プロローグ この秀麗なる世界
白は、本来ここまで人を汚す色ではなかったはずだ。
夢の鉱石と呼ばれた白鉛は、人々に豊かさと戦争と言う2つの夢を同時にもたらし、
やがて彼ら自身をも資源へと変えていった。
18世紀――
それは絶対王政の全盛期。
世界の大半の人々は、未だにその身柄を土地に縛られ、言葉を持たぬ「農奴」として過酷な生活を強いられていた。しかし、長年にわたる理不尽な支配に耐えかねた奴隷階級の人々は、ついに歴史の闇から立ち上がり、大規模な蜂起を起こす。
燃え広がる革命の炎に強い危機感を覚えた各国の王侯貴族は、王権を守るべく、歴史的な大改革を断行した。
その結果、すべての農奴は土地から解放されて「人権」を認められ、自らの意志で生き方を選ぶ「職業の自由」を手に入れることに成功する。
それは、人類が暗黒の縛鎖を断ち切った、
輝かしい瞬間に見えた。
――時代は流れ、19世紀半ば。
解放された人々が織りなす新しい世界で、人類はひとつの未知なる素材を発見する。
その物質は、どこまでも純白で美しかった。
莫大なエネルギーを内包しながら、加工は容易。
しかも安価で、鋼にも匹敵する強度を持っていた。
この奇跡の鉱物は、またたく間に全世界の技術と産業を塗り替え、爆発的なパラダイムシフトを引き起こす。
人々は、この文明を根底から突き動かす夢の物質を、羨望を込めてこう名付けた。
――「白鉛」と。
人々は生を謳歌し、街では機械が猛々しい唸りを上げ、白い煙が都市を覆う。
豊かさの絶頂の中で、「その夢の物質に関わり続けると、原因不明の目眩や体調不良が起き、歯が抜ける手足が痺れる」という不穏な噂がささやかれ始めた。
最初に倒れたのは、鉱山で働く幼子であった。
幼子の親は、この事に危機感を覚え、国家へ、
そして世界向けて、悲痛な訴えを投げかけた。
だが、黄金期の到来に酔いしれる大衆の前ではその警告はあまりにも弱かった。
少数派の声は、熱狂の中へ冷酷に沈められていく。
誰もが信じて疑わなかった。
自分たちが生きるこの世界は、どこまでも秀麗で、輝かしい未来へ向かっているのだと。
今作品が人生初の小説となります。
よろしくお願いします。




