間、僕は、それが何なのか理解できなかった。
だって、それが高貴な重騎兵の象徴である「バシネット」だとは、到底思えなかったからだ。
それは原形を留めないほどに、無残にひしゃげていた。
まるで、軍馬の蹄に踏みにじられた、腐ったかぼちゃのように――
けれど、次の瞬間
僕はすべてを理解した。
見間違えるはずがなかった。
それは、出征するその日まで、父さんが不器用な手で毎晩のように、愛おしそうに磨き上げていた、あのバシネットだった。
だけど――
箱の中は、空っぽだった。
父さんの代わりに入っていたのは、潰れた兜が一つだけだった。
1918年12月28日。
『ここに、全課程を修了したことを証する。
おめでとう。
ルドルフ・ヘルブラオ
1816年12月28日をもって、
帝都ブルーニュイ・カロス・キポスの全課程を修了したことを、ここに証する。』
高等教育を終え、卒業式を終えた僕は、帰宅する前に役所へ向かった。
「あぁ! 遂に好きなことができる!」
役所の受付へ駆け込む。
「すみません! 士官学校の募集受付は、まだしていますか! 募集要項の、男爵以上の爵位を持つ家系の長男という条件は満たしています! 身長、体重ともに問題ありません!」
「はい、では、こちらにサインをお願いします。これで手続きは以上です。後日、必要書類が郵送されますので、それを持って士官学校までいらしてください」
「ありがとうございます!」
こうして僕は、家族に相談することなく士官学校への入学を決めた。
当然、勝手に申し込んだことを知った母は激怒し、何度も僕を説得しようとした。
それでも僕の意思が変わらないことを悟ると、やがて諦めたようだった。
一方、妹は無邪気に喜んでくれた。
「お兄ちゃん、兵隊さんになるの? かっこいいね!」
まだ「兵隊」というものが何なのかすら、よく分かっていないのだろう。
それでも、妹は嬉しそうに笑っていた。
「お父さんのように、立派な軍人になるのよ……」
母のその言葉だけが、いつまでも耳に残っていた。
その後、僕は士官学校へ入学した。
成績は、良くも悪くもそこそこ。
だが、戦線の悪化に伴い臨時出兵の募集が行われると、僕は迷わず志願した。
そして――戦場へ送られた。
初めての戦闘を終え、僕はどうにか生き残った。
戦闘後、小隊の仲間たちに自己紹介をしていると、一番多く聞かれたのは決まって同じ質問だった。
「お前、兵科は何なんだ?」
「何ができる?」
僕の兵科は、分類上は歩兵。
ただし、普通の歩兵ではない。
僕は「突撃擲弾兵」と呼ばれる、ここ数年で新設された一風変わった兵科に所属している。
主な任務は、比較的取り回しの良い銃器と大量の手榴弾を用いた近接戦闘。
特に、敵の塹壕へ突入し、その内部を制圧することに特化した兵科だ。
爆発物全般を扱えるため、地雷などの処理や設置を行うこともある。
僕の前にいた突撃擲弾兵たちは、全身に防弾プレートを装備し、軽機関銃まで携行していたらしい。
しかし、戦闘中の給弾不良や装備重量の増加によって機動力が大幅に低下。
本来の工兵としての仕事も、戦闘も、どちらも満足にこなせない中途半端な兵士になってしまったそうだ。
そこで、現在の装備は大きく簡略化されている。
手榴弾25本
レボルバー
作戦によっては、工兵の補助を行うためのペンチ
――これくらいだ
それ以外は、ごく普通の歩兵と変わらない。
問題があるとすれば――
手榴弾を大量に使用するため、背嚢の四割ほどが手榴弾で埋まってしまうことくらいだろうか。
案外、気さくな人が多い
これなら、ここでもやっていけそうだ
家族には、そう手紙を送った。
「そんなに心配しなくていいさ。
いつ帰れるかは分からないけど
気長に待っててね」
1919年5月9日 午前11時
聖誕祭
長年の総動員に疲弊した
両国間では
秘密裏に停戦講話が進んでいた
其れは軍部に無断で行われた死者への冒涜と呼ぶべき愚行であった
王国政府の停戦合意の要求は以下の
3つであった。
其の一
帝国政府は 軍事を縮小し
総14師団のみにする事
其の二
帝国政府は 王国に対し1320億金ルークを
賠償する事。
其の三
帝国領 オストウェルダンを
王国に返還しヴェーグ国を独立国家として承認する事
その他105箇条にも渡る要求文を知った
政府は、停戦を断念
軍部に対して要求文を公開した。
午後1時
正午を過ぎ天が地に対し慈愛の光を
与える中
帝国軍は
遂に 2年の準備期間を終えた
新兵器 戦術 部隊 通信
総てを持ち込み 戦線を打破し
悪魔を地獄に叩き落とし
祖国を千年王国にすべく
全兵力を用いた 大攻勢
第三次ウェルダン
春季攻勢を開始した。
次回更新日は 未定ですが
今月の火曜日の何れかに 更新予定です。
作者が体を壊してしまい現在療養中です
温かい目で見守ってもらえれば幸いです




