貴方は誰?
「ねぇ、君」
白雪灯はソファに身を沈め、ゆるく足を組み替えた。くつろいでいるようで、視線だけは外さない。
「灯さん、どうしましたか?」
一ノ瀬蒼――そう名乗る男は、いつも通りの笑顔で応じる。
「それ、やめて」
間を置かない。
「……何をですか?」
「分かってるでしょ。嫌われてもいいの?」
笑顔が、ほんのわずかに硬くなる。言葉が続かない。
灯はそれを見逃さず、ふっと口元を緩めた。
「偉い偉い」
あやすような声音。からかいにも似ている。
沈黙が落ちる。
「ねぇ……そろそろ、名前教えてくれない?」
視線だけがまっすぐに刺さる。
「……」
答えはない。
「一ノ瀬蒼、ねぇ」
その名をなぞるように口にして、わずかに首を傾げる。
「なんで、死んだお兄さんの名前使ってるの?」
やっぱり返事は来ない。
「私はさ、君の口から聞きたいんだよね」
軽い調子のまま、逃がさない。
「……」
「答える気、ないか」
一歩引いたようで、距離は詰まっている。
「君は、何を願ったの?」
声の温度が少しだけ落ちる。
「私の真似事なんかしてさ。一目で分かるよ。動きも、癖も、そのまんま」
柔らかいのに、逃げ道がない。
「神様も酷いよねぇ」
灯は背もたれに体を預け、天井を仰ぐ。
「三年前か……ずっと寝てたくせに、急に人の願い拾ってさ。“叶える”とか言いながら、手段だけ渡して、肝心の願いは届かないようにするなんて」
小さく笑う。
「おかげで、世界はこの有様」
そのとき、静寂を裂くように着信音が鳴った。
灯は視線だけでそれを示す。
「仕事だね」
軽く立ち上がり、彼の前に立つ。
「君も、私の推薦で入ったんだから。ちゃんとやりなよ」
ぽん、と頭に手が乗る。ためらいのない動き。
一瞬だけ、表情が緩む。
灯はそれを見逃さない。
「あ、今ちょっと嬉しそうな顔した」
くすっと笑う。




